第18話 強制尋問
場所、王城内玉座前
時間、夕日になる前
エル、胡座をかく
シウラ、正座
所在理由、尋問
エルは本日2度目となる王城へ連行され、国王の前で尋問される。普通ならば玉座の前へと連れて来られた時、人は緊張しないわけがない。しかしエルの場合は玉座の前へと連れて来られ、例え国王が目の前にいようと姿勢を変える事なく寛ぐ。そこにいる誰もが肝の座っている奴だと思っていた。そして案の定国王が現れ玉座へ座りエルへ視線を向けても、姿勢を変えずに目を瞑っていた。シウラがエルを揺すり国王が現れた事を知らせ起こす。
「んぁ?あぁ寝てた?
悪い悪い……で何だっけ?」
「国王様の御前になるぞ!
立ち上がれ!!」
「あぁ?面倒くさいな……
おっ今日は夕日がきれいだな」
「……まぁよい
お前がエル・スカーレインだな
私はアイヘス王国国王バンハード・クロフトだ」
「ほぉ…」
「………お前がここに呼ばれたのは今回の騒動の中心人物である故…事情聴取だ」
「はぁ…わかりました
見た事をそのまま話しましょう
先ず………」
バァン!
「…………」
今回の騒動、主に学園半壊と奴隷館破壊の2つの件であった。エルは現実に起こった事をそのまま正確に話し騒動の調査に積極的に協力をした。何事もなく事を進めシウラの話題に触れるのは仕方ないが、シウラがエルフの王である事を隠していた。そしてエルは自分の話題に触れぬように上手く弁明を始めいようとした時、背後の扉から扉を破壊するかのような勢いで開き中へと入ってきたのは、片手に棍棒を持ち怒りの表情を浮かべた王女であった。
『……嫌な予感』
「ミカル!?いきなりどうしたと言うんだ?
何故そんなに怒って……何故棍棒を持ってくる?」
「お父様!!」
「なっ…何だ?」
「お父様がお聞きになりたい事はもう聞けましたか?」
「…いや、まだ何も聞いていないぞ」
「終わりでいいわね!」
「え?」
「いいわね!!」
「……はい」
「私はそいつに聞きたいことが山ほどあるの!!」
「……………」
『ふぁ…ファイト〜』
王女はエルの元まで力強く足を踏み込んで行き、エル横で止まり棍棒を振り上げる。そしてエルの額には汗が滲み出ていた。
「ここから先、アンタに許されるのは真実のみ!
私が嘘と判断したらアンタの頭カチ割ってやる!!」
「嘘でしょ!? 冗談だよな!?」
「セン!!」
「はい!」
王女は神屋センを睨み有無を言わせずに従わせる。かつてないほどに怒っている王女に逆らいでもしたら自分の身も危うい事を感じ、錫杖を手元へ出現させる。そして床を突こうとした時
(っ!〈神前の間〉!?)
神屋センが錫杖で床を突く前に、発動する魔法を察しエルとシウラは両手で耳を塞ぐ。
〈神前の間〉は尋問時に使われる魔法
魔法を展開した範囲の中を薄い光で覆うという魔法だが、この魔法は神のいる空間となりその場に人は頭を高く上げてはならない。神の前にいるという事は、この世界で絶対的である神に嘘をついてはならない。自分を偽る事を禁じ、自身の本質を神に曝け出さなければならない。嘘をつく事は許されず、嘘をついた時には体から黒いオーラが滲み出る。エルの尋問には都合の悪い魔法であった。そしてエルが〈神前の間〉を見抜いた行動に王女は
「耳を塞ぐな!!」
「「!!」」
「あっ!エルフの子は塞いだままでいいよ」
「………」
『……終わったら起こして』
王女は想定内だったかのような反応を見せ、エルの顔面を蹴った。この王女の反応にエルは逆に驚かされた。そして棍棒を振り上げたままの体制で
「3秒待ってやる」
という言葉を口に出さずとも表情に出ていた。そしてエルは抵抗をやめた。神屋センは錫杖を地面へと突き、地面を突く音と錫杖の頭部に付いている金属の音が室内全体へと反響する。室内は静寂に包まれ、ごく僅かの光が辺りを光らせるとエルへの嘘をつくことの出来ない一問一答が始まる。
「…じゃあ始めるね
わかってると思うけど嘘だとわかったらアンタの頭をカチ割るからね!」
(クソ…〈神前の間〉なんて使いやがって
何が嘘だと判断したらだ!
嘘がバレてんじゃねぇか!!
これじゃあ嘘を紛れ込ませてもバレる
…チッ…無理だな…詰んだ)
「アンタの名前は?」
「……っ…村崎…エル」
「あれ?エル・スカ―レインって名乗ってなかった?」
「……昔の名前だ 嘘ではない
そこの神屋センと同じ[和名持ち《ネームド》]だからな」
「!!?」
王女の一問一答でエルが[和名持ち《ネームド]である事を明かすと、待機していたものたちはザワつき国王は玉座から立ち上がった。それでもエルが[和名持ち《ネームド》]だとわかっただけでは終わらず、神屋センも[和名持ち《ネームド》]であることを明かした。
「じゃあ、この国に来た目的は?」
「そこにいる騎士長に調査協力を依頼され情報を提供する為に王城まで連行された」
「…何の調査?」
「山脈の近くにある平原での戦争の詳細」
「…龍が現れて両軍が全滅したっていう?」
「…………」
「ん?」
「…………」
「……………真実は?」
「へ?」
「今黙ったよね?肯定しないってことは…
嘘の情報を提供したって事かな?」
「………」
「洗いざらい全て話せ!!!」
また一つエルの嘘が暴かれる。龍が現れたなど真っ赤な嘘であり、〈神前の間〉を使われている以上発言すれば嘘となる。そうしたら王女の棍棒がエルの頭めがけて振り下ろしてくるのは間違いなかった。ウメツ王国とチタウ王国の戦争で何が起こったのかを一つも隠す事なく全てを話した。エルの真実に頬が引きつらせ、棍棒を何度か振り下ろそうとして来たが寸止めで怒りを抑えての連続であった。王女が売り下ろすたびに寿命が少しずつ縮まったような気がした。そして王女の一問一答からあの問題が出てくる。
「じゃあ次は、あの4人の魔力が無くなった原因はアンタ?」
「それは違う」
貴族たちの問題が挙げられたが、エルは首を横に振る。魔力を無くしたのはエルでは無いが、この話は説明できるかもわからない。非現実的であり、この世界の魔術では解明できないからである。
「アレは嘘でも嘘じゃなくてもお前らは信じられないと思う」
「嘘をついた瞬間頭をカチ割るからその問題はない」
「………[災厄の龍]…って知ってる?」
「エル様!?」
「黙ってたってしょうがないだろ
俺の頭がカチ割られる」
「…伝説の龍よね
現れただけでその地には災いが降り注ぐという架空の存在の龍…」
「アレな…人だ」
「?」
「龍が人化するんじゃなくて、元々が人なんだよ
壊滅した国の破壊痕から龍の仕業ではないかと噂が飛び交い災厄の龍の存在が語られた
でも真実は1人の人間によって起こったこと…」
(……嘘はついていない)
「だから…その…」
「災厄の龍と言われている人の仕業だっていうの?」
「そういう事だ」
神屋センが〈神前の間〉を発動している以上、この場では嘘をつくことはできない。出鱈目だと思ってもエルの体から偽りのオーラは出てこない。エルは真実しか言っていないからである。信じられない話だが、これは真実であった。
「災厄の龍…実在したのね」
「龍じゃねえけどな」
「……信じられない話だけど、災厄の龍の事は後回しにするわ
今聞いても理解できないと思うし」
「……まだ聞くことあるの?」
「えぇあるわよ?
その後ろのエルフの子の事も聞きたいけど…先に聞きたい事はこっちね」
「?」
「アンタどこから来たの?」
「…………」
「アンタほどの実力者は冒険者登録してないにしても世界で類を見ない実力の持ち主よ?
転生者ってわけでもないし、別世界から召喚されたにしても災厄の龍を知ってる時点でおかしい…
この世界の者だとしたらアンタ今までどこにいたの?」
「……言っても信じられないと思うぞ?」
「それなら大丈夫、もう驚き慣れたから」
災厄の龍の真実よりも、王女は知りたかった。
エル達の桁違いの実力を目の前で目撃し、これ程の実力者が何故表舞台に出て来ていなかったのか。見たことのない剣技、見たことのない魔法、そして災厄の龍の真実を知るからにこの世界の者ではないと結論づけても転生者、召喚された者以外にあり得ないが、エルは根っからのこの世界の住民である。わからないから知りたかった。
そしてエルが口を開き語った場所は、神話やおとぎ話でしか出てこない場所であった。
「……ゼロの世界」




