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第44話 独断

エルは階層主の部屋まで全速力で走り、部屋へ入るとドラゴンの階層主はエルに向かって再び炎を吐き出す。



(同じ手を二度も喰うかよ!)



部屋の中へ入り大きく右足を一歩を踏み出すと、エルは天井へ飛んだ。

そして天井を蹴り、階層主の真上から額を目掛けて拳を打ち下ろした。

階層主の部屋に入り、階層主に拳を打ち込むまで掛かった時間は一秒未満であった。



「死に去らせぇぇぇぇぇぇえ!!!!」



階層主の顔はエルの攻撃で地面へ減り込んだ。

アリスの許可なく拳に魔力を纏い繰り出した攻撃は、階層主への効果は絶大であった。

そしてエルの一撃で階層主の体力は半分以上削られていた。



「舐めた真似してくれたなオイ!

この罪は重いぞ?

原形をとどめる事が出来ないくらいに粉々にして呑み込んでやる!!」



アリスの魔力を纏い、髪の一部分、左目、ローブ、が白へ変色していく。

エルはアリスの魔力を大量に体に纏わせると、眠っていたアリスは自身の異変に気付き飛び起きる。



『ちょっとエル!!

勝手に私の魔力を使うんじゃない!!』

「おぉ…悪い

〈断罪の大鎌〉を使ってコツを掴んでからお前の魔力を使うのが楽しくなって…」

『はぁ……まぁいいけど

でもさ…相手が瀕死の状態なのに使う必要ある?」

「少し試したい事があってな

この状態でこの世界の魔物をどこまで切り刻めるかの実験をするんだよ」

『(……何か苛ついてるね

私が寝てる間に何があったのか…

もうこれは実験というよりも……まぁいいか)

フーン…あまり使い過ぎないでね』

「あぁわかってるよ、変形…[贖罪の劔]」



これは魔力が見えるものにしかわからないが、エルの右手に持つ大鎌が纏っている魔力が剣の形へ変形する。

透き通った透明感のある輝きを放つ結晶型の劔。

アリスが魔人族との争い時に実際に使われたメイン武器である。

武器が変形した時、部屋の中の空気が変わった。



「己の罪に懺悔しな」



エルは起き上がる階層主の元へ真っ直ぐ歩み寄る。

階層主がエルへ炎を吐き出そうとした時、エルの姿が消えた。



エルが走り去ってからダンジョンの外へでは、シウラと四人のプレイヤーが取り残されていた。

エルに放り投げられた二人のプレイヤーは呆気にとられ、シウラは抱えていたもう二人のプレイヤーを優しく、そっと降ろしてこの事態をどうするべきかを考えていた。



(……さて、どうしましょうか

音からして、エル様は今階層主と戦闘を行っていますね。

加勢は必要無いでしょうけど、事後をどうするかお困りになるでしょう。

立場上…目立つような事は極力避けたいのはエル様も同じ…

しかしエル様の姿はこの者たちに目撃されてしまっている。

…先ず行うのはこちらからですね)



シウラはエルに放り投げられた二人プレイヤーへと歩み寄る。

今行うべき事を早急に対処して、エルの元へ向かうために四人のプレイヤー達への口封じを行うつもりであった。

エルの事は黙っていてほしい、そうお願いする為に…



「大丈夫ですか?

何処かお怪我はされていませんか?」

「「…………」」

(……反応がありませんね

打ち所が悪かったのでしょうか)



シウラはエルの人間離れした動きを黙っているようにお願いするつもりであった。

シウラもエルと同じ動きをしていたが、自分は立場上何とかなるが、エルの場合隠れた実力者として調査され、ギルドがスカウトに動く恐れがあった。

だがシウラの心配とは裏腹に、プレイヤーはシウラが行おうとしている対処とは全く関係のない事で固まっていた。



「……冷血…女王」

「?」

「[神風]の副団長[冷血女王]ですよね!!」

「はい…そうですけど…」

「お会いできて光栄です!!

私前に貴方に命を救ってもらった事があるんです!!」

「はぁ…そうですか」



このプレイヤーはシウラが[神風]に所属して副団長になりたての頃に単体でダンジョンの創作を行った時に犯罪ギルド[devils joker]と遭遇して襲われていたところを救ったプレイヤーであった。

しかしシウラはこの事を全く覚えていない。

プレイヤーは目を輝かせながらシウラへ迫っていく、シウラは後退りして他の三人のプレイヤーに目で助けを訴えかけようとするも、一人を除き、二人のプレイヤーはシウラへ話しかける機会を伺っていた。



「あの……わたくしこれからダンジョンの調査がありますので失礼します」



プレイヤーへ丁寧な言葉で断りを入れその場を去ろうとしたが、一人の男のプレイヤーがシウラが心配していた事を触れた。



「あー…その前にいいですか?」

「………手短にお願いします」

「えっと…貴方と一緒にいたあの仮面の男は何者ですか?」



男のプレイヤーは目の前にトッププレイヤーの[冷血女王]がいる事で忘れてしまっていたが、あの時[冷血女王]と一緒にダンジョンに入って行った男を思い出していた。

ダンジョから走って脱出した時、[冷血女王]と同じ速度で走っていた以前のダンジョンに入る前に見かけた時の[冷血女王]と肩を並べているにも関わらず、圧倒的な存在感を放つ仮面の男が誰であるのか、ずっと気になっていた。

見た瞬間から強者であるとわかるのに、この仮面の男の噂が全く無かった。

どのギルドにも仮面の男の姿を目撃した記憶が全く無い。

だから仮面の男を確実に知っているシウラへ質問をしたのだ。



「あれ程の……見た瞬間からわかるあの強者が何故今まで表に出ていなかったのか…

あんな強者の話が無いなんておかしすぎる!

貴方は知っているんでしょう…あの仮面の男を」



男の質問にシウラは直ぐに返答しなかった。

下手にエルの事を話せば、噂が広まりエルの嫌いな面倒ごとを引き起こす恐れがあったからである。

他の三人のプレイヤーはシウラに会えた事で満足して仮面をつけたエルの事が頭から抜けていたが、男の質問で仮面をつけたエルの事を思い出す。

目撃されてしまった為、変に嘘はつけない。

そもそもシウラは嘘をつくのが下手であるが故に、真実を隠すことが出来ない。

だが初対面の相手がシウラの嘘を見抜く事はない。

シウラは嘘をつくと右手で左耳を触る癖がある。(本人は気づいていない)

しかしシウラは嘘をつく事が殆ど無く、真面目であるために、結果あらゆる事を想定した後に教えてしまう。



「……知りたいのですか?」

「はい」

「他言無用でお願い致します」



シウラは四人のプレイヤーを連れて、階層主と戦っているエルの元へ行く事にした。

それまでの道中、プレイヤーからのシウラへの質問は止まる気配がなかった。

憧れの人が目の前にいれば当然質問は止まらない。

シウラは嫌な顔一つせずに質問を一つ一つ答えられるだけ答えていった。



「あの…」

「何でしょうか?」

「それであの仮面の人は何者なんですか?」

「……それは直ぐにわかります

アレをご覧になれば…」



気づけば階層主の部屋の前まで来ていた。

扉が開き部屋中は斬撃痕で滅茶苦茶に破壊されていた。

部屋の中心には階層主の上にエルが座っていた。

切り傷が全身に入り、階層主の手、脚、羽、尻尾、首が地面に転がっていた。

そしてこの階層主との戦いでもエルは無傷で勝利していた。



「ん?…おぉ遅かったなシウラ

何で四人を連れてるのか知らないけど」

わたくしの独断です」

「そうかい」



目の前の有り得ない光景に、男プレイヤーは目を擦り、他の三人の女プレイヤーは呆然としていた。



「何これ…」

「……まさか一人で階層主を??」

「マジかよ……」

「ヤバイな…階層主を一人でって、一体どんな……あれ?」



階層主を一人で倒したエルに頭が混乱している中で、ここで男のプレイヤーがある事に気づいた。

それはエル達にとってはどうでも良い事だが、プレイヤーにとっては重要な事だった。



「この階層主……八十階層で出てくる魔物だぞ…」



この生死が関わるゲーム世界で致命的なバグが知らぬ間に起きていた。

八十階層で出て来るはずの階層主が二十六階層で出て来るという謎の現象が起こり、この事実が全プレイヤーを震撼させた。

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