竜手と白刃
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原始人達は、昔の冒険者の様なものなのかも知れない。
スキルも魔法も無し。
あるのはアビリティと優れた武装だけ。
それでも、人間を相手にするには充分なのだろう。
魔物を狩るには魔力がいるが、人を殺すのに必要なのは度胸だけだ。
現にザラは、容易く俺を殺して見せた。
まぁ敢えて抵抗しなかった、と強がってみちゃったりもするけどな。
「なるほど……幻術か。」
いや、なるほどじゃ無いが。
「この時代の者達は、魔法とやらを使う。これもその類だろう。」
そう言ってザラは、再び白刃を構える。
俺としては、1回目の死亡でスキルの紹介をしたかったのだが、謎のいちゃもんを付けられてしまったので、次は抵抗してみる。
「魔法はこっちの方だ。…『変身』。」
生体魔法の基本にして奥義、『変身』。
文字通り、自身の体を作り変える魔法だ。
「やはり…人外か。」
俺は、右腕を作り変えた。
イメージは竜だ。
黒い鱗に黒い爪。
実戦で試した事は無いが、ゲンガさんからは『そこそこ使える』と言われた。
あの人のそこそこは、世間で言う『最強』くらいだろう。
「今度こそ、実体を殺す。」
殺気ってやつかな?
肌がピリピリする。
悪意は向けられた事が有るが、殺気は初めてだ。こんな感じなんだな。
「話を聞いてくれるまで付き合うよ。」
俺は竜手を構え、ザラは白刃を構える。
先程の剣速を見るに、素面では部が悪い。思考加速を使おう。
「…行くぞ。」
ザラが一瞬の内に俺の懐へ潜り込み、白刃を横薙ぎに振るった。
俺はスロー再生される世界の中で、竜手を使って白刃を掴む。
「な!?」
「これ危ない。折るね?」
そのまま力いっぱい握り、腕を捻る。
パキンッ
軽い音を立て、白刃が半ばから折れる。
「フォトンブレードを、折った!?」
観衆の誰かが驚愕の声を上げる。
「あ、もしかして高い物だったか?」
だとしたら済まない事をした。
彼らはこの時代に跳ばされてきた身だ。資源は貴重だろう。
「…くっ。まだだ!!」
ザラは白刃を捨て、腰から拳銃を抜き放つ。
あの白刃、やっぱり幾らでも出せる訳じゃ無いのか。
ザラは銃を構えるが、発砲はしない。
周りの者達に流れ弾が当たる事を恐れての事だろう。
「どうせ撃たないんでしょ?そろそろ話聞いてくんないかな?」
「…蛮族の言う事など、誰が聞くか!」
銃を持ったまま、距離を詰めてくる。
この動きはおそらく銃術だろう。
銃を用いた戦闘術。
ただ引き金を引くのでは無く、必中の体勢に持っていく術だ。彼らの世界にも有るんだな。
だが…
「『ショートカット1、2』。」
銃が使えるのはそっちだけじゃ無い。
俺は右手に刀、左手に銃を持つ。
ホントは逆の方が使いやすいのだが、右手を竜手に変えてしまったためこうなった。竜手だと引き金が引けないからな。
「…っ!貴様!ここで撃つつもりか!」
当然そう考えるよな。
ザラは俺の事を極悪人の蛮族だと思っているのだ。周りの者達に流れ弾が当たろうと気にしないクソ野郎、といった評価だろう。
「いや、君と同じで銃術でもやってみようかと。」
「!?」
魔物相手に試した事はあるが、イマイチ上手くいかなかった。刀で斬った方が早くね?と思ったくらいだ。
だが、人相手なら上手くいくかも知れない。一応ゲンガさんを相手に特訓して、Lv.3まで持っていったのだ。
「な、なめるなぁ!!」
彼女は少し混乱しているようだ。
俺がここで普通に撃たないメリットなんてないだろう。銃術は、超近距離で非貫通性の弾を撃ち、周りに不要な被害を出さずに戦う術だ。敵が自陣で使うなんて意味が分からない。
彼女目にはただの舐めプに映っていると思われる。
「舐めるなら脚がいいっ!!」
向かって来たザラに向かって適当な事を叫ぶ。
ザラは右足を滑る様に動かし、俺の体勢を崩しにかかる。俺は半身だけ引きそれを躱すと、その勢いのまま刀を振るう。
ガキンッ!
一応峰側を向けて振るったが、要らない配慮だったようだ。
ザラが銃で受け止めた。
銃を封殺出来たな。
空かさず左手の銃をザラに向ける。
「ばんっ!」
「っ!?」
ザラは思わず目を瞑り身構えたが、まさか本当に撃つわけにもいかないので、口で銃声を表現するに留めた。
「…な、なぜ殺さん!?」
「ずーーっとその話をしようとしてるのに、君が聞く耳を持たないんだろ?」
と、俺達の戦いが膠着状態になったのを見計らい、俺達の間に割り込む者が現れた。
サァラだ。
「2人とも!ストップ!!」
あ、俺も?
俺は身を守っただけだぞ?
「サチ、お姉ちゃんは器が小さいの!そんなに余裕で勝たないで!もっと貴方達の事を嫌いになっちゃうわ。」
「…くっ!」
ザラが精神にダメージを受けている。
しかし、余裕で勝つなというのは難しい話だ。手加減が出来るほど、相手の実力も自分の実力も把握していないのだから。
「てかサァラ、拘束されてなかった?」
サァラを拘束していた男達の方を見ると、2人とも床に蹲っている。股間を押さえているあたり、エゲツない一撃を食らったようだ。
「…ひ、必死だったから。」
いや、狙い澄ました攻撃だろう。冷静に急所を狙ったとしか思えない。
「と、に、か、く!2人とも私の部屋に来て!他のみんなは解散!ほら、散って散って。」
パンパン、と手を鳴らしながら周囲の者達に解散を促す様は、まるでこの組織のリーダーの様だった。
周りの者達も、ごく自然にその指示に従っている。
帰還派の者達は俺を睨みつけていたが、リーダーのザラが何も言わないのを見て、大人しく散っていった。
しかし、妙に大人しくなったな。
俺に完敗したのが相当効いたか?
いや、その後のサァラの言葉のせいかな。
あんな言われ方をして、尚も暴言を吐き続けたら只の負け犬の遠吠えになるもんな。
結果的にはグッジョブか。
「…こんな蛮族を、サァラの部屋に…!」
部屋に入るなり、ザラが悔しそうな表情で呟く。
最初の印象と違い、どうやら結構なシスコンの様だ。
「既に一度入ったぞ?…その時は2人きりだった。」
「!!」
お、いい顔。
期待通りの反応だ。
「き、貴様ぁ…」
「お姉ちゃん!」
ザラが食ってかかって来たが、空かさずサァラに窘められて動きが止まる。
「サチもドヤ顔しない!あと意味深な言い方もやめなさい!」
「…はい。」
叱られた。
「お姉ちゃんはまだ、サチの言葉をちゃんと聞けないと思うから私が説明するね。」
それがいいな。
まずはギルド側の提案を信じて貰わないと話にならない。
まぁその為に行った仲良し大作戦は失敗に終わったが…。
というか、俺がやった事って逆効果じゃないか?
ザラの印象をより悪くしただけの様な気がする。
サァラの説明を聞き終えたザラの表情は、やはり芳しくなかった。
「……何と言われようと…お前達蛮族が、レイノを殺した事実は変わらん。」
やっぱりソコだよなぁ。
まずはその問題からやっつけるか。




