ゴリラとメガネと森
より強い魔物を求めて森の奥へと進んでいく俺達。陣形は当初決めた形に戻していた。
「なーなー、さっきのレベルの話だけどさー。」
ただ歩くのも退屈なので、少し気になっていた話を振ってみる。
「何かねサチくん。」
「能力値って、レベルが1上がる毎にどれくらい上がるのが普通なんだ?」
「ちゃんと体鍛えたり勉強したりしてるヤツなら、大体5ずつ上がっていくみたいだな。オレもそんな感じだけど、たまに10上がる能力もあって、オレはそれを一段飛びとか呼んでる。」
それでいくと俺は何段飛びになるのだろう。今までにやってきたトレーニングや超再生による成長値が、レベルアップによる上限解放で爆発した感じかな。
その割には見た目は大して変わっていないけどなー。
イチトに続いてカナデが他にも色々と教えてくれた。
レベルが上がったタイミングで能力値が上がるというのは、成長限界まで鍛錬なり学習なりをしていなければ起こらない現象らしい。一般的には、レベルが上がってからの修練で能力値を上げていくのだという。
また見た目の変化などは、本人の希望に依存するという説があるそうだ。ゴリゴリのマッチョになりたい人もいれば、細身で剛力というのに憧れる人もいる。
単に鍛え方次第な気もするが、それだけでは説明出来ない様な現象が起きるのもまた事実だ。
「そうか、ありがと。また気になる事があれば教えてくれ。」
さて、俺の疑問にも回答が出たし、探索に集中しよう。
カナデが言うには、このまま1km程進むと魔物の層が変わるそうだが、今のところ特に変化は感じられない。ある一定のエリアから急激に生体が変わるなんて事があるのだろうか。
それではまるで……
「おいカナデ!ちょっと先の方から生き物の気配がするんだが、索敵に何か引っかかってるか?」
と、俺が思案に耽っているところにイチトが声を上げた。どうやら何かを感じた様だが、問われたカナデは首を横に振る。
「ううん。700mくらい先に中型の魔物がいるけど、それの事じゃないよね?」
「いや、もっと近い。しかも近づいて来てるな。」
カナデの索敵に引っかからない以上、イチトの気のせいという可能性もあるが、念のため何かがいると仮定して行動した方が良いだろう。
「よし、一応隠れておこう。イチト、気配はどっちから感じる?」
イチトの指し示した方向から死角になる位置に、大きな倒木がある。俺達はその影に隠れ、息を潜めておく事にした。
「索敵にかからないヤツなんているのか?……まさか幽霊とか?」
「怖い事言わないでよー。そんなんじゃなくても、魔物以外なら索敵には引っかからないよ。」
なんと、それは知らなんだ。索敵というくらいだから、敵にしか反応しないのか。人類の敵、つまり魔物という事だな。
現実には、『人こそが人の敵』という事も多い様な気もするが、人の気配を察知する為にはまた別のスキルが必要という事か。
「だったら多分、イチトの感じた気配は……」
俺が声を潜めながら会話を引き継いだところで、正解が目の前に現れた。
「ギルドの試験って楽勝だね。」
「だなー。もうちょい歯ごたえ有ると思ってたからなんか拍子抜けだわ。」
やはり気配の主は俺達と同じ受験生だった。島自体は相当広そうだが、中心に向かうほど他の受験生に出会う確率が上がるのは当然だ。
「どうするよ?オレは野郎を覗く趣味なんてないんだが…」
「俺もだ。…とりあえず声かけてみるか。」
俺達の前に現れたのは2人。どちらも男で、片方は190cmはあろうかという巨漢、筋骨隆々という表現が似合う威容だ。もう片方はメガネをした優男で、身長は180cmほどだろうか。
俺達が倒木の陰から姿を見せると、一瞬警戒した様な顔になったが、すぐに表情を弛緩させた。
「よう。」
イチトお前……挨拶下手か。
「よ、よう。なんか用かよ?」
ほら冷たい対応された。第一印象って肝心よ?
「いやぁコイツ無愛想でごめんな。俺は桐崎、コイツは来道だ。後ろの2人は神楽と唄方な。」
男2人は俺とイチトを訝しげに見た後、リコとカナデを見てニヤついた。話しかけてるのはこっちなんだが。
「ん?来道ってもしかしてランキング2の奴か?130点も持ってる奴が何でこんなトコにいるんだ?」
「あー、そっちは違う。オレはイチトだ。」
イチトはそう言いながら空中に『一刀』と書いて見せる。
「ぷっ!…んだよ、ワースト2位じゃねぇか!お前どうやったら−12点なんて残念な数字叩き出せるんだ?」
大男の方が、ガリバーでランキングを確認しながら嘲笑する。
「そんで、隣の桐崎とやらは−25点か!お前ら2人揃って何しに試験に乗り込んで来たんだ?思い出作りか?」
「あはは!残念ながら試験に落ちたら記憶消されるんだよ?試験官の説明聞いてなかったの?」
コイツら腹立つな。不用意に名前を名乗ったのは失敗だったか?……いや、コイツらが特別嫌な奴らだっただけだろう。
「あんたらさぁ〜…」
すると後ろからリコが進み出てきた。
「ちょ〜っと言いすぎじゃないかなー?」
カナデも続いてフォローしてくれる。
「君達は……カナデちゃんとリコちゃんだね!」
メガネ野郎はランキングで名前を見つけ、下の名前で2人を呼ぶ。
「2人とも優しいねぇ〜。……でもダメな男に付き合ってたら後悔する事になるよ?ダメな奴にはちゃんと現実を教えてあげないとさ!」
「だな!リコとカナデは30点以上取れてるじゃん!そんな奴ら放っといて俺らと来いよ。俺は郷田、コイツは工藤だ。ランキング見てみろ、どっちも既に50点以上取ってるぜ?」
こっちは呼び捨てか。うん、これはアレだな。アレしよう。
「よし!殺そう!」と俺が宣言する前に、リコがさらに1歩進み出た。
まさかコイツらと行く気になったのか?などと疑いはしない。現状は確かに負けているが、最終的には圧勝出来るだけの実力差はあるはずだ。リコはそれが分からないようなバカじゃない。俺から見てもコイツらはザコだ。人を見る目は俺なんかよりよっぽど優れているであろうリコが、そんな判断違いをするとは思えない。
「……ステータス見せてくれる?」
ほう。それは見てみたいな。立ち振る舞いや、こっちを威圧してきた時に感じた魔力から言って、大した実力はなさそうだが、数字で見るとどんなもんなのかは気になる。
「おう!しっかり見ろよ?」
「うん!僕のも見てみて!」
「「……………。」」
男達のステータスを見て、リコとカナデの表情が固まる。
「はっはっは!どうよ!?俺のSTRは75だ!レベル7でこの数字は中々のもんだろ?」
「ふふ!僕のINTも凄いでしょ?レベル7で80だよ?」
大男の先天スキルは『筋力増強』、メガネの先天スキルは『治癒力上昇』と出ている。どちらもバフ系で便利そうだ。
「あんたらよくそんな実力で人の事見下せるわね。」
「えーっと、サチはレベル5だけどSTRは115だし、INTは100だよ?」
「「は?」」
男達の声が重なる。
ちなみにイチトはレベル8で、STRもINTもコイツらより上だ。
「いやいや、そんなわけないでしょう!どう見ても僕より頭悪そうじゃん!」
「嘘はいけねぇぜお2人さん。そんなヒョロイ奴らが俺より力があるってのか?」
能力値って不思議だよねー。俺らの知っている程度の物理法則なんて平気で踏み倒してくるからな。
見掛け倒しの筋肉をいくら付けても、それがそのままSTRに反映されるわけではない。能力値を上げる為には、その質こそが大事なのだ。肉体と共に精神体を鍛える事で能力値が上がる、とか異界の学者さんが言っていたな。
「信じなくてもいいけどね。とりあえず私達はこいつらと行くわ。……なんかあんたら視線が気持ち悪いし。」
「だねぇ〜。一緒に野営とか出来ないタイプかな。」
「っ!!このっ!黙って聞いてりゃ…」
男達はみるみる内に顔を赤くし、大男の方がリコとカナデに掴みかかろうとした。俺とイチトが彼女達の前に躍り出ると、大男はギリギリで踏み止まる。
「ちょ!郷田!さすがに手を出すのはマズイって!」
「!!……チッ!…クソが。」
試験官に見られている事を思い出した様だ。大男は、メガネを引き連れて森の奥へと消えていった。
去り際に「続きは試験が終わったらな。」と言い残して行ったが、そんなライバル感を出されても困る。こっちは既にお前らの名前も忘れているのに。




