私、視えるんです
「……まぁまぁ。多分私も最初に聞いた時はそんな顔してたと思うけど。」
カナデは苦笑いしながら説明を続ける。
「んーと、要するにこの子は予知スキルを持ってるってことよ。」
まぁ当然そういう流れになるだろうな。
けどそれはあまりにも信じがたい話だ。
「いやいや、それはさすがに計算が合わないだろ。」
そう、どう考えても計算が合わない。
一般的に、初めてスキルを獲得するのは15歳前後と言われている。
これは【先天】と呼ばれており、基本的に1人に付き1つのスキルが与えられる。
何から与えられているのかは諸説あるが、そこは割愛しよう。
この先天を受けた後であれば、修練や特殊なアイテムを使用する事で、スキルを増やす事も可能だ。
こうして、後から増やせるスキルは【後天】と呼ばれる。
後天の場合、スキルを使う際に消費するのは体力や集中力といったものだが、先天は違う。
魔力を使うのだ。
ごく稀に魔力以外のものを消費するスキルもある様だが、そんなものは殆ど無い。基本的には魔力を使うモノだと考えていいだろう。
当然、強力なスキルには大量の魔力を使うことになり、中には生涯をかけて自身の魔力量を増加させる努力を積まなければ発動する事のできない、所謂『超重量級スキル』もある。
その代表的なものが時空干渉系のスキル…そう例えば『予知』などがそれにあたる。
魔力量を増加させる方法として代表的なものは、異界からのお客さんである【魔物】を討伐するというものだ。
魔物を討伐し、そのエネルギーを吸収する事で自身のレベルを高める。
それに伴い、魔力やチカラ、敏捷などのパラメーターが上昇する。昔の人は魔法もスキルも無しで、レベルに伴う肉体強化と純粋なトレーニングだけで魔物に立ち向かったというから驚きだ。
しかしながら魔物の討伐は、一部の宗教団体を除けばギルドの仕事で、一般人がおいそれと手を出せる事では無い。
故に、これからギルドの採用試験を受けようという身分の俺達は、おそらく魔力量に大差は無いはずなのだ。
にも関わらず、彼女は予知が使えると言っている。
これは明らかに計算が合わない。
「もしかして19歳とか言いながら100歳くらい鯖読んでる?」
「そんなわけないでしょ!!」
リコはつい大声を出してしまった、と言った顔で口をつぐむ。
119歳だろうと俺は一向に構わないが!
「まぁまぁ、私ももちろん最初は信じなかったんだけどね。その辺は事情があるのよ。実際この子、あんたらの会話をまるごと予知してて、あんたらが話す前に私に教えてくれたの。それを聞いて私も信じてみようと思ったわけよ。」
なるほど。
俺とイチトの会話を、事前に把握する方法は予知スキルに限らず可能だと思うけど、そんな嘘つく理由もないしな。
どのみちギルドに入れば、スキルや各種ステータスを表示できるウェアラブル端末【ガリバー】が渡されて、スキルの偽証なんてすぐにバレる。
「とにかく!この機は墜ちるってのを前提に聞いて。」
「前提に、って言われても…それが本当ならどうにもならなくね?墜落した飛行機の乗客が生き残る確率って何パーよ。」
イチトが半信半疑といった顔で答える。
ちなみに俺はリコが予知スキルを持っている可能性に関しては百パーセント信じてる!
リコは嘘つく様な子じゃないもんな!
最初は言い間違えかと思ったけど、どうやらそれも違う様だし。
「安心して。私の視た未来では死傷者ゼロだから。」
「うわ、安心できねー。」
「うん、安心だなー。」
こんな可愛い子が言うなら、とりあえず信じとくのが男ってもんでしょ。
イチト、お前見損なったぜ。
続けてカナデがため息をつきながら話す。
「この場合正常なのはイチトの反応の方なんだけど、仮にでもいいから信じておきましょ。」
あれ?今俺ディスられた?
「まぁ仮にでいいならそうするけどよー。……しかしなんでそれを話したんだ?死傷者ゼロならほっとけばいいじゃんか。…まさか、俺らがなんかアクション起こさないと皆死ぬとか言わないよな?」
「いえ、むしろ逆よ。私たちが余計な事をしたら、予知が外れてどうなるかわからなくなるから、そのまま大人しくしてて。」
タイムトラベル物とか苦手なんだよなー。
ちょっとこんがらがって来たけど、リコが予知した未来では、俺たちは何もせず墜落を待ってたって事か?
けどそれでも乗客は全員助かると。
「私があなた達に話したのは別の理由。墜落した後の話よ。」
「つまり俺とリコが結婚するって話?」
「………カナデお願い。」
目と話をそらされた。
墜落した後。
みんな助かりハッピーエンド、とはいかないと。
「あはは。……リコが言うにはね、この機が墜落する途中で、緊急脱出用の転送装置が起動するんだって。そんで近くの陸地、リゾート地みたいな孤島に皆で転移するらしいの。ただその時、皆一箇所に転移するわけじゃなくて座席のペア毎に、つまり私とリコ、イチトとサチって感じで、ペアの人と一緒に島のあちこちに送られるみたいなの。」
よし、座席を変えよう。
「おっけー!カナデ、席変わってくれ。」
「黙れ。そして座れ。」
おっとぉ。
リコの目に殺気が籠ってた気がする。
気のせいだといいなぁー。
「サチやい。俺が言うのもなんだが、さすがにそこまで下心が丸見えじゃ拒否られるのも当然だぞ?」
「うるせぇ!お前になにが分かる!!」
「だからその豹変こえーよ!そしてきめぇ!」
「あー、話戻していい?」
ジト目ってこういう目の事を言うのかな?
とにかくそんな目で見ながら、カナデが続きを話す。
「でね、私とリコで島を探索するらしいんだけど、その時になんか黒くて大っきい何かに出くわしちゃって……」
「で?」
「そこで終わり。」
リコが引き継いで話を締めたんだが…
???
どゆこと?
「スキルを使った時に視えたのはそこまでなのよ。」
「っはー。なんとも中途半端だなー。」
イチトがブー垂れているが、それに関しては俺も同意見だ。
「そこで終わったらその後が気になるだろ。もう一回スキル使えば良かったのに。」
これも同意見。
「そんな簡単に使えれば苦労は無いわ。なんで使えないのかは言えないけど、とにかく無理なの。…だから、あなた達に予知の結果を伝えて、未来がどう動くかも確かめられないの。予知で視た未来ではカナデにも話してなかったから、これで事態が好転すればいいんだけど…。」
予知スキルに関しては謎が多いので、何故未来視がそこで終わったのかは分からない。
普通に考えれば、スキルの効果時間が切れた、もしくはその『黒くて大っきい何か』に殺されたかだろう。
そしてリコが『好転』という言葉を使っている事から、おそらく彼女は後者の可能性が高いと考えているのだと思う。
「とにかくね!島に着いた時にカナデがこの未来を知ってて、あなた達が私とカナデに合流してくれれば、少しはマシな展開になると思うのよ。……どお?協力してくれる?」
なるほど、話は分かった。
どのみち俺としては、リコを探さない訳がない。
答えは決まっている。
「もちろん!絶対に君を見つけてみせる!」
「あー、まぁもしその話が本当だったらな。俺もこのサイコパスと2人で無人島生活なんて無理だろうし。」
俺たちは揃って彼女達に同意した。
「温度差凄いけどよろしくね。」
リコは苦笑いしながら手を差し出してくる。
これは握手を求められているのか?
それとも手をペロペロしていいのか?
くっ。
もっと対人スキルを身につけておくんだった!
「…ねぇリコ。協力を申し出る相手間違えたんじゃない?」




