異世界ゲートはガバガバです!
気になってる女の子に軽蔑された時の対処法。
「……」
とりあえず目を背ける。
「(おい、来道とやら……)」
「(ん?なんだ?……ええっと、桐崎?)」
俺達は声を潜めて話すが、周りに喋っている人がいないので、おそらく意味はない。
「(このままだとまずいって。)」
「(だな。流石に俺でも分かるわ。)」
空気の読めなそうな来道でも、流石に空気が死んだのは気づけたらしい。
「(とりあえず、少しでも心象回復に努めるから、少し大人しくしとけ。)」
「(りょーかい。)」
これ以上俺のざっくり人生プランにダメージを負わない様に、俺は無い頭をフル回転させて、起死回生の言葉を探す。
「えーと。未開堂試験官、俺からも質問していいですか?」
「ハァ。今度は桐崎か……。なんだ?一応言ってみろ。ちなみに、次に私をイジったら通信を切る。」
あのため息を聞いてしまうと、起死回生なんて不可能に思えてくるな。
ていうか、俺発信でイジった事は一度も無いんだけど。
「最近ニュースなんかでよく聞くんですが、異界ゲートが不安定になってきてるってマジですか?」
「………ふむ。何故それを今聞くんだ?」
未開堂試験官は、表情を消して聞き返してきた。
どうやら、「お前、空気変えようと適当なこと言ってんな。」という顔ではなさそうだ。
「いやね、試験を受けるにあたってのモチベーション作りと言いますか……。異界ゲートを通ってくるのって、人だけじゃないじゃないですか。ちょくちょく魔物やら宇宙生物やらの、俺らに非友好的なバケモンも来るっていうし、もし異界ゲートが不安定になってて、そういうバケモンに脅かされる機会が増える様なら、俺みたいなのでも少しは役立てる様に頑張んないとなー的な?」
これは半分本音だ。
俺は別に物語の主人公じゃないから、世界を守るぜ!的な崇高な気持ちはそんなに無い。
全く無い訳でもないが、一先ずは、活躍に応じた報酬を受け取り、養父の世話になるのをやめ、自立をして恩を返すというのが俺の主目的だ。
そのついでに世のため人のためになるなら、それはそれでアリかな、という程度である。
その為にはまず、活躍するための舞台がいる。
つまりはそういう話だ。
「ほう。…どうやらただのアホでもない様だ。」
感心されてしまった。
とはいえこの人もバカじゃないだろう。
俺の言ったことを鵜呑みにした訳じゃなく、試験内容には触れず、さらにギルドの抱える機密に触れる程でもない程度の質問を上げたことを評価しているんだと思う。
「端的に言って、事実だ。」
未開堂試験官の回答に、再び乗客達は騒めく。
「とはいえそれは、ここ最近始まった事ではない。厳密にいつからとは言えんが、少なくともお前が生まれる前からゲートは不安定だ。」
「……!」
これは驚いた!
異界ゲートは、実際には様々な呼び名があるらしい。
別の星、別の次元、別の時間軸、異界の数だけゲートがあり呼び名がある。
それを総称して、俺達は異界ゲートと呼んでいる。
世界中に数多ある異界ゲートだが、恒久的に存在するものもあれば、瞬間的に開いて閉じるゲートもあるそうだ。
しかし不思議と、それぞれ別の世界に繋がるはずのゲートは、ある程度リンクしていて、同時多発的に開いたり、南から北へといった具合に連鎖して開いていくこともあるのだという。
そして今、未開堂氏から齎された情報によると、異界ゲートは不安定だという。
これはひょっとすると、活躍の場がどうとか言ってる場合ではないのでは?
皆も同じ事を考えたのか、隣同士で不安を打ち明けあったり、深妙な顔で俯いたりしている。
左を見れば、気になるあの子も焦りの表情を浮かべていた。
興奮する。
「まぁ、そう焦るな君たち。」
すると未開堂試験官が、落ち着いた声音で声をかけてくる。
「先程言ったように、異界ゲートが不安定なのはずっと前からだ。それでも今日、君たちはこうして無事でいるだろう?それは、世界政府とギルドを始めとした大規模組織が連携し、問題の解決にあたっているからだ。最近メディアなんかが取り上げ始めているが、これは所謂『流行り』というやつだな。実際君たちが生まれる前や、物心つく前にも何度かあった様だぞ?」
この機に乗っているのは、25歳以下。
採用枠の関係でそうなっている。
未開堂氏の発言が、受け売りっぽいのは、彼女もまた俺らとさほど歳が離れていないという事なのだろう。
「とはいえ、我々が動いていなければ未曾有の大事故、事件になっていたであろう案件も確かにある。そのため、君たちの力もまた、世界を守る一助になる事だろう。」
そこまで聞いた所で周りを見渡すと、機内の空気は随分と温まっていた。
ここにいるのは、少なからず英雄願望を持つ者達だ。
彼女の発言に、心を動かされた者は多そうだ。
「…さて、桐崎よ。これで質問に対する答えにはなったかな?要するに、異世界ゲートがガバガバになろうが、お前が試験に受かり、しっかり働けば問題無しということだ。……モチベーションは上がったか?」
かく言う俺も、心を動かされた者の1人の様だ。
俺は、幾分軽くなった気持ちを意識して返答する。
「はい! お答えして頂きありが……
「ちなみにアキラちゃんのゲートはガバガバですか?」
「「「………っ!?」」」
プツンッ
隣の来道の発言によって、俺のお礼の言葉は届かずに終わった。
しかし来道を恨みはしない。
何故なら、通信が切られる間際の未開堂晃氏の顔が、耳まで真っ赤に染まり、めちゃめちゃかわいかったからだ。
「…おい来道。」
「な、なんだよ?…謝んねぇぞ。」
「グッジョブ!」
俺達は固い握手を交わした。
周囲の人々から発せられる冷たい空気は無視した。
左隣に関しては、もはや見る事さえ出来なかった。




