第62話 漆黒の扉
この話はすごい悩んで書きました。
気づいたら多く書きすぎてまとめるのに時間がかかりました
それではどうぞ
ここはセンの精神の中、真っ白で物という物は一切ないこの空間で賢者ネティは一人立っていた。
〈精神干渉〉を発動した賢者ネティが精神を破壊するために意識だけが中に入っていた。だが精神を破壊するための本体がそこにはなく、ネティは戸惑っていた。精神の本体となる物体がないとセンの精神の破壊はできないからだ。ネティは左右、前後、上下を見渡すも真っ白な空間が広がっているだけで何もなかった。すると徐々にいくつもの扉が出現した。それを見た賢者ネティは動き一つ一つの扉を開いていくと各扉の中にあったのはセンの感情であった。
喜び・怒り・悲しみ・悩み・恐怖それぞれの感情のセンが中にはいた。しかしこれらは感情であり精神の本体ではない。そして次の扉の中はセンの記憶。過去にどんなことがありその時どんなことを思っていたのかを見ることができる部屋だった。ここでネティは動きを止め、教会での神託後にセンが何を思っていたのか初めて知ることとなった。それを見たときネティの決意は揺れ涙を流しそうになったが、ネティは何とか踏みとどまり映像から強引に視線を外し、部屋の中から出る。
(何を迷っているの しっかりしなさい、私!!もう決めたことでしょ!!)
強引に閉めた扉に寄りかかりながらネティは気合を入れ直すかのように自身の頬を両手で叩く。迷っているのは自分の意志が弱いからでありこれではセンの精神の本体を目の前にした時に情けをかけてしまう可能性が少なからずあるという前触れでもあった。精神の本体は嘘をつくことができない、センの本心がそのまま形として現れる。故にそれを見たときネティは惑わされてしまわないか不安があった。だが勇者と魔王を倒しに行く以上、甘い考えがこれから先命取りになる。殺すと決めたら殺す。ここでネティの決意は一層固くなる。そして次から次へと現れる扉には見向きもせず前へ進んでいく。無我夢中に進んでいくと不意にそれは現れる。ネティはセンの精神の本体の前に立っていた。
(コレが…センの精神の本体)
それは椅子に座り頭を垂れており、体に白い靄がかかったような精神の本体は目を閉じて死を覚悟しているかのように静かだった。これを見たネティは精神の本体を破壊する準備をすると全く動こうとしない精神の本体を見たまま固まる。自分の死が近づいているにもかかわらず、何もしようとしない普通ならば精神の本体を破壊しようとしたとき、精神の本体は必ずと言っていいほど命乞いをするように自身のこれまでの軌跡の映像が映し出されるものだが、センの場合は違った。自分の死を受け入れているように何も変化がない、真っ白な個体にその姿にネティは言葉を失った。そしてネティは中途半端な気持ちで精神の本体を破壊しようと動く。
「さようならセン 今までありがとう
あなたとの日々は楽しかった」
センとの思い出が頭に浮かび、涙が流れ、唇を噛みながら破壊しようとしたその時、ネティはセンの精神の本体の奥にある扉に目を向けた。椅子に座っているセンの精神の本体その後ろにある鎖で頑丈に施錠されている不意に現れた漆黒の扉。そこから視線を感じ意識が自然に向いた。
「何これ……最初からこんな扉あったっけ?」
さっきまでそこには何もなかった。だがネティの瞳には間違いなく扉が移っている。ここに来るまでに見た数々の扉とは違い大きさも存在感も違った。そしてネティ精神の本体への破壊の手を止め、漆黒の扉に近づき手を触れた。その瞬間鎖は一斉に砕けた。そして扉がゆっくりと開いていく。ネティは扉が開き中を見ると全身が黒で隠れてその姿を確認することはできなかったが、形からして女性の姿であることは間違いなく不気味な様子で座っていた。それを見たネティは部屋の中に入ろうとはしなかった。本能がそれを禁じていた。だがネティは黒い人型から逃げ出すことも、視線を逸らすこともできず、その個体の前で汗が流れ、体は震えていた。それを見ているネティは〈精神干渉〉を発動する前にセンが言い放った「扉を開けるな」の一言を思い出し、その意味が今わかった。だが気づいた時にはもう手遅れであった。そして黒い人型は口を開いた。
『待ちわびたぞ』
(何……これ 私知らないこんなのがある何て知らない!!
どうなってんの?何で精神の本体はそこにあるのに……
あれはいったい何なの!!?)
『ん?何じゃ?何を固まっておる 混乱しているのか?
ふむ…若しや主、何も知らずにその扉を開けたのか?』
(何も知らずって………そもそもこの扉は何なの?
今まで〈精神干渉〉でいろんな人の精神の本体を見たけど………黒い扉何て見たことがない)
『何も知らずにしても、こやつが自身の精神の中に入ってくる時センが忠告をしておったはずじゃが…… じゃがこやつにセンは殺されそうになっておった
何故殺そうとする相手に忠告をしておるのじゃ? ………わからぬ
じゃがまぁその方がわらわには好都合じゃな ……感謝するぞ、小娘 その封印を解いてくれたことに コレでわらわは現へ戻ることができる』
「…………えっ?」
『先ずはそうじゃのう……… そなたの血肉を貰うとしよう』
黒い人型は最後の言葉をネティの耳元に囁く。黒い靄は徐々に消えていき、その姿をハッキリ見た時、ネティは強制的に〈精神干渉〉を解かれる。そして自身の意識が戻ったとき、それに驚いている余裕はネティにはなかった。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!!!!」
「「「「!!!?」」」」
それは空へ放たれた聞く者全ての耳に響く叫び。
その光景を遠くで戦いの行く末を見ていた者たちはスローモーションのようにゆっくりと時が進んでいるそれをハッキリと見た。そこにいたエル達には何が起こったのか理解できなかった。冷静に見ていたセンとヤマトは目を見開き、シウラとミカルは硬直する。
センの周りにゆっくりと雨のように落ちていく数々の赤い水滴は緑の草を赤く染めていた。ネティが大きな声で叫びセンの頭を掴んでいた手から肘から下の部分がなくなり、千切られたような傷口から血が噴水のように噴き出す。目を疑うようなネティの姿に勝利を確信した勇者一行は言葉を失っていた。そして左手を抑えながらネティが膝をつくその目の前でセンがネティの左腕に齧りついていた。
『「んん…久方ぶりの現じゃな …不味い肉』」
余りの痛さに嗚咽しながら苦しむネティをよそに、センは男と女の声が混じった声で呟く。膝をついていた状態から立ち上がると右手にはネティの左腕と思われるモノを持っていた。それを再度、口元へ運び大きな口を開けて齧る。クチャクチャと粗食すると地面へ吐き捨てる。ネティの左腕を上にすると傷口から滴る血を口で受け止め飲んでいるとネティに与えられた傷が治り始めていた。
ネティの左腕の血を飲み干すと口元を手で拭い放り捨てる。センの体は全快していた。
『「不味い… おかしいの…純潔の少女の血な筈じゃが、味が落ちておるの
純潔でもこの味では吸血鬼どもは苦労しておるの
さて……この体のままでは不便じゃな どれ』」
するとセンの両腕に黒い模様が浮かび上がり右目の眼球は赤く、瞳孔は金色に変色していった。髪は長髪に変わりながら金と黒、赤の三色に変色すると体つきも男から女へ変化していく。混じった声はそのままであるが自身の体を確認すると、ネティを見下ろしていた。
『「声は………まぁ致し方無い さて小娘よ
確かセンを殺すと言っておったな その続きをわらわとやるとするかの』」
「フーーッ…フーーッ………」
「アリス…アリス! …チッ、反応しないな ヤマト!」
「わかってる ミレス!」
『はい何でしょう』
「ありゃ何だ?どう見ても悪魔にしか見えねぇんだが」
『…? ……えっ ヘラ……なぜここに』
「ヘラだぁ!?」
「は? ヘラだと?何でそんな奴がセンに………厄介なやつとはそういうことか」
エルは慌てたような様子でアリスを呼ぶが、返事はなく思わず舌打ちをする。今までアリスがエルの呼びかけに反応しないときはなかった。しかし今回に限ってアリスは「うん」とも「すん」とも言わなかった。無反応なアリスに諦めたエルはヤマトに声をかけもう一人の女神を呼び起こした。ヤマトに憑いている女神ミレスが呼びかけに答え表へ出てくる。
ミレスは出てくるなりヤマトらしくない問いかけに首をかしげながらヤマトと同じ方向に視線を向けると、驚愕をあらわにする。本来であれば地上にいる筈のない、いてはおかしい神がその瞳に映りミレスは言葉を失う。
その神はアリス、ミレスよりも上位の存在、地上に干渉することのない全知全能の神ゼウスと唯一の同格の神、[神王妃ヘラ]であった。
エルは以前、ミヨコがセンに言い放った言葉を思い出し、今理解することとなった。
史上最悪と言われる神が地上に現れた。
まだまだ続きますよぉ!!




