初めての魔物狩り
森に入って10分。
先頭にイチト、その後ろにリコ、さらに後ろに俺とカナデという順番で歩いている。
イチトはナイフを両手にそれぞれ持っており、1つは自分のでもう1つはカナデのだ。ではカナデは素手なのかというとそうではなく、木の槍を持っていた。
昨夜カナデがナイフを使って作り上げたものだ。鑑定で丈夫な木を選んで、丁寧に削り出していた。カナデって優秀だよな。このパーティーのキモかも知れない。
「……そろそろ出くわすはずよ。イチト気をつけてー!」
カナデが注意を促す。そこから数分、木々の間から大型の鼠が現れた。
「うお!デカイな!1メートルくらいあるんじゃないか?」
イチトが驚きの声を上げる。確かにこれはデカイな。
「イチトー!やれそうかー?」
「よゆー!!」
そう答えたイチトは、なんとも軽い足取りで大鼠に近づくと、右手のナイフで頭部を一突き。
あまりに自然な動作で行われた一連の動きに、一瞬頭がついて行かなかったが、どうやらこのパーティーの初戦闘は終わったらしい。凡そ戦闘とは呼べないモノだったが、楽に終わったならそれで良いか。
《レベルが1上がりました。現在のレベルは2です。》
《試験ポイントが1加点されました。》
音量をいじったおかげで、今度はガリバーのアナウンスが聞こえた。自分のもの以外は内容までは聞き取れなかったが、他の3人も通知があったようだ。
「カナデ。魔石の場所わかるか?」
「えっと……鑑定だと、心臓の近くって出てるね。ちなみに『フォレストマウス』っていう魔獣みたい。ランクはFね。」
魔獣や魔人、総じて魔物と呼ばれる者には、体のどこかに【魔石】という物が存在する。この魔石は、魔法界と呼ばれる異界では、電力の代わりや魔道具に使われていて、限界においては魔道具にのみ使われている。あくまで俺の知る限りではという注釈が付くが。
魔石の大きさ及び出力出来る魔力量は、魔物によって異なり、魔石の質が高い者ほど強力な個体になる。そしてその強弱に応じて、【ランク】というモノを設けており、このランクを知る事で自分に対処出来る相手なのかを測ることが出来るのだ。
ちなみにこのフォレストマウスのランクFというのは最低ランクだ。一般人でも武器さえ有れば倒せるレベルだろう。もちろんケガなどのリスクは負うことになるだろうが。
「んと……あった!Fだとやっぱちっさいな。」
「あーもー、血やら油やらで酷い事になってるよー。魔石持ったままでいいから手出して。」
そう言ってカナデは『浄化水』という魔法を唱えた。すると、僅かに発光する水がイチトの両手を包み込み、瞬く間に汚れを落として見せた。
「お!さんきゅー!やっぱ水魔法って便利だな。」
水魔法は汎用性が高い魔法だ。その代わりに、攻撃力を持たせるのに苦労するらしいが、カナデの場合Lv.4なので戦闘にも充分使えるだろう。
「しかしFだと1点か。おそらく全部で5点なんだろうけど、人数割した時の端数は切り捨てになるんだな。」
「いや、オレには2点入ったから端数はラストキル取ったヤツが貰えるんじゃないか?もしくは戦闘時の貢献度か。」
なるほど。だとすればこの戦闘の場合、端数が入るのはイチト以外にはあり得ないだろう。イチトしか戦っていないもの。
「とりあえず魔石はオレのストレージに入れておくぞー?後で山分けな。」
魔石はギルドで買い取ってもらえるらしいが、お金が絡むだけにトラブルの原因になりやすいそうだ。この場合も、どう考えてもイチトが貰うべきだと思うしな。けれど、そういう個人的な感情を持ち出さないのがトラブルを避けるコツだと本に書いてあった。なので、山分けと決めたら山分けにするべきなのだ。
その後も俺たちは、カナデの探知を頼りに森を進む。最初にフォレストマウスに出会った場所を過ぎると、かなりの頻度で魔物に出会った。
蜘蛛、スライム、蟷螂、狼と、色んな種類の魔物がいたが、狼以外は皆Fランクだった。狼、フォレストウルフはEランクだっが、他の魔物と同様にイチトが一撃で屠った。
倒した魔物は、放置して行くのもマズイので、全てストレージに入れておいた。魔石と同様に、魔物の各部位も需要があるので、ギルドで買い取ってもらえるはずだ。まぁそれもこの試験をクリア出来ればだが。
どうせ魔物を丸々収納するなら、魔石を穿り出す必要もないと気が付いたので、最初のフォレストマウス以外は、倒して即収納という事にした。
「しかしアレだな。全てイチトが一撃で仕留めちゃうから陣形の意味がまるで無いな。」
「まぁここら辺のはザコ中のザコだからな。」
「だとしても大したもんだ。けどこのまま奥に進むのはちょっと怖いな。……前衛をローテーションで担当して、少し魔物と戦うのに慣れておこうか。」
「それが良いわね。私からやっていい?」
リコが進み出て、皆に問いかける。
「おっけー。ここから30メートルくらい先に弱そうなのがいるからやっちゃってー!」
その後、リコが前衛で3回、カナデが前衛で4回戦闘を行った。リコは火属性の初級魔法『火球』で、カナデは自作の木の槍で戦ったが、どちらも呆気なく倒していた。
「ふぅ。……それじゃあ次はいよいよリーダーの出番だねー。」
「やばい。緊張してきた。」
3人ともあっさりと倒してくれたので、俺もやれる気にはなっているのだが、なにせ未経験の事だ。やはり緊張はする。
皆のおかげでレベルは4まで上がったが、こんなにサクサク上がるのは最初だけなんだろうな。
「ちなみに次は何が出てきそう?」
「んーと、この感じだと多分フォレストウルフかな?50メートルくらい先に2匹いるよー。」
フォレストウルフか。リコとカナデが前衛を務めた時には登場しなかった魔物だ。一応イチトが倒すところは見たが、その時は単独で現れた。2匹となると連携を取ってくる可能性もある。不安だ。
「Eランクが2匹か。どうする?援護するか?」
「うーん……いや。心配だけど、1人でやってみる。」
「そうか。一応後ろに控えといてやるから、頑張って来い。」
「おう。もし俺が踊り食いされたら目を背けてくれ。」
死ぬ事は無いが、女の子達にグロい姿を見せるわけにはいかない。用心しなければ。
俺はナイフを構えたまま、カナデの示した方に歩いて行く。少し離れて皆も着いて来ているが、出来れば自分だけで処理したいな。
これから森の奥に進んで、より得点の高い魔物を狩りに行かなければならないのだ。1人だけ足手まといでは、なんとも格好が悪い。
そんな事を考えながら進んで行くと、ガサガサッ!と音を立て、前方の茂みが揺れる。
「……間近で見ると顔こえーな。」
現れたのはカナデの探知した通り、フォレストウルフだった。しかし、出て来たのは1匹だけだ。もう1匹は何処かに潜んでこちらの隙を窺っているのだろう。
こういう時は先手必勝だな。変に警戒していても返って逆効果だ。不意打ちを受けようが関係ない、最初の1匹に集中してしまえばいい。
「よし……行くぞ!」
俺はナイフを両手で持ち、勢いよく駆け出した。思考加速のスキルが発動するのを感じる。
フォレストウルフが大口を開け、こちらに飛びかかって来た。俺は、飛び上がったフォレストウルフの下にスライディングをして潜り込み、そのがら空きの腹にナイフを突き刺した。
俺に覆い被さる様にして暴れるフォレストウルフ。その動きに連動する様に、ナイフの突き刺さった腹から大量の血が溢れだした。
どばどばと流れる血を浴びながら周囲を見渡すと、もう1匹のフォレストウルフが木の陰から飛び出して来るのが見えた。
俺は、未だ暴れ続けるフォレストウルフに足をかけ、巴投げの要領で思い切り投げ飛ばした。
勢いよく飛んだフォレストウルフは、もう1匹に激突し、結果2匹共身動きが取れなくなった様だ。
俺は素早く立ち上がると、後から来た方のフォレストウルフの頭部にナイフを突き立てる。そうしている間に、もう1匹のフォレストウルフも出血多量により絶命した。
《レベルが1上がりました。現在のレベルは5です。》
《試験ポイントが3加点されました。》
「……ふぅ。…なんとかなったな。」
思っていたより体が動いた。緊張していたし、もう少し硬い動きになるかと思ったが、思考加速の恩恵だろうか。案外なんとかなるものだ。
戦闘の余韻に浸っていると、リコ達が近づいて来た。
「いやいや、全身血だらけじゃないの。あんた顔に似合わず血生臭い戦い方するのね。」
血生臭い戦い方ってどんなだ?…まぁなんとなく意味は伝わるが。
「いやー、俺も皆みたいにスマートに戦いたかったんだけどね。身の丈に合わない戦い方しても仕方ないし、そういうのはもう少しレベルが上がってからかな。」
「それもそうね。ナイフで戦って返り血浴びない方が異常だし。」
「今オレの事異常っていった?」
初めての戦闘はなんとかなった。後はパーティー戦を試してみたいが、これはもう少し強い魔物が相手じゃないと出来ないな。
一先ずは、カナデに洗浄してもらってから休憩しよう。体はともかく精神的には疲れたからな。




