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第27話 神の気まぐれ

まるでそこは水の中に沈んでいるかのような静けさだった。暖かい日差しを浴びて、無駄な音を遮断しているこの空間はエルにとって心地の良い所だった。動きたくない、このまま沈んでしまいたいと思わせ、心を落ち着かせていた。そんな中、光が差す方向からエルを呼びかける声が聞こえてくる。声量から必死さが伝わってくるが、エルはこの空間から出ようとは思わなかった。



――ダメだよ…しっかり起きて



体が沈んでいく中で、下から背中を押すように上へと運ばれていく。エルには呼びかけてくる声とは別に、背中を押している者の声に聞き覚えがあった。アリスの声とは違う、包み込むような懐かしい声そして水面まで近づき、光の強さが増した。



――大丈夫…私は…側にいるよ



その一言を最後に、エルは目を覚ました。ゆっくりと目を開けると、雲1つない空とシウラの顔がエルの目に映っていた。



『あ!起きた』

「お加減はいかがですかエル様」

「……体が痛い」

「安静に為されれば痛みは1日で取れるそうですよ」

「? ………あぁ、サクヤさんが来たのか」

「ご明察の通りです

今はミヨコ様が破壊なされた領地を修復しています」

「……そうか」



シウラに膝枕をされている状態となり、無理せず体力の回復に専念する。そしてエルをこんな姿にした元凶はというと、何故か足下に神屋センとミカルが転がっていた。



「目を…つけられたか…可哀想に」

『神屋センは[和名持ち《ネームド》]だから、ミカルは私を見る事ができたという理不尽な理由』

「〈大黒雲〉を使った時?…」

『そうそう…でも良いんじゃない?

これで確実に強くなるんだから』

「確実に心が折れるけどな」

『うん……エルはゆっくり休んで体力を回復させないとね』



一通りの会話を終えると、エルは目を閉じてもう一眠りすることにした。しかし寝落ちした10秒後にサクヤに起こされる。



「起きろ、少し話がある」

「………」

「体が動かないと思うが、話は聞けるな」

「……はい」

「…安心しろ、そんな状態にしたバカタレはしっかりと説教をしておいた」

「……そうですか」

「……まぁいい、それで話というのはな

また新たな世界が繋がった」

「えぇ……また…ですか…」

「それで私とミヨは別々の場所へ行き、繋がりを切る」

「…ほぉ」

「そこでお前には3つ目の場所へ行ってもらいたい」

「…………3つ目?」



新たな世界が繋がった。サクヤのこの言葉に驚きはない、そもそもこのような事が起こることは知っていた。ミヨコとサクヤが世界中を飛び回り、何をしていたのかを理解していたからだ。ゼロの世界は解明されていない謎が多く存在している。その謎の1つに含まれていた。

ゼロの世界は文字通りの「0」、何も無いものを表現する文字であり数字の中に必ず存在する、悪く言えば何も無い、良く言えば「0」は始まりの数字でもある。世界、生命、魔物、魔力の全てがゼロの世界から始まり、今もなお衰退せず神秘的な世界が広がっている。世間ではゼロの世界の魔物の強さは解明されておらず、謎に包まれていた。故にゼロの世界の魔物はこちらの世界とは比較できない程の脅威であると言われていた。新種の魔物が蔓延り、人が住める場所では無いとゼロの世界へ行ったことのない学者たちが結論付けた。しかしゼロの世界に新種の魔物など存在しない、生命が誕生した時から魔物のレベルは変わっていないからである。寧ろゼロの世界の外の世界や魔物が衰退してレベルが下がっていた。

この場でこの事実を知るのは、ゼロの世界で住んでいるミヨコ、サクヤ、エル、シウラだった。


そしてゼロの世界と繋がる世界のうちの1つがこの世界である。元はゼロの世界と繋がる世界は1つとしてなかったが、神の意思と自然の摂理によって次々と周りに世界が出来始めていた。自然の摂理でできた世界は問題は無い、しかし神の意志で出来た世界は頭を悩ませる問題だった。神が動く理由は気まぐれであり、それは新たな世界を作るときも同じである。神の気まぐれで、何処かの未知の世界をこの世界へ繋げたり好き勝手やっていた。

そんな問題児の様な神達が繋げた世界をミヨコとサクヤは破壊、もしくは繋がりを切るために行動していた。そしてこの時、神の気まぐれにより新たな3つの世界が繋がった。



「今回は…3つですか…」

「そうだ…今回は人手が足りない

だからお前を向かわせる」

「大丈夫…ですかね…」

「問題ない、それに簡単な事だ。

問題無ければ放置して良し、問題ならば核を破壊しろ」

(何処が簡単なんだよ…)



世界が増えれば、自然の生態系が崩れ不安定になり人が住める環境では無くなってしまう。そうならない為に、破壊したり繋がりを切らなければならないが、それは簡単な事ではない。世界の核を破壊する事がどれほど過酷な事なのか、エルは感覚が麻痺している2人からは到底理解できない考えだった。核を破壊すれば世界は崩壊し、消えて無くなる。破壊した時にその世界に留まれば、命は無く、破壊してから20秒以内に世界から脱出しなければいけない。世界の中心地から20秒で自分のいた世界に戻らなければならない。

「それの何処が問題?」と首を傾げる2人の考えには唖然とする。そして考えるのをやめた。



「でもこれはお前1人では大変だろう」

(当たり前だ)

「だからシウラとあの2人も同行させる事にした」

「へ?」

「あの様子だと、同行させても問題はない」

「………神屋センはわかりますが…

第二王女もですか?」

「問題はないだろう」

(いやいや…あいつ王女だよ?問題あるだろ!)



2人の知らないうちに事が進んでいく間にも、ミヨコに容赦無くボコボコにされていた。苦しい表情をしている2人に対し、笑いながらボコボコにしているミヨコを見ると2人に同情をしていた。嘗てエルとシウラもあの様な状態となっていたからである。エルは第二王女であるミカルが傷だらけの姿を国王が見たらどんな反応をするのだろうかと考えていた。でも反応を考えたところで会ったことはないにしても、ミヨコに何も言えない国王の姿が目に浮かんでいた。



「…アイツの身内のことなら心配はいらない」

「?」

「記憶を操作しておいた」

「…………」



遂に犯罪みたいなことをやり始めていた。記憶を操作して、ミカルが同行する記憶を追加していたみたいだった。これで本当に何も問題は無くなり、エルは諦めた。



「……わかりました」

「頼むぞ…」



新たな世界の繋がりを切るべくこの場から発ち、体は透明化し消えた。気配が消えると、ミヨコがエルの方へ向きサクヤがいなくなったのを確認する。そして音もなくエルの側へと移動した。



「あれ?サクヤは?」

「もう行ったよ…」

「もう!?相変わらず行動が早いな〜

一日ぐらい一緒にいても良いと思うんだけど…

しょうがないけど私もさっさと終わらしてくるかな〜」

「行ってら」

「……行ってらっしゃいのチューは?」

「無い」

「チェ…つれないの…

……この傷んだ心のまま行ってくるけど良いの?」

「サッサと行け!!」

「ブー…じゃあね」



少し離れ、重心を足に置き地面を蹴るとロケットの如く勢いで空へ飛び、そのままの勢いで雲を切り裂きながらものすごい速度で飛んで行った。



「……あれ、何もないところを蹴って空を飛んでるって言ったらどれぐらいの人が信じるかな」

『ゼロでしょ』

「誰も信じられないと思います」

「だよなぁ…」



膝枕をされ、そこから見る空の景色は普段と変わらぬ空の中で一段と美しく見えた。この世界にどれだけミヨコの強さを知る者がいるのだろうか、どれだけその存在が世界に輝きを与えているのだろうか、人が知らずともミヨコは[最強]の重圧に耐えながら使命を全うしている。エルはそんならしくも無い事を考えた。そして[最強]に軽く揉まれた2人へ視線を向け溜息をつく。



「……今日はここで野営だな

シウラ、俺の事はいいからあの二人の治療をしてやれ」

「はい」



シウラは顔を隠すことに使っていた布をエルの頭へ優しく置いた。倒れているミカルと神屋センの治療へ向かうシウラの後ろ姿を見送り、エルは目を閉じた。



『どうしたの?空に何かあったの?』

「いや?明日から忙しくなりそうだなと思って」

『ふーん』



そしてエルはそのまま眠りに落ちた。

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