小休止
「……ふぅ。」
カナデに全身を洗浄してもらい、非常にスッキリした。おかげでびしょ濡れだが、狼の血と油に塗れている状態に比べれば遥かにマシだろう。
「おいおいサチよ、賢者タイム突入か?」
「まぁスッキリ度合いで言えば近いものがあるな。」
「さいてー。また減点になるわよ?」
そう言ってリコが睨んで来るが、その顔は僅かに赤くなっている。なるほど、世の中からセクハラが無くならないワケだ。
「照れてる顔も可愛いなー。」
「サチー、声に出てるよー。」
カナデに言われてハッとするが、リコは聞こえないフリをしてくれている。
「ねぇ、ただ休憩するのもアレだし、ステータスとポイントの確認でもしときましょ?」
「だな。オレも1つレベル上がったし。」
俺達は各々ガリバーを開いて確認する。
まずはステータスだな。変化が分かりやすい様に、最後に確認した時の数値を載せてみよう。ログを確認すると、最終確認日時が『1007年08月16日05時15分』と出ているのでこれを反映させる。
名前―桐崎 幸
年齢―17歳
種族―未設定
レベル―1→5
職業―未設定
所属―未設定
先天スキル―不死
後天スキル―苦痛耐性Lv.6 思考加速Lv.2 速読Lv.3
魔法―未習得
能力値―MP 50/50
STR 50→115
DEX 35→45
VIT 40→120
AGI 55→150
INT 100
MND 550
LUK 5
なんだか馬鹿みたいに伸びたな。レベルの恩恵ってこんなにエゲツないのか。
ポイントは……−25か。元々の負債がデカすぎるな。まぁまだ8時過ぎだ。めげずに頑張ろう。
それよりも先ずはレベルについて聞いてみよう。
「なぁイチトー。レベルが5になって能力値が上がったんだけどさ。こんなに上がるもんなのか?」
俺はそう言いながらステータスを公開設定にする。
「あん?……なんだこれ?」
イチトの表情が歪む。つられてリコとカナデも俺のステータスを覗き込んだ。
「これは……。」
「上がりすぎね。」
やっぱり上がりすぎているのか。
「確かにすげー上がってるけどそんな不安そうな顔する程じゃねーよ。」
「あ、そうなの?許せる範囲?」
「誰に許しを請うのか知らんけど、まぁそうだな。オレがレベル5の時より能力値が高いのが気に入らねーけど。」
おお、そうなのか。実は俺って天才さん?なんて自惚れはせず、ひたすら仕組みが気になった。
「そもそもレベルアップって何?」
「あんたそんな事も知らずにギルドの試験受けに来たの?」
リコは呆れた表情を作りながらも、レベルアップの恩恵について説明してくれた。
彼女曰く、 レベルとはその者の上限を引き上げるモノらしい。謂わば成長限界の様なものだ。
レベルが高ければ高いだけ、訓練などの成果が身につき易くなり、結果的に能力値を引き上げるのだという。
なので、ただパーティーに寄生して努力を怠る者は、いくらレベルが上がろうと大して強くはならないのだ。
「ん?でも俺、イチト程訓練とかしてきてないと思うぞ?」
「まじで?んー、だとすると………アレだな。」
「アレね。」
「アレだねー。」
どれだ!?
……いやまぁ、俺の特徴なんて1つしかないか。
「……不死か?」
「だな。…おそらく、死んで再生する時に、より丈夫な体に作り替えているんだろ。」
筋肉痛が治る時と同じ感じか。体はそれで良いが、精神系の能力値はどうなのだろう。MNDなんかレベル1の時からバカ高いんだが。
「精神系に関しても本来同じはずよ。それでもこんな数値なのは、上限が壊れるくらいの何かがあったって事ね。……例えばそう、死ぬくらい怖い思いをしたらMNDなんかは上がりそうね。」
確かにあの時の恐怖に比べれば大抵の事には耐えられそうな気がするな。ビルの屋上から紐なしバンジーをした時なんか、地面がぐんぐん近づいて来て思わず泣いた。思考加速が生えたのもその時だ。
「んー、なんかズルしてる様な気になるな。」
他の人達が必死に修練を積んで能力値を上げている中、ただ死ぬだけで強くなるなんてズル過ぎるだろう。
「おいおい、オレが気にいらねーって言ったのは同レベルの時の数値で負けた事に対してだぜ?スキルの恩恵をズルなんて思いやしねぇよ。」
「そうね。仮に私にそんなスキルが有っても、死のうとは思わないしね。」
「確かにねー。強くなる為でも、死にたくはないなー。」
別に俺も死にたくて死んだわけでは無いのだが。あくまで実験の為だ。
しかし、強くなると分かると死にたくはなるな。この考えは皆同じかと思ったが、特殊な考えなのか?
「まぁ考えは人それぞれって事だな。ズルだと思われないなら思う存分死ねるし、それが分かってよかったよ。」
「こえーよ!……いや、コイツそもそもイカレてるんだったか。今更だな。」
失礼な。イチトのイカレ度合いもなかなかのモノだろう。
「ところで皆ポイントはどんな感じ?」
今日の予定を考えるにあたって、現状の把握は必須だろう。別にランキングを見てもいいが、何となく1日の終わりにとっておきたいな。最後のお楽しみ的な感じで。
それぞれに確認してみると、イチトは−12、カナデは37、リコは35だった。
「出だしとしては悪くないな。けど、これだけ余裕で戦えるなら、もう少し強い魔物も狩っていこうか。パーティーとしての戦闘もやってみたいし。」
「そうだねー。私の索敵もLv.2に上がったから、いくらでも探せちゃうよー!」
気合い充分なカナデに索敵を任せ、俺達は森の奥へと進む。
そして俺は思い知った。
索敵は決して、全てを見通せるわけでは無いのだと。




