森のボス Part3 2人の主人公と考える人
「アレはボクと相性悪いなー。」
「……そうなの?」
思わず呟いたボクの言葉に、隣のフタバが返してくれる。
「……ヒカルの『地球両断ぶれーど』ならあんなナメクジ一発で仕留められるかと思った。」
「なんか物騒な技名つけられてる!?」
ボクの使った魔法はそこまで大袈裟なモノじゃないんだけどな。
「あれは『空断』っていう時空魔法のLv.5で使える魔法だよ。防御力の高い魔物には有効だけど、動きが速かったり再生能力が高い魔物にはイマイチなんだ。……コストも高いしね。」
「…ふーん。なんかカッコ悪い名前。…改名して。」
この無茶振りにも慣れてきたなー。
まぁ魔法名なんて、ちゃんと魔法の仕組みが理解できていれば然程重要なものでもないんだけどね。
「か、考えておくよ。」
とはいえ『地球両断ぶれーど』は、幾ら何でも気合が入りすぎた名前だろう。
「……そうして。…でも相性が悪いなら、私が頑張らないとね。」
「うん。そうしてもらえると助かるな。もちろんサポートはするからね。」
ここまでの道中でフタバが戦う所は何度か見たが、それはもう凄まじかった。明らかにオーバーキルを連発していたが、彼女曰くそれは訓練として行っていたらしい。温存する必要がある時には、それなりに力をセーブして戦う様だ。
「サチ達は勝てるかな?」
「…間違いなく勝てる。」
ボクの何気ない問いに答えたフタバは、妙に確信に満ちた顔をしている。
「間違いなく?」
「うん。…お兄ちゃんがいるからね。」
来道一刀か。来道家は、ボクでも知っている程に有名な家系だけど、正直に言ってフタバを見た後だと見劣りしてしまう気がする。
「…私はよく、天才って言われるの。」
そんな事を考えていると、ボクの訝しげな表情を読み取ってか、フタバが言葉を重ねる。
「お兄ちゃんも私の事を天才って言う。……でも私はニセモノなの。…毎日訓練をして、レベルもたくさん上げた。……だけど『アビリティ』は上げられない。」
アビリティというのは、ステータスには反映されない、所謂才能というやつだ。ステータス上でどれだけ優れた数値を叩き出しても、それが有効に使えなければ意味がない。そして、それが有効に使える人間を、アビリティが高いなどと表現する。
アビリティなんて存在しないという人もいるが、一芸に秀でた者ほど、このアビリティというモノを認識する様になるそうだ。
「……そしてお兄ちゃんは、アビリティの化け物なの。…周りの人も…本人でさえ認めないけど、私には分かる。お兄ちゃんこそ本物の『天才』だって。……多分ホンキになったお兄ちゃんには、ヒカルだって敵わない。」
ボクは自分が特別強いだなんて思っていないが、それでも面と向かってそう言われると、男心がくすぐられる。
「いつかホンキになったイチトと戦ってみたいな。」
「…うん。きっと楽しいよ。」
ボク達は会話に区切りをつけ、4人の戦いに集中する事にした。
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このナメクジ、思った以上にやばい。
今もまた、カナデの氷槍で穿った体を再生された。
リコの魔眼のおかげで、不意打ちを食らう事は無かったが、変幻自在に動く触手に翻弄され、満足に近づく事も出来ない。
まぁどのみち湖の真ん中にいるので近づけないのだが。
しかしこのままではジリ貧だ。
思考加速をフル稼働して考えよう。必ず攻略法はあるはずだ。
まず、俺は何故攻略法があると考えているのか。それはこれが試験だからだ。このダンジョンは間違いなくギルドの手が入っている。何が起こるか分からない様なダンジョンに、新人ですらない受験生を送り込む様な事はしないだろう。
このダンジョンが既にギルドによって踏破され、入念な調査をされたものであるなら、色々な事柄に説明がつく。FからDランクという低級の魔物しか生まれない低級ダンジョンである事、食用に出来る魔物や動物の少なさを見越しての食料の配布、そしてこのボスだ。
体格がよく、迫力のある外見は受験生の度胸を試すにはもってこいだろう。それでいて攻撃力は低く、せいぜいケツを掘られる程度だ。
下手をすれば人工の魔物なのでは無いかとさえ思える。人工の魔物……その線で考えるとどうだろう。
ボスが人工ならダンジョンもまた人工だ。そもそも天然のダンジョンを攻略しておきながら、異界ゲートをほったらかしにしておくものだろうか?いや、これはあり得るな。ゲートの向こう側でも同じ様な用途でダンジョンを使っている可能性がある。
そもそも、魔物を作るという技術は聞いた事があるが、ダンジョンを作るなどという技術は聞いた事もない、そんな事が可能なのか?
ギルドの秘匿している技術として、ダンジョンメーカーなんていう技術があるのかもしれないが、可能性としては低いだろう。
そうなると、とりあえずこのボスは天然物と考えていいかな。
いや、どうしても看過出来ない現象が起きていたな。
冗談の様だが、それはイチトのアナ◯ファ◯ク事件だ。まぁ実際には未遂で終わった事件だが、これは明らかに不自然だった。
あの時、攻撃を受ける可能性が1番高かったのはリコだったのだ。
リコが1番魅力的だったのでセクハラを受けるのに最も相応しかったという事ではない。リコが1番ナメクジの近くにいて、あの段階で唯一攻撃した者だったからだ。
にも関わらずあのナメクジはイチトを攻撃した。どう考えても不自然だ。迫力だけはあり攻撃力は無い、ここまではまだ自然の魔物としてあり得るかもしれないが、あの場面でイチトを攻撃したのは流石におかしいだろう。
恐らくだがあの魔物にはモラルがある、女の子の尻を攻めてはならないというモラルが。そんなモノを持つ魔物なんていてたまるか。
これはもう人工の魔物で決定だな。ダンジョンについては分からないが、自在に作る技術があるのかもしれないし、ボスだけを自前のモノに挿げ替える事が出来るのかもしれない。そこに関しては考えても分からないので思考放棄しよう。
さて、では人工の魔物であると仮定すると何が分かるのか。これは簡単だ。
余裕で勝てる。
人工の魔物はすこぶる弱いなんていうデータがあるわけではなく、勝てる様に出来ていると考えられるからだ。
それは何故か。
実は、カナデの鑑定スキルが活躍してくれていたのだ。カナデの鑑定によれば、あの魔物は『ヒュージレイクスラッグ』だという。しかしアレが、人工の魔物であるならば、魔物の名称が実在する魔物と同じだなんて有り得ない。オマケにデータまでしっかりと出ている。
ではやはり天然物なのかといえばそうではない。その仮説は既に棄却されたものだ。
あの魔物が人工的に作られたもので、かつ鑑定スキルが天然物だと判断しているならば、答えは自ずと1つになる。
これと似た様な事例があったばかりだが、つまりは……
あのナメクジは力場によって守られている。
そう考えれば辻褄が合うのだ。
リコの魔眼による未来視が妨害された様に、カナデの鑑定もまた妨害されたのだろう。
では何故、鑑定スキルや未来視を妨害するのか。そして何故、ヤツの放つ攻撃に関しては未来視が許されたのか。またこの力場が何故、魔法攻撃に対しては働かず、鑑定や未来視などの見破るスキルにのみ働くのか。
これは非常に分かりやすい。
要するにこのナメクジは……
「ただのハリボテか。」
俺はそう呟いて、湖に1歩踏み出した。




