第59話 思わぬ再会
ちょっと短いかな?
(似ているな)
『そっくりだね』
(双子かと思いましたよ)
(わぉ)
(似すぎでしょ)
エル達は歩み寄ってきた賢者の顔を見て思った。賢者の顔がセンにそっくりなのだ。双子と疑っても問題ないくらい似ているのだ。これに前に滞在していた冒険者ギルドでの一件を思い出す。名前は知らないが[金色の兎]のリーダーがセンに向かって賢者と呼んでいた時のこと、勇者を崇拝している国がセンを賢者と間違えたとき[金色の兎]リーダーの言葉にセンが苦虫を噛み潰したような顔をしていたことを思い出していた。その時は似ているだけだと思っていたが生き写しレベルだとは思わず、唯一の違うところは性別の身であった。
(そうか……コイツが)
「知り合い?」
「……いや、初対面だ」
「いやいや、お前の正体バレてるじゃねぇか」
仮面を着けて返送をしているのにも関わらず賢者はセンを見破り、親しげな様子でセンに話しかけてきた。センは初対面であるかのように接していたが、名前を呼ばれたときに反応をしてしまった時点で知り合いであることを認めてしまっていることに気づいていなかった。声のトーンから線が会いたくない相手であることは何となくエル達は察していた。
「ひどいな…初対面だなんて
そんなに私のことが嫌いなの?」
「ネティ?初対面の人に何を言っているんだい?」
「どこに行ったのかと思えば、変な仮面着けて何をしているの?
親御さん心配していたよ?………それに私も」
「余計なお世話だ」
「………元気な姿が見れただけでもよかったよ」
賢者が最後に発した言葉は声が小さくセンの耳には届いていなかった。正しく言えば賢者の言葉を聞こうとしなかった。理由がどうあれ賢者が本気で心配していたことは見て取れた。しかしセンは賢者に目を合わせようとしなかった。
「賢者でいいのか?それとも勇者の婚約者と呼べばいいのか?」
「どっちでもいいよ」
「賢者でいいか…賢者はセンと一体どういう関係なんだ?」
「センは私の……幼馴染よ」
「とか言ってもっと深い関係にあったんじゃねぇの?」
「バカを言うな、ヤマト
コイツとそんな関係になることなどありえない」
「………そうかい」
「…………」
(アイツ…過去に何があったんだ?)
『…センにも色々あるみたいだね』
エルと出会い、行動を共にしてから自然と問題児達《エル達》のまとめ役となっていたセンが今、ミカルすら見たこともない表情をしていた。センの性格はどちらかと言うと温厚に近い、誰にでも優しく、頼られれば断らず、自分よりも他人のために動く、正に良い人の見本である。だが今のセンは感情を制御できず仮面を着けていてもエル達にはセンの今感情がわかった。それは怒りだった。誰に対しての怒りかさすがにそれはわからないが、センは[金色の兎]のリーダーが賢者と呼んだ時にも一瞬だが殺気が表に出たことをエルは知っていた。そのことからエルだけが賢者に怒りを向けているのだと考えていた
『ん!?』
(どうした?)
『………何でもない
暇だから寝るね』
(わかった)
アリスが何かに反応したかと思えば、退屈のあまり眠る言いだすのはいつもの事なので放っておく。センは目を逸らし続け賢者を見ようとしなかった。今賢者がどんな顔をしているのか知らずに適当にあしらっていた。目を合わせないセンに対し賢者の顔をハッキリと見ているヤマトは頭を掻きながらどうすればいいのか珍しく悩んでいた。一向に目を合わさないセンに対し、賢者の目に涙が溜まっているのに気づいてしまったからだった。
沈黙が続くと賢者の口が再び開く。
「…………ねぇセン、私ね…勇者と結婚するの」
「そうか」
「だからね センにもう一度会えた時にはお別れを言おうと思っていたんだ」
「そうか」
「………結婚式には出席している私達を祝福してほしい
だから…」
「それは無理だな」
「………っ」
「見ての通り俺は忙しい
祝儀は渡すからそれでいいだ…」
パァァン…!!
「「「「………」」」」
結婚するという報告すらも無反応のセンに対して、センの言葉を遮るように強烈な平手打ちの音が部屋中に響き渡り、着けていた仮面が地面へ落ちる。暫くその近くにいた勇者一行とエル達は茫然としていた。素っ気ない態度をとり続けたセンに賢者の堪忍袋の緒が切れたのかと誰もが思い視線を向けると、賢者のその瞳からは涙がこぼれ墜ちていた。
「あー…やっぱりダメ」
「…………」
「これで完全に終わろうと思ってたのに
祝福されれば嫌な思いしなくて済むと思ったのに」
「…………」
「………セン、私はこの手で殺したいほど貴方が憎いの」
賢者ネティは片手で顔を抑えながら涙を流しながら話していた。久々に再開した幼馴染を前に気持ちが抑えられず表へあふれ出る。ある日センが何の前触れも一言もなく失踪した日から賢者はおかしくなっていた。思い人が現れそのことを一番に報告したい人、祝福してもらいたい人がそこにいない、そのことを確認するたびにどうしようもない喪失感が自信を埋め尽くしていっているのが自分でもわかっていた。結婚することで、祝われることで気持ちを抑えることができると思っていたが、それを拒否され抑えていた感情を止めることはできなかった。中にある憎しみはさらに膨らみ自分ではどうしようもなくなっていた。
だから賢者が選んだ選択は
「ならどうする…お前は何がしたいんだ」
「…………わかるでしょ?」
「………それが望みか」
「うん」
「……ネティ?」
「ごめん、ロデス、ハンナ、カルロ、ミーシャ…今だけパーティーを抜けさせて」
「……場所を移そうか」
賢者は勇者一行へパーティーを抜けることを告げる。その行動からエルはセンと賢者ネティの二人を止めることは出来ないと悟り、黙って仮面を外し転移魔法を発動した。
そしてセンの中にいる何かが目覚めようとしていた。
まだまだ続きますよぉ!!




