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異世界転移はされるもの!  作者: 二度寝
第1章 始まり始まり
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不死

 

「サチって頭に虫沸いてるの?」


「カナデちゃんひどい!!」



 俺の7回死んでる発言から、3人の罵倒が止まらない。


 魔力が足りなかったらどうするんだ、とか言われたが、既に終わった事だ。

 今更である。



「えーと、俺のスキルについてもヘルプの解説を話しとくけど、『自身を最良の状態に保つ』的な事が書いてあるのよ。まぁ自分で色々試したから、ヘルプ見るまでもなかったんだけどさ。」



 俺は弁明するかの様に説明する。


 俺はバカだが、さすがにいきなり死んでみたわけではない。


 初めは切り傷から始めた。

 家にあったカッターナイフで腕を薄っすら切ってみたのだが、うっかり切るのと自らの意思で切るのとでは痛みがまるで違う。



 正直その一回で心が折れかけた。


 しかし、切り傷が再生するのを見て感動し、何かのスイッチが入った。

 傷口に薄っすらと青い光が集まり、瞬く間に再生したのだ。

 見惚れるしかないだろう。




 そこからはもう酷かった。

 毎日毎日自傷行為を繰り返し、振り返ってみると完全に狂人としか思えない。


 行為は次第にエスカレートしていき、最後にはビルから飛び降りた。



 そうして繰り返すうちに、このスキルについて把握していった。

 失った血肉を再生する為に魔力を使っている事。


 そして、魔力すらも再生している事。


 魔力は誰でも時間と共に回復するものだが、不死による再生は一瞬だ。


 では魔力を回復する為に何を使っているのかというと、これは分からない。

 寿命とか生命力とかなら困るが、体の衰えも感じないし、怠くなったりもしない。

 一応推論の様なものはあるが、なんの根拠もないしなー。



 まぁ分からないなら仕方がないと開き直り、その後も実験を繰り返してみたが、いつかしっぺ返しを食らいそうな気がする。


 とかフラグを立ててみる。



 そんな調子で3人に説明してみるが、反応は様々だ。




「魔力まで回復するとか…チート過ぎるだろ。」


「それって一度の魔法発動に必要な魔力が足りていれば、何回でも魔法を使えるって事?」


「死なないっていうか……死んでも生き返る感じね。それならやっぱり、私は触らない方がいいんじゃ…。」



 うーん。

 そんなに難しく考えることか?


 リコのエナジードレイン的なやつは、一瞬なら寿命を吸う程度と言っていた。


 だったらおそらく…



「ちょっと失礼。」


「なっ!」



 俺はリコの手袋をサッと奪い、その手を握った。


 瞬間、俺の手から黒い光が猛烈な勢いで流れていく。

 光はリコの手から全身に広がり、数秒間俺とリコの全身は輝き続けた。


 やっぱりな。

 多少ダルさは感じるが、その程度だ。

 俺の再生速度の方が早い。



「は、離して!お願い!!…このままだと死んじゃ……う…?」



 話を聞く限り、リコに触れた人間が死ぬまで1秒から2秒程度だろう。

 しかしそんな時間はとっくに過ぎている。

 リコが突然の事に唖然としている間にな。



「……な?なんでもないだろ?」



 そこからさらに数十秒。

 リコはあっけに取られて動けずにいた。


 やがて黒い光は緩やかに消えて、俺の体のダルさも消えた。


 今の俺は、只々可愛い女の子の手を握らせて頂いているだけの幸せな男、という状態だ。



「うそ……魔眼の空腹が……消えた?」



 光が収まったのは、おそらく魔眼が満腹になったからだろう。

 これ以上、命のストックとやらを溜められないのなら、おそらくは他の人でも触る事が出来るのではないだろうか。



「今なら……魔眼を支配できる。」



 リコはそう言うと、一瞬眼を閉じて再び開ける。


 瞼の奥から覗いた瞳は、リコ本来の赤みがかった茶色ではなく、神話に描かれる女神の瞳の様な美しい金色だった。



「これで………もう誰も……。」



 リコは金色の瞳から涙を流し、砂浜に膝をついた。


 そんなリコの手を、俺と一緒にカナデが握る。



「……ホントだ!何ともないね!やっとリコと握手出来たよ。」



 不死でも無いのに凄い勇気だな。

 格好の良い女だ。



「パーティー組むのに俺だけ除け者かよ。…俺も交ぜろって。」



 イチトも交ざり、小さな円陣の様になってしまった。


 1人座り込んでしまっているので少々不恰好だが、なんだか気合は入ったな。



 俺たちはそのまま、リコが泣き止むまで手を握り続けていた。






 ―――――――――――――――――







「あ、未開堂さん。ちょっと良いですか?」



「なんだ?第2ステージが始まって大して経ってないが……」



 無数のディスプレイが並ぶ薄暗い部屋。


 ここには私を始めとした試験官が15人詰め込まれている。

 それぞれが複数のディスプレイに齧り付き、採用試験を受けている未来の同僚達を品定めしているのだ。


 そんな中、1人の試験官がヘッドホンを外しながら声をかけてきた。



「あー、いえ!トラブルではないんですが…。例のバグ持ちの少年についてです。」



「なるほど。やつか。」



 バグ持ち。


 現場の私達はそう呼んでいるが、正式名称は何だったか…。

 まぁどうせ使わん言葉だ。

 覚えても仕方あるまい。



「あれってホントどうなってるんです?ガリバーの情報も見てたんですが、ホントにバグっていう言葉がしっくりくる状態で…」



「バグ持ちの事を真面目に考え過ぎるなよ?専門の学者共だって分からない事が多すぎて発狂する奴が続出してるらしいぞ。」



 以前ギルド本部の研究室に書類を届けに行った際、あまりの惨状に圧倒された。

 書類を部屋に投げ捨て2秒で退室したのは良い思い出だ。



「で、でもあの子の魔力量がですね!最大値50なんですが、先天スキルを使っても50のままなんですよ!いや、一瞬数値が点滅するんですが、表示が切り替わる前にもう戻ってるんです!こ、こんなこと…」



「だからこそバグ持ちなんだろう。考えるだけ無駄だ。…それでもどうしても気になるというのなら後で資料をやる。だが、いずれも推論の域を出ないものだからあまり期待するなよ?」



「…ありがとうございます。気になって眠れなくなるところでしたよ…。あ、あんまり目離しちゃまずいでですね!未開堂さんも、お時間取らせてすみませんでした。」



 そう言って彼は、苦笑いしながら仕事に戻っていった。



「どうせ今夜は眠れんだろうが。」



 私の呟きは、ヘッドホンを付け直した彼には届かなかったが、彼もそんな事は百も承知の上で言ったのだろう。


 ここにいる試験官達は私が自ら選んだ者達だ。

 睡眠を取るであろう受験者達を、一晩中見張るくらいは難なく熟すだろう。


 まぁ試験は2日間あるので最後は酷い事になるだろうが、大抵は私のビンタで復活する猛者達だ。



「さぁ。今年はどんな逸材が見つかるか。」



 毎年色んな顔の見られるこの試験は、私の密かな楽しみだ。


 今年はバグ持ちもいる事だし、当たり外れの激しいバグ持ちの能力も気になる。

 当たりなら強力な戦力になるが、外れなら採用にすらならない。

 それぐらいピーキーなのだ。




「当たりだといいがな。……あの【勇者】の様に。」




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