黒髪メガネの再来
これは採用試験。
そう考えると納得出来る。
ギルド所有の最新鋭旅客機の故障。
配置がバラける様に設定された空間転移。
一向に現れない魔獣。
多分だけど、リコが予知で視たという『黒くて大っきい何か』も。
俺は不自然な点を次々に挙げていく。
「ま、まって!確かに言われてみると不自然だけど、最後のはサチが見たものじゃないでしょ?なんで不自然だって思うのよ?」
そう、俺は見ていない。
そして恐らくは、リコもまた視ていないのだ。
「リコ、良く思い出して欲しい。リコはどこでその『何か』に出会ったんだ?」
「どこって……森の奥だけど…。」
リコはうーんと唸りながら、記憶を思い出しては絞り出す。
「うん、じゃあどうして森の奥に入ったんだ?今こうやって砂浜に立ってるって事は、予知で視た世界でもそう出来たはずだ。普通来たことも無い島で、いきなり森の奥まで行こうとは思わないだろ?」
「えと、カナデには話したけど、すーっごい可愛いリスを見つけたのよ!それで……」
あっ!
と、声と表情に出すリコ。
カナデも気付いたようだ。
「私もリコもリスなんて見てないよ。」
「うん、流れ的にそうかなって思った。さらに言うなら、小さいリスが見つけられるなら、森の中って言ってもそんなに暗くも無かったんだろ?それなのにリコは『黒くて大っきい何か』を見たって言ってた。これは明らかに不自然だ。」
「言われてみればそうね。姿形がハッキリ認識出来ないなんておかしい。でもどうしてそんなことに……。」
3人とも考え込んでいる。
正解かは分からないが、俺の答えはこうだ。
「おそらくは、試験の妨げになるから、なんらかの方法で妨害されたんだと思う。」
「妨害って、そんな事出来んのか?」
「予知に対する妨害は、予知と同じ時空干渉系のスキルや魔法で出来ると思うぞ?…ギルドとしても、受験者の能力は存分に発揮して欲しい所だろうけど、流石に予知は看過出来なかったんじゃないか?それを許すと、下手をすればギルドの機密なんて筒抜けになっちゃうし。ギルドの施設にはそういった、外的魔法干渉を遮断する結界が張られてるって聞いたことがある。この島も、そういう所の一つなんじゃないかな?」
つまりここはギルドの所有する土地なのではないか、というのが俺の推論だ。
ここで受験者それぞれをモニターし、現場で実際にどれだけの能力を発揮できるか、また緊急時にどこまで冷静に判断が下せるかなどを把握する。
ただしこの考えが正しければ、ただ救助を待っているだけではダメだ、とはいえ具体的になにをすれば良いのかが指示されていないのだが……
ザザッ。
と、そんな風に悩んでいると、突然頭の中にノイズ音が響いた。
「〈あーあー。テステス。…聞こえるかー?君たち。〉」
「「「「!?」」」」
「〈あー、驚くのも無理は無いが安心してくれ。私は未開堂晃だ。念話を使っているせいで、少し声質が違うかもしれんがな。〉」
皆の顔を見回すと、口を開けて驚いている。
念話って初めてだけど、昔近所のおっちゃんに使わされた骨伝導スピーカーに似てるな。
「〈諸君らの中に第1ステージをクリアした者が現れたので、こうして呼びかける事ができた。…桐崎幸、見事だ。君の考えは凡そ正解だよ。〉」
ヤバい。
ドヤ顔になりそう。
なんとか踏ん張って驚いた表情を維持しよう。
「サチ、口がヒクついてんぞ?」
「…うっせ。」
「〈桐崎は気がついた様だが、他の諸君らには改めて説明しよう。…君達の陥っている状況は、ギルド採用試験の一環である。〉」
未開堂試験官は淡々と第1ステージとやらの説明をする。
内容としては、概ね俺の考えた通りのものだった。
つまり、受験者を危機的状況に陥らせ、その中でいかに冷静な判断が出来るか。
最高得点が与えられるのは、これがギルドに仕組まれた事態だと気付いた者らしい。つまり俺だが。
次点として、救助を要請するなどの具体的なアクションを速やかに起こす者。これはリコとカナデが獲得し、他にも数名加点されたようだ。
ただ、明確に説明された訳では無いが、リコの予知スキルが妨害されたと言った件については違ったらしい。
実際には予知スキルをピンポイントで妨害したわけではなかった。
リコの予知スキルが上手く機能しなかったのは、この島に『力場』というものがあるからだと。
この力場とやらは、科学技術の進んだ異界から齎されたモノで、ギルド関係の施設を守っている俗に言う結界というのも、この力場が殆どなのだそうだ。
正直俺には、結界と力場の違いも分からないし、使われている技術が魔法的なものなのか化学的なものなのかも分からない。
まぁこの際どっちでも良いと思ってるしな。
「〈とまぁ、ここまでが第1ステージの内容だ。一応獲得ポイントは後でランキングにして発表するが、何位以下を落とすなどという基準はない。ランキングが最下位でも将来性を感じれば採用するし、1位でも人格破綻者なら落とす。まぁそんな者が1位になる事など無いがな。諸君らのやる気に繋げる為に行うものだが、こだわり過ぎない様気を付けて欲しい。〉」
未開堂試験官はそこで一度言葉を切り、「そして、」と続ける。
そのタイミングで突然、目の前に白い輪っかが現れた。
「〈次は第2ステージだが、その前に君たちにはこれを受け取ってもらう。仮発行のガリバーだ。〉」
白い輪っか…ガリバーは、目の前に転移してきてすぐに、砂浜へ落ちた。
俺はそれを拾い砂を落とす。
「〈今回は仮の物なので、皆一律で腕輪型にしてある。機能も制限してあるが、ステータスの確認は出来るぞ。その他に、現在のポイントとランキングの確認。リタイアしたい場合の申告機能などが搭載されている。〉」
言われて俺たちは白い腕輪を付けてみる。
少し緩く作られていた腕輪は、自分の腕に合うように自動でリサイズして、ピッタリと吸い付いた。
「〈順位は関係ないが、ポイントは関係ある。最低でも50ポイントは獲得しないと採用枠には残らないと思ってくれ。…第2ステージでは、このポイントが獲得し易くなっている。諸君らには存分に実力を発揮して臨んでもらいたい。〉」
第2ステージの内容はこうだ。
・制限時間は48時間
・魔物の討伐により加点、魔物の討伐難易度によってポイントは異なり5点から20点まで。
・島の中央にいるボスは200点。
・パーティーを組む場合、討伐ポイントは均等割。
・その他に、モニターしている試験官の裁量でポイントの加減もある。
まとめるとこんな感じだ。
「〈ギルドとしては即戦力としてメンバーの募集をしているわけでは無いが、見習いの段階でも実地研修などを行うため、最低限これくらいはクリアして貰わないと諸君らに成長を促す事も出来ない。無茶はしてもらいたくないが、審査を通った君達にはクリア出来る程度の難易度となっているはずだ。〉」
最後にパーティーの募集と申請の方法を説明して、「その他の事はチュートリアルを見てくれ」と言い残し、未開堂試験官からの話は終わった。




