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第37話 悪魔王

「………」



黒いローブを身に纏い、フードを深くかぶり素性を隠しダンジョン内へ入って行くと、第一階層のダンジョンと同じ景色が広がっていた。

これはエルが知らないだけで、ダンジョン内は全て同じ様にできており、違うところは階層主のいる部屋までの道筋と魔物や階層主といったところだった。

レベルも上がり、攻撃パターンも多彩になりプレイヤーを苦しませ続けている。

階層に上がるにつれ魔物の強さは上がり、レベルを上げなければ攻略も困難になる。

そして何より生半可な覚悟で挑めば当然命を落とす。

しかし死ぬ覚悟を決めるのとはまた違う意味となる。

エルは死ぬ覚悟などしていない。

窮地に立たされた時、常にどう生き残るかを考えている。

例え死が迫ってきたとしても、生きている限り、踠き苦しみながらも生きる事を諦めずにエルは足掻き続ける。

だがいざその時になった時には、自分に残された時間を使い果たしたと思い、納得しながら息を引き取るだろう……だがそれは今では無い。



ダンジョンを進むにつれ魔物がエルへ迫る。

斬撃を浴びせても、傷が付くだけで血が出ずに治る。

攻撃を貰っても怯まず、スタミナが尽きる事なく攻撃を相手へ放つ。

そして相手の体力が尽きるまで攻撃を与えると、魔物は炎に包まれ消える。

エルは自身のいる世界との誤差を修正する。

魔物が生き物と認識する誤差を物として修正し、このゲーム内にいる人間以外の生き物全てに感情を抱かない様にした。

襲ってくる魔物はエルが刀を抜く動作も見抜く事なく、その身は炎に包まれ消える。

傍から見れば魔物の横を通り過ぎ、気づいたら魔物が倒されていたというものである。

ダンジョン内にはエル一人しかおらず、その様子を確認できるものはいないが、刀を収める際に鳴る金具音が静かに音を立てた。

道中人型、四足歩行の魔物が襲ってくるが、魔物らの攻撃は遠距離で仕掛けてくるものも含め、攻撃に転じる前に炎に包まれ消えていた。

するとエルはゆっくりと足を緩め止まると、天を仰ぐ。



「………なぁアリス」

『……何?』

「変なこと言ってもいいか?」

『いいよ…今ここには誰もいないからね』

「……人が死ぬ時、人の死を感じる時、人の死を聞いた時、俺が死ぬと感じた時、そして力尽きようとした時……

何時も誰かの姿が俺の頭にチラつく…」

『………』

「俺は…そいつが誰なのかわからない…

見たこともないし…会ったこともない…

でもその姿を見ると何故か癒される…

何なんだろうな…これ」

『………』

「その誰かの姿が頭に過る度に…激しい頭痛が襲う…

ソイツの姿が消えると頭痛が消える…

俺どうかしちまったのかな…」

『…………』

「悪い、余りにも変なこと言ったな…

忘れてくれ」



エルはこのアリスの反応にアリスに違和感を覚えた。

普段とアリスの反応が全く違ったからである。

何時もならば、アリスに悩みを打ち明けると煩いくらいエルが悩みがどうでもよくなるくらいまで喋り続けるのだが、今回はそうではなかった。

目をそらして口を閉ざし、エルの話を黙って聞き、絶対に何かを知っている反応をしていた。

明らかにおかしいと思いつつも、エルはあえて何も言わずに再び歩みを進め、階層主のいる部屋へと向かう。

自分の身に何が起こっているのかは一旦忘れ、攻略に集中する。



『(ゴメンね…今それを話すわけにはいかないんだ……

もし今話したら…エルの心が壊れるから……

だからその時が来るまで…)』



再び歩き出してから、エルは一言も発する事なく先へ進む。

感情も無く、淡々と向かって来る魔物を狩っていった。

そして階層主のいる部屋へと到着する。

これは今までプレイヤーが第二から第十九階層を攻略した中で、最速の時間で階層主の元まで到着した事はエルが知るわけもなかった。

そして階層主のいる部屋の扉に手をかけ開けると、そこには…



「……おっと…コイツは想定外」



道中の魔物から階層主の姿をある程度想定して扉を開けたが、部屋の中にはエルの想定した魔物では無く、想定していた魔物の強さを遥かに上回る魔物であった。

漆黒の肌、背中に漆黒の羽を生やし、鋭い爪、二本の鋭い牙、黄色の瞳、側頭部に角は頬に掛けて伸びていた。

第二十階層を守護する魔物はエルの世界にもいる[悪魔王]であった。



「おいおい…二十でコイツが出て来るのか」



悪魔王はエルの世界にも存在し、その脅威度は魔王に次ぐほどの危険である。

かつて人が悪魔を召喚し、その際に召喚した者は悪魔に喰われ、人と悪魔の力を持つ存在となった。

それが魔人族の誕生であり、悪魔を召喚した者を喰らった悪魔が悪魔王だった。

魔人となった悪魔王は人々を蹂躙し、捉えた人間を悪魔達への供物とし、魔人族を増やし世界を地獄と化した首謀者である。

魔人族を女神達が滅してからは悪魔王の存在は今まで確認されていないのは、ミヨコ、サクヤ、エル、シウラが召喚される度世間に広まる前に駆除していたからであった。



『……変わる?』

「いらねぇ…寧ろ…上がる!」



敵を目の前にしてエルは笑う。

この世界に来て初めての簡単には倒せない相手に心を躍らせていた。

腰にある刀を抜き、悪魔王へ向かって歩みを進める。

すると悪魔王は羽を広げ、咆哮をあげる。

そして口を開いたまま固まると、エネルギーが溜まり、口から熱線を吐くように放出した。



「うお!!」



エルは瞬時に避けるが、悪魔王は熱線を放出したまま止まる事なくエルに追尾するように放出し続けた。

軽快な動きで前後、左右、上下、斜め左右上下に避け続ける。

体を拗らせ空中で避けたり、地面に付くくらいまでに体を逸らし、無茶な体勢からでもカスリもせずに避ける。

エルに一撃も入れることもできず、時間だけが過ぎていく、だが悪魔王の攻撃は止まらない。



「!?、………チッ…」



熱線の放射が終わったかと思えば、悪魔王は炎の球体を三つ頭上へ出現させた。

魔法の無いこの世界で階層主が魔法を使うというプレイヤーが圧倒的不利に思えるほどの事実が発覚した。

そして炎の魔法をエル目掛けて投げる。

三つの炎の魔法をを避けた時、それを見透かしていたかのように鋭い爪でエルを切り裂こうとするが、後ろへ手を使わずに空中で回転し地面に着地して間一髪で避ける。



「……〈龍猛連撃・七頭龍乱れ切り〉」



ここで悪魔王へ剣技を打つ。

[龍猛連撃・七頭龍乱れ切り]

七つの頭部を持つ龍が荒々しくかつ攻撃的な様子を見せ、対象に七つの斬撃を一点に集中して放つのではなく、敢えて乱し一つの剣技で大多数へ斬撃を浴びせる剣技。

それを顔、首、胴、両手両足へ放つ。



「………マジかよ、屠龍と同じ威力の斬撃が七つだぞ?」



完全に勝負あったと思った。

たがエルの瞳に映ったのは、斬撃を浴びても傷跡だけを残し立っていた悪魔王の姿だった。

想定外の悪魔王の生命力に驚きを通り越して感心した。

エルの世界の悪魔王ならば、あの攻撃で簡単に勝負がついてしまうからである。

しかし今回はそうではなかった。

これはプレイヤー達では勝てないと納得した。

プレイヤーならばこの強敵への攻略に多くの犠牲を出し、この階層主への対策に長い時間を掛けてしまうだろう。

現にプレイヤーは第二十階層出来ず、ここで多くの犠牲を出し、今頃対策を練っていた。



「しょうがねぇ…ちょっと本気出すか」

『ヒュウ!』



エルは魔力を限界まで高め、悪魔王へ不敵な笑みを向けた。

エルはこの貴重な時間を存分に楽しむ為に自分の全力を相手にぶつける。

今のエルの頭の中にあるのはそれだけだった。

例え誰が見ていようが、もうエルを止める事のできる者はこの場にいなかった。



「さぁ、楽しもうぜ!」


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