第24話 破壊の前兆
ここは人が一度も踏み入れたことのない場所、大森林に囲まれその背後には山があり、辺りは暗く静かな場所にある廃墟の城の中にある寝室で女性は寝ていた。
「んん〜……ん?…ん!?」
寝返りを打った時、何かに違和感を感じると目を覚ました。違和感が確信なものへと変わり、目を見開き完全に眠気が消え去り飛び起きる。それから寝室を飛び出し、城内の隅々の部屋まで何かを探した。しかし女性が求めていたものは城内からは見つからなかった。
「いない……いない……いないいないいないいないいないいないいない!!!
いなーーーーーーーい!!!!!
どこ行ったの!??何でいないの!!???
私の横にいたよね!!!」
女性は狂ったように叫び始めると、その叫び声だけで大地が揺れている感覚に陥り、城の周りには生き物の存在がなくなる。そして…
「どこ行ったぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」
叫び声だけで鏡や窓が割れ壁にヒビが入り、木々が軋む。音が魔力と重なり、音の波動の波が辺りへ広がる。それにより近くにある山が火山活動を始めた。
「どこ?どこ?
どこ?どこ?どこ?どこ?どこ?どこ?どこ?どこ?どこ?
どこ行ったの?……」
徐々に徐々に精神が不安定になっていき、体の中から湧き上がる憎悪が増し、ドス黒い魔力が体外へ放出される。体の周りには炎のように揺れ、一気に魔力が天高く舞い上がりこの世のものとは思えないくらいの魔力が外へ出る。彼女は髪を掻き毟り、まともな精神状態ではなく目が充血し始めたその時だった。突如、女性は西方面に視線を向けると、〈遠視〉を使い女性が感知した対象を確認する。通常の〈遠視〉とは比べ物にならないくらい、遥か先の場所がその瞳に映っていた。〈遠視〉、〈透視〉を合わせ女性が編み出した魔法スキル〈千里眼〉で女性は見ていた。そして対象となる人物を確認した時、女性の口角が上がり不気味な笑顔を浮かべる。
「!………いた♡」
恐怖を感じさせる満面の笑みを浮かべた次の瞬間に1つの城とその周辺の森林が跡形もなく消し飛んだ。
同時刻、ノルミ公爵領
エルは勇者を蹴り飛ばし出来た穴を歩いていた。加減を間違え領地の橋へと飛んで行き、流石にやり過ぎたかと思い勇者の様子を心配していた。それは壁にめり込んでいる勇者を見て素直に思った感想だった。
「………おっ…おーい…生きてるか?」
『これはまた…綺麗に壁と一体化してるね』
「おっかしいな、加減したはずなんだけどなぁ」
『……レベルが上がったんじゃない?』
「冗談言うな、もう800超えてるんだぞ?
この程度で簡単に上がるはずないだろ」
『それもそうだね』
「うっ……うぅ…」
「おっ!生きてた。」
勇者は意識がありはしたが、とても動ける様子ではなかった。数カ所の骨が折れ、立ち上がりエルに挑む力など残っているはずがなかった。その重症の勇者を放っておき、エルは地面に刺さっている聖剣に視線を向ける。
「なぁ勇者…聞こえているかわからないが、お前の持っているコレな?
聖剣じゃないぞ」
「…………」
「本当の聖剣なら、有り合わせの素材で作った俺の剣なんて簡単に真っ二つだ
ところがさっき受けた時はそうじゃなかった
簡単に言うとこれは聖剣だけど出来としては最悪の聖剣だ
まぁ、聖剣に頼っている時点でダメなんだけどな」
ハハッ、こんな奴が勇者を名乗ったら魔王たちは気が抜けるよな」
エルは聖剣を手に取り、実物かどうかを〈鑑定〉スキルで聖剣を見ると、案の定この剣は魔法付与が付いているだけの鉄の剣と同じであるのだ。[斬鉄]、[耐久力上昇]の2つの付与が付いているだけで、聖剣と呼べる代物と言えないくらいの駄作とも呼べる剣であった。自分で武器を作ることができるから気づいたこともあるが聖剣以上に武器を持つエルに駄作を見抜けないわけがなかった。
壁にヒビが入り、埋まっていた勇者は地面へと倒れる。勇者の怪我の具合を見て、取り敢えず自分にも非があるので、勇者の側に回復薬を置いてシウラの元へ戻ろうとしたが
「まっ…待て!」
「ん?」
「はぁ…はぁ…まだ勝負はついてないぞ!!」
「………諦めの悪い奴だな
しょうがない、もう少し遊んでやるか」
勇者が立ち上がり、エルへ聖剣を向けていた。勇者の足元に視線を向けると、側に置いた回復薬は殻の状態で勇者の足元に転がっていた。回復したことにより、さっきまでの事は無かったことにしたようだった。プライドの高い勇者を相手にする気は無かったが、抵抗をやめもう少し戦うことにした。そんな時だった。
何の前兆もなく地響きが起こり、鼓膜が破れそうになるくらいの断末魔が領地全体に響き渡る。そして地響きが収まり静かになったところで、エルは身体中から汗が滝のように流れ落ちた。
「………今の声」
『………起きたか』
一瞬の謎の現象で、エルは全てを察した。故に汗が止まらない。この静寂が逆に恐怖に感じ、コレから何が起きるのかを想定すればするほど体の震えは激しさを増していった。
そして教会前では、中から出てきたミカルと神屋センがシウラの横へと並んでいた。
「…説得は失敗されたのですか?」
「いや、失敗というか説得以前に王妃様達が茶に含まれた無警戒の状態で睡眠薬を飲まれて、さっきまで俺が介抱していて遅くなった」
「なるほど…そういう事でしたか
どうかと思いますが納得です」
「アタシもまさか教会が睡眠薬を入れてくるとは思わなかったわよ!
儀式を中止させないためだからって、本当に意地汚いわ!」
「まぁまぁ、それで?
アイツと勇者はどこ行ったんだ?」
「エル様でしたら彼方に…」
「「ん?」」
教会内で起こった事は神屋センの説明である程度理解した。そしてエルの居場所を聞かれ、シウラは穴の空いた住宅街へ指を指す。それだけでミカルと神屋センは察した。
「あー…なるほど理解した」
「…あの勇者、相手を間違えたわね」
「こちらも始めようと思いますが、私は賢者をお相手します」
「じゃあアタシは戦士」
「ふぅ…しょうがない、僧侶勝負がつくまで俺と話しでもするか?」
1人だけ戦う気が無い中、シウラは風魔法を発動しミカルは剣を抜く。賢者と戦士は下へ降り、それぞれ睨み合う形で相対する。神屋センは噴水の横へベンチを持って来て僧侶と楽しく会話をする。そして同時に戦闘が始まる瞬間に、地響きが起こり断末魔が響き渡る。
「なっ何だ!?」
「何が起こったの?」
街の人々は倒れると、ミカル、賢者、戦士、僧侶、神屋センは耳を抑え地面に膝をついた。この謎の現象にシウラはエルと同じ反応をすると、ミカルと神屋センは只事ではないことを察すると
「……これは…」
「……ねぇ?これは何なの?」
「……避難」
「え?」
「街の人々を遠くへ…避難させてください…」
「………避難?」
「急いでください
でないと間に合わなくなります」
「……わかった
おいお前ら起きろ!街の人々を避難させるぞ!!
お前ら勇者のパーティーメンバーだろ?さっさとやるぞ!」
シウラの怯える姿に神屋センは危機感を感じとり、直ぐに行動に起こす。素早く避難を進める中、シウラはエルの元へ飛び立つ。避難していない者がいないかを探しながらエルの元へ向かい、空を見ると東方面から流れ星が見えると、顔を蒼白させる。
そしてエルの元へと到着すると、辺りには斬撃跡があり、勇者はエルの足下で倒れていた。
勇者の鎧は砕け、辺りに血が飛び散り意識を失っている。
「エル様!!」
「………シウラ」
「エル様………あれはやはり」
「今お前が思っていることで合ってるよ
……まさかこんなに早く起きるとは」
「……一応避難を呼びかけてはいますが…間に合うかどうか」
「それは………大丈夫だと願いたいな」
『この勇者はどうするの?』
「こうする」
エルは勇者を抱え教会方面へ放り投げる。誰かが受け取るだろうと信じて。
勇者の安否を気にするほどの余裕がなかったからであるが気にしている余裕はなかったこの後のことを考えれば、最善の策とも言えた。この場にはエルとシウラしかいない筈だった。
「避難は何とか終わったぞ!
勇者が空から飛んで行ったのはは驚いたが」
「「!!」」
「母上と姉上も大丈夫よ!
それで?一体ここで何が起こるの?」
「バカ!!こっちに来るな!!」
「え?」
避難完了を知らせるミカルと神屋センが来たときにはもう手遅れであった。空から隕石の如くソレは落ちて来る。
「クッッッッソ!!!!」
ドガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァン!!!!!!!!!!!!!!!!!
一瞬にして領地の半分が円形の形の更地となった。




