スキル紹介、俺はもう死んでいる
「さて、みんな一通りステータスの確認は出来たかな?」
俺は3人の様子を見回してそう切りだした。
「おーけーだ。ヘルプは自分のしか見れないから、それぞれの先天スキルの情報教え合おうぜ。」
イチトの言葉に、皆それぞれのステータス画面を操作する。
「オレの『鬼神』は、文字通りだな。鬼の神と化すって書いてある。身体能力を劇的に上がるスキルみたいだ。今のところ魔力不足で発動すら出来ないけど。…カナデの『水流支配』は?内容は分かるけど、魔力足りてるのか?」
「使えるよー。っていってもやっぱり魔力不足で大した量の水は動かせないし、長時間は使えないから…今のところ魔法の方が全然使い勝手いいなー。」
支配とかついてると強力そうだけど、その分重いんだろうな。
「ただ少量の水なら、魔法より自由に素早く動かせるから、槍術と並行して使えば結構戦えると思う。」
なるほど。
槍は懐に入られると致命的だ、なんて話を聞いた事がある。
近距離をカバー出来るのなら確かに便利そうなスキルだ。
「それよりあんたらそろそろリコのスキルについて聞きたくない?私は飛行機の中で聞いたけど、あんたらまだでしょ?」
「「もちろん聞きたい!」」
俺とイチトは声を揃えて答える。
おそらく夢見る少年の様な目をしているだろう。
「そんなに食いつかれても気持ち悪いんだけど…。私の『魔眼』も基本的には魔力不足で満足に使えないわ。そもそもスキルって魔力を代償にして使うものだけど、魔眼は代償にするものを選べるの。そして何を代償にするかによって効果が違うのよ。」
それは知らなかったな。
そもそも魔眼なんていうレアなスキルを持っている人自体が少ないのだ。
その情報なんて少なくて当然である。
「予知なんて魔力が足りないだろうって思ってたけど、そもそも魔眼を使った予知には、魔力じゃないものを使ってたって事?」
俺の質問にリコは「そういうこと。」と答え、さらに続ける。
「そのせいでスキルを得てから私の周りに人は寄り付かなくなったわ。別に気にしてないけどね。」
人が寄り付かない程の代償。
つまり、周りの人にも影響のある代償という事だろう。
「それで、予知を使う場合の代償って何なんだ?」
イチトが何でもない事の様に促す。
ギルドの中でも、冒険課は命がけの仕事だ。
その採用試験に来ている者に、魔眼の代償程度でビビる様なヤツはいないだろう。
「予知の代償は………他人の命よ。」
「!!」
ビビった。
ビビりまくった。
別に命を吸われる事にビビったわけではない。
不死だしな。
俺が心底怖いと思ったのは、そんなスキルを持ってしまうという状況そのものだ。
自分のではなく他人の、というのが何より怖い。
「しかもね、予知の魔眼は飢えているの。私が誰からも命を取らないからね。だから私に直接触った人は、私の意思に関わらず命を吸われ、数秒で死ぬわ。」
どんな気分なのだろう。
親しくなっても触れる事も出来ず、間違って触らない様に、常に肌を隠した生活。
きっと彼女を信じられない人達は、その恐怖心からありもしない事実を広めるだろう。
人に避けられ、人を避ける。
本来快活な性格であろう彼女には、それこそが本当の『代償』かもしれない。
「この島の事を視たのは試験の前日、つまり昨日よ。どうしても不安になってね。これに落ちたら私に居場所なんて無いし……とか考えてたら、寝てる間に使っちゃったの。使った生命力は、私の力の犠牲になった1人目の物。14歳の時に町で襲って来て勝手に死んだ暴漢よ。」
そんなヤツは死んで当然だと思うが、14歳の女の子がそう思えるとは思えない。
おそらく19歳になった今も引きずっているのだろう。
「その後もしばらくしてから同じ様な事があってね、命のストックは予知の魔眼3回分あるの。だからいざとなったら使えるから安心してね!」
無理に明るく言い放つ彼女だが、開き直ったのかと素直に受け取る様な人間はここにはいなかった。
「よし、予知は無しでいくぞ。」
「イチトってアホだけど、そういうところはちゃんとしてるねー。」
「だろ?アホでも男らしさを持ってるってのがモテる秘訣なのだよ。」
イチトとカナデが場の空気を変えていく。
やっぱり、いい奴らなんだなー。
おかげで暖かい雰囲気になってきた。
「いや、予知の有用性は捨てがたいだろ。」
けどこのまま話を終わらせる訳にはいかないな。
「……おいサチよぉ。お前は頭回る奴だと思ってたけど、やっぱりただのバカか?それとも性根の腐ったクソ野郎か?」
瞬間的に空気が張り詰める。
「リコの言う命のストックってやつは、こいつのトラウマそのものだろうが。悪夢にうなされて使っちまうならともかく、自分の意思で使わせて良いわけねぇだろ。」
流石、鬼神のスキルを持つ男。
眼力凄過ぎて小と大同時に漏らしそうだ。
カナデも同じような目をしているし、リコも悲しそうな顔をしている。
けど俺が言いたいのはそういう事じゃないんだよ。
「それは分かってるって。そうじゃなくてさ、命のストックって表現はどうかと思うけど……要はそれを、無限に持ってるヤツがいれば全て解決だろ。」
「アホか!……そんなやつどこに……!!」
「……………」
「……………」
まぁ俺はかれこれ2年程このスキルとお付き合いしているからな。
人の生き死にを考える時に『もしも死なない人間がいたら』なんて前提を置くヤツは普通いないだろう。
「い、いやいや!そもそもそんな重たそうなスキル発動すんのか!?発動するかどうか確かめる事も出来ねぇだろ!」
「そうよ!悪人の命だろうと使って欲しくないっていう気持ちは有り難いけど、そんな危険な事試せないわ!試してみてダメだったら、あんた死ぬのよ?触る時間を一瞬にしたら助かるかも知れないけど、それでも確実に寿命は縮まるの!」
やっぱり良い奴らだなホント。
でも…
「もう試した。」
「「「は?」」」
「だから……もう試したんだって。俺は既に、7回死んでる。」
好奇心て怖いよね。




