閑話 デスゲームのその後 ②
前に書いた閑話の続きです
私はアイル…
それが【アースガルズ】で使っていた名前
現実世界での私の名前は安曇有香、私を生んでくれた親がくれた最初の贈り物である。
何も特別な事はない日常に何の不満もなく生活していた。
そんな私に悩みがあるとすれば、告白をしてくる男子が多いということの一つだけ
本当に勘弁してほしい…
その時の告白の断り方は決まって「勉強する時間を消費するわけにはいかない」だった。
その言葉を私は嘘にするわけにもいかず、無駄な時間を無くして毎日授業の予習復習を繰り返し、私は学年で一桁以内に入り続けた。
でもそのせいで才女の肩書がついてしまい、先生に目をつけられ男子には変な目で見られ周りの女子には嫌われている。頭が良くて運動神経が良くて美人でスタイル抜群という理由で私は女子から妬まれているのだ。私と同じクラスの女子は大半が私のことを嫌っている。そんな状況の中にいても私をいじめる人はいなかった。それは幼馴染である森川未来の存在が大きかった。学校で一番の人気でありスクールカーストの最上位にいる未来が、そばにいることで私をいじめようとする人から守っていた。
私と同じくらいの美人であるが、未来は派手な格好を好み校則を違反することを躊躇わない世間でいうギャルである。校則違反を先生に注意されても懲りないあたりバカなのだろうと思うも、未来は頭が悪そうに見えるが、不思議と頭は良かった。彼女曰く、勉強しなくても一度授業を受けたら普通にわかるそうだ。
天才め…
私とは対照的に、クラスで中心にいる存在であり男女平等に接して優劣をつけないところから彼女はクラスのみならず学校で絶大な人気を誇っていた。どこに行ってもみんなの人気者、それが森川未来という人物だった。
そんな普通の学生のような良くも悪くもない生活を送っていたある日に、私はいつも通り学年で一桁以内をキープするために勉強していた時、未来から突然ゲームの誘いを受けた。
勉強ばかりしているとつまらない人生になると言われ、これをきっかけに発売前から世間で話題となっている【アースガルズ】をやってみることになった。そして【アースガルズ】をネットで予約をして発売日に未来とゲームをプレイしていると何の前触れもなくあの事件が起こる。
伝達機能の不具合、そしてゲーム機の誤作動が重なり【アースガルズ】はデスゲームと化した。これにより外からの情報を遮断された状態となり、無理にログアウトをすると頭につけられたゲーム機本体の熱暴走が起き、命を落とす。ゲームオーバーになれば死に戻り時の動作が重くなりゲーム機本体の熱が上がり熱暴走を引き起こす事となり、【アースガルズ】でゲームオーバーになった時、仮想世界の体が命を落とした時にも連動され熱暴走が起き命を落とすこととなるのだ。
【アースガルズ】がデスゲームと化した時、未来は私に泣いて誤ってきた。
「私が誘わなければこんなことには」
と繰り返すので私は未来の頬を思いっ切り引っ叩いた。学校ではみんなに元気を与える側なのにも関わらず、私の前では決まって弱音を吐くもんだから我慢ができずにやってしまった。でもこの一撃で未来は目を覚まし、このデスゲームを生き抜くことだけを考えた。
それからは二人で行動し、レベルを上げ、ライムとショーカと行動を共にして何とかデスゲームを生き抜いてきた。そしてゲームをクリアしてデスゲームから帰還した今、病院でリハビリを重ね日常生活に戻っても問題ないくらいにまで回復したが
………私の心の傷は治ってはいなかった。
【アースガルズ】をクリアした五人の救世主のうちの一人、私の初恋の人物、村崎エルとの別れに立ち直れずにいた。現実世界に帰って来た日から毎晩彼から貰った仮面を見るたびに思い出しては泣いていた。仮想世界で受け取った仮面が何故か病院で眠る現実世界の私の手元にある疑問など考えもせず、私は仮面を抱きしめる。それからというもの、私はこのエルから貰った仮面を手放せなくなっていた。デスゲームから帰還した私を母と姉は泣いて喜んだが、気味の悪い仮面を手放さない私を見て私の変化に驚いていた。
今世間ではエルの存在は世間で騒がれ、そしてエルが来たという別の世界について学者が血眼になって調査をしている状態だった。そんな中でエルから貰った仮面を世間に知れたら、研究材料として押収されることになることはわかっていた。
そうなったとしても最初から渡すつもりはない
この仮面は私のものだ。
それ以外は前と変わらない生活を送っていたが、ある日を境に私の日常は普通とはかけ離れたものとなった。それは未来に促されエルの仮面をつけた瞬間だった。
アリスと名乗るドレスを着た真っ白な女性が目の前に現れた時から変わったのだ。
その姿は私以外には見えておらず、突然私に霊感が目覚めたかと思ったがそうではないらしかった。現に彼女の姿は私にしか見えていない、その理由はわからない。非科学的な出来事に頭が混乱していた。
そのアリスは今、私の部屋のベットに寝転がって少女漫画を読み漁っていた。
『バレンタイン……好きな人にチョコをプレゼント
クリスマス……カップルのイベント
こっちではこんなイベントがあるのか…
あいつらが知ったら面倒なことになるな~』
「………」
『それにしても…恋人同士になるまでいろんな段階があるとは…
こっちの恋愛って面倒だね…
でもこっちの方がエルはいいのかな』
「さっきから何言ってんの?」
『え?この世界の恋愛について学んでるんだよ』
「恋愛?」
『いや~あっちの世界ではさ…
エルが大変な思いをしているんだ」
「(正直言って聞きたくない)……どんな?」
『……んー
ブラコンの姉に襲われたり、夜這いをかけられたり、求婚を申し込まれたり……
その他諸々』
エルの恋愛事情を聞いた時、私の中でモヤモヤした感情が頭の中を支配していっているのが分かった。これは私が今まで知ることのなかった感情、ヤキモチである。初めての感情に戸惑い、どうすればいいのかわからなかった。勉強をしながら話を聞いていたが、途中から集中できなくなりモヤモヤした感情が勉強の邪魔をしていた。
『………だからエルが求婚したってブラコンどもに知られると…大変なことになるわけよ』
「……」
『有香ちゃんも結構顔に出るね…シウラと同じタイプだ』
「何が?」
『わかりやすいってこと、よく言われるでしょ』
確かに嫌なことがあれば直ぐに顔に出ると母と姉、未来によく言われていた。エルの話をアリスから聞いていると感情の浮き沈みが顔に出てしまっていたらしかった。嘘をすぐに見破られることはないが、私はポーカーフェイスが苦手であった。そんな時一通のメールが届いた。
(未来からメール?)
≪新しいゲーム発売だってーー!!≫
(新しいゲーム?)
≪これなんだけど、じゃん!!≫
「【ヘルヘイム】?」
≪舞台は異世界で冒険者になって世界を旅するって内容~!!≫
(へーー……)
≪ここならいるんじゃない?愛しの彼♡≫
「…………っ!!」
『どしたの?顔真っ赤だよ?』
メールをすべて読み終わると私の顔は真っ赤になっていた。
未来が恥ずかしいことを書くからである。………未来のバカ
「ううん別に?
そんなことより未来から連絡が来たんだけど、なんか新しいゲームが発売されるみたいなの」
『新しいゲーム?』
「うん、【ヘルヘイム】ってタイトルなんだけど
『また世界樹?前は【アースガルズ】で次は【ヘルヘイム】?
それって誰が決めてるの?』
「それはゲームを作ってる会社だよ」
ゲームのタイトルについてアリスが私に文句を言ってくる。作ったのは私じゃないから私に言われても困る。
まぁでも未来に勧められたのは良いとして、私にはデスゲームに巻き込まれたトラウマが若干あり、またデスゲームになるんじゃないかという不安があった。でもこのゲームの世界でエルに逢える可能性があるとすれば不安よりも恋心が勝った。
『何顔を赤くしてんの?』
「………別に」
『言っておくけど、エルともう一度会うだけなら協力する
でも結婚は反対だからね!』
結婚するなんて一言も言っていないけど……
でもそうなったら………フフッ
『ほら!今エルのこと考えていたでしょ!!
全く!エルが魅力的なのはわかるけど……ん?」
「?」
『何かエルに呼ばれてるなぁ
しょうがないけど、話はまた今度にするね』
エルに呼ばれたらしいのでアリスは私の前から姿を消した。私ってそんなにわかりやすいかな……
アリスはこの後エルにめちゃくちゃ説教された。
まだまだ続きますよぉ!!




