緩めのサバイバル
「なーなーイチトー。俺ってなんか仕切りすぎじゃね?」
「んー?別に気にならんぞー?」
俺とイチトは少し距離を開けながら薪を拾い歩く。
「そーかー?カナデはともかく、リコにウザがられてたらやだなーって思ってさー。」
「それは手遅れだ。」
人の手が入っていない森の中は、さくさくと薪が集まる。10分程で充分な量が集まった。
「…よし。こんなもんでいいだろ。おーい!イチトー!」
「おーう!今行くー!」
数十メートル先からイチトが歩いてくる。
「うっわ。すげー量だな。どんな腕力してんだよ。」
「これでも剛力持ちだからなー。一旦浜辺に戻ってこれ置いたらカナデ達に合流するか。」
イチトは両手いっぱいの薪を抱え直して歩き始め、俺もそれに着いて行く。
思いの外早く集まってしまったな。リコ達の方はまだ大して集まってないだろう。さっさと薪を置いて手伝いに行こう。
元々近場で収集していたので、薪を置いてリコ達に合流するまで10分も掛らなかった。
「おーい!カナデー!……ってそのナイフどうしたんだよ?」
イチトが元気よく声をかけると、カナデとリコがこちらを振り向く。
すると彼女達の手には大振りのナイフが握られていた。2人はそのナイフを使い、倒木からキノコを刈り取っているところだった様だ。
「イチトもサチもおつかれー。早かったね!」
「おつかれさま。このナイフはガリバーのストレージに入ってたの。試験官からの贈り物ね。」
そう言ってリコがナイフの切っ先を突きつけてくる。新手の愛情表現だろうか。愛くるしいな。
「うおっ。ホントだ!おい、サチも見てみろよ。」
言われて俺もガリバーを開いてストレージと書かれた所を見てみる。
「確かにあるな。この取り出しって書いてある所に触れればいいのか。」
取り出しの項目に触れた瞬間、目の前にナイフが出現した。
「改めてこのガリバーってめっちゃ便利だな。……ん?なぁこれってもしかしてなんだけど、収納も出来たり…」
「出来るわよ。」
「うぉい!俺らの薪運びは何だったんだ!」
結構重かったんだが。
「そんなこと言っても私達もさっき気づいたんだもん。これがあれば二手に分かれる必要なかったねーってカナデと話してたところよ。」
完全に徒労だったけど仕方ないか。ガリバーの機能をしっかり確認しなかった俺達が悪い。
「それより手伝ってよ。このキノコ手じゃなくて刃物で刈り取ると美味しく食べられるんだって。」
カナデの鑑定スキル便利だな。図鑑とか読みまくっていれば生えるのだろうか。後で聞いてみよう。
そこから俺とイチトもカナデに指示を仰ぎながらキノコを刈り取っていった。30分もするとそれなりのキノコが集まった。
「…ふぅ。…そろそろ切り上げようか。大分暗くなって来たし。」
「だね。索敵には何もかかってないけど、何があるか分かんないし。視界が確保できるうちに戻っておこう。」
集めた大量のキノコと少量の木の実をストレージに仕舞う。収納時はガリバーのディスプレイに触れさせるだけでいい様だ。
全て入れ終わると、ストレージ画面の右上にある表記が『96.7kg/100kg』と変わった。100kgまで入るのか。
「一応ナイフは仕舞わないで置いた方がいいかな?」
「そうだな。ストレージは便利だけど、瞬間的に取り出せる訳じゃないし。」
俺達はナイフで邪魔な枝葉を払いながら浜辺に戻った。
「それじゃあリコ、火頼めるかな?」
俺とイチトが拾ってきた薪を適当に組み、リコに声をかける。リコはオッケーと言って両手を薪にかざし、小さく呟く。
「『着火』。」
ボッ!という小さな音を立て、薪に火が焚べられる。
「ありがとー。このまま待ってれば良いのかな?風送ったりした方が良ければアホ2人に頼むけど。」
「大丈夫よ。ちゃんと乾いた木を集めてくれたから、放っておけば広がると思う。食事の準備でもしながら明日の打ち合わせをしましょ。」
なんだか当たり前の様にアホ呼ばわりされている気がするが、俺とイチトも受け入れているので何も言わない。
「おーけー。準備っつってもキノコに棒刺すだけだけどな。」
「よし!この料理は『キノコ棒』と名付けよう!ほらリコ言ってみて。…せーの、きの」
「言わないわよ!」
俺の流れる様なセクハラは拒絶された。
俺達はキノコに木の枝を刺すという単純作業を淡々とこなしながら、明日の事を話し合う。
「とりあえず前衛はイチトにお願いしたいかなー。」
「おう。ナイフしか無い今の状況だと俺が1番戦えると思うしな。」
カナデの提案にイチトが同意する。短刀術Lv.3を持っているイチトは、恐らくナイフ一本で相当戦えるだろう。
「そしたら私は中衛かな?銃なんて無いから火魔法で戦う事になるけど、森の中だと延焼が怖いから後ろからカナデに見ててもらいたい。『消火』の魔法はまだ使えないし。」
使用出来る魔法は、基本的には魔法レベルを見れば分かる。魔法レベルは、魔力の増加と術式の学習によって使える魔法が増えるにつれて上がっていくからだ。
「じゃあ私は後衛だね!消火頑張るよー!あと、簡単だけど回復魔法も使えるから、そういう意味でも後衛が良いかもね。」
武器が揃っている状況ならリコとカナデの配置は逆になるのだろうけど、現状はこれがベストな気がする。
「えーっと、アレかな。考えれば考えるほど俺って戦力外じゃないかな。」
うん。もうベストなんだもの。
この島にいる人間で、魔法が使える者は恐らく半数程度だろう。仮に25人が使えて残りの25人が使えないとする。そして、未開堂試験官は毎年2割は試験に落ちると言っていた。
本試験に進めるのは50人なので、その内40人は採用になる計算だ。そう考えると、魔法が使えない人間でも15人程は採用になるという事だ。
まぁ仮定に仮定の上塗りで何の根拠もない推論だが、それが正しければこの試験の難易度はそれ程高くないと思われる。
となると、魔法が使える上に戦闘系のスキルを有している者が3人もいるこのパーティーは、控えめに言っても余裕で合格点に届くだろう。そこに俺みたいなただ死なないだけの人間が加わる意味はあるのだろうか。むしろ邪魔では?というのが俺の考えである。
「何言ってんのよ。あんたは指令塔でしょ。」
「だな。カナデと一緒に後ろでどっしり構えて指示出してくれ。」
「よろしくね。索敵で得た情報は随時伝えるから。」
何故!?
3人とも擦り合わせ済みかの様に意見が一致している。
「一応パーティーなんだからリーダーは決めとかないと。この中で1番それが相応しいのはサチでしょ?」
「えっとぉ…それはつまり……リコは俺の事が好きって事??」
「なんでよ!?」
俺は猛烈に混乱していた。




