緑に映える赤
さてどうしたもんか。
サチが居なくなってもう30分は経つが、その間ずっと試験ポイントの獲得通知が鳴り止まない。
凡そ1分に1回のペースで通知が来る。
「なぁお2人さん、あの野郎は索敵のスキル持ってたっけか?」
どう考えてもペースがおかしい。普通に探してこんなに魔物が出てくるわけがねぇ。
「持ってないはずよ。もし試験中に生えたとしても、あいつなら私達に隠さないでしょ。」
「だねー。っていうか索敵があってもこんなペースで討伐して回るのは無理だと思う。」
だよなー。ポイント的にはザコを倒してるっぽいけど、いくらなんでも数が多過ぎる。
「……なんか、すごい無茶してたりするのかな?」
リコの表情が曇る。
自分の発言がきっかけでサチが単独行動に走ったのを気にしているのだろう。
「だとしてもリコのせいじゃないだろ。」
「うん。サチだってレベル6になってたし、そんなに心配しなくても大丈夫だと思うしね。」
「……うん。無事だといいんだけど。」
リコって、サチがいないと結構素直だな。
「とりあえずさ、この後どうやってポイント稼いでくか決めとこうぜ。」
「って言ってもほぼ決まってるでしょ?」
ああ、カナデの言うように決まっている。
「まぁ、やっぱりザコ狩りだよなー。」
Dランクがみんなフォレストライノくらいの強さなら、それを倒して20点は効率が悪過ぎる。
極力Eランクを狩っていき、Fランクは見かけたら処理するというのが一番効率的だろう。
「なんだか不服そうね。」
「うーん。まぁ……な。」
試験はあくまで試験だ。ギルドの任務でも無いのだから、そこまで無理をしても仕方ないだろう。
けどそれではあまりにも……面白くない。
「ボスを倒したい、とか言うんでしょ?」
「反対か?」
試験に受かるだけなら、おそらく必要のない事だ。1位を取るためにもザコ狩りの方が可能性が高い気がする。
「いえ、アリだと思うわ。」
「私もー。」
「お?意外とノリ気?」
うちの女子達は好戦的?
「ノリ気ってわけじゃないんだけどね。ちょっとした仮説っていうか……。」
「あ、リコも同じ事考えてたんだ?」
ん?どういう事だ?
「んとね。…この島って、あまりにも魔物が多過ぎる気がするのよ。」
リコとカナデの仮説はこうだ。
この島には魔物が多過ぎる。50人の人間が狩り続けても、一向に遭遇率が変わらないのだ。
であるならば、倒しても倒しても再出現していると考えるのが妥当ではないだろうか。つまり…
「つまりこの島は【ダンジョン】だって言いたいのか?」
ダンジョン。
現界と異界を繋ぐ場所。
異界ゲートというのは、魔力の溜まりやすい場所や、時間的特異点に生まれやすいと言われる。
そして、生まれたその場所を一種の異界に変えてしまうのだ。
これは、ゲートの自衛機能と言われているが、詳しい事は分かっていない。
ダンジョンというのは要するに、異界ゲートの作り上げた、異界の1つだ。
異界ゲートを挟んで2つの世界に擬似的な異界を作る。故にダンジョンを攻略する事は、新たな異界との交流を生み出す事に繋がる為、ギルドの主な仕事の1つとなっている。
ダンジョンを生まないタイプの異界ゲートも多くあるが、そうしたゲートは大抵1人通ったら閉じてしまったり、短期間だけそこに存在したりするので、あまり重要視されない。
「だからあくまで仮説よ。」
「…でも、ダンジョンだとしたらサチの無双ぶりにも説明がつくでしょ?」
「……モンスターハウスか。」
魔物の大量発生したエリアをそう呼ぶ。
なるほど、たしかに納得できる。
「そして仮にダンジョンなら、ボスもまた再出現すると。」
「そういう事。もしも200点のボスを周回出来れば、1位も夢じゃないでしょ?」
今の1位は、235点だ。
対してオレたちはカナデが1番高いけど、それでも78点。サチの活躍でかなり差は縮まったが、それでもまだなかなかの開きだ。
「1度倒すだけでも相当優位に立てるが、周回出来ればダントツで勝てるな。」
それならば、討伐に時間が掛かろうとボスを狙った方がいい。そっちの方が面白そうだし。
「イチトいい顔してるわねー。」
自分でもにやけてるのが分かる。
「だろ?…けどそれサチの前で言うなよ。アイツ頭良いけどリコが絡むとバカだから、変な勘違いされそう。」
「たしかにー!でもリコも私に嫉妬してたし、1回くらいはチャラになるんじゃない?」
「だ、だから嫉妬なんかしてないってば!」
なるほど、サチが可愛いって言っていたのはこの表情か。たしかに可愛いな。タイプでは無いけど。
オレがそんな失礼な事を考えていると、木の枝を払いながらサチ?が現れた。
「ただいまぁ〜。はぁーもう酷い目にあったよ。」
サチ?はたった30分の間に別の生き物に変わっていた。
「「キャアッー!!」」
「!?どうした!何かあったか!?」
いやいやお前だよ。
「止まれサチ。今のお前は『赤い死神』だ。」
おっと、オレも動揺している様だ。つい変な2つ名をつけてしまった。
「ん?……ああ、返り血か。狩りに夢中で気が付かなかった。」
いやもう返り血とかそういうレベルでは無い。肉片やら臓物やらが至る所に引っ付いている。青々と茂る木々をバックにしているせいで、赤黒い全身が余計に際立ってしまっている。
「あはは。ごめんカナデ〜。綺麗にして〜。」
「わ、わかったから、そのまま止まってて!近づかないで!!…あと笑わないで!」
カナデがものすごい勢いで『浄化水』を放つ。流石にオレも、この状態のサチはあまり見ていたくない。夢に出そうだ。




