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異世界転移はされるもの!  作者: 二度寝
第2章 森の粘体と科学者
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スーツ仮面

 

 …どうしよう。



 起きたら知らない部屋に居た。



 そして知らない人が居る。



 自分でも何を言っているのか分からないが、完全なる事実だ。



「やぁ。起きたね。」



 知らない人が声を掛けてくる。



「私の事が分かるかな?」



 顔は仮面で隠れていて、細身のスーツを身に纏っている。スーツ組とは違うスーツだ。彼らは全員同じスーツを着ているので、この人はスーツ組では無いだろう。


 とか、余計な推理はいらないな。



「…お久しぶりです、化神さん。…いえ、ゲンガさん。」



 流石に全身鎧からスーツ仮面姿に変わると、見た目だけでは分からないが、こうして話せば分かる。


 俺はソファに寝かされており、ゲンガさんは対面する位置にイスを置き、そこに腰掛けている。



「声は以前会った時と違う筈だけどね。」



「話し方は同じですよ。…多分それも本当の話し方では無いんでしょうけど。」



 以前は加工音声の様な声音だったが、今は爽やかお兄さんと言った声音だ。

 話し方は同じだが、これは少し演技っぽい感じがする。あえて以前と同じ話し方をしているようだ。



「まぁ君なら見抜くだろうね。」



「………。」



 俺は部屋を見回す。


 白を基調とした清潔感のある部屋だ。家具は最低限で、生活感はあまり感じない。何というか…状況を把握する為の手掛かりが見つからない部屋だ。



「この状況については見抜けないかな?」



「そうですね。…皆はどこです?」



「この部屋にはいないよ。」



 それは見れば分かる。



「見れば分かるって顔だね。…3人には、バァライに行ってもらったんだ。」



「!?」



「3人は君も連れて行きたいと言っていたがね。私の判断で残ってもらった。」



 俺はこの人を、自分の師にしたいと思っていたが、その判断は間違いだったようだ。人を見る目がない。



「何でですか?……俺は、他の3人よりも強いですよ?」



「それはね。……君が身の程を弁えていないからだよ。」



 死んだ。



 思わずそう思ってしまった。



「この程度の殺気でそのザマじゃね。」



「ゲ、ゲンガ…さ……ん…!」



 不死の俺に、死を感じさせる程の殺気。


 部屋の空気が重くなり、指先1つさえ動かせなくなった。



「君は、クランの中で1番弱い。…それをこれから証明して見せよう。」



 そう言ってゲンガさんは、()()()()使()()()



「あ、無詠唱じゃ分かりづらいか。これは『水牢』という魔法だよ。水魔法のLv.3だ。もちろん唄方さんも使える。」



 水の球が俺の全身を覆う。

 水は重く、思うように動けない。



「君は窒息死しようと直ぐに復活するんだろう。ただ、窒息死し続けるというのはさぞかし辛いだろうね。」



 そこから数時間、俺は水の牢の中で溺れ続けた。





 ぱんっ!

 と音を立て、水牢が弾けて消える。



「……がはっ!…はっ…はぁ!…ぐ。」



「まだ正気を保っているかな?…まぁたかが30分程度の拷問だけどね。」



 30分!?

 体感的にはその何倍にも感じたぞ。



「次は神楽さんの番だ。…『火球』。」



「!?…が…がぁぁアァアーーーァァア…!!」



 …………



 …………



 …………



「……い………」



 なんだ?


 何があった?



「…おーい。……こっちを見なさい。」



 こ…のクソ仮面!!



「よ、くもぉ…お!!」



「おやおや。頭を焼かれ続けた後にしては元気だね。……『雷握』。」



「!?…っ……!」



 か、体が動かない!


 何をされたんだ!?



「…少しは分かって来たかな?自分がどれだけザコなのか。……君はね、魔力が人より多く使えて、ただ死なないだけの能無しなんだよ。仲間が窮地に立たされているからって、そんな事も忘れてカッとなってしまうようではイケナイな。……君のせいでみんなが危険な目に遭うんだ。」




 そ、そんな事は!



「あるさ。」



 !?

 心を読んだ!?



「ああ、闇魔法の『読心』だ。口すら動かせなくしちゃったからね。」



 バカな!

 1人の人間が、そんなに多くの属性を操れる筈がない!



「私には出来るんだよ。君が私をスーツ組では無いと判断したのも知っている。けど残念……私はスーツ組だ。いや、正確に言うと、私がスーツ組を率いているのさ。」



 俺は、こんな奴に弟子入りしようとしていたのか!



「こんな奴とは随分だね。これでも君と君のクランの事を考えて行動しているんだが。」



 ど、どこがだよ!?


 ヒカルやフタバが消息を絶ってるってのに、捜索もしないどころか、捜索の邪魔すらしてるだろう!



「していないよ。神楽さんの魔眼は欺いたけどね。それだけだ。……君にあのタイミングでバァライに向かってもらう訳にはいかなかったんだ。」



 ……。


 だめだ。

 意味がわからない。



「そうだろうね。………私は未来人だ。と言えば分かるかな?」



 ……。



 つまり、あのまま俺達がバァライに向かっていたら、危険な目に遭うと知っていた?



「そういうこと。危険な目にというか、普通に死んでいたよ。」



 ……信じられないな。


 近未来から現界に来る事は禁止されている筈だ。



「現界になんて来てないよ。…私は今から50年前に跳んで来たんだ。まぁ50年前も、現界と言えば現界かも知れないが。」



 だとしたら、50年以上も前の記憶なんてアテにならないだろう。



「それは記憶術のスキルで……ってそんな事はどうでも良いんだよ。とにかく大事なのは、君がバァライに行かない事だったんだから。…この話、他の3人は信じたよ?」



 ……。



 なら………俺も信じる。



「君はホントに皆の事が好きなんだね。」



 ウルサイ。



 …で?

 俺はどうすれば良いんだ?

 まだ拷問を続けるのか?



「いや、もう充分冷静になってくれたみたいだからね。ちょっと物足りないけどこれくらいにしておこう。」



 物足りないって……これはアンタの趣味か。



「メインは君の教育さ。…君は弱く、君の仲間は強い。もう分かったろう?」



 そんなこと……!




「………最初から分かってましたよ。」



 体の自由が戻った。雷握を解除してくれたようだ。



「言うと思った。……あ、もう読心も解除したからね。まぁ君の場合、顔を見れば大体何を言いたいのか分かるけど。…ちなみに、未来について聞くのは禁止だよ?君達が、未来の世界にどう関係するのかも話せない。時間が私の制御下を離れてしまうからね。」



「そんな小難しい話はいいので、本題に入って下さい。俺をこの部屋に置いている以上、やらせたい事があるんでしょう?」



 俺に用がないなら、説教でも何でもした後に、どこかに閉じ込めておけばいいのだから。


 未来を知る男が、わざわざ俺達を助けようとする理由は分からないが、何かさせたい事があるのは間違いない。



「君にさせたい事っていうのはもちろん有るけど、同時に君がしたい事でも有るよ。」



「回りくどいです。」



「つまりね……星宮君と来道さんを助けに行って欲しいんだ。」



 言ってる事がめちゃくちゃだ。

 俺が行ったら困るからココに閉じ込めているんじゃないのか?



「まぁ最後まで聞きなさい。…私が君達のバァライ行きを止めたのは、一時的な措置なんだよ。さっきも言ったが、あのタイミングで行っていれば、皆死んでいた。今のタイミングなら、皆助かるって事さ。…君以外はね。」



「俺以外?」



「そう。……要するに今の君では実力不足って事。だから……今から君には強くなってもらうんだ。」




 どうやら紆余曲折あったが、ゲンガさんは、俺の師になるという事らしい。



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