第71話 お荷物
うん…良いじゃない?
魔法陣の光が強くなり、教室全体を包み込む。シュウは目を閉じて光が収まるのを待っていた。光が収まり目を開けるとそこは当然、シュウたちのいた世界とは別の世界に召喚されていた。生徒たちと担任は全員が倒れ、意識を失っておりシュウ一人だけが立っている状態となっていた。周りを見渡せば地面には赤い絨毯が敷かれ、天井は美術館みたいに高く、横には全身に鎧を装備している騎士が待機し、正面には国王らしき人物は玉座に座り、その家族は王の横に並ぶように椅子に座っていた。国王は召喚が成功したことに歓喜し、シュウに話しかけようとしたとき、倒れている生徒たちが次々と意識を取り戻していった。
「おぉ…成功だ、成功したぞ!!これで世界は救われる!!」
「良かった……本当に良かった」
「ここは?……」
「何ですかあなたたち……」
「何これ映画の撮影?」
「失礼……
私はタイジュレン王国の国王、アンドレアス・クィンシーである!!
貴殿らは我が国の魔導士によって召喚され、選ばれた勇者だ!!
貴殿らには世界の平和のために魔王を倒して頂きたい!!」
国王やその家族、騎士たちが歓喜しているところ、召喚された生徒たちは状況を理解できていない。全員が意識を取り戻したところで王の側近が生徒たちに説明する。魔王から世界を救うという期待を裏切らない展開に、王の側近の説明が終わるとクラスの担任が激高する。
「生徒たちにそんな危険な目に合わせるわけにはいきません!!元の世界に返してください!!」
「残念ながら元の世界に返すことはできません」
「え?」
「返したくともその方法がないのです
召喚はあくまで一方通行であり、こちらからあなた方のいた世界へ戻すことはできません」
元の世界に戻れないと知った瞬間、残酷ともいえる事実が現実で突き付けられると生徒たちの大半が膝から崩れ落ちる。だがその中で異世界へ来れたことに喜ぶ者もいた。彼らは俗に言うオタクという連中が魔王を倒すということだけを考え、簡単だと思っている愚か者であった。アニメ飲み過ぎだと言いたくなるほどに彼らはこの世界をなめ切っていた。この世界はアニメやラノベみたいに無双できるほど甘い世界ではないのだ。そんな甘い考えをしているのは一部であり、文字通り彼らに求められるのは敵との殺し合いである。争いとは無縁の彼らにそんな覚悟がある筈もなかった。
すると元の世界に書入れない事実に絶望している彼らの元へ行き、国王は絶望する生徒たちに頭を下げた。
「あなた方を無理やりこの世界へ連れてきたことは謝る
だが我々もこうするしか道はなかったのだ
各地で戦争が行われ、我々人間は生きるために戦争をしなくてはならないのだ
そしてその争いの根源である魔王……そして魔王を守る番人を倒してほしい」
この国で最も身分が高い国王がわざわざ生徒たちと同じ地面に立ち頭を下げたことにより、生徒たちの心が揺れた。そして国王だけではなくその家族や横に並んでいた騎士たちが頭を下げたことで話し合った結果、世界を救うことを了承した。担任の川畑佳乃は諦め、松井康隆、柳瀬詩織が中心となって彼らは魔王討伐を決意する。だがこの国の王は召喚された生徒たちに尤もなことを言っているが、戦争をするのは当然魔王のせいではない。王は大事なことを生徒たちに話していなかった。
そしてその日の夜、国が勇者に用意した部屋でそれぞれが休んでいる頃
シュウは窓の外を眺めていた。
(〈メッセージ〉
ご無沙汰しております シュウです
今日、召喚魔法によりこの世界に帰還いたしました
早速ですがご報告いたします
実は……………………
ではこれで……)
シュウは目を閉じて眠る。彼が送ったメッセージは遥か遠くの地にいる人物に届けられた。
〈メッセージ〉…
「おん?
…………あらら~、帰って来たの
フフンフーン~♪フンフーン~♪」
翌日、シュウたちは大広間へと集まった後、訓練場へと場所を移していた。最初に大広前集まった理由だが、それは生徒たちの適正職業の確認とステータスを図るためであった。
「勇者って誰だった?」
「俺だ」
「何だよ やっぱり松井かよ」
「いやいやこのクラスじゃ松井君しかいないでしょ」
「はぁ?どういう意味だよ!!」
そして中に勇者の適正を持つ者がいた。それは松井康隆だった。そしてステータスだが殆どの者がチートのステータスであり適正職業もそれなりだった。しかし次々と生徒たちがチートステイタスを出している中でシュウだけは違っていた。職業は適正なしであり、ステータスは平凡だった。もちろんこの結果を周囲が黙っているわけがなかった。
「坂本~、お前はどうだったんだよ!」
「…………」
「はぁ!?おいお前ら!坂本適正なしだってよ!!」
「適正なし!?何だよ、それ!!」
「ステータスもゴミだ、コイツ!!女子よりも先生よりも弱いぞ!!」
「ハハハッ!お前は異世界に来ても役立たずってわけだ!!」
「死にたくない奴は坂本と組まない方がいいぞ~!」
「やっぱり坂本はお荷物だったな!」
不良たちがシュウの結果を見て罵倒して笑っていると、陰で笑う奴や蔑んだ眼をシュウに向けていた。その様子を見て担任の川畑佳乃はシュウに近づき励まそうとしていたが
「坂本君……その大丈夫ですよ
坂本君はお荷物なんかじゃありません
坂本君は私の大事な生徒です!!
だからとは言いませんが、私が坂本君を守ります!!」
「…………」
「…………坂本君?」
「…………」
「坂本」
「何だ」
「私が守る」
「必要ない」
川畑佳乃は話しかけてもシュウが無反応であり、相当ショックを受けていると思ったが朝比奈泉には反応しているところを見てショックを受けた。「私、信用されてないの?」と部屋の隅で膝を抱えて落ち込みそうになった。そんな川畑佳乃を置いといて、生徒たちは外にある訓練場へ移動をすると、王国騎士団の団長、フリーデル・ゲルテラーから先頭の訓練を受けていた。適正、ステータス共にチート持ちの生徒たちであったが戦闘面ではからっきしであり、騎士団から教わっているところだった。この訓練にシュウは当然していなかったが文句を言われることはなかった。シュウは適正、ステータスから王国から召喚時の外れ枠として扱われていた。文句は言わないが邪魔者扱いしていた。周りからそんな使いを受けているとシュウは訓練場にある木陰で休んでいた。
そんな時だった。
「寒っ!!何だ?」
「ちょっと風冷たくない!?」
「ホント!何で?」
「あれ?何か天気が…さっきまで晴れてたよね?」
(………来たか)
騎士団の訓練は続き、汗が流れ落ちていく中で、突如冷たい風が吹き付ける。すると異変に気付いた生徒は空を見上げると、さっきまで晴れていたにもかかわらず、雲が空を覆っていることに気づいた。風が吹き、冷気が漂う。気温がどんどん下がっていき季節外れの雪が降り始めると周囲は騒然となり、パニックとなっていた。周囲の温度が急激に下がり白い息が出始めると、地面が凍っていくことに気づく。そして次の瞬間、猛吹雪が生徒たちを襲った。そして視界が雪で遮られ、目の前が雪で見えなると再度冷気を漂わせた風が吹くと視界が一気に晴れる。すると…
「おっひさ~♪」
何処からともなく上空から真っ黒な着物を着た少女が降りてきた。
まだまだ続きますよぉ!!




