黒と金の光
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
携帯からのpvが上がり下がり激しいんですが、これは一体なぜでしょう。
クランの登録は、すんなり終わった。
受付の人の話によると、クランには『拠点』というものが必要らしい。ベテランクランにもなると、専用の屋敷を持っていて、そこにクランメンバーで集まり、毎晩の様に酒宴を開いているそうだ。
当然、現在の俺達にそんな甲斐性は無いので、とりあえずは宿舎の俺の部屋を拠点という事にしておいた。ただ、男性用宿舎には女性は入れないので、ある程度お金を貯める事が出来たら借家でも借りないとまともな拠点とは呼べないだろう。
クランにはリーダーが必要で、これは暫定的に俺で登録しておいた。メンバーからの不満が有ればいつでも引き継ぎ可能という事なので、然程悩まずに決めてしまった。
「あっさり終わったわね。」
「うん。けどこれで、いよいよ冒険者生活スタートって感じがして来たな。」
「そうね。こんなにワクワクするの、人生で初かも。」
俺もだ。
クランの皆は、それぞれ目標とする所は違うが、日常的にクエストをこなして、生活を安定させたいという部分は共通している。皆で稼いで、楽しく過ごそう。
「早くクエスト受けてみたいな。」
「焦らなくても、明日には受けられるわよ。」
皆も早く始めたがっていたからな。きっと明日はクエストを受注するという予定を組んでいるだろう。
「……それでね。…今私、魔眼の練習をしてるのよ。」
「ああ、充電?」
「…察しが良すぎる。」
今はクラン登録からの帰り道だが、何となくリコが、挙動不審だった。周囲に人が居ないかを確認していたのだろう。
「結構やばいの?」
「ううん。…まだ耐えられるけど、気を抜いた時に誰かに触れたら、少し吸っちゃうかも。」
リコの魔眼は、一種の生き物の様な特性を持っている。
他人の命を吸い、その見返りに未来を視せるが、吸った命の残量が減ると、触れただけで相手の命を自動的に吸いつくして殺してしまう『飢餓』状態になってしまうのだ。
「だから…えっと。……いいかな?」
リコは立ち止まり、俺に手を差し出してくる。顔を僅かに染め、俯きながら手を差し出す様子は、なんだかとてもそそるものがある。
「はいよろこんでー!」
俺はリコの右手を両手で包み込む様に握った。
直後、俺の体から黒い光が溢れ、リコの右手を伝い流れていく。前回程の空腹では無かったので、光はすぐに収まった。
「……ありがと。」
そう言ってリコは、俺の両手から右手を引き抜く。
「なんか事が終わったらベタベタしない的な…。俺って都合のいい女?」
「え?あ、ああごめんね?やっぱりまだクセが抜けなくて、あんまり人に触っていられないっていうか…。」
5年も人に触れずに生活していれば、それも当然か。
「いいさ。そういうプラトニックな関係も興奮するから。」
「変な言い回ししないで。」
おっと。また冷たいリコが降臨してしまった。
「ちなみにさ。俺に触れたまま魔眼を使ったらどうなるの?」
「…どうなるのかしら?考えた事も無かったわ。」
制限無く使えるようになるのだろうか。いやそもそも、魔眼は命の使用と吸収を同時に行えるのだろうか。
まぁ、やってみれば分かるか。
なんて、軽い気持ちで始めた事だったが、この行為が思わぬ事態を引き起こす事になる。
「リコ、手出して。ちょっと試してみよう。」
「うん。でも危なそうだったら言ってね?不死っていっても本当に死なないかは分からないんだから。」
俺は、リコの心配を胸に刻み、リコの手を取った。
リコが一度目を閉じ、再び開けると、その瞳は金色に輝いていた。以前見た時よりも、その輝きは増している。
いや、増し続けている。
リコの瞳から溢れる金色の光と、俺の体から溢れる黒い光が混ざり合い、ギルドの廊下が光で満たされていく。
不思議な感覚だ。
思考加速を使った時と似ているが、アレは俺の体感時間を引き延ばすものだ。コレとは少し違う。この感覚はなんというか、時間そのものを引き伸ばしている様な感覚だ。
その感覚が気になり、ふと廊下の窓から外を見る。すると、そこから見える景色の全てが、止まっていた。
揺れる木々、ギルドの職員、ビルから飛び立つ鳥、何から何まで全てだ。
「り、リコ!」
「…え?サチ?これって…」
俺達は互いに顔を見合わせる。リコも窓の外を見た様だ。
「な、なんで?これって未来なの?」
「いや、リコに分からないんじゃ俺に分かるわけないって。」
気がつくと、俺とリコは手を放していた。光も既に収まっており、リコの瞳も金色から赤茶色に戻っていた。
しかし、周りの時は止まったままだ。
「これって……どうやったら終わるんだ?」
「……わかんない。…どうしよう、このまま抜け出せなかったら。」
時の止まった世界で2人きり……。
悪くないな。
「なんでニヤケてんのよ?」
「ちょっと妄想が止まらなくて。」
そういえば、ホニャララの憂鬱で似たような話があったような。アレは別に時は止まっていなかったが……抜け出す方法は同じかも知れない。一応試してみよう。
「よし!チューしよう!」
「なんで!?」
リコに無理やり迫った時、ふと横から視線を感じた。
「!?」
「あ、気にせず続けて!」
視線の先には、白い女の子が立っていた。
髪、瞳、肌、全てが白い、人形のような女の子だ。歳はフタバと同じ14歳くらいに見える。
「え、だれ?」
「いやアタシの事はいいから、チューしなよ!勢いで子作りもするんでしょ?そういう企画モノ観た事あるもん!」
「す、するわけないでしょ!!」
ああ、照れてるリコってホントいいなぁ。
「ちぇー。近くで見ようとしたのが失敗だったかー。」
「いや、そんな事より君は誰なんだ?皆止まってるのに、なんで自由に動ける?」
白い女の子は、これまた真っ白なワンピースを翻しながらくるくると回っている。
「アタシの名前はトキアだよー!…自由に動けるのが変なのは、アタシじゃ無くてあんたらの方だぞー?」
白い少女トキアは、そう言って俺達を指差した。




