さよならオーリオ、お初ですクエスト
過程はともかく、結果だけは俺の目論見通りになった。
オーリオを撃った弾丸は、決闘用のバリアを発動させた。つまり、俺の勝ちだ。
バリアが消えた後のオーリオは、呆然と空を見つめており、俺が吹き飛ばした脚は再生していた。もちろん彼が再生系のスキルを持っているわけではなく、これもまたバリアの効果によるものだ。
そして、周りを囲んでいた観衆も、すぐに散っていった。勧誘を諦めてくれたのだろう。
「おいサチ!全部1人でやっちまいやがって!オレにも残しとけよ。」
イチトが憤慨しながら抗議してくるが、決闘を挑まれてしまった以上、半殺しなんて出来ないのだ。あまり無理を言わないで欲しい。
「ごめんごめん。次は譲るよ。…それより早くクエスト行こうぜ!」
全くもっていらない寄り道をしてしまったが、俺達の本来の目的は、クエストの受注だ。俺達と同じく群衆から解放されたフタバと合流し、やっとの事でクエストの受注が出来た。
受けたクエストは、第1候補だった『スライムの粘液の採取』だ。どうやら、冒険課の前で行われていた勧誘活動のおかげで、今日は受注者が少なかったらしい。運が良いのか悪いのか。
クエストの内容としては、スライムの粘液1ビンに対して10ルドが支払われるというものだ。ビンは500ml程の容量で、スライム1匹分で満タンになるかどうかといったところだ。
クエストの受注をした俺達は、ギルドの敷地のほぼ中央にある転送装置へと向かった。
本棟の中にあるそれは、空港のような受付で料金を支払い、チケットを購入し、そのチケットを転送装置に読み込ませるという手順を踏む必要がある。尚、ギルド内での金銭のやり取りは、基本的にガリバーを通して行う電子決済だ。
ならばチケットも電子的なもので良いのでは?とは思ったが、新入りがあまり出過ぎた事を言っても仕方がないと思い、口には出さなかった。
「よし。これで出発だねー!」
「……私のせいで遅くなってごめん。」
「いいのよ。フタバちゃんのせいじゃないし、いずれはこうなったと思うしね。」
「今回サチが派手にアピールしてくれたから、しばらくは大丈夫だよね。」
「次があればオレがやるぞ!」
「ああ、その時は頼むよ。…それじゃみんな。俺らの記念すべき初クエストだ!張り切って行こーう!!」
俺達は転送装置に入り、チケットを読み取り機に通す。瞬間、視界が入れ替わり、気がつくと別の建物に移っていた。
ここは、ギルドのバラペラ支部の管轄下。北欧の一国、バラペラに置かれた転送装置だ。世界各国にばら撒かれた転送装置の1つで、転送装置を中心として小さな町のようになっている。町の名前はバァライだ。
今回のクエストは採取クエストに分類されるもので、採取場所の指定は無い。ただ、事前に収集した情報によると、今の時期にスライムを狩るならバラペラのバァライ近郊にある森がおススメだそうだ。
「ここで適当に飯買って森の中で食べるか。」
「だねー。ホントは現地調達くらいした方が良いんだろうけど、お腹空いちゃったし!」
カナデがお腹を抑えながら言う。
既に時刻は14時を回っている。食料の現地調達などもやっておきたいが、そこに力を入れすぎて肝心のクエストが疎かになっては元も子もない。今日のところは町で買って森で食べるくらいで良いだろう。
俺達は、転送装置のある施設から1番近いコンビニで、適当に軽食を買い、足早に森へと向かった。
少しでも出費を抑えるために、レンタカーやタクシーなどは利用せず、徒歩で森へと向かったが、それでも20分程でついた。随分と近いな。
「よっしゃ!飯だ!」
「コンビニ飯だけどな。」
ガリアイ(ガリバーアイランド)なら屋台で出来立ての美味しい飯が買える。それに比べると、コンビニ飯は少し残念だ。特別不味い訳ではないが、食べ慣れすぎていてな。
昼食をパパッと済ませ、早速仕事に取り掛かる。
「さて、じゃあ手筈通り手分けして狩りに行くか。」
この森の魔物については事前に調査が済んでいる。このメンバーにとって危険と思える魔物はいなそうだった。ならば、手っ取り早く手分けして探索した方が良い、という話になったのだ。
「ええっと…索敵持ちは……」
「「「はい。」」」
カナデ、ヒカル、フタバが手を挙げる。
「そしたら2人1組で、3チームだな。」
チームと言って良いのか分からない程の人数だが。
「グーチョキパーで決めよー!」
カナデは遠足の様なノリだ。
だが、現場をナメているのか!とはならない。楽しめる時は楽しんだら良いのだ。ふざけてばかりなら問題だが、真面目にやるべき所ではちゃんと真面目にやる女だからな。
チーム分けは、俺とカナデ、ヒカルとイチト、フタバとリコに決まった。
「サチよろしくねー!」
「おう!よろしく!……みんな、何かあったらガリバーで連絡。ガリバーを操作する余裕も無いくらいの緊急事態が発生したら、魔法やら何やらで合図を。」
「「「「らじゃー!」」」」
3チームで散会し、探索を開始する。
出発から10分程経ち、少し森の奥に入り込んだ。
「カナデ…スライムいそう?」
「んー…いるね。……めっちゃいる。」
めっちゃ?
「めっちゃって…どれくらい?」
「……数えられないくらい。」
おいおい。
スライム大繁殖してんの?
「ま、まぁ…考えようによっては有り難いんじゃ?」
「変な所で前向きだねー。」
俺はいつでも前向きだ。
「で?スライムはどの変にいる感じ?」
「そこら中にいるけど、1番近いのはあっちの方だねー!10匹くらいいそうだよ!」
「おっしゃ!一先ずそこから行こうか!」
そこから歩く事3分。
生い茂る草の合間から、大量のスライムが現れた。
スライムは試験の時に何度か出会ったが、初めてのクエストという事もあり、なんだかテンションが上がってきた。
「お!やば!スライム盛りだくさんじゃん!やっべー!興奮するぅーーー!!」
「何その急なテンション!?」
大量だ!
どうしよう、スーパー嬉しい!!
スライムの数イコール10ルドなのだ。駆け出しで金銭的な余裕のない俺には、ご馳走に思える。
「よっしゃぁーー!狩るぜぇー!!」
「なんかイチトみたいになってるよー!」
俺はガリバーのショートカット機能に登録してあった刀を呼び出し、愛しのスライム達に躍り掛かった。
うぞうぞと地を這うスライムに、刀を突き入れる。ギルドで聞いたところ、スライムの魔石は大した価値が無いとの事だったので、遠慮なく破壊した。ちなみに、試験の時に収納していた分は、部屋に飾ってある。
「…あー。もう終わっちゃった。」
12匹いたスライムは、瞬く間に数を減らしていき、2分程で全滅した。
そこら中に散らばる粘液を、チマチマとビンに詰めていく。少し土や草が付いてしまい、なんだか残念だ。
なんて思っていると、カナデが水魔法で綺麗にしてくれた。品質が良いほど買い取る側は喜んでくれるはずなので、これは有り難い。
「次は私にやらせてー!」
うん。
ついテンションが上がって1人でやってしまったからな。カナデとはパーティー登録してあるので、経験値は分配されているが、実戦経験的も分配した方がいいだろう。
「りょーかい!…それじゃ次のところに案内してくれ!」
そこから俺達は、4時間ほど狩り続けた。




