第72話 規格外の存在
後で修正するかもしれません
少女の名前は後に出ます
雲が空を覆い、中は薄暗くなっている中で、黒い着物を身に纏う中学生くらいの少女は笑顔で小さく手を振りながらこの地に降りてきた。鼻歌を口ずさみながら生徒たちの前に立つと突如現れた得体の知れない少女に騎士たちは生徒たちを守るように剣を少女に向けていた。
「邪魔だな~」
少女は手を払うと豪風が生徒たちを守っていた騎士たちを襲い、壁に打ちつけられる。数十人いた騎士たちは動かなくなり地面に倒れる。一つの動作で風を起こし騎士たちを吹き飛ばした光景に、生徒たちは言葉を失った。
「弱い奴が私の前に立つんじゃない」
少女は不機嫌を露わにしながら倒れている騎士たちに目を向けた後、生徒たちに一人一人視線を向ける。するとシュウが生徒たちを押し退け前に出ると少女の前で跪き頭を下げた。
「お久しぶりです 女王陛下」
「おっひさ~♪
また会える日が来るとは思わなかったよ~」
「自分もです」
「うんうん♪会えてうれしいよ~
でもその堅苦しいのやめてね」
少女はシュウの元へ歩み寄り、頭に手を添えると少女は笑顔を見せながらシュウの頭を撫でる。周囲にいる生徒たちは目の前の異様な光景に固まっていた。だが次の瞬間、少女の笑顔が消える。頭を撫でていた手を頬まで下ろすとシュウの顎を掴み強制的に上へ向かせる。少女の鋭い眼光はシュウの瞳を除く形となった。
「敬称は必要だろう」
「私には必要ない」
「そうか、ならやめよう」
「うん♪素直でよろしい」
シュウが少女と知り合いであるかのように話す姿に疑問を持つ者はいなかった。それは少女が放つとは思えない程の圧に生徒たちは恐慌状態となっているからである。しかし恐ろしいことにこの時少女は威圧を発動しておらず、殺気も表に出していなかった。空気が張り詰めただけで生徒たちを恐怖のどん底に突き落としていた。絶対に敵に回してはいけない、絶対に関わってはいけない、少女の前で下手な動きをしてはいけない、体の全細胞が危険だと信号を送っていた。
「それで?何で私の前からいなくなったことは後で聞くとして…
君の後ろにいる子たちは何?」
「勇者」
「…………うーーん
悪いけどもう一度言ってくれる?」
「勇者だ
俺らは召喚魔法でこの国に集団で召喚された」
「あ?」
その時、少女の本当の殺気が一瞬だけ放たれた。少女が殺気を放った時間は本当に一瞬だった。だがその一瞬、生徒たちは感じなかったが、この場に駆け付け丁度到着した騎士団団長フリーデルは少女の殺気に体が硬直し、戦意を失っていた。同時にフリーデルは少女の顔を見て絶句していた。しかし騎士団団長であるフリーデルが駆けつけてきた事は気にも留めずに、少女は頭を抱えながら癇癪を起こした。
「うぅーーーー!!
怒られる…また怒られる…
うぅーー…やだよーーー!!」
「…………」
「どうしよう…どうにかしないとまた怒られる
……殺そうか、召喚された者達全員」
「それだと俺も死ぬ」
「…………い、いやだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!
怒られたくないぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃい!!!」
少女は自分の顔を撫でまわし見るからに悩んでいた。それは子供が親に怒られる前のような光景である。そんな少女にシュウは何もしない、傍観を決め込んでいた。そして何か思いついたかのような顔をしたかと思えば、生徒たちが青ざめるような発言をしたかと思えば、シュウに指摘されると少女は地面に転がり回る。
「君は何で冷静でいられるのか私にはわからない」
「関係ないからな」
「君の主が危機に瀕していても?」
「面白い冗談だ」
「無表情で面白いと言っても私には伝わってこないよ」
「ならもっと面白いことを聞かせてやろう」
「君が無表情で面白いって言ったことが面白いけど……何?」
「お前、世間で魔王を守る番人と言われているらしい」
「何それ、面白いね」
それは国王が召喚された勇者に放った言葉だった。何が面白いのかわからないこの会話に生徒たちは何とも言えないような表情をする。実際何が面白いのかは少女とシュウの二人にしかわかっていない。だが二人の会話を聞く限りでは、わからない方が幸せなのは確かである。これは異世界の人間にしかわからないことであり決して触れてはいけないことだった。
「人間たちの私に対する評価が番人とは……
実に面白いね
世界の頂点、数ある王の一角である私がそんな風に言われていたなんて、今初めて知ったよ」
「そうか」
「はーー……
どうやら人間どもは本気で私たちに喧嘩を売っているようね
召喚するなと言っても陰で召喚し、私たちに逆らい世界を手にしようとする
……本気で消したくなるよ」
その時、少女の目は一瞬人と呼べるものではなくなった。顔は笑っていてもその奥にあるのは殺意のこもった憤怒だった。フリーデルと生徒たちは一斉に視線を逸らし少女を見ないようにしていた。だが視線を逸らしても少女の死を感じさせる殺意までは防ぐことはできず、震えることしかできずにいた。それは騎士たちも同じであり、少女の殺気で飛び起きるように気を取り戻した騎士たちは少女を見て多くの者が失禁していた。
「あっ!そうだ、コレ返すよ」
「…………あぁ」
何かを思い出したかのように少女はシュウに何かを投げて渡す。それは小さなカギだった。シュウは少女から受け取ると制服を脱ぎ、ワイシャツのボタンを外す。そこには何かを封じるように左胸のあたりに鎖のような入れ墨みたいなものが書かれていた。シュウは小さなカギを左胸に突き刺し回す。カギを左胸から引き抜くと鎖の入れ墨は消えた。
「これがなければ楽だったんだけどな」
「あの時嫌な予感がしたからね しょうがないでしょ
それで?こっちに来て適正を確認したんでしょ?何だった?」
「適正なし」
「ん?適正なし?
……それじゃあ今の名前は何になった?」
「坂本シュウ」
「ほほぅ……やっぱり君が選ばれたか」
「最初からわかっていただろ?だからお前は俺を傍に置いたんだ」
「まぁね、でも彼女を見なかったらいくら私でもわからなかった」
シュウの左胸に書かれていた鎖は召喚される前にはなかったものだった。しかしそれはシュウがペイントをして隠していただけで元からあったモノであるのだ。生徒たちは視線をそれしているのでその光景は見ていないので知ることもない。シュウの左胸に書かれてモノは魔力、身体能力低下の効力を持つ封じの魔法である。彼は逆異世界転移する前に少女にこの魔法をかけられていた。そして普通の人間と変わらない生活を送っていたのだ。王国の召喚魔法で異世界に来た生徒たちがチート能力のステータスを出している中でシュウが平凡のステータスだったのはこれが理由だった。そして封じの魔法を解いたシュウは勇者の松井康隆よりも召喚された生徒たちの中で彼は
「改めて言わせてもらうよ
おかえり、女神に選ばれた戦士[和名持ち]坂本シュウ」
規格外の存在となった。
まだまだ続きますよぉ!!




