森のボス
「いやもうねぇ〜、凄かった。次から次へと出てくるんだもん。なんだろアレ?ゴブリンかな?」
鑑定スキルを持っていないので固有名は分からなかったが、緑色の小人だった。
「…はぁ。…分かったわよ、大変だったのね。よしよし。」
おお!どういう事だ!
1人で探索中にモンスターハウスを引くという不運に見舞われたかと思えば、今はリコが頭を撫でてくれている。
今日の運の動きはアクロバティックだな!
「これはリコが俺を飼ってくれるという事?」
「お前ホントにバカだな。」
イチトに罵倒されるのは構わないが、リコが手を引っ込めてしまったのは辛い。発言には気をつけなくては。
「とりあえずお前がいない間に作戦会議しといたぞ。……俺達はボスを狩る事にした。」
「ほう。…つまりダンジョン説か。」
「本当に私が絡まなければ頭良いわね。」
褒められた。また撫でてくれるのだろうか。
「ありがとリコたん。いてっ。」
蹴られた。
「ちなみにボスの場所は当たりがつきそう?」
「うん。それは大丈夫だと思う。魔物の変わる層は円形になってるはずだから、その中心を目指せばボスがいると思うよ。」
ダンジョンと仮定するならば、第1層と第2層の境目は異界ゲートを中心として円形に広がっている。そして異界ゲートを守る最後の砦がダンジョンボスだ。
「おっけー!そしたら少し歩き回れば第2層の円がどの程度の規模か分かるな!」
「そうだね。ささっと食事済ませて始めよっか!」
そう言ってカナデはガリバーから携帯食料と水を取り出す。俺達もそれに習って食事を始めた。
「ところでサチ、モンスターハウスってどんなところだった?遺跡型とか洞窟型のダンジョンなら想像つくけど、森ってなるとイマイチピンとこねーんだよなー。」
「ああそれね。簡素に作られた木の柵の内側だったよ。ゴブリンの集落って感じかな。」
「見るからに怪しいじゃねぇか。よく侵入したな。」
流石に俺も、現地の気前の良い人達にオモテナシを受けると思ったわけではないが、正直好奇心に負けた。明らかに知能の有る魔物が作った集落であろう事は外目にも分かったが、それ以上にここに入ればポイントをがっつり稼げるのではないかという欲求に勝てなかったのだ。
「まぁ済んだことはしょうがねぇけどさ。そんな面白そうな所ならオレも行きたかったぜ。」
「おう。俺の見つけた所は壊滅させちゃったけど、次に見つけたら一緒に暴れよう。」
見つけた所がオークやオーガの集落ならこうも簡単には行かなかっただろうけどな。
「私とカナデも混ぜてよね。何もしてないのにレベル上がるのってすごい違和感あるんだから。」
「あ、やっぱり上がった?俺もレベル8になったよー。」
そう言って俺は皆にステータスを見せる。
名前―桐崎 幸
年齢―17歳
種族―未設定
レベル―8
職業―未設定
所属―未設定
先天スキル―不死
後天スキル―苦痛耐性Lv.6 思考加速Lv.2 速読Lv.3 投擲Lv.1
魔法―未習得
能力値―MP 80/80
STR 130
DEX 60
VIT 135
AGI 180
INT 105
MND 550
LUK 5
「やっぱりレベル追いつかれたかー!」
「まぁレベルは高くなるほど上がりづらくなるしな。オレも1レベル差だ。」
カナデはレベル8、イチトはレベル9か。随分差が縮まったな。
「ちなみにレベル8の時の平均能力値は、80台らしいわよ。」
レベルが上がっても能力値が上がらない事も多いというし、そんなものか。レベルに一桁足した能力値を平均と考えればいいのかな?
そう考えるとさっき会った2人組の男共もそんなに低い方では無いんだな。
「なら俺の能力値は悪くない方だな。」
「悪くないどころか、かなり真面目に修練を積んでる人って感じね。」
実際には不死による超再生の恩恵だけど、まぁ細かい事は気にしないでおこう。
「よし!そろそろ休憩は終わりでいいだろ。サチは大して休んでないけど大丈夫か?」
「おう。そもそも疲れないしな!」
「体はそうでも精神的には違うでしょ。……無理しないで。」
なんだろう。無茶をするとリコが優しくなるという法則がこの世界に生まれたのだろか。
「すばらしきこのせかい。」
「うん、行きましょう。」
あれ?リコがこっちを見なくなってしまった。
ちゅらい。
俺達が森の中心を割り出すまでには2時間程の時間を要した。今は午後1時を過ぎたところだ。
島の中心、ボスの所までは凡そ1時間程度で行けそうだ。途中でEやDランクの魔物を狩っていくとしても1時間半程度だろう。
「そろそろ他の受験者もボスに挑戦する頃かなー?」
道中カナデがそんな事を呟いた。
「そうだなー。ランキングを見る限り討伐に成功した人はいなそうだけど、挑んでる人は何人かいるかもね。」
もうすぐ試験が始まってから丸1日が経とうとしている。血気盛んな若者達が集まっている事を考えれば、ボスに挑む者が現れてもなんら不思議は無い頃合いだ。
「けど実際、私達で勝てると思う?」
リコがそんな弱気な発言をする。
「多分俺達で勝てなければ、この島に勝てる人はいないと思う。ランキングの1位と2位の人ならいい線いくと思うけど、ポイント的にこの2人はソロだから流石に厳しいんじゃないかな?」
俺達がこの島でこれ以上レベルを上げるのは難しいだろう。イチトとカナデのレベルの上がり辛さを見れば明らかだ。上げられてもせいぜい1か2レベル程度。
そしてこのパーティーの能力値は平均を大きく上回っているし、魔法適性の高い人間が3人も揃っている。これでこのパーティーが勝てなければ、試験内容に問題があるか、今年の採用枠が『不作』のレッテルを貼られるかのどちらかになるが、俺としては後者は無いと思っている。
未開堂試験官の話によれば、50点が採用と不採用のボーダーラインだ。だとすれば、俺達より戦力において大きく劣る、先のアホ2人でさえ合格ラインという事になる。いくらなんでもこれで不作は無いだろう。
「まぁいざとなったら俺が守るから。……リコの前で殺されるっていうシチュエーションも興奮するし。」
「惜しい!後半がなければなー。」
カナデは何を言っているのだろう。後半こそ俺が伝えたい部分だろうが。
「そう。もしそういう場面があったら、あんたごと敵を焼くわ。」
「まさに燃えるような恋だね!」
「お前らずっと会話が噛み合ってねぇな。」
そんな風にダラダラと話しながら進んでいると、あっという間に森の中心付近までやってきた。途中何度か魔物と出くわしたが、Dランクにも然程苦労はしなかったな。レベルアップの恩恵を地味に感じる。
森の中心には、直径500m程度の小さな湖が広がっており、陽の光を反射してキラキラと輝いていた。
「綺麗な景色だけど、ここにボスがいると考えるとちょっと怖いわね。」
「おいサチ、水も澄んでて魚影も見えるぞ。ちょっとひと泳ぎしたくならねぇか?」
俺を生き餌にする気か!
だがあえてその提案に乗ろう。
「流石イチト、よく分かってるな!ちょうど泳ぎたいと思ってたんだよ。」
俺が上着を脱ぎ、必要のない準備運動を始めたところで、思わぬ所から待ったがかかった。
「ちょ、ちょっとキミ!ここは遊泳禁止だよ!!」
声のした方向を見ると、俺達とは別のルートから森を抜けて来た2人組の姿が見えた。
「あ、ライフセーバーの方ですか?」
「違うよ!確かにそれっぽい発言だったけど!」
2人組は男女で組んでおり、声を張っているのは男の方だ。女、というより女の子の方は、男とは対照的に小さな声で呟く。
「……ライフセーバーって何?……宇宙の騎士が持ってるやつ?」
「い、いや、それはライトの方だけど…まぁある意味彼らもライフセーバーかな?」
2人は漫才をしながら近づいてくるが、名乗った方がいいのだろうか。午前の事があるので少し躊躇われる。
しかしそんな俺の葛藤は、イチトの発言により掻き消された。
「よう、フタバ。」
「やっぱり来たね。お兄ちゃん。」
そう言って2人は笑い合う。
おいおい、こんな可愛い妹がいるなんてどこまで主人公属性が高いんだお前は。




