新生活スタート
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定食屋を後にした俺達は、再び旅館へと歩いていた。
「サチ、あんなに呑んでたのに全然平気そうね。」
「まぁさっきまでは結構やばかったけどな。」
中年チンピラ3人組と呑むのが楽しすぎて、ついつい不死スキルを抑えてしまった。とはいえ流石に、まともに歩けず皆に迷惑をかけるわけにもいかないので、店を出る時にはしっかりと酒を抜いて、今は完全にシラフだ。
「ホントいい人達だったねー!冒険者って皆あんな感じなのかな?」
「……皆じゃないと思う。変な目で見てきた人もいたし。」
リコはもちろん、カナデとフタバも相当な美少女だ。下心丸出しで見てくる輩はいて当然である。
「それは好みの問題じゃないか?チンピラ先輩は人妻が好きだって言ってたし。」
「うわぁ。すごい興味ない。」
おいおい。リコといえどチンピラ先輩を悪く言うのは頂けないな。
ちなみに中年チンピラ3人組は、チンピラ先輩、チンピラ先生、チンピラ大将の3人で構成されている。初めに俺達に声を声をかけてくれたのがチンピラ先輩だ。
「けどナンパされたりとかは無かったね。やっぱり昼間の2人が特殊だったのかな?」
あの2人の場合ナンパなんてものじゃ無かったが、確かにそうだな。
「……ヒカル達が居てくれたからだと思う。」
「…なるほど。ボク達が多少でも役に立ててるなら良かったよ。」
そこは、「彼氏だと思われちゃったかなー」とか言って良い雰囲気に持っていく所だろうに。ヒカルは真面目過ぎるな。
旅館に着いて時間を見ると、既に22時を回っていた。明日も朝からギルドに行かなくてはならないので、今日は風呂を済ませて早めに眠る事にする。
この旅館に泊まるのも今日で最後だ。明日からは、ギルドの宿舎で寝泊まりする事になる。ギルドが合格者用の部屋を整えるまでの仮宿として手配してくれたので泊まることが出来たが、普通に泊まれば結構なお値段になるだろう。それくらいの上宿だった。
「またみんなで来られるといいな。」
翌朝、旅館を出た所でそんな事を呟いてしまった。独り言のつもりだったが、それを聞いたリコが返事をしてくれる。
「ちゃんと稼げる様になったら、ここで慰労会でもしましょ。」
それは良いな。仕事に励むモチベーションになる。
ギルドに着いた俺達は、敷地内にある広大な広場に集められた。
前方には巨大なディスプレイが浮かんでおり、その手前に演台が組まれている。今からここで、入職式とガイダンスが行われるそうだ。
周りを見渡すと、俺達以外にも多くの新人が集まっている。顔立ちからいって別の国から採用された者たちだろう。
しばらく待っていると、演台の上に突如、一本の樹が現れた。
演台から生えてきたのではなく、現れたという表現がしっくりくるほどに突然の登場だった。
「な、なんで樹が?」
どこからか、そんな疑問の声が聞こえてくる。
樹はやがて緩やかに解れていき、そこに現れたのは小さな少年だった。
「…皆さんこんにちは。私はこのギルドの総帥を務めているアダム サイカイアと申します。」
その簡潔な自己紹介に、新人達が騒めく。
アダム サイカイアと言えば、この世界で知らぬ者はいない程の有名人だ。
ギルドの総帥にして、ガリバーアイランドの最高権力者。その英雄譚は数知れず、物語の中の登場人物という印象を持つ者が多いだろう。俺自身、幼い頃に絵本の中に登場した彼に憧れを抱いた者の1人だ。
彼の姿は、登場する物語によって違う。
賢者としての物語の時には老人で、勇者としての物語の時には青年で、といった風に一定ではない。勿論、人間である以上姿形が一定な筈はないのだが、彼の場合はそうとも言えない。
なぜなら、彼が初めて登場する物語は、800年以上昔に書かれた物だからだ。
故に彼はこう呼ばれる
『生ける伝説』と。
「皆さんの晴れの舞台に、この様な姿でご挨拶させて頂くのは誠に申し訳なく思います。ですが、毎年の恒例行事ですので、今しばらくお付き合い下さい。」
過去に何度この様な挨拶をしてきたのかは分からないが、サイカイア総帥の話し方は、まるで今日初めて人前に出る人間かの様に初々しいものだった。
子供の様な外見と声音に引っ張られてしまったのだろうか。というか何故子供の姿なのだろう。本人の言から察するに、自分の意思で姿を自在に変えられるわけでは無さそうだが。
サイカイア総帥の話は、新人達への応援と、期待を伝えるものだった。こう言っては失礼だが、結構普通の内容だ。
最後に未開堂さんへの引き継ぎの言葉を述べると、いたって普通に演台から去っていった。登場シーンだけ凝っていたのは何故だったのだろう。
その後、未開堂さんが仕事の説明と諸注意を話し、入職式は終了した。
「っふー。疲れたー。」
新人達が解散していく中、イチトが伸びをしながらそう漏らす。
「さて!これからどうすっか!」
結局昨日は打ち合わせが出来なかったからな。今日の予定は未定だ。
「とりあえず宿舎に行ってみない?みんな荷物とか送ってあるんでしょ?荷解きとかしないと。」
一先ずはカナデの案に乗るか。と言っても俺には、荷物なんて無いんだが。
「オレは何もないぞ?最低限の家具は置いてあるだろうし、服は現地調達するつもりだったからな。」
どうやらイチトも俺と同じ考えでいたようだ。
俺の場合、孤児院育ちの為ほとんど私物が無かっただけだが。
「そしたら別行動にする?……あ、もし暇だったらさ。イチトとサチで『クラン』の登録して来てよ。」
ギルドにおいて、パーティーは基本的に4人以下が推奨されている。なので、それ以上の人数で仕事をする場合には『クラン』というものを利用するのだ。同じクランのメンバーになっていれば、1つのクエストを複数のパーティーで攻略するなど、仕事の幅を広げる事が出来る。
同一クラン以外で同じクエストを受ける事は、基本的には出来ない。例外として共同クエストという物もあるが、これは常に発生しているものではないので、共同クエストだけで生計を立てるのは難しいだろう。
「ああ、俺としては全然問題ないけど…そもそも皆は、同じクランとして仕事をしていくって事でいいのか?」
俺達は知り合って日が浅いにも関わらず、既にかなり仲が良いと思う。しかしながら、仕事となると話は別だ。友人だけど信頼はしていない、といった関係性なんてザラに有るだろう。そして互いの信頼関係が無ければ仕事を円滑に進める事なんて出来ない、と俺は思っている。
まぁアルバイトくらいしかしたことの無い俺の考えだが。
改めて仕事仲間としてやっていけるのかを確認するのは、なんというか……とても緊張する。
しかしそんな俺の想いとは裏腹に、皆の答えは非常にあっさりとしたものだった。
「他の人達となんてあり得ないわ。」
「だよねー。すぐすぐの戦力としてなら、先輩達のクランでも良いかもだけど…」
「将来性を考えたら、ボク達は最高だと思うよ。」
「………お兄ちゃんとヒカルだけでも最強。…不死と魔眼と支配系が足されたら、無敵。」
「おいおい妹よ。鬼姫を忘れちゃあダメだろう。」
満場一致だな。
多分俺は、こいつらに出会うために全ての運を使い果たしたのだろう。俺のLUKは5だ。きっとこの先の人生は、反動でエグい事になる。
「おし。それじゃ登録しちまうぞー!…あ、クラン名は何にする?」
「んー、2人に任せる!カッコいいのにしてね!」
カナデがそう言うと、皆も期待に満ちた顔を向けてくる。
「おいイチト。これは責任重大だぞ?」
「下手すりゃ、一生もんだからな。サチの思考加速の出番だぜ。」
どれだけ加速しようが、0から1は生み出せないんだが。
「「う〜〜ん。」」
俺とイチトは、宿舎に向かう皆を見送りながら唸り声を上げる。




