第47話 残された時間
[devils joker]の壊滅、その情報はすぐに広まった。
三団体による[devils joker]の殲滅作戦を練っていた所に壊滅の知らせが届き、代表の三人はそれが本当に事実なのか疑った。
それはこちらを油断させる為のニセ情報では無いのかと…
しかしより詳しい情報を得ようと調べていくと、より偽情報という線が高まった。
[devils joker]を壊滅させたのは一人の女性であり、その人物は百合カップルの片割れのナンパ師であるという事に耳を疑った。
ヤマトが戦っている姿を一度も見た事がないプレイヤー達には、百合カップルのナンパ師と認識されていてもおかしくはない。
前線に出て注目を集めるのとは違い、ダンジョン内以外でプレイヤーの死傷者を出さぬようにしていたのだ。
攻略を第一と目的にしているプレイヤー達には気づかない所で、ヤマトは動いていた。
見ず知らずの他人でも、可能性がある限り救い続けていた。
それが例え犯罪に手を染めた者でもヤマトは惜しむ事なく救った。
だが[devils joker]や意図的にプレイヤーの命を奪った者達には、脳にダメージを与えた。
彼らは現実世界に帰還した時、体に障害が残り、普通の人と同じ生活を送る事は無かった。
それとは別に、[devils joker]の壊滅の知らせを聞いた時、ライムはエルがシウラに耳打ちをした場面を思い出した。
あの時エルの後ろで待機をしていた[冷血女王]に何の躊躇もなく耳打ちをしていた時には、驚きのあまりに固まってしまっていたが、エルが顔を離した時に了承したように頷き、当たり前のように行動に移した姿を見たときには二人の関係がどういうものであるかを理解していた。
しかし約二名は理解していなかった。
「……ということなんだけど」
「そりゃあ偶然だよ」
ライムたちは会議の途中で抜け出し、二十五階層にいるエルのもとへと向かい、真実を聞きに行った。
だがこうしてあっさりエルに真実を確かめることができたわけではなく、二十五階層にいることはわかっていたが、その姿を見つけることができず三時間歩きまわり、諦めようとしたとき、ふと上を向くとショーカが吞気に木の上で昼寝をしていたエルを見つけた。
そして今に至る。
「その何とかってギルドがヤマトを怒らせるようなことを言ったんじゃねぇの?
女同士とか気持ち悪~いとか…
あいつは気にしないか…」
「女同士?」
「あんた知らないの?
十九階層じゃ有名よ?」
「私達も声をかけられました…」
「あぁそうなんだ…
すまんな、うちのバカが」
女性プレイヤー中心にヤマトの被害が及び、男性プレイヤーには指一本触れていない。
ライムが知らないのもおかしくはない。
この世界に来てからヤマトはエルとセン以外の男と話している姿を見た者はいない。
男が嫌い、苦手、気持ち悪いということではなく、ただ綺麗な女性しか視界に入っていないだけである。
性格が悪くとも顔がよければ全てよし、ヤマトはそういう奴である。
「それで要件はそれだけか?」
「あぁ今のところは…
「冷血女王は一緒じゃないのか?」
「シウラに用があるのか?」
「[神風]の団長が探していたからな」
「…もうそろそろ来る」
そしてその数分後、シウラが二十五階層へ到着した。
周りの視線を集め、見る者を魅了していく中、シウラはエルのもとへ近づき報告する。
「エル様」
「おう、どうだった?」
「問題ありませんでした」
「そうか、ならいい」
「しかし…」
「ん?」
「一つ…消滅したようです」
「……あぁ…そう…どっち?」
「手加減をしても余波がこちらまで届くほうですね」
「……普通に考えればそっちだよな…
これはゆっくりしてられないな」
「はい」
エルはシウラの報告を聞くと、木から降り、そしてため息をつきながら転移門のほうへ歩みを進める。
「はぁ…何だ?〈ジャイアント・インパクト〉でも放ったか?」
「はい、恐らく…
大規模な地震が起きたようですから」
「そりゃ間違いないな」
このシウラの報告を聞き、この世界に居続けることのできる時間が余り残されていないことを悟った。
エルはシウラへ耳打ちをした時に頼んだことそれは、外の状況のことであった。
この世界に来てから外の状況、元居た世界がどうなっているかエルは把握しておらず、外に出たときに二人のうちどちらかが待ち構えていないか不安でいっぱいだった。
だからシウラに確かめに行ってもらっていたのだが、一つ消滅したという報告を聞き、いつここに来てもおかしくはなくなったのだ。
危うくこのゲーム世界を楽しみすぎて、あと一日でもシウラに調査を頼むのが遅ければ、十中八九この世界も消滅していたのは間違いないと予想するまでもない結果となることを、エルはわかっていた。
気が短く、視野が狭い、全ての問題を力で解決しようとする。
力こそがすべての彼女がこの世界に来た時には、プレイヤー諸共この世界を跡形もなく破壊するのは間違いない。
だから一刻も早く攻略をしなければならなかった。
「…さてシウラ」
「何でしょうか」
「お前から得た情報から分析した結果、俺たちに…いやこの世界に残された猶予はあとどれくらいだと思う?」
「多く見積もり三日、少なくとも二日かと…
最悪の事態を考えると今夜がこの世界の最後の夜になるかと存じます」
「そうだな…
ならやることはわかっているな?」
「はい」
「セン、ヤマト、ミカルを二十七階層に集まるように連絡しろ
今日中にけりをつける」
「御意」
シウラは直ぐに通信魔法で三人へ連絡を行う。
この時、エルは完全にライム達の存在を忘れていた。
しかしライム達は何も言わずに二人の理解不能な会話を聞いていた。
ここでライム達の存在を思い出したかのように、エルは振り向く。
「……そういえばシウラに用があるんだったっけ?
悪いな、もういいぞ?」
「…いや、大丈夫だ
それよりも、攻略するのか?
第百の階層主のいる可能性のある二十七階層を…」
「あぁ、攻略する
俺がこのゲームを終わらせてやる」
「……死ぬかもしれないぞ」
「何だ?
最近会ったばかりの顔も知らない俺を心配してくれているのか?」
「……そうだ」
「……そうか、なら心配いらない
前にも言っただろ?お前らは大人しく待っていればいい…
俺は大丈夫だ」
エルはライム達を安心させるために言ったのではない。
これはエルの素直な気持ちから出て来た言葉であった。
その言葉を聞きライムは少し安心してしまった。
桁外れ強さを目の当たりにし、一人で各階層の階層主を単独で撃破してきたエルの言葉には重みがあった。
だからライムは言い出せなかった。
エルと共に戦いたいと……
確かにエルとは最近あったばかりである、しかしライムはエルを他人として振る舞うことはできなかった。
死が間近にあるゲーム世界で生きて帰れる希望をエルから与えられ、プレイヤーにとってそれはこの世界で生きる盾となった。
しかしエルが単独で攻略していった事実を知るものは全プレイヤーの中でライム達四人だけであった。
この事実を広めればエルは間違いなく英雄になれる。
しかしエルはそんなことには微塵も興味がない。
そんなエルに恩返しをしようとするも、何ができるのかを考えれば考えるほどわからなくなっていった。
そしてこれが最後の攻略になるだろう第二十七階層
ここで第百階層の階層主が二十七階層に現れようとも、エルの頭の中には「死」の言葉は浮かんでいない。
絶対に死なない自身を持って挑むエルと共に、友としてライムは戦いたかった。
だが、そんなライムの願いはエルには届かなかった。
すると…
パアァァァァァァァァァァァァァァン!!!!!
「…………!」
前方から平手が仮面をつけたエルの頬に打たれた。
突然のことでエルは一瞬何が起こったのかわからずに固まる。
エルは視線を前に向けると、そこにはアイルの姿があった。
「oh……マジか」
「……アイル?」
エルはアイルの想定していなかった動きに驚き頬を打たれた箇所をさする。
これにはライム、ミルリア、ショーカも同じ反応をした。
そしてアイルはエルの胸ぐらを掴み顔を寄せた。
「…………ふざけるのもいい加減にしなさい」
アイルは鬼気迫る表情で睨め付ける
エルは抵抗せず、アイルの怒りから目を背けるようなことはしなかった。
このアイルの行為が、後にエルを手助けすることになったのは、もう少し先の話。




