ランキング
イチトとカナデは、焚き火から少し離れた所に座っていたが、今夜は月が出ているのでそれなりに明るかった。
そんな中2人は、ガリバーの画面を覗き込んでいる。
「で?なんだよ面白い物って。」
「いや、なんでそんな鬼の様な形相を…」
おっと。顔に出ていたらしい。リコタイムを邪魔されたらそれも仕方がない。
「イチト空気読みなー。……いや今ね、ガリバー開いて見たらさ、未開堂さんの言ってたランキングが出てたの。」
「あ、それ見たい!」
そう言ってリコはカナデのガリバーを覗き込む。俺もつられて、自分のガリバーを開いてみた。
「って言っても俺ら魔物倒してないからなー。どうせ0点……あ、第1ステージの加点があったか。」
ギルド本試験ポイント獲得ランキング
1位―星宮 光 …85点
2位―来道 双刃…73点
3位―伊形 造里…27点
3位―三日咲 桜…27点
5位―神宮寺 新…25点
5位―菊谷 麗華…25点
5位―金堂 鷹見…25点
8位―勅使河原 岸弥…22点
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35位―唄方 奏…7点
35位―神楽 凛御…7点
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49位―桐崎 幸…−20点
50位―来道 一刀−50点
「マイナス!?そんな事あんの!?」
「な?面白いもんあったろ?」
なんなんだいったい……マイナス20点だと?第1ステージでの加点は間違いなく俺が1番多かったはずだ。
いやまぁ、分かっているんだけどな。飛行機の中のアレだろ?未開堂試験官もハッキリと「減点」って言っていたし。……にしてもまさかここまでガッツリ削られるとはな。
「はぁ……あの巨乳ここまでやるかね。」
「あ、今また減った。」
「うそん!?」
カナデの言葉でガリバーに目を落とすと、俺のポイントが『−45点』に変わっている。
「陰口一発で25点持っていかれるのか!こわ!!」
「サチ、イチト、短い付き合いだったわね。」
「2人の事は忘れないよー。」
こっちは試験に落ちたら記憶消されるんだが。女の子って残酷だな。
「はっはっは!サチ、もうちょいでオレに並ぶな!−5点くらいの軽めの陰口言ってみろよ?」
「いや、なんでお前そんなに余裕なわけ?これ下手すりゃ歴代最低得点だぞ?」
イチトは「よゆーよゆー。」と言いながらゲラゲラ笑っている。
「こりゃ明日からは死ぬ気でやらないとなー。最低でも50点には持っていかないと。」
「おいおいサチよぉー。小さい事言ってんなよな。男なら1位目指そうぜ!」
「俺より低い点数のヤツに言われたくねー!」
「5点なんて誤差だろ。」
その誤差にすら縋り付きたいくらいの得点なんだが。
「ねぇアホ2人。これ見てよ。」
リコに呼ばれてイチトと俺もカナデのガリバーを覗き込む。ランキング画面を見てみると、1位と2位の猛者2人の得点が増えているのが分かる。
「マジか。こいつらこんな時間にまだ狩りやってるのか?」
時刻は21時を過ぎたところ。当然の如く森は真っ暗だ。こんな中で狩りが出来るのか?
「夜目とか感知とかのスキル持ちなんじゃないかなー?……それよりイチト、この2位の人ってもしかして身内だったりする?」
あー、それは気になったな。それ以上に気になってしまう現実に目がいってしまったが。
「ああ、それ妹。」
「妹!?」
「そーそー。双刃って名前でな。兄貴の俺が言うのもなんだけど、天才なんだ。」
来道双刃のポイントはすでに80点を超えている。兄がダメすぎる気もするが、その差は130点以上だ。なんだろうこれは。遺伝子の暴走だろうか。
「いや、何を呑気に言ってんのよ。妹と凄い差じゃない。」
「だって最終的には俺らのパーティーが1位を取るだろ?だったら今の点差なんて関係ねぇじゃん。」
そう言ったイチトの顔は、何一つ疑いの無い確信を持った表情だった。
だが…
「仮にパーティーで1位を取るくらいポイント稼いでも、俺とイチトは置き去りになる可能性大だけどな。」
なにせ他の追随を許さないレベルで負債を抱えているのだ。
「要はオレら以外のヤツに50点以上の差を付けて圧勝すりゃいいんだろ?そしたらパーティーで1位、オレ個人では4位だ。上々じゃんか。」
楽観的だなー。魔眼で未来視が出来るわけでもないのに。
「なんならリコに視てもらったらいいんじゃん?」
「無理よ。2日後なんて到底視えないわ。」
「あ、そうなの?てっきり何日も先まで視えるのかと。」
カナデの言葉にリコは首を振りながら答える。
「先の方まで視える時は、何か大きな出来事が起こる時だけね。私の人生を左右する様な出来事っていうのが正確かな?それも寝てる時にしか視れないからコントロール出来ないの。自分の意思で使う時はせいぜい数分先を視るのが限界。もっと魔眼を使いこなせる様になれば分からないけどね。」
そんなに上手くはいかないか。いや、仮に試験結果を視る事が出来てもやらない方がいいだろう。なんだかそれは、あまりにも味気ない。
「ちなみに今まで最高でどれくらい先まで視えたことがあるんだ?あ、答えづらい事ならいいんだけど…」
俺は興味本位で聞いてみた。
「10年後よ。今からだと5年後ね。スキルを得た時に数秒間だけ視えたの。当然その時は誰の命も吸ってなかったから、サービスみたいなものだったのかな。でも凄く幸せな未来だったわ。」
内容については教えてくれなかったが、リコはとても幸せそうな表情を浮かべていた。10年もあれば未来なんて変わってしまうのかもしれないが、俺はリコのそんな顔を見て、どうかその未来が現実になります様にと願わずにはいられなかった。
「でも一先ずは5年後よりも2日後ね。あんたらのせいでより一層頑張らないといけなくなったんだから。ここまで酷いと、私が潰した1時間なんてなかった様なものね。」
おやおや?リコの笑顔は好きだが、このニヤリとした笑みは少しイジワルしたくなるな。
「あれ?リコってば、さっきは俺たちの事見捨てる的なこと言ってなかったっけ?実は試験が終わった後も一緒に居たいって事?」
「確かに言ってたな。サチよ、これはひょっとすると脈アリかもしれないぞ?」
イチトまで乗っかってきたところで、リコの顔がみるみる赤くなっていく。
「……カナデ。こいつらは此処で殺そう。」
「それは減点になりそうだからやめとこ。」
「なら……せめて蹴り飛ばす。」
俺とイチトはリコから強烈な蹴りをもらって蹲る。まぁ俺は不死による超回復があるし、イチトも鉄壁を持っているので大したダメージでは無かっただろうが、リコに蹴術のスキルでも生えようものなら恐ろしい事になりそうだ。
そんな感じにしばらくわちゃわちゃした後、明日に備えてさっさと寝ようという事になった。寝ている間は一応見張りを立てる事にして、減点のお詫びに俺とイチトが交代で担当する事にした。
焚き火の近くで砂浜に横になる。砂を少し高くして枕がわりにしてみた。
なんかアレだな。こんな事言ってる場合じゃないんだろうけど、楽しいな。今まで歳の近い友達なんていなかったし、それどころじゃなかったしな。
「明日はもっと楽しくなるよねリコ太郎。」
「……リコならもう寝てるぞ。サチも寝ろ、4時間後に起こすから。」
リコ寝付きいいな。そんなところも可愛い。




