第73話 死刑宣告
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申し訳ありません
でもなるべく早く書いていきたいと思います
シュウの封じられていた力が解き放たれ、今まで外に出ることのなかった魔力が外へ放出される。その光景を見て少女は笑う。シュウのあるべき姿をこの目でもう一度見ることができ、心から喜んでいた。この桁外れな魔力がシュウの本来の姿であり、少女はシュウが帰ってきたことを実感する。少女が嬉しそうにシュウを見ていると嬉しそうにしている少女とは別に騎士団団長のフリーデル、教師の川畑佳乃、そして生徒たちはシュウの姿を見て全員が固まっていた。
適正なしで平凡のステータスを持つ外れ枠の者が、教師として生徒を守ると誓った者が、クラスのお荷物だと思っていた者たちがシュウの変わりように恐怖し驚愕していた。
そんな者たちには目もくれずにシュウは溢れ出る魔力を調節していた。その時、シュウの後ろから誰かが声を掛ける。
『久しぶり、シュウ』
(ローゼスか)
『覚えていてくれたんだぁ
そうだよ、ローゼスだよ』
(忘れるわけがない
力を封じてから姿を見ることはできなかったが、お前の存在だけは認識していた)
『ホント!?嬉しい』
(前に[和名持ち]は女神の存在をどこにいても認識できるとお前が言っていただろう)
『そ…そうだっけ?……忘れちゃってたよぉ』
音もなくシュウの背後に現れたのは、女神ローゼス。
肩までの長さの紺色の髪、水色の瞳、青のドレスを身に纏っていた。その姿は如何にも高貴の女性である雰囲気が漂い、自分より身分が下である者をゴミと同じような扱いをしそうな感じであった。見た目だけを見れば全員が感じ悪い印象を持つところであるが、ローゼスは見た目とは裏腹に繊細な性格の持ち主であった。そしてローゼスの瞳には今にも溢れてきそうな涙を必死に堪えてシュウ背後にいた。シュウの顔を見れば間違いなく号泣することは誰が見てもわかるくらいに泣かないように我慢をしていた。
『でも……良かったよぉ
私を忘れないでくれて本当に……良かったよぉ…
うえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん!!!』
(泣くな)
ローゼスは我慢できずにシュウの背中に飛びつき後ろから抱きしめると、豪快に泣いた。自分が女神であるというプライドは最初から持ち合わせていなかったが、それでも自分の泣き顔をシュウに見られるのには抵抗感があり顔をシュウの背中に埋めて泣いていた。
ローゼスがシュウの背中で泣いているところを女神の姿を見ることができる少女はイラッとし、周囲にいる女神の姿を見ることができない者たちは何も反応していないが朝比奈泉はシュウの背後に何かを感じムッとしていた。
「じゃあそろそろいいかな!?」
「? 何イライラしているんだ?」
「べ・つ・に?」
「?」
「そろそろ帰りたくなっただけだよ!?」
「そうか」
「そうだよ!早く帰ろう!?」
(…だそうだ)
『グスッ…
すみません、お見苦しいところをお見せしました』
「…………」
ローゼスは涙をぬぐいシュウから離れると、それを見た少女は何か凄い罪悪感を感じていた。これだと少女が数年ぶりに再開した恋人を無理やり引き離したような光景に少女はイラッとしたがそれ以上に罪悪感が大きく、ヒロインポジションにいるローゼスに嫉妬した。
「じゃあ……帰ろう」
「あぁ」
「忘れ物ない?」
「あぁ」
「お別れの挨拶は?」
「必要ない」
「そっ…」
シュウは生徒たちに見向きもせず、ここから離れようとしていた。少女は詠唱を唱えると背中に氷の結晶で翼を作り、シュウに魔法をかける。
「……ギルレイナ」
「ん?」
「ちょっと待て」
「忘れ物?」
「あぁ、……朝比奈」
ギルレイナと呼ばれた少女は大きく羽を広げ空へ飛び立とうとした。するとシュウはギルレイナに制止を求めた。そしてシュウは生徒たちの方へ向くと、視線は一人の少女に向けられた。
「来ないのか?」
……来ないなら来ないで構わないが」
「…………いいの?」
「あぁ」
「…………行く」
シュウの誘いに生徒たちの制止を振り切り、朝比奈泉はシュウの元へ歩み寄る。生徒たちはシュウの元へ行く朝比奈泉を説得しようとするが、生徒たちの声は朝比奈泉に届くことはない。クラスで人気である朝比奈泉を主に男子生徒たちが必死に止めようとしていた。
理由は、大体が下心である。前の世界では話しかける勇気がなかった者たちが異世界に来て、朝比奈泉の前でいい所を見せたいというものが多かった。だが前の世界でも異世界でもそれを邪魔する者がシュウだった。朝比奈泉と話をすることができる唯一の男子生徒、クラスの男子はシュウに嫌悪感を抱いていた。だから彼らはシュウをいじめていたのだ。
生徒たちの様々な感情が混ざった視線がシュウに向けられていると生徒たちの感情にギルレイナは笑いが止まらなかった。
「珍しい~、君が他人を助けるなんて
私の知らないところで何かあったの?」
「別に」
「ふ~ん まぁいいけど♪
それで?連れていくのは一人でいいのかな?」
「あぁ」
「そっ…、じゃあ帰ろうか」
ギルレイナは生徒たち一人一人を見ると興味を失ったかのように視線を外す。そして朝比奈泉に魔法をかけ、氷の翼を広げ飛び立とうとした。すると
「勇者たちは無事か!!?」
「ん?」
「国王陛下……」
「フリーデル!勇者たちは!?」
「ゆっ…勇者たちは……無事です
しかし……」
「? 何だ?
何が……………っ!」
フリーデルの後方から兵士たちが集まってくる。騎士たちがあわただしくしている様子を察して、召喚された生徒たちに何かあった事に気づき、国王が慌てて城の中にいる兵士を訓練場に向かわせていた。そして何故かこの場に兵士と一緒に国王が現れる。国王はフリーデルに勇者の安否を確認すると、フリーデルが指をさした方向に目を向けた先にギルレイナの姿を見て蒼白した。
「……氷の……女王」
「おやおや~? タイジュレン王国の国王様じゃないの~
どうしたぁ?顔色が悪いようだけど、病気なら治してあげよっかぁ?」
「い……いや、大丈夫だ」
「ん~~?そう?
大丈夫には見えないけどね……まぁいいや
でもまさか……国王の君が私たちに喧嘩を売るとは思わなかったぁ」
「…………っ」
「勇者を召喚すれば勝てると思ったのかな?
ふっ……勇者を召喚しただけで私たちに勝てるのならどの国でもやってる
君はわかっていると私は思っていたけど……残念だよ」
「…………」
「君はまた過ちを犯した これで三度目、次は無いって私は言ったよ
三年……その間にやり残したことのないように残り少ない時間を過ごしなね
あと、私と戦争する準備に使ってもいいけど……その時は……ね?」
ギルレイナは笑顔のまま、国王に死刑宣告をすると国王は顔を蒼白させたまま体が震え、息が早くなり気絶寸前になっていた。
ギルレイナからの死刑宣告、それがこの世界で何を意味するのか、それを知るのは今この場にいるもので国王とフリーデル、そしてシュウだけであった。
「じゃあ私たちは帰るね♪ 君たち……良い余生を」
「まっ…」
「アハハハハハハハハッ!!!!!」
ギルレイナはシュウと朝比奈泉を連れて飛び立っていった。生気を失い項垂れている国王とフリーデル、事態を呑み込めていない生徒たちを残して、氷と共に消えていった。
ギルレイナが去ると国全体の氷は解け、ギルレイナが来る前の真夏日に戻ると生徒たちは顔を見合わせる。そして国王とフリーデルが絶望しているような表情をしていると生徒たちはギルレイナ、シュウ、朝比奈泉が飛んで行った方向を見たまま茫然としていた。
まだまだ続きますよぉ!!




