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第68話 見送り

ラスト!!

センが向こう側から戻ってくるとミカルが助かったという顔をセンに向けていた。その理由は直ぐにわかった。シウラの足下に勇者が倒れており、勇者の仲間と他の王たちの顔を引きつらせていた。もうこれを見ただけでセンは理解した。大方勇者がエルに突っかかり攻撃の意思を見せた瞬間にシウラがキレた……と状況を見て判断した。正解である。

未だ怒りが収まっていないシウラが気絶している勇者の腹を何度も蹴り続けている場面を見ればミカルがセンに助けを求めている理由が嫌でもわかった。怒っているシウラを止めることができるエルは止める気がない。ヤマトは大きな欠伸をして眠そうにしているところを見るとヤマトも止める気がない。なんとか止めようと試みるミカルは実力的に止めることができない。だからミカルはセンに助けを求めた。今も続いているシウラの怒りを止める事ができるのはセンしかいなかったからである。



「立ちなさい!!まだ終わっていませんよ!!

勇者だからと言って好き勝手言いたいことばかり言って!!

ふざけないでください!!」

「………俺が来るまでに何があった」

「………最初は何の問題もなく会合が進んでいたんだけどね

でもあの勇者が帰ってきて、賢者にケガをさせた部下……センを悪呼ばわりして、その後シウラに悪態をついたんだけど……

矛先がエルに向いて………あぁなった」

「…………そうか」



センは露骨に嫌な顔をする。ミカルに助けを求められたところで確実に止めることができる保証は当然ないからである。確実に止めることができる奴に頼む方が良いのだが、激怒しているシウラの近くで今変に刺激をすると爆発する恐れがあった。だから被害を出さないようにするには、シウラの怒りを直接鎮めるしかなかった。



「シウラ、そこまでにしておけ」

「まだです!!肋骨を5、6本折らないと気が済みません!!」

「いや……もうそれ以上折れてると思うぞ?

そのまま続けたらそいつ死んじまうから

「死んで当然です!!誰も悲しみません!!」

「…………エル、お前からも言ってやれ」

「ん? ………シウラ、もうその辺にしておけ」

「はい」

(本当…エルの言うことだけは聞くな)



エルの一言でシウラの怒りが完全に収まった。これなら最初からエルに任せておけばよかったと思うが、エルがシウラを止めるまでシウラは肋骨だけじゃ飽き足らず、勇者の骨を全ておるまで止まらなかっただろうとセンは考えると、今止めてよかったと思えた。シウラは勇者から離れると定位置へと戻っていく。もしシウラに尻尾があればものすごい勢いで振っている幻覚が見えた。シウラが離れるとヤマトが勇者の体を触れ治す。最悪の形となったがこれで種族会合は終了となった。


その日の夜、宿でシウラは死んでいるかのように眠った。エルとミカルも続くようにそれぞれの部屋で眠る。三人が寝ている中でセンは外で雲一つない夜空に浮かぶ突きを眺めていた。すると背後からタバコを吹かしながらヤマトが歩いて来ていた。



「どうした?突きなんか眺めて」

「別に…なんとなく月が見たいと思っただけだ」

「フッ……何となくねぇ~

てっきりあの賢者のことを想いながら眺めているかと思ったよ」

「否定はしない」

「あらま、これは予想外」

「否定したところでお前は絶対面白がるだろ」

「ヒャハ!!否定しなぁい!!」

「ほらみろ」

「……それで?どうするつもりだ?」

「正直わからん、どうすればいいのかわからなくなった」

「何を言ってんだよ

簡単なことだろーが

俺と結婚してください! これしかないだろ」

「それが簡単に言えたら何年も前に言ってる」

「ヘタレだなぁ」

「うるせえ」



エル達の中で最も頼りになるセン、戦闘においても場を収める事に関しても優秀であるが、恋愛に関してはダメだった。センは学園の中で女子生徒や女教師から圧倒的な人気があった。だが本人はそれに気づいていない、そして気づいていないことに気づいていたのがミカルだった。鈍感でありヘタレ、最悪である。



「早く行動を起こさねぇと、また誰かに取られちまうぞ?」

「そういうお前はどうなんだ」

「アーシ?これから夜這いに行くに決まってんだろ?」

「…………」

「アーシの新しい日課だ

今日こそ成功させる」

(懲りないな……アイツ)



ヤマトはエルに夜這いを仕掛けるために宿へと戻っていった。その後姿を見てセンは嘆息をする。そしてもう一度視線を月へ向ける。錫杖を右手に出現させると自信の周りに魔法を展開させる。目を閉じて深く考え込み目を開けると上空の雲が月を覆い、月の日かが消えるとセンは宿へと戻っていった。


翌日、エル達は朝早く目覚め荷物を纏めて門の方へと歩いていた。この国の冒険者ギルドで少なからず問題を起こしたことで面倒ごとになる前にこの国から離れようと動いていた。だがその前にエルとヤマトの毎朝恒例の行事が終わったばっかりだった。



「イテテ……くそぅ

あと少しだったんだけどなぁ」

「ったく、無駄に力をつけやがって」

「ヒャヒャ!お陰で少しレベルが上がってる気がするよ」

「お前のレベルだと上がっていてもおかしくないか

不本意だが俺はお前のレベル上げの手助けをしている形になってるからな」

「お前からは学ぶことが多い、だから毎朝勉強になる」

「そりゃあ良かったな

でも今は時間がない、昨日の一件で面倒ごとが起こりそうだからな

さっさと出るぞ」

「それ引き起こしたのお前だけどな」



大の字になって倒れていたヤマトは起き上がり、部屋の戻り荷物を纏める。エルはヤマトが出て行った後、自分の見日手の状態を確認していた。毎朝恒例行事の時に右手が思うように動かず、僅かなズレがあったからである。このズレは通常ならば気づかないレベルであり日常に支障はない。エルならば、このズレを簡単に修正できた。そして手に異常がないことを確認すると外へ出る。少し遅れてヤマトが出てくると先に外に出ていたセンとミカルと合流し、最後に人間の姿に変装したシウラが宿から出てくると、エル達は国の門の方へと向う。そしていつも通り門の警備兵をすり抜けようとしたが、門の前には勇者一行の姿があった。



「おやおや、お見送りかね」

「そうですよ、師匠

旅の成功を祈るのは弟子の役目なのは当然」

「弟子を取った覚えはないけどな

まぁ、せいぜい頑張れよ」

「師匠もね」



門の前で待っていた戦士ミーシャと軽い会話を交わし、エルは鼻で笑いこの国を後にする。シウラは勇者の仲間の後ろに隠れている勇者を睨み、勇者は怯えていた。そしてネティは素顔の状態でセンと無言のままお互いの顔を見ているが、言葉が出てこないまま別れる形となり、ヤマトから「ヘタレ」と言われていた。そして振り返ることなく歩みを進め、その姿が遠ざかっていく。



「……行っちゃうよ?本当にいいの?」

「いい」

「ふーん、あの中の誰かとくっついても?」

「………それは嫌

セン!!」



ネティは走り出しエル達を追う。センは背後からの呼びかける声に反応して振り向くとネティは自信の唇とセンの唇を重ね合わせる。センは突然のことで何が起きたのかわからずぽかんとしていると、顔を赤くしているネティがセンに向かって指をさす。



「……3人までなら許す」

「………バーカ」



ネティが勇気を出して行った行為にセンは赤面すると、精一杯の抵抗で一言絞り出した。それを聞いた瞬間、エルとヤマトが笑いをこらえることができずに吹き出した。シウラはうんうんと頷き、ミカルはニヤニヤしていると頭を掻きむしり「クソッ!!」と叫んだ。



「ネッ…ネティ?

それで結婚の事なんだけど」

「破棄」

「え!?」

「フフッ…素直じゃないな〜

私が言わなきゃどうなってたか」

「私はいつだって素直だよ

でも一人の前だけは…ね」



ネティはその姿が見えなくなるまでセンを見送ると、センと重ね合わせた唇を触る。その姿を戦士ミーシャの見守るような笑顔を向けていると、直ぐ傍で失恋をした勇者は破棄されたことを認めずにネティに詰め寄るが、他の勇者一行の手で別の場所へと運ばれていった。そしネティはセンの姿を思い出す度に幸せそうな笑顔を浮かべていた。

この章はこれで完結です

ちょっと短かったかなと思いますがこれで終了です


まだまだ続きますよぉ!!

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