事後処理
キリが良かったので、今回短めです。
メガネ野郎の魔道具を破壊した時点で、俺達にかけられていた認識阻害の結界は消え去っており、事の一部始終を目撃していた街の人達が複数人存在した。
当然の如く辺りは騒然となり、俺達は非常に居心地の悪い思いをする事になった。
「……とりあえず、ギルドに報告するか。」
「…うん。」
リコはその場に座り込んでしまい、呆然と俺を見上げながら返事をする。
俺はガリバーを起動し、ギルドに連絡を入れた。この島は独立国家として認められており、治安の維持も警察機関ではなく、ギルドが担っている。どうやら数分でこちらまで人を寄越してくれる様だ。
「リコ、大丈夫か?怖い思いさせてごめんな。」
「…ううん。助けてくれてありがと。」
目の前で人死を目撃し、昔の記憶でも蘇ってしまったのだろうか。
おそらくリコの目には、目の前の死体はエナジードレインで殺してしまった者達よりも、よりリアルに写ってしまっている事だろう。もっとスマートに対処出来れば良かったが、残念ながら俺の実力ではこれが限界だった。
程なくして、ギルドの職員がやって来た。
その後、俺達はギルドに連れていかれ事情聴取を受けたが、多数の目撃証言とガリバーの記録によって、正当防衛が認められるだろうと言われた。
正式な手続きは後日改めて、という事で、その日は帰してもらえたが、その時には既に日は完全に沈んでしまっていた。
「みんな心配してるだろーなー。」
「……そうね。」
リコは元気が無さそうだ。あんな事が有った後に、散々取り調べを受ければ無理もない。
「……ごめんね。」
「ん?…何が?」
「…私がもっと動けていれば、あんたを人殺しにせずに済んだのに。」
ああ、それを気にしていたのか。
「……一般の冒険者と違って、ギルドの冒険者をやっていればいずれはそういう仕事も回ってくる。それが少し早まっただけだよ。」
ギルドは異界絡みのトラブルに対処するための組織だ。当然その相手は魔物ばかりではない。
「……それに、人を殺すのはこれが初めてじゃないし。」
「………だからって、平気なわけじゃないでしょ。」
まぁ、思うところはあるけどな。
リコも経験があるだけに気持ちが分かるのだろう。
「けど、もし同じような状況になったら、俺はまた同じように対処するよ。出来れば殺さずに終わらせたいけど、その為には圧倒的な力量差が必要だ。殺さない事に意識を向けすぎて、リコが傷付く事になったら、結局その時は相手を殺す事になるしな。」
先に殺すか後に殺すかという二択なら、俺はリコが傷付かない方を選ぶ。
「……サチはすごいね。……私もサチみたいになりたい。」
それっきりリコは話さなくなった。
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サチが、人を殺した。
それもあまりにも呆気なく。
私は、自分がそういう世界に足を踏み入れたのだと改めて実感した。
そして、私はどうしようもなく素人だったという事も実感した。
サチは覚悟を持っていた。私を守る為なら人を殺す事も厭わないという覚悟を。
私には無かったものだ。
けれどこのままではいけない。サチはきっとそうは言わないだろうけど、私はサチを見殺しにしたのだ。
サチが今生きているのは不死のスキルを持っていたからで、本来ならあそこで死んでいた。私のせいで死んでいた。
サチは凄い人だ。いずれ誰もが知る冒険者になるだろう。決してあんなところで終わっていい人間じゃない。
私に出来るのは、次に同じような目にあった時に、自分の力で立ち向かうことだ。
そして可能なら、私がサチを守る。きっと世界もそれを望んでいるはず。
「リコ?もう着くけど大丈夫?」
気がつくと旅館のすぐ手前まで来ていた。
考え込むのは辞めにしよう。反省しているだけではなく、実際に行動に移さなくては。私を好きだと言ってくれる恩人に、少しでも報いる為に。
「大丈夫よ。……必ずあなたに追い付いてみせるわ。」
最後まで声に出せただろうか。出せていなくても私の意思はハッキリしている。私は必ず、守られるだけではなく、守れる人になってみせる。
あなたのように。




