第35話 対立
エルがプレイヤー達と口論になっている間、シウラはエルの横に座り、センは辺りの探索、ミカルとヤマトはじゃれあっていた。
座っているミカルの腹に顔を埋めているヤマトを突き放そうとしているという光景がエルの背後で行われていた。
エルは後ろで何かをやっていることは知っているが、見ないようにしている。
シウラは2人がじゃれあう声を聞き、顔を赤くしてエルの袖を掴み恥ずかしそうにしていた。
プレイヤー達は、2人の行為は見えており視線を逸らしたりして反応に困っていた。
「ムフフ〜〜、何か落ち着くな〜」
「ちょっと!離れなさい!!
人前でこんな……ちょっ!何してっ!…
セン!何処に行ったの!?
シウラ!何とかして!!」
「………」
「ダメだよ〜、助けを求めちゃ♡
ほらほら!もっと満喫させろ〜!」
「ヒャッ!!…」
「ヒャッ!だって!カーワーイーイー!!」
「やめなさい!!」
「…………」
『…………何あれ』
(放っておけ)
『………ヤマト』
後ろの声に反応せずにプレイヤー達への対処をする。
後ろを気にしたら負けである。
シウラは頭から湯気が出出るのではないかと思うほどに、顔を真っ赤にして体が震えていた。
「………えっと…何か悪いな、2人は後で俺がブン殴っておくから…」
「………あぁ、大丈夫」
「ちょっと!アタシは悪くないわよ!?
悪いのはヤマトでしょ!!!」
「あっ!!ミカル動かないでよ!!」
「………このバカ達は放っておいて、少し話をしよう」
エルはプレイヤー達にこの世界についてを説明し始めた。
この世界と別の世界からエル達は来て、世界に害があるかどうかを確認しにきた事や、プレイヤー達にとってこの世界は仮想世界であり現実ではないが、エル達にとっては現実世界であること…
そして世界はゼロの世界を中心に存在しており、現実世界とは平行して存在しており、ゼロの世界は様々な世界の中心となる世界である。
そして新たに作られた世界が、この仮装世界であった。
「ゲームというのは俺は知らない…
知らないけど、お前らがそのゲームと思っている世界は俺たちにとっては紛れもなく現実世界
命を失えば死ぬ…それが当たり前の世界だ
お前らは今この状況で俺達と同じ、2度目の無い時を生きている
死んだら終わり…それは当然なんだよ。」
「…………」
「でも良かったな
この世界にいる奴等は幸せ者だ」
「……え?」
「この世界には俺達がいる
俺達が来なかったらこの世界は消滅してたぞ?」
2度目は無い、生き返りの無い世界はエル達には当たり前。
それをプレイヤー達は今実感していた。
長く感じる人生でも、それは限られた時間でたり終わりは一瞬…生命は儚く尊い。
この仮想世界にいるプレイヤーはこのような事態となり、不運に感じる者が少なからずいるだろうが、一つの幸運に恵まれていた。
それは2人がこの世界に足を踏み入れなかった事であり、エル達がこの世界に来た事だった。
あの2人がこの世界に来た場合、ゲーム内にいるプレイヤーは1人残らず命を落としていた。
一歩違えば現実世界で大量の死者が出ていた。
2人がこの世界にいない事はプレイヤーにとって一番の幸福であった。
「……攻略してやるよ」
「……!」
「このゲームとやらを…」
最初エルはこのゲームを楽しむだけで、最後まで攻略するつもりはなかった。
しかし第一階層の階層主との戦闘でエルの考えは変わった。
見たことのない景色、見たことのないダンジョン、見たことのないアイテム、見たことのない魔物などを自身の目で見た時に考えが変わった。
プレイヤーは生き残る方法を見つけようとしている中、エルはダンジョンに住まう未知の魔物を屠り誰にも文句は言えない完全なダンジョンの攻略をしてみたいと思った。
先を考え行動すれば、利益になると考えてのことではなく、ただのエルの好奇心であったが…
『あ〜あ…また悪い癖が出た』
エルは好奇心の他に、戦闘欲が出ていた。
未知の敵と戦いたい欲求がエルの心境を変えた。
1人の戦闘狂の下にいたため、自分自身では気づくこのができなかったが、周りの者達は既に気づいていた。
自分より格上の相手、自分が見たこともない未知の相手、そして自分が圧倒的不利な状況、この三つのうち一つでも相手に当てはまればエルの欲求は高まる。
勝てるかどうかわからない、攻略法を知らない相手を前にするとエルは不敵な笑みを浮かべる。
未知のダンジョン、未知の魔物、そして知識のない世界、この三つがエルの欲求の全てを戦闘欲で支配した。
エルが攻略すると宣言した時、プレイヤーは歓喜するが、この状態となったエルに危うさがあった。
それは戦闘の欲求が高すぎてプレイヤーとの戦闘を求めてしまう恐れがあった。
『……欲を出しすぎないでよ?』
(ん?)
『魔物だけじゃ飽き足らず、人を殺してしまわないか心配って事』
(………それなら問題ない
そんな状態になる程戦いたいと思う奴はいないからな)
『なら良いけど』
強者と戦いたい欲求は魔物だけではなく人にも向けられる事が多々あった。
それでも戦闘欲を抑えるだけの理性はある。
実際にセン、ミカル、ヤマトに戦いを挑んではいない。
エルが戦闘狂と化すのは大抵の相手は魔物であり、自分に敵意を向けた魔物に対してのみだった。
だが魔物だけではなく、人でも敵意や殺意を向けてくるならば容赦なく叩きのめしていた。
相手が殺すつもりでくるならば、こちらも相手と同じように対処を行う。
強いものが生き弱いものが死ぬ、勝負の世界に足を踏み入れた時点でこの摂理はこれからも変わらない。
勝てないと絶望するより、楽しみながら勝ち筋を探る方が良いと考え、エルは戦闘狂となった。
湧き上がる戦闘欲が、向けてはいけない人物に向けてしまうこともあるので、アリスは懲りないエルに呆れていた。
「力を……貸してくれるのか?」
「そう受け取ってもらっても構わないけど
余り期待するな、俺らは俺らで好きにやらせてもらう
お前らが早く攻略して現実世界に戻りたい気持ちはわかるけど、俺らには関係ないからな」
「なっ!」
「忘れるなよ?お前らとは住む世界が違う
そっちの事情を押し付けてくるなよって話だ」
「…………」
「それはアーシも同感だ」
このゲームを攻略する事に意義はない。
プレイヤーとは協力せず、自分達のペースで確実に攻略する。
だが攻略を急ぎ1秒でも早く現実世界に帰りたいプレイヤーは意義を唱えようとする。
しかしプレイヤーの心境などエル達には関係がない。
元々住む世界がこちら側である故に、攻略を急ぐ理由が無かった。
自分達のペースで攻略を行うエル達と、攻略を急ぐプレイヤー、この考えの違いが大きく左右する。
「巫山戯るなよ…簡単に攻略できる奴がわがまま言ってんじゃねぇよ!
俺たちは命がかかってんだ!!
お前達みたいにのうのうと生きてるわけじゃねぇんだよ!!」
激昂するプレイヤーにエルは刀をプレイヤーの首元へ向ける。
「そっちの都合を俺らに押し付けるなよ…
命がかかってる?
それがどうした!
こっちは毎日が命がけだ!
平和ボケした奴がこの世界に来て死の恐怖が出てきただけで狼狽えてんじゃねぇよ!」
「クッ!……」
「そんなに早く帰りたければ、自分たちで攻略したらどうだ?
俺らに任せられないんだったらそうすれば良い
俺は何も言わない、例え死者が出てもな」
確実に攻略するエル達に任せるか
先を急ぎ多くの死者を出すか
この現実世界へ生還できる可能性のあるこのわかりやすい選択でもプレイヤーは間違った道へと歩みを進めてしまう。
プレイヤーとエル達との意見が分かれ、第二階層からデスゲームでの死の連鎖が始まる。
プレイヤー全員が生還できる未来を自ら切り捨ててしまったのだった。
この時、エル達は全プレイヤーと対立関係となった。




