刃傷沙汰
「サチってさー。私のこと……好きなんだよね?」
射撃場へと向かう道中、リコが不意にそんな事を言ってくる。
「え?…うん、もちろん。」
「なんで今更照れてるのよ。」
自分から言うのは平気だが、リコから言われるとなんだか照れる。
「いや、なんで急にそんな事聞くの?」
「…うーん。なんでだろ?イマイチ理解出来ないからかな。」
愛は理解から最も遠い言葉さ、とか意味のわからない事を言おうかと思ったが、茶化す雰囲気でもないな。
「俺から見ればリコは魅力の塊だ。惚れない理由が無い。」
「ちょ、もう少し言葉を濁して。」
あ、照れてる。可愛い。
「…今までそんな事言ってくれる人いなかったから、あんまりピンとこないのよ。」
魔眼のせいでまともな人間関係が築けなかった、的な事を言っていたな。
「けどこれからは言い寄ってくる男が増えると思うぞ?新天地に来て、リコのスキルを知ってる人はいないだろうし、今のリコは人の命を吸ったりしないしな。」
む?そう考えると、限界まで命を吸わせてしまったのは失敗だったか?
「俺だけが触れられるように、加減しておけば良かったな。」
「……あんたはそんな事出来ないわよ。きっちり私を助けないと、きっと満足しなかったわ。」
そうかな。俺はそこまで出来た人間だろうか。
「だといいけどな。……ん?」
「どうしたの?」
フラグを立ててしまったか。さっそくお客さんの様だ。
「…なんか付けられてるっぽい。」
「え?」
「待って。視線はそのままで、普通に歩いて。」
こんな真昼間から変な事はしてこないと思うが、一応警戒はしておこう。射撃場は、少し人通りの少ない通りにあるため、目的地が目先に迫った今、俺達が歩いている場所もあまり人気が無い。とはいえギルドから然程距離があるわけでも無い中心街だ。全く人がいない場所なんて殆ど無いだろう。ここもそうだ。
「目的地を変えて、大通りに出ようか。」
それでも念のため、より人通りの多い所に移動しておこう。さらに万が一に備えて、ガリバーから銃を取り出し、上着のポケットに突っ込んでおく。
「……尾行されてるって…間違いないの?」
「うん。あんまり治安の良くない町で育ったからな。こういう感覚にはちょっと自信がある。」
全くもって自慢できる事ではないが、俺は過去に8回誘拐されている。3回目くらいで尾行には気付けるようになったが、何せ子供だった俺には何も出来ず、ただただ拐われるだけだった。
しかし今回の尾行は俺が目的ではないだろう。俺が拐われた原因の殆どは、親父の孤児院絡みだったからな。稀に変態もいたが、今回はそのどちらでも無い。感じる視線は、俺から少しズレている。つまりリコが狙いだ。
「あんたって顔だけ見れば育ち良さそうなのにね。」
「未開堂さんには幸薄そうとか言われたけどな。」
そこから10分程俺達は歩き続けた。マップによれば、あと5分もしないうちに大通りに出られる。が、そこでガリバーに異常が発生した。映し出していたマップにノイズが走ったのだ。
「あー、これマズイかも。」
「これって……結界?」
おそらくはそれだ。マップに表示された現在地が、点滅している。俺達の周囲に張られた結界によって、ガリバーの通信が阻害されているのだろう。
正直ナメていた。地元の悪漢共に負けない程度には強くなったと思っていたが、ここは異界と現界の中継点、ガリバーアイランドだ。相手が町のゴロツキ程度なわけがない。
「せいか〜い!認識阻害の結界だよ〜!地元のオトモダチが譲ってくれた魔道具なんだー。」
すると、俺達の後ろから声をかけてくる者が現れた。当然俺達を付けていた者だろう。
「……何か用かな?」
振り返ってみると、どこかで見た顔だった。はてどこだったか。
「僕達のこと…覚えてるよね?森でのお礼に来たよー。」
森、と言えば試験を受けたあの森だろう。
うむ。そういえばゴリラとメガネに絡まれた覚えがある。あの時の2人の名前は確か……
「ええっと……佐藤さん?」
「工藤だよ!こっちは郷田!」
おお。1番当たりそうな名前を言ったら、一文字当たった。
しかしこいつら、旅館では見かけなかったな。宴会すらバックれて何をやっていたんだか。
「相変わらずナメた態度だなぁ。」
ゴリラが睨みつけてくるが、俺の記憶が正しければ、前回俺はそれなりに礼儀正しく接した覚えがある。
「で?何の用?」
まぁ今回は雑な対応でいいだろう。さっきからリコを見る目が気に入らない。
「あー、まぁアレだ。てめぇをボコって、その女を犯す。」
カチャ。
俺は銃を取り出し、ゴリラ野郎の眉間に銃口を突きつけた。
「死ね。」
パンッ!
乾いた音と共に、弾丸が放たれる。
「がっ!」
ゴリラ野郎は頭を弾かれ、後ろに大きく仰け反った。
が、それだけだった。
「ってぇーなクソガキが!」
仰け反った体勢を利用し、ヘッドバットを繰り出して来た。
ゴリラ野郎の額が、俺の持つ銃を砕き、俺の頭をも砕く。
「…サチ!!」
リコの叫び声が、遠くに聞こえる。一瞬、脳が死んだようだ。
まぁ、一瞬だが。
瞬時に再生した脳が思考を再開する、それと同時に思考加速を起動すると、現状がクリアに捉えられた。
まずこのゴリラのヘッドバットの破壊力だ。これは明らかに異常である。こいつのステータスは、つい昨日見たばかりで、STRは75、VITは70だ。レベルは7だったから、平均より僅かに高い程度。それでこの威力は出せないだろう。
このカラクリには、恐らく2つの要素が含まれている。
1つはスキル。こいつのスキルは筋力増強だったはずだ。どの程度上がるのかは分からないけれど、VIT135の俺の頭をかち割るくらいの増強は成されたようだ。
そして2つ目、筋力増強だけでは説明のつかない事がある。それは、ゴリラ野郎自身の頭が割れていないという事だ。俺の頭をかち割った時もそうだが、銃で撃ち抜いて尚、仰け反る程度というのはいくらなんでも異常だ。
これは簡単で、結界を使用していると思われる。メガネ野郎がネタバラシしていたしな。認識阻害の他に、硬度強化の結界を張る魔道具も用意していたのだろう。
強力なヘッドバットの仕組みについて推理したついでに、能力値を上回る頑丈さについても推測が立った。となればコイツの攻略に必要な行動は1つ。
先にメガネを落とす。
俺は仰向けに倒れた体勢のまま、ガリバーを操作し、刀を収納から取り出す。
「…あ?…てめぇ死んだろ?」
「ああ、これで8回目だ。」
ゴリラ野郎に適当に返しながら、俺はメガネ野郎に向かう。
「さ、サチ!」
リコは俺の死に様を見て気が動転していたのだろう。メガネ野郎に腕を掴まれたまま固まっていた。
「え?なに君?どういう…」
「俺の女に触んな。」
さり気なくリコを俺の女という事にしつつ、メガネ野郎の胸元にぶら下がるネックレスを叩き切った。
「あ。」
「じゃあな。」
俺は返す刀でメガネ野郎を切り上げる。
膝から崩れ落ちるメガネ野郎を一瞥し、ゴリラ野郎の方を振り向く。
「て、てめぇ!今度こそぶっ殺す!」
なんでコイツらは適性試験を通ったのだろう。自己防衛以外で人を殺すなんて『いけないこと』だろうに。
ゴリラ野郎が拳を繰り出してくるが、結界無しならSTRで勝る俺に負けはない。
ゴリラ野郎の右拳を左手で受け止め、右手で持つ刀で腹を貫いた。
「いや、武器出せよ。」
「ぐっ…がっ…あ……!」
刺した刀を横に振り抜く。
脇腹を通って抜け出た刀を血払いし、鞘に戻してから収納する。
後でちゃんと手入れしないといけないな。
「……っ……。」
ゴリラ野郎は何かを喋ろうとしたが言葉にならず、そのまま地に伏して動かなくなった。




