坊主の話が聞きたくて
さて、どうするか。
とりあえず試験官と、これから同期生になるかも知れない奴等に悪いイメージを付けてみたけど、これマズくね?
もしも試験が、協力プレイ推奨とかだったら詰んでる気がする。
とはいえ過ぎてしまった事は仕方がない。
俺は切り替えは早いほうだ。
とりあえず到着まで相当時間があるから、この時間で何をするかだな。
一応暇つぶし用に本とかゲームは持ってきているが、果たして人生がかかっている採用試験の前に暇を潰していて良いものなのか。
かといってギルドの試験はその性質上予習なんかしようがない。
そんな風に手持ち無沙汰にしていると、お隣さんから声をかけられた。
残念ながら右のお隣さんだ。
「なぁなぁ桐崎やい。」
「なんだね来道やい。」
正直こいつと関わってプラスになることがあるのか甚だ疑問だが、他にやる事が思いつくまでは付き合ってみるか。
「一刀でいいって。」
「お、そうか。俺も幸でいいぞ?」
「おっけー。じゃあサチよ。お前さんなかなかノリ良さそうじゃんか。正直スベるのは覚悟してたんだけど、リアクションくらい誰かにして欲しかったのよ。」
イチトはそう言って、少し前のめりになりながら話し出す。
「いやまぁノリっていうか、心の中声がダダ漏れただけなんだけど。」
「くくっ。……尚いいわ。気に入ったぜお前。」
先ほどの未開堂試験管とのやりとりで悪目立ちした俺達は、声を少し抑えめにしながら会話した。
最初は、こいつと関わってプラスあんのか的な事を考えていたが、気がつくと数時間話している。
要するに俺もこいつが気に入ったって事なんだろう。
「……でさ!そこの坊さんってのが破天荒でさ!スキルのおかげでやりたい放題だなんだと。」
「マジか!……悪いイチト、俺ちょっと出家してくるわ。」
異界と現界が混ざりあって1000年近く経った頃、今からほんの50年ほど前の事、現界人にある変化が起きた。
それが【スキル】と【魔法】だ。
それまでは、フィクションや異界の話だったそれが、ある時を境に現実になってしまったのだ。
それは50年前に起きたある事件が原因とされているが、詳しい事は専門家にお任せして、今は坊主の話をしよう。
「まあ待て、スキルのおかげでアホみたいに位が上がって女にも金にも困らなかった坊さんだが、そのまま終わっちゃ面白くねえだろ?」
「なにそれ、もしかして昔話的なオチ?」
「まさにそれ!今度はスキルのせいで身の破滅的な!」
「お約束過ぎるだろ!」
気がつくと俺達は、声のボリュームも抑えずバカ話に興じていた。
具体的に坊さんの話を掘り下げようとしたところで、まさかの左から待ったがかかる。
「ちょっとそこのバカ2人。」
「「っ!?」」
正直話に夢中で、周りを全く気にしていなかった。
うるさ過ぎたのだろうか、それとも人の不幸話で盛り上がったからか?
いやでも、坊さんの話はどちらかというと自業自得系の話だった様な…
しかし彼女が割り込んできた理由は、そのどちらでもなかった。
「………そ、そろそろ話に混ぜてくれないかしら。」
「「………。」」
これには流石に言葉が出なかった。
え?なに?
もしかして向こうも一目惚れ的な?
ヤバい、ヤバいわー。おじさんそんなの耐えられませんよ?
「ち、違うわよ!?あんたらの下らない話なんて興味ないからね!?」
いや、そんなこと言われてももはやツンデレ発言にしか聞こえないんですが…。
と、俺達のそんな空気を察したのか、彼女に助け舟を出すものが現れた。
「あー、あんたらのデレデレの顔見れば何考えてるのか分かるけど一旦ストップ。今のはリコの言い方も悪いけども…。」
顔を真っ赤にしたツンデレ疑惑の彼女(リコちゃん?)の左隣に座るスラっとした美人が割り込んできた。
「あんたらの話を聞きたいんじゃなくて、あんたらに話を聞かせたいのよ。」
これには俺もイチトも頭の上に疑問符を浮かべるリアクションしかとれない。
それを読み取ってか、スラっと美人も場を改める。
「ま、とりあえずは自己紹介からね!あんたらの名前は流石に覚えたからこっちがするわ。」
彼女はツンデレかわい子ちゃんを指しながら言う。
「この子は神楽凛御よ。」
「よろしくリコちゃん!!」
リコちゃんか〜、名前まで可愛いな!最高かよ!
リコちゃんは未だに顔を赤らめ俯きながらこちらを睨んでくれている。
嬉しい。
「んで、どう見てもスーパーモデルっぽい私は唄方 奏。奏でいいよー。」
「ふーん。」
あ、また声に出た。
「態度に差つけ過ぎ!」
「あ、すんません。」
いやまぁ確かにスタイル良いし、顔も整ってるんだけど、こればっかりは好みだなー。
「おっけ、こっちも呼び捨てでいいぜー。……そんで?カナデとリコよ。話ってなんなんだ?」
イチトが早速本題に切り込む。
俺としては到着までの後数時間はリコちゃんに質問責めしたいところなんだが…
イチトの如何に対して、リコちゃんが表情を改めてキリッとした顔で言う。
「この飛行機は後1時間で墜落するわ。」
ああ、キリッとした顔も可愛いなー。




