第40話 管理室
場所は仮想世界に戻り、現在エルは第二十階層攻略から第二十五階層まで一人で攻略を進めていた。
この日までエルがダンジョン内で負ったダメージはゼロであり、無傷のまま攻略を進め、正体を隠し鍛冶屋と攻略を両立しながら過ごしていた。
エルは人気の少ない真夜中に攻略を進め人目を避けていた。
しかし第二十三階層辺りから真夜中にダンジョンに潜るプレイヤーが増えてきた。
その理由は一つの噂によるものだった。
それはチートプレイヤーという噂である。
全戦無敗のプレイヤー、ダンジョンに入れば道中の魔物や階層主を簡単に倒す。
あり得ない速度で動き、普通なら出来ない様な事を連発し、見たこともない技を使い無傷でダンジョンを攻略しており、そのチートプレイヤーは真夜中に行動しているという噂が流れ真夜中にダンジョンに入るプレイヤーが増えていた。
プレイヤーが真夜中にダンジョンへ入って行く為、エルは次の階層へ行くことができずにいた。
鍛冶屋へ戻り噂が無くなるまでプレイヤーと世間話をしたり、武器を量産したりして過ごしていたが、段々とやる事がなくなり暇を持て余していた。
そこでエルは一度、シウラ、セン、ミカル、ヤマトを呼ぶことにした。
それぞれの現状を話し合うという事ではなく、暇だから会おうという感じであった。
エルは〈伝書鳩〉を発動し四人へ飛ばした。
第十八階層の飲食店を集合場所と指示をして、店を閉め転移門へ向かい、第二十六階層の街中から第十八階層へ転移し、飲食店へ向かっていくと、歩きながらこんな事を思っていた。
(そういえば、この世界って何で転移門があるのにプレイヤーは魔法が使えないんだろうな)
『さぁ…ダンジョンで魔法を使ってるのはエル達しかいないし…
階層主が魔法を使うのにプレイヤーは物理攻撃しか出来ないのは確かにおかしいけどね』
(魔法が使えないだけで、俺達とプレイヤーとでは難易度が全く違うからな…
不便だよな…プレイヤーは)
『途中から魔法を使わないで攻略をしてる人が言っても説得力は無いね』
(だって〈断罪の大鎌〉使うと一撃で終わるだろ?
魔法を使わない方が長く戦いを楽しむ事ができる)
『……その考えをプレイヤーに分けてあげたいね』
この世界には各階層に転移門が設置されているにも関わらず、魔法を使えない事に疑問を抱いていた。
転移門は間違いなく魔法であるが、この世界の者達は魔法を使う事ができない。
魔法が存在しているのに、魔法が使えないという矛盾がこの世界で発生しているが、エルは深く考えないようにした。
そして集合場所へ近づいて行くと、飲食店の中には既に四人が席に座っていた。
「おう、早いじゃねえか」
「そう?時間どうりだと思うわよ?」
「俺は近くにいたからだけど…
シウラは俺よりも早くいた」
「?、10分前行動は当然です」
「え?時間決まってたのか?」
「いや…時間決めてないぞ?」
伝書鳩を飛ばしてから大して時間は経っていないにも関わらず、エルよりも先に四人は席へ着席していた。
役数ヶ月ぶりの四人の再会であるが、これと言って変わったことはなかった。
一部を除いて…
シウラは少し髪が伸び、見慣れない服装をしていた。
センは別行動を取った日から何一つ変わっていなかった。
ミカルも騎士の鎧ではなく軽装で露出したものを控え、冒険者と認識されても違和感はない服装であった。
そんな久々の再会であるが、シウラとセンは明らかに視界に入れないように、二人は視線を逸らしていた。
その理由はエルが到着した瞬間に真っ先に目を逸らしたものと同じである。
触れてはいけないが触れなければならなかった。
「お前達も元気そうだな」
「ん?お!エルじゃーん!
おっひさ〜!」
「「「…………」」」
『うわぁ…』
エルが触れたくないもの、それはヤマトの事だった。
エルはこの世界で鍛冶屋を経営している為、来店してくるプレイヤーから情報を得ることが多かった。
その中でこのヤマトの事がエルの耳に入った時、何とも言えない表情をした後にプレイヤーに苦笑いをしていた。
ミカルに抱きつき、首筋を舐めている光景を見れば誰でも目をそらす気持ちがわかるだろう。
「……そういえば、お前ら変な噂が出てるが…
その…大丈夫なのか?」
「何が?」
「知らないのか?
お前ら百合カップルなんて言われてるぞ?」
「?、何それ凄いの?」
「いや…あー…まぁいいか、お前が良ければ」
「良くないわよ!」
ヤマトは人目も気にせずミカルに抱きつき、淫らな行為に及んび、毎日ミカルの身体のどこかしらに小さな痣を作っていた。
ミカルが気づかない所にまで痣がある事があり、ミカルは街の人々の視線を気にしていた。
原因を作っている問題であるヤマトに反省点はなく、寧ろミカルにのめり込んでいる。
しかしヤマトの被害者はミカルだけではなかった。
この世界にいる女性プレイヤーにもヤマトの被害者が続出していた。
その事をプレイヤーから聞くたびに、エルは日に日にため息が増えていた。
「……それは置いといて、お前ら何か変わったことあった?」
「話を変えないでよ!」
「そうですね、私はあるギルドへ所属し、そこで副団長の職務についています」
「ギルド?」
「はい、攻略組の人々が立ち上げ、戦闘に特化したプレイヤーが集められたギルドです。」
「攻略組…」
「神風という名の【アースガルズ】最強ギルドだそうです」
「あぁ…あの翠の鎧や騎士服を着た連中か」
「!、ご存知でしたか」
「よくウチの店に来るよ」
ミカルとヤマトの問題は置いとき、今それぞれの現状を話し合う事にした。
シウラはこのゲームで複数存在する組織、ギルドに加入していた。
攻略、治安といった役割を持つギルドが結成され、その攻略を目的として結成されたギルドはダンジョン攻略に力を入れ常に最前線で戦い、死傷者が後を絶たない。
現実世界に変える為に行動する者がいる中、中には殺人を繰り返すギルドも存在していた。
この世界での死は現実世界での死、それをわかった上で快楽を求め殺人に走っているプレイヤーもいた。
シウラは組織にあえて身を置き、目を光らせていた。
「俺からもいいか?」
「おう」
「実はな…シウラから頼まれて、この世界の隅々を調べていたらな」
「シウラから?」
「私は今の立場故に自由に動くことはできませんから」
「第一階層のある所に、第一階層の更に下に通じる階段があった」
「ほぅ…」
「それで階段を降り下へ向かってみたら、妙な物を見つけた」
「妙な物?」
「うん、正方形の石碑があった」
「石碑?」
「それでその石碑を色々弄っていたら…
空中に文字が映し出されて、俺の頭では理解できない事が書かれていてな…
それを理解するのに二時間かかった。
そんで調べてわかったことだが」
この時、誰も二時間で全てを理解した事に驚きはしなかった。
センはシウラからの依頼で第一階層から第19階層を隅々まで調べ、第一階層に地下へ通じる階段を見つけ調査を行なっていた。
そして地下にある石碑を見つけた。
センは石碑を隅々まで調べ上げ、そして石碑から映し出された情報など全てを二時間で調べ上げた。
そして調べ上げた結果。
「あそこは管理室…というものだったけど
プレイヤーの事も少し調べてみた」
センはエル達のいる世界にはあるはずのないコンピュータと同じ機能を持つ石碑をセンは使いこなし、この場所が管理室であることを突き止めた。
石碑はゲーム内全体を全体制御、管理しているメインシステムであり、現実世界とは別にこの仮想世界の中で管理を行い、ゲーム内で起こった出来事の記録が付けられていた。
センは石碑を使い、ゲーム内の事だけではなくプレイヤーの現実世界を知る事に成功していた。
そしてセンは現実世界やこの仮想世界を知り、今プレイヤーが現実世界で置かれている状況を知ることができた。
この世界とは別に現実世界に体があり、このゲーム世界へ意識だけが飛ばされ、この世界で命を落とせば現実世界にある体も同時に命を落とす事も、その仕組みもセンは調べていた。
「…簡単な言えば、プレイヤーは充実した日々から突然戦場に送り込まれた兵士というものだった」




