会議
クランの目標を決める。
これは非常に大事な事だ。
俺達はバラバラの目標を持ってギルドにやってきた。縁があってクランを結成したが、1つ何かが噛み合わなければ、ただの同期同士にしか過ぎなかっただろう。もちろんそれが悪い事というわけではない。むしろそれこそが自然な流れというものである。
今は、それぞれの目標を達成する為に、最も達成出来る可能性の高い者達で集まっているといった状況だ。
ただ、これは俺のワガママだが、この状況はあまり好ましくない。
俺は既に、戦力としてだけでなく、このメンバーと離れたくないと思っている。しかし今の繋がりでは、それこそ何かが噛み合わなくなった時に離ればなれになってしまうだろう。このままではマズイ。
と、そんな気持ちを口に出してみたわけだが、有り難い事に、みんなも俺と同じ気持ちでいてくれたようだ。
「まぁオレの目標っつうか目的は、退屈しない生活を送る事だからな。お前らを見ちまったら、他の奴らじゃ満足出来ねぇだろ。」
「……私は、強くなりたい。…だから私も、みんなと離れたくないよ?…レベルやスキルだけじゃない強さが、みんなには有ると思うから。」
来道兄妹の目標は以前にも聞いたが、クランの目標を決めるにあたって、みんな自分の目標を改めて口に出す事にしたようだ。
「ボクは…第1目標は親孝行かな。ボクの夢を応援してくれた母さんに、良い生活をさせてあげたい。第2目標はもう叶ったしね。」
ヒカルは元々冒険者に憧れていたらしい。第2目標というのは、まさに今この時の事なのだろう。
「私は、魔法とスキルを使い熟せる様になりたい。…って、これは前にも言ったか。実はね……私、こう見えてお姫様なんだー。…だから、家を継がなくても済むように、家族に抵抗出来る程度には強くなりたいの。理由は不純だけど、強くなりたいのはフタバちゃんと同じだねー!」
いやいや、姫って……。
カナデはお調子者だが、こういう時に冗談を言ったりはしないだろう。しかし…
「それ…結構な爆弾発言じゃね?何さらっと言ってんだ。」
皆イチトの返しには同感だろう。しきりに頷いている。
「いやぁー。姫って言っても、人口の少ない異界での話だからさ。そんな大したもんでも…」
いやだから、異界人だっていうのも初耳なんだが…。
「まぁ詳しいことは機会があったらって事で!…ほら、リコの番だよー。」
機会があったら、という言葉は、機会を設けるつもりが無い時に使う言葉だろう。
「う、うん。……けど私は、もう叶っちゃったから。」
これは魔眼の事だろう。
自身のスキルに悩まされている人は少なく無いが、リコの場合は命に関わる事だ。その状況を解消するために学生生活を捨て、危険な仕事に就くというのも分かる話だ。危険に身を置く事で自身を鍛え、魔眼を自分の意思で制御するつもりだったのだろう。
俺が現れてしまったわけだが。
「でもそれって…一生サチから離れないってことー?」
「!?…ち、ちが!……か、叶ってなかった!私の目標は、自分の力で魔眼を操る事よ!」
照れちゃってまぁ。
「おう!操ってくれ!その上で俺に惚れてくれ。」
「わお。サチってばオトコマエ〜。」
ヒカルが褒めてくれるが、その目には呆れの感情が現れている。
「俺の目標は、安定した生活と、孤児院の支援だな。……さて、これで全員言い終わったわけだが。どうだ?共通の目標立てられそうか?」
見回すと、全員眉間にしわを寄せながら考え込んでいる。
「んーと。ざっくり言うとアレか?『稼ぐ』と『鍛える』って所が共通してる感じか?」
イチトが椅子を揺らしながら言う。
「だな。ホントにざっくりだが。」
意外と言っては失礼だが、初めに目標を提案してくれたのは、フタバだった。
「……ギルドで1番のクランを作る。」
「「「「「………。」」」」」
みんな、フタバの掲げた目標に黙り込む。
呆れているわけでは無いだろう。少なくとも俺は、アリだと思った。
「さすがオレの妹。」
「ちっちゃい体に大きな夢!フタバちゃん最高だよー!」
「ははっ。地球両断ぶれーどを習得しないとね!」
「ヒカルはアホな事言ってるけど、私は良いと思うわ。」
「このメンツなら達成出来る目標だな。賛成だ。」
どうやら決まりだな。最初の提案でいきなり決まるとは。けどこれは、中々にカッコイイ目標だ。
仙境六花を、ギルドでNo. 1のクランにする。
「クランにもランクがあるんだろ?Sランクが最高か?」
「SSSまであるよー。到達したクランは無いから、半分都市伝説みたいなもんだけどねー。」
「じゃあソレで。」
定食屋で日替わりランチを頼む時の返事だが、俺達にはそれくらいのノリが丁度いい。…実際ココ定食屋だし。
こうして目標が決まり、次に俺達はクエスト報酬の分配についての話し合いに移った。これはスムーズに進む。
報酬の半分をクランの共有資金とし、残り半分を均等分配にする、という形に決まった。クランの共有資金は、クエストに掛かる経費や、装備代、拠点を構える際の支出に充てられる。
クエスト報酬は、例え1人で受けて達成したものでも同じ扱いとする。これは、様々な事情により、活動を休止しなくてはならないメンバーが発生した時に備えてのものだ。
「ちなみに今日のクエストの報酬は、2,520ルド。試験の時の魔物の売却額が1,830ルドだから……合わせて4,350ルドだな。」
日本円にして40万円と少しだ。6人で割ると7万ちょっと。
たかが数日の労働に対する報酬としては、高めだろう。まぁ危険な仕事の報酬としては特別高くない気もするが、所詮は初級のクエストと採用試験で得た金だ。
「これを半分にして6人で割ると……いくらだ?」
「362.5ルドね。」
リコってば計算はやーい。
「じゃあキリ良く350ルドで。……送金完了。」
共有口座は誰でもアクセス出来るが、ちょうど俺が開いていたので分配した。
「移動費とビンのレンタル代忘れてるよー。」
「おっと。カナデありがと。…えーと……ヒカル!任せた!」
数字は嫌いだ。秀才イケメンに丸投げしよう。
「それはいいけど、食費はどうする?」
「集まって食べる時は共有資金から、別個で食べる時は自腹でいいんじゃない?」
だな。
それでいこう。
「おし!あとは明日からの予定決めか。」
「それなんだけど……ボクのトコにメールが来てて、バァライでのダンジョン探査に誘われてるんだ。」
「……私も。」
おーう。
クランとしてはダメだけど、個人としてはオッケーだと?
「まぁヒカルとフタバはレベル20超えだもんな。…2人は行きたいのか?」
以前2人にステータスを見せて貰った時は驚いた。この2人に採用試験で勝ったのは、やはり運が良かっただけだな。
「……出来れば。」
「うん。もちろんクランとしての行動を優先するつもりだから、どうしてもでは無いけどね。」
「そうか。じゃあ行ってきて土産話を聞かせてくれ。」
2人の行動を縛る気も、権利も無い。羨ましいとは思うが、能力に対して妥当な判断だと思うし、2人の今までの努力が認められているのは嬉しく思う。
「…いいの?」
「なんでオレ見て言う?…別に同じクランだからって、年がら年中一緒に行動しなきゃいけないわけじゃねぇだろ。楽しんで来いよ!」
この兄妹は爽やかでいいな。
イチトは、妹にレベルで劣っている事に変な劣等感など持っていないし、フタバもちゃんと兄を尊敬している。
「なんだかフタバと2人って久しぶりな感じがするね。実際はそんなに経ってないんだけど、楽しみだよ。」
「……変態?」
ヒカルは俺と違い、下心皆無で女性と話す男だが、女性陣の評価は俺とそう変わらなそうだ。
ざまぁ。
「…ヒカルよぉ。フタバに手ぇ出したら……殺すぞ?」
「ヒィ!!…て、『転移』!!」
イチトのあまりの迫力に、ヒカルは逃亡した。
「……じ、じゃあ、私達4人の予定を決めちゃおっか!」
カナデが空気を変えるように明るく振る舞うが、俺達はヒカルの消えた椅子から目が離せなかった。




