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異世界転移はされるもの!  作者: 二度寝
第4章 アダム
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化神

 

 サチはよく、ボクやイチトの事を『主人公』と表現した。


 けれどボクとイチトの意見は少し違う。

 主人公と呼ぶべきはむしろ、サチやゲンガさんの方だ。


 そして今、その内の1人の主人公が登場した。

 絶体絶命のピンチに現れ、一瞬のうちに事態を収拾する。


 正に『主人公(ヒーロー)』だ。



「な、なぜここに!?…お前は異界に居るはずだろう!!」



 総帥は自らの魔法が消し飛ばされて狼狽している。

 隣のエヴァも同じだ。



「…総帥の命令を無視したのですか?」



 ボク達の前に立つのは、この世界のヒーロー。


 ボク達のリーダーに嫌われた、絶対強者。



 その二つ名は……【化神】。




「ゲ、ゲンガさん…助けに来て、くれたんですか?」



「おや?この状況を見ても疑われるのかな?みんなサチの影響を受け過ぎだよ。」



 全身黒鎧の暗黒騎士は、この場にそぐわぬ呑気な声音でそう言った。



「おい!答えろゲンガ!!お前の任務は、異界の…魔界の魔人どもを押さえつけておく筈だろう!?」



「それなら既に、終了しました。魔人達とはお友達です。」



「!?」



 何がどうなっているのかサッパリだが、きっとサチのおかけだ。

 なんとなくだけど、そう感じる。



「私の次の任務は……貴方を殺す事です。」



 気が付いた時には、ゲンガさんはエヴァの背後に立っていた。



「アダムの娘。お前は退場しておけ。」


「なっ!?」



 ゲンガさんに触れられたエヴァは、忽然とその姿を消した。



「何を…何をしたんだ!?」



「『転移』させたんですよ。老害には気が付けないかも知れませんが…ここはもう、ダンジョンでは無いのでね。」



 彼は何でもないことの様に話す。

 あり得ない事に、彼はこのダンジョンをクリアしたと言う。



「お、お前は…私に逆らうのか?」



「今更ですね。私は、貴方を殺すと言った筈です。」



 先に裏切ったのがどちらなのかは分からないが、この2人は既に敵対している。そして、それを明言してからは即座に戦闘に移っていた。



「『覚醒成長』!」



「……。」



 総帥はストレージから大剣を呼び出し、自身にブーストをかけた。レベル525の化け物が、さらにその能力を強化させてゲンガさんに飛びかかる。


 対するゲンガさんは、素手のままだ。

 無詠唱で魔法を使ったのかも知れないが、見ているこちらには棒立ちしている様にしか見えない。



「ゲンガぁ!お前はクビだっ!!」



「はい喜んで。」



 爆発的な攻撃力を持つであろう大剣の振り下ろしを、ゲンガさんは右手で掴んで無力化した。



「バカな!?」



「バカはてめぇです。」



 大剣は握力だけでへし折られ、左手の拳を受けた総帥が吹き飛んでいく。



「…どうやら私は、貴方よりも随分と強いらしい。」



「あ、ありえない……こん、な事がぁ…。」



 総帥はワナワナと震え、床に膝をついたまま俯いている。



「鎧も必要ねぇですね。…ああ。言葉遣いも限界だわです。」



 ゲンガさんはそう言って、自身の鎧を消し去った。

 鎧は空気に溶けるように消えて行く。


 後に残ったのは、スーツに仮面の男性だ。



「この仮面を付けた時から…あんたを殺す事ばかり考えていたよ。」



 ゲンガさんは静かに語る。


 そして、その手を総帥へと翳す。








 …………………………………………………







 繋がった。




 やっとココへと繋がったんだ。



 余りにも長く、余りにも辛い時間を過ごした。



 67年の人生で、1番辛かったのはこの3ヶ月間だ。


 すぐ目の前にいるのに、触れる事さえ叶わない。

 憎む敵にも、愛する人にも。



 けれど、それも終わりだ。



 ()の時間はここから動き出す。



「ほら、タネ明かしだ。」



 俺は顔に貼り付けた仮面を外す。



 ああ、良い反応だ。

 サイカイアのこの顔を見るために、俺は生きてきたのかも知れない。




「あ…あ?……君、は……未来を、変えたのか?」



「変わってなんかいないさ。アンタが言ったんだろ?変わった結果が今なんだって。」




 そうだ。

 全ては茶番だ。



 この物語は、始まる前から終わっていた。



「分かりやすく、詠唱してやるよ。『生命減衰』。」



 俺はサイカイアに手を向け、その命を刈り取った。



「その目に焼き付けろ。…お前が望んだ『生命属性』だ。」



 50年前、お前が俺に望んだ成果だ。



「…がっ…あぁ……ぁ。」



 サイカイアは見る見るうちに干からびて行き、実にあっさりと生き絶えた。


 生ける伝説も、死ぬ時は案外普通なんだな。





 思っていたより、心が動かない。


 俺の中ではそれ程重要な事でも無かったのだろうか。


 宿敵の打倒よりも、もっと待ち望んだ事が有るからかも知れないな。



 俺は後ろを振り返り、みんなの健闘を讃えた。



「最後まで良く諦めなかったな。流石は俺の仲間達だ。」



 やっぱり、サイカイアの驚愕の顔よりもこっちの方が断然良い。


 驚き。

 喜び。

 安堵。


 様々な感情が読み取れるが、全て好意的な感情だ。



「ただいま、みんな。…俺を救ってくれてありがとう。」



 俺は帰ってきたんだ。


 みんなにとっては一瞬でも、俺にとっては一生だった。




「……サチ。」



「やぁリコ。やっぱり君は、最高に可愛いな。」




 俺達は抱き合い、一瞬と一生ぶりの再会を喜び合った。




お読み下さりありがとうございました。


最後は少し駆け足になってしまいましたね。



ここで一度、この物語はひと段落です。


1日1話以上の更新をして来ましたが、ここからはゆっくり更新にさせていただきます。


人気の無い物語ですが、個人的には書いていて楽しいので、今後もまったりと続けていくつもりです。



最後までお読み下さった皆様、改めて有難う御座いました。

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