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第64話 拒絶

遅くなり申し訳ありません。

唐突のことで何が起こったのかエル達にはわからない。ヘラとの戦闘に向けて準備をしていたエルの後方で断末魔が聞こえたかと思えば、ネティは蹲り、傷つけられ失明した右目を覆うようにして付いた火傷のようなものを片手で外に晒されないように必死に隠していた。狂ったように叫び、右目からは血が混じった涙を流しながら発作を起こしたように息が早まる。それはまるで自分の顔を拒絶しているように見え、自分の髪を掴んでいた。



「見ないで!!私の顔を見ないで!!!」



周りに人がいないとはいえ、ネティの今の行動は普段の様子からは考えられないほどに常軌を逸していた。それを見ていたミーシャは初めて見る親友の変貌に言葉が出ず思わず固まる。これは勇者一行もセンも知らないことであり、ネティはずっと素顔を隠し続けていた。


この顔のせいで親からは忌み嫌われ、呪われた子と言われ虐待を受けていた。だがこの顔を見ても普通に接してくれたのはネティの妹だけであった。それでも普通に接してくれているのは幼い妹であり、成長するにつれて妹も自分のことを避ける。だから前髪を伸ばして醜い顔を隠していた。外に出れば同年代の子供たちには気味悪がられ、大人には陰で囁かれ、いつも一人で隠れるように生活をしていた時、目の前に現れたのがセンだった。ネティは初めて見た時、センに一目惚れをした。そして暫くセンに見とれていると視線に気づいたセンはネティの方向に視線を向けるとネティは隠れるようにその場から顔を隠しながら離れ、自宅の鏡で自身の顔を見てはため息をつく。この顔で表へ出ることを躊躇っている今ではセンの前に立つことができない。この醜い顔を見た瞬間に周囲と同じ反応をすると思っていた。だからネティは本を読み、魔法を使えるよう努力をした。そして覚えたての魔法で一目惚れをした相手の顔と同じ顔を作り、人前に出ても恥ずかしくないように工夫をした。魔法でセンとそっくりの顔が完成すると必死に自分のことを覚えてもらえるようにセンがよく足を運んでいる場所へ毎日のように通い、センを狙う女たちとの闘いを制してセンの隣を勝ち取ったがネティは自分がセンと釣り合うとは思っていなかった。それでもセンの隣に別の人がいる光景を想像したくはなかった。だからセンの隣にいてもおかしくないように魔法を極めると神託で賢者に選ばれた。勇気を出して結婚の申し込みをしようと決心した次の日にセンは消え、再開したその日に自身の正面で立っているヘラに体の持ち主であるセンの瞳でネティが隠し続けていた顔が見られた。



「お願い……見ないで……」

「『理解できぬ 拒絶するほどに自分の顔が嫌なのか」』

「…………嫌に決まっているでしょう

こんな醜い顔をセンの汚れのない瞳で見られたくなかった

だから努力して魔法を習得したのに………

神託で賢者に選ばれてセンが私の前からいなくなって……

こんな思いになるとわかっていたら魔法何て……」

「『知らないようじゃから言うが、センは……主の顔の事は知っておったぞ」』

「……え」



その時、ネティはヘラから発せられた言葉に理解できずに茫然として顔を上げる。



「『わらわは女神同様にセンが生まれる前からこやつの体の中に宿っておった

わらわは誰よりもセンのことを理解しておるからの」』

「……嘘」

「『例え主が醜いと思っている顔をセンに見せても何も変わりはしなかったのじゃ

センの性格を知っておる主ならばわかるじゃろうに………

これはセンを信じることができなかった主の過ちじゃ」』

(………あぁ、そうか 私はセンのことを信じることができなかったのか

そんなことあるわけないのに私は避けられることを恐れて自分を偽り本当の姿を見せることができなかった

ハハッ……これじゃあ私も私の姿を見て醜いと言っている人たちと変わらないな

………私の前からいなくなって当然か)


「まぁそれは今知ったところで手遅れじゃがの センの言った通り主には死んでもらう

殺そうとしたのじゃ当然じゃろ?

じゃから来世では幸せな人生を送れることを願………うっ!?」』



ヘラの言葉に頭が真っ白になっているネティにヘラは左手へ黒い魔力を溜め、息の根を止めようとした時、背後から首を掴まれた。ヘラの顔は上へ向き状態が浮いたような感覚となったが、周りの者から見れば顔を上に抜けているだけで何も起きていなかった。ヘラは後ろへ視線を向けるとそこには女神と同じ霊体となっているセンの姿があった。



(そこまでだ)

「『何じゃ もう起きてしまったのか……残念」』

(あぁ、流石にヤバかった あともう少し深く意識を失っていたら完全に体の主導権がお前に渡っていたよ 俺の体だ、さっさと返せ)

「『んー… これは主のためと思っての事なのじゃが」』

(お前は善と悪の見分けがつかないのか)

「『ククッ…わらわは嫉妬で魔王を作ったからのう

判断できなくなってしまったのかもしれないの~」』

(冗談にしては面白くない 本気だとしたら性根が腐っているな)

「『そう睨むでない 宿主である者の命令にはわらわも素直に従う

主の体はわらわのモノでもあるからな 一応わらわは全知全能の妻じゃからな

じゃが覚えておくがいい、幾らわらわを封じたところで規格外である存在は規格外にしかなりえないのじゃ」』



ヘラの動きが止まり体の主導権がセンに戻ると長い髪が短くなり髪の色も元の茶髪へ戻り膨らんだ胸は縮むと女の体から男の体、センの元の体へと戻っていった。センは体の至る所を触り違和感がある箇所を治していくと



「『あー、あー…ンンッ!『あー、あー…ンンッ!「あー、あー…こんなもんか

………これで声が元に戻った

チッ…ヘラの奴、人の体を好き勝手やりやがって

だから外へ出したくなかったんだ」



完全に元の姿へ戻ったセンはヘラに完膚なきまでにされたネティへ視線を向ける。ヘラに体を乗っ取られていたとはいえ、ネティを自身の体でこのような状態にしたことに少しばかり心が痛んだ。センの視線に気づき、ネティは潰れた右目から血を流しながら見上げセンへ視線を向ける。



「ねぇ、…何で私から離れていったの?やっぱり素顔を隠していたから?本当の姿を貴方に見せなかったから?」

「…………」

「…………意気地なし、へたれ 何で……私を奪おうと思わかったの?

どれだけ……私がセンのことを思っていたかわかる?適性なんて関係ない、スキルなんて関係ない私は……貴方に…センに選んでほしかった」

「………」

「もう…昔みたいな関係には戻れないの? ……やっぱりこの顔が原因?」



ネティの弱々しい言葉にセンは黙ったままだったが、横目でネティを見ると目を閉じて口を開く。



「自信がなかった お前の顔のことは知っていた

でもお前が俺以外の奴に惹かれ、別の奴の隣にいるお前の姿を想像して怖くなった お前が結婚する姿を自分の目で見る前に去った ……只それだけだ」

「そんなことある訳ないじゃない ………バカ」



それを最後にネティは静かに瞳を閉じた。

まだまだ続きますよぉ!!

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