2日目スタート
「…ああ、久しぶりに日の出見たなー。」
時計を見ると今は5時を少し回ったところ。見張りを交代して3時間が経過した。
ただ起きているだけというのは結構暇だ。俺は、時々焚き火を確認したり、筋トレをしたりして過ごした。なにせSTR45だからな。
ただ俺は筋トレというものを続けられた事がない。続けられないというのは、回数ではなく期間の話だが。
当然俺も男の子なので、中学生の頃細マッチョに憧れてトレーニングをしてみた事はある。だがその時には既にスキルを得ていて、クラスメイトなんかが話していたような『筋肉痛』や『適度な疲労』という感覚がまるで無かったのだ。
スキルを得る前の少年時代には、バカみたいに走り回って息を荒くしたり、重いものを運んだ後は体が痛くなったりもした。だから余計に感じるのかもしれない。強烈な違和感を。
いくら走り回っても息切れ1つしないし、腕立て伏せも500回まで数えて飽きた。1ヶ月間眠らずにいる事も出来るし、食事に関しても同様だ。
正直自分でも気味が悪いと思った。ただ、そう思い始めた頃、睡眠や食事は普通の人の様にも行える様になった。
恐らく、肉体ではなく精神を最良の状態に保つ為の措置なのだと思う。なんとも便利なスキルだ。
とはいえやはり筋トレや走り込みはつまらないままだった。どうしても、苦痛と感じてしまう様な行為は、不死のスキルが働いてしまうのだろう。
かといってやる意味が無いのかと言うとそうではない。今までは成果が分かりずらく、不貞腐れてやらなかったが、ガリバーを得たのを機に、とりあえず見張りをやっている間、焚き火の確認をする時以外は延々と腕立て伏せをやってみたのだ。
するとどうだろう。STRが45から50に上がったのだ。
いくらなんでもすんなり上がりすぎだろうと思ったが、筋肉の破壊と再生が高速で行われているわけだから、トレーニングとしての効率はすこぶる良いのかもしれない。こんな事ならもっと早くやっておくんだった。
そうすれば、男のくせにSTR45などという残念な数値は晒さずに済んだだろうに。
しかし不死でも、長い間鍛えなければ筋力は衰えるのだろうか。……衰えるんだろうなー。一応スキルを得てすぐの頃に、実験として筋トレも走り込みもやっていたのだ。それでもこの程度の能力値という事は、実際に衰えているのだろう。
もしくは、元々の能力値が低すぎるというパターンもあるのだろうが、それはなんか嫌だ。
とにかく、鍛えればちゃんと身につくと証明出来たのだからちゃんとやらなければ。
疲労が無いと延々と出来てしまうから、これはこれで苦痛なのだが、それを言うのは贅沢というものだろう。俺は恐らく、体を鍛える事に関しては相当恵まれているのだから。
「……ん……うー?」
「…あ、起きた?」
日の出を見ながら腕立て伏せを続けていると、カナデの側で寝ていたリコが1番最初に起きた。
「……………あぁ。…本試験か。」
リコは周りを見渡し、ボーッとした表情で呟く。自分の家以外で寝ると、起きた直後にどこにいるのか分からなくなる事ってあるよな。
「おはようリコ。」
「…ん。おはよ…。……今何時?」
「まだ5時半。6時になったら他の2人も起こそう。」
俺は声のトーンを抑えて答えるが、それでも話し声が気になったのだろうか、カナデが身じろぎした後ゆっくりと起きる。
「……ふぁ〜。…2人ともおはよー。」
「おはようカナデ。」
「おはよ。昨日は激しかったね。」
「…なにが!?」
俺のピロートーク的な挨拶に、カナデが鋭い返しをしてくる。もちろんいかがわしい事が起きたわけではなく、寝相の話だ。
「カナデって寝相ヤバイね。」
「ちょ!恥ずかしいからやめて!そこは見て見ぬ振りをするのがマナーってもんでしょー!」
カナデ寝起きいいな。起きてすぐとは思えない声量だ。そんな声が響いても起きないイチトは、余程深く眠っているのだろう。まぁ、眠ってから4時間も経っていないから無理も無いのかもしれないが。
「さて、イチトが起きる前に朝ご飯でも準備しとこっか。」
「あ、それなんだけどさ。ガリバーのストレージ見てみて。」
俺はそう言いながら自分もガリバーを開く。
「何これ?支給品?」
「そーそー。イチトが言うには、日付が変わった頃に通知と一緒に送られて来たって。」
「あ、ホントだ。通知ログに残ってるね。っていうかポイントの加減もこれで見れるのね。」
言われて俺もログを見る。本当だ、ランキングの発表と同時にポイントの加減が行われた様だ。
音量が低すぎて気付かなかった様だ。俺は通知音を上げておいた。
「だな。支給品で水と携帯食料が送られて来たみたいだから、朝はこれで済ませよう。」
「そしたらそろそろ起こしちゃう?見張りやってくれたのに悪いけど、6時になったら活動しようって決めてたし。あ、今更だけどサチも見張りありがとね。」
「ありがとー。」
俺は「どういたしましてー。」と答えながら、イチトの体を揺らす。
「……んー?…フタバかー?」
「ぷっ!くくく…。」
おいおい笑わせんな。お前の様なアホを兄貴にした覚えはねぇ。
「お前毎日妹に起こしてもらってんの?ウケる。」
「あ?……オレなんか言ったか?」
「いや、覚えて無いならいいや。」
後で妹の方に教えてやろう。
イチトが起きたので、俺たちは携帯食料と水を摂り、さっと準備を済ませた。
「よし!それじゃあ行くか!」
「うん。行きましょ、リーダー。」
「指示出しよろしくね!リーダー!」
「リーダー、今日の目標は?」
リーダー設定まだ生きていたのか。しかも殊更強調されている気がする。まぁいいけど。
「そうだなー。期限は明日の夕方までだから、今日は焦らずにザコで様子見して、余裕がありそうなら強めの魔物も狩ってみようか。獲得ポイントの目標は、実際に戦ってみた様子で決めよう。」
「りょーかいであります!それじゃあさっそく索敵してみるねー!」
俺としてはカナデあたりがリーダーをやった方がいい気がするが、それはそれで益々俺がいらなくなりそうなので黙っておく事にした。
「サチ、あっちの方に魔物の気配がするよー。」
「了解。それじゃ皆、改めてよろしくな。無茶はせずに冒険をしよう。」
「「「らじゃー!」」」
俺たちは森に踏み入る。初めての実戦に緊張はするが、このメンバーが一緒なら大丈夫だろう。
……とりあえず死にはしないし。




