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第21話 第一王女からの求婚

突然のアイヘス王国第一王女、セイラ・クロフトの求婚に動揺せず断る。第一王女の行動に国王は手で顔を抑え頭を悩ませた。国王の表情を見ただけで何を言いたいのか伝わって来た。「また始まった」と顔に書いてあるくらいにわかりやすく出ている。

国王やミカルの反応を見るに、第一王女は惚れやすい性格をしている事がわかる。求婚を断られたのにも関わらず、うっとりとした表情をエルに向けていた。第一王女の行動に、シウラは深呼吸をして感情を抑え心を落ち着かせているのに対し、激怒しているものが1人。



(………アリス、起きたのは良いが

その鎌を収めろ。)



深い眠りに落ち、エルが起こすまで夢の中にいたアリスは、第一王女がエルへ結婚の申し込みの言葉を聞いたアリスは飛び起きると、大鎌を取り出し第一王女の首を切る勢いで大鎌を振るい、第一王女の首に鎌が触れる直前で止めた。普段は真っ赤な瞳以外の、髪、衣類、身体全てにおいて色の無い真っ白な姿をしているアリスであったが、この時のアリスは影がかかっているみたいに全身が黒で覆われ、体の中に納まらないほどの殺意がむき出しになっていた。



(収めなさい)

『嫌!コイツをブッ殺す!!』

(ダメだ 問題を起こせば予定が狂う)

『結婚なんてふざけた事を言いやがって!!

エルと結ばれるのは私なの!!』

(…それも違う)

『絶対渡さない!!

相手が誰であろうと渡すもんか!!

エルは私のものだ!!』

(………)



アリスにも病気が出た。

これはエルが最も頭を抱える悩みとなるものである。「依存」という病気の持ち主が、エルの周りには多数いる。エルは何故か人を惹きつける何かを持っているらしく、求婚自体第一王女が初めてではなく、一目惚れをされることは少なくない。エルは決して魅了を使っているわけでは無い。ハーレムを作ろうと思えば作れるのだが、エルにそんな気は無い。もし作れば自分の命が危うくなる。その理由は既にヤバイ奴がエルに依存していたからである。

子供の頃の戯言がエルを苦しめ、今こうしてヤバイ奴から少しでも遠くへ逃げている途中だった。そしてここまで来るまでに何度も何度も求婚され断っていた。



「お父様…」

「…何だ?」

「私、決めた!

この人以外とは結婚しない!

この人こそが私の運命の人!」

「はぁ!?」

「あっ…お姉ちゃん!?何を言ってるの!?」

「?…俺断ったよな?」

「あぁ…まさか今日、運命の人との出逢いがあったなんて…

人生何が起こるかわからないわね…」

「結婚するなんて一言も言ってないけどな」

「いいえ?結婚してもらいますよ?

貴方は私の心を奪ったのだから、この責任は取ってもらうわ」



第一王女からの求婚を断ったはずだが、何故か第一王女は結婚するつもりでいる事にエルは頭を悩ませる。怒りを抑えきれずに、今すぐにでも第一王女に襲いかかろうとしている者が2人いるからだった。先程第一王女の首を切りかけたアリスと、エルの横で待機をしていたシウラの我慢の限界が近かった。エルは何と第一王女へ言えば結婚しない事を告げることができるのかがわからなかった。どう説明しても、第一王女はエルとの結婚を諦めることがない事がわかってしまったからだった。


そう、第一王女は「話を聞かない」タイプである。


だから国王も王妃もミカルも第一王女の結婚を止めない。言っても聞かないことがわかっているからだ。どんな断りを言おうとも話を聞かないのでは意味がない。考えに考えた末、エルはある方法を思いついた。



「…さて、そろそろ出発するか」

「え?」

「まだ陽は落ちてない、走れば30分で着くな」

「え?何を言っているの??」

「これからお前の言っていたノルミ公爵?の領地へ行かなければならんのでな…

それに儀式が行われるのは3日後だ2日後じゃない。

話は終わったな?」

「ちょっ…」



エルの考えた方法は「逃げる」である。逃げればこの第一王女との結婚は回避でき、そして2度と会わぬ様に世界各地を飛び回れば済む話だと考えるのが面倒になり、頭の悪い方法を思いついた。もうこの場所に残る理由も無いエルは部屋から出ようとすると…



「ちょっと待って」

「?…何だ 第二王女」

「アンタこれからノルミ公爵領へ行くのよね?」

「さっきも言ったけど…そうだ」

「もう日も暮れてるし、今から行ったら危ないわよ?」

「走れば…日が沈む前に着く」

「いや…それはさっき聞いたからわかる…

そうじゃなくて…」

「?」



歯切れが悪い言い回しをしているミカルから何を言いたいのかを察しようとしても、睡魔が襲い思考を鈍らせていた。一日戦場の真ん中で休む事なく全両国の兵士を斬り、早朝に連行され、調査協力に、冒険者登録、学園での騒動、再び連行に時間をとられ睡眠をとる時間が全くなかった。視界がぼやけ、思考が鈍り、立っているのも辛くなっていた。早くこの場から離れ睡眠をとることが、今エルが一番にするべきことだった。



(あぁ……眠い…早く終わんねぇかな…)

(すごく眠そうですね…)

『無理もない…サクヤの魔力を諸に浴びてたからね』

「で?…何なんだ?何が言いたい?」

「その……アンタの言うことが本当なら…

勇者が魔王を倒せばゼロの世界から魔物が押し寄せ、世界が破滅するのよね?」

「……あぁそうだ」

「なら、その事を教会に言わなくちゃいけないよね?」

「………いいや?」

「だからね?

私がアンタ達に同行して教会に儀式をやらない様に説得してあげる」

「……別に……い…ら…ねぇ…」



ミカルの提案は、勇者誕生の儀式の中止を教会に説得するというものだった。儀式を行い勇者を誕生させれば、勇者は魔王を倒すべく旅に出る。そして魔王を倒し世界に平和が訪れる。

この世界の者達は、それで終わりだと思っている。勇者が世界を破滅させる存在となる事も知らずに勇者の誕生を待ち望んでいた。その事を理解したミカルは、教会を説得し儀式を中止させることが目的だと証言した。しかしエルは思考が鈍りながらも、ミカルの目的はその先にある事がわかっていた。ミカルは目的を達成した後、エル達に同行するつもりであった。

そして意識を保つ気力が限界を迎え、エルは背後へ倒れ、そのまま眠った。



『あらら…』

「……申し訳ありません

わたくし達はこれで失礼させてもらいますね」



王城に入ってからエルと話す以外口を閉ざしていたシウラが口を開き、眠っているエルを背負い王城を後にしようと出口へ歩み始めると



「ねぇ…ちょっと」

「はい?」



エルを背負うシウラの後ろ姿を見ていたミカルはシウラを呼び止める。そしてこの後何があったのか、エルは知る由もなく深い眠りについたのだった。

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