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第36話 死の連鎖

プレイヤーと対立してからエルが行ったのは、このゲームの情報収集である。

階層ごとに広がる世界を隅々まで調査を行い、どこに何があるかを調べていたところ、ダンジョン以外にも魔物が存在しているのを確認したり、武器の強化に必要な素材、様々な効果を持つアイテムなどを調査していた。

エル、シウラ、ミカル、セン、ヤマトは一時的に別行動をとっていた。

そんな中エルは鍛冶屋で武器を量産していた。


バキィィィン!!!


「あれ?ダメだ」

『……さっきから何やってんの?』

「ん?いや、この世界で龍牙と同等の武器を作れるかなと思って、ダンジョンの外にいる階層の魔物とかクリスタルとか使えそうな素材を合わせて作ったんだけど……全然ダメだ」

『当たり前でしょ!!

素材が全部龍を使った刀と同等の武器なんて簡単に作れるわけないでしょ!!』

「んー……いけると思ったんだけどな」

『全く……何で趣味で鍛治スキルを習得して、ここまで腕を上げたんだか』

「え?だって作ってみたいと思わないか?

あの最高の武器」

『………はぁ…アレは私の武器と同等だよ?

そんな簡単に作れないって…

そんな事より遊んでていいの?

シウラでも怒るんじゃない?』

「大丈夫だろ」



剣を作り、それを耐久力を知るためにエルの刀へ打つと剣の刃は粉々に砕けエルの刀は傷の一つも無かった。

エルは鍛冶屋を開き武器や装備を売りながら、このゲームの世界でどれほどの優れた武器を作れるかを調べていたが、それはシウラ達に言うための言い訳である。

シウラ達が情報収集に勤しんでいる頃、エルは自由気ままにこのゲームを楽しんでいた。

ダンジョン内には入らずに、階層主とも戦っていない。

武器を作り、売り、過ごし実験などの失敗作を売っていた為、プレイヤー達の間で人気の武器屋となっていた。

失敗作とはいえ、エルの作った武器や装備はかなりの業物であり客足が増えていた。



「俺はコッチで忙しいからな」

『!、あ…うん、そっか…』

「次はどれを試すか…」

「ふーん……」

「ん?」

「アタシ達が情報を集めてる中、アンタは何やってんの??」

「…………」



武器作りに夢中になりすぎて、店内に人が入って来たのに気づかずに新たな武器を作り始めようとした時

背後には怒りを抑え顔を引きつらせているミカルがいた。



「言い訳をさせてください」

「アタシを納得させる言い訳ができるのなら……許してあげる」

「!?」

『………似てる』

(…嘘だろ)



顔は笑っているが、ミカルの体から怒りのオーラがエルをたじろくほどに湧き出ていた。

エルが恐れるあの2人と同じレベルの威圧でエルを恐れさせ、全身から汗が一気に流れ落ちた。

そして言い訳を考え口に出そうとした時、言葉が詰まり左頬に平手が飛んで来た。


暫くその場は静寂な空間が包み込み、言葉を発することなくエルは頬を腫らしながら作業に戻っていた。

ミカルは足を組んで椅子に座りエルの作業を眺めていた。


「…………」

「…………」

「…………えっと…センから報告、また死者が出たわよ」

「……ふーん」

「……行かないの?」

「んー?…そうだな…まだいいかな」

「………そう」



第一階層攻略後のプレイヤーとの対立から、エルは攻略を行なっていなかった。

攻略を急がないエルを見限り、プレイヤーは自分達でダンジョンの攻略を行い、急ぐあまり死者が続出していた。


【第二階層】4人、【第三回層】2人

【第四階層】6人、【第五階層】4人

【第六階層】12人、【第七階層】3人

【第八階層】5人、【第九階層】16人

【第十階層】7人、【第十一階層】3人

【第十二階層】8人、【第十三階層】4人

【第十四階層】3人、【第十五階層】17人

【第十六階層】1人、【第十七階層】5人

【第十八階層】3人、【第十九階層】2人


…と第十九階層まで攻略後進め死者は全部で105人にも及ぶ、第二階層から第十九階層までの階層ごとの攻略で毎回死者を出していた。

準備、情報、対策不足がこのような結果として出ていた。

そしてこの結果を聞いてもエルの感情に変化はない。

救いの手を自ら切り離したプレイヤーに深く感情移入することはなかった。

死者を出してでもこのゲームをクリアして現実世界に戻るという結論を出したプレイヤー達の考えに口を出す事が出来るわけがないからである。

こちらの世界が現実世界であるエル達とは立場が違い、考えも変わってくる。

他人の都合を自分達に押し付けられてもどうすることもできない。

沈黙が続く中プレイヤーが店に入店して来た。



「すみませ〜ん」

「ハイハーイ!

いらっしゃいませ!本日はどの様なご用件で?」

「………はぁ

アタシもう行くわね」

「おう!またな!」



ミカルが店から出て行くところを見送り、エルはプレイヤーの対応をする。

そこそこプレイヤーに人気の店となっている鍛冶屋は客足が絶えない。

エルは充実した日々を送っていた。



その日の夜、プレイヤーが寝静まった頃にエルは身支度をして店を出る。

黒のローブを纏い、顔を隠す様にフードを深くかぶる。

前線から退いたプレイヤーと来店してくる者達に思われていたので、こちらとしては都合が良くその勘違いに乗っかっていたため、今更ダンジョンに向かうとなるとプレイヤーからの多くの質問が飛んでくると思い真夜中に外へ出ることにした。



『何がまだいいかな…なの?

無関心なフリして一番プレイヤーを気にかけてたくせに』

(全くだ

死者が出る度に、「何でそこに俺がいなかったのか」を考えるくらいなら第二階層で突き放す様なことを言わなければよかったのにと思うほどだ)

『………優しいねぇ』

「…………」



エルは第二階層でプレイヤーと対立した事を少し後悔していた。

あの時死者を出さぬ様に協力は不要な事を伝えたつもりがプレイヤーを突き放す様な形となり、プレイヤーが攻略を急ぎ死者が出た。

そこからダンジョン内とダンジョン外での死の連鎖は止まる事なく続いていた。

ダンジョン内での死、プレイヤー同士の争いでの死が続き、犠牲者が続出していた。

ミカルの報告を聞く度に、エルは頭の中で一人の女性の姿が頭を過る。



(……何で今アイツを思い出すんだ)

『?』

「………嫌だね…人が死ぬって」



死から感じる喪失感、それは身近な人ではなくとも感じるものである。

心に空洞ができた様な大切なものを失った時、悲痛な心境となる。

エルは喪失感を感じる度に一人の女性の姿が頭を過る。

だが姿は過るが、顔の口元から上の目と鼻は黒い影が覆い顔付きは毎度確認できていなかった。

エルは溜息をつきながらもダンジョンの入り口へ到着していた。



「………フーーーーッ…………行くか」



大きく息を吐き、先程までの柔らかい表情から顔つきが変わり鋭い視線をダンジョンへと向けた。

この死の負の連鎖を断ち切るべく、エルはたった一人で未到達の第二十階層への攻略を開始する。

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