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グリモワールの欠片  作者: IDEI
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09 魔道機関と飛行船

2020/12/30 改稿

 そしてぐっすり寝た翌日。まずはギルドに行って、程よい依頼を探す。なにしろ最低ランクのFだから、月に一回は依頼を完了させないとギルド資格を失っちゃう。まぁ、横車を押す事も出来るけど、それだと俺が目立つ事になっちゃうから、可能な限り真っ当な手段で、平均的な頻度でランクアップしていきたい。

 薬草集めから庭の手入れ、家の掃除などなど、依頼料が子供の小遣いか、っていう依頼ばかり何だけど、その依頼料は別に構わない。出来れば、この世界を知らない俺にとって、社会科見学にもなるような依頼が欲しかった。

 そのために、こまめに依頼の掲示板をチェックするためにギルドを訪れるようにしていた。

 

 一般のFランク冒険者は、一件当たりの依頼料が少ないため、いくつも掛け持ちにするか、間隔を開けないで次々と依頼をこなす様なんだけどね。


 俺としては、そんなつまらない依頼に時間を掛けるぐらいなら、書斎に籠もって魔導書の研究でもしたい、ってのが本音なんだよなぁ。


 で、今回は外れ。あまりこれは、という依頼は無かった。唯一、面白いと思ったのは、王宮に勤める○○さんに、恋文を届けてくれ、と言うモノ。まず、振られるフラグがてんこ盛りな感じの依頼で、なんで、ギルドで受けたかわかんないぐらいだ。見ると、依頼料が銀貨二枚。Fランクの冒険者には垂涎の的だろうけど、なんで残ってるんだろう?


 近くにいたキビキビ系のお姉さんに聞いたところ、王宮のこの人の所へと入れる資格が無いと受けられない依頼らしい。なるほど、と思ったけど、ならなぜ、Fランクの依頼に? と言うのは、貴族とかも、たまに冒険者登録する事があるらしく、その時には、こういう依頼がおいしいと言う事だ。

 とても納得した。


 第四王子に小遣い稼ぎさせるとかにも、使えそうだなぁ。まぁ、そんな予定はないけど。


 ギルドを出て、今度は材木屋の所へ移動。ヒノキは無いかと聞いた。名前は爺さんの翻訳魔法で見事に伝わった。で、切り終わった木材しか無いと言われてしまった。

 まぁ、量が必要そうだけど、抽出は出来るだろう。


 と言う事で、三メートルの分厚い板材を三枚購入。ちょっと、裏を使わせて貰って、アイテムメーカーでヒノキ油を抽出した。しっかり瓶も確保してあったから、それに入れて保管したよ。量としては、牛乳瓶に半分という所。魔法で抽出したから、損出分は無いはずなんだけど、こんなモンなのかなぁ。


 残ったのは、油分を完全に抜かれたヒノキの板材。もう、いい香りがしないし、なんかスカスカな木材と言う感じだ。ばらして薪にするぐらいしか利用価値ないかも。

 一応、アイテムボックスには入れておこう。


 そして、いよいよ、ガンフォールの船場という場所に向かった。


 で、そこは、ガンフォールの船場では無かった。


 はっきり言って、スクラップ置き場でしょう。洋物のTVドラマで、車のスクラップ置き場があったけど、アレに近い感じだ。もし、プレス機があれば、もう完璧。


 「こんちわー」


 誰かが動いた気配がしたので、声を掛けてみた。


 でも、何故か、隠れるように去っていってしまった。


 泥棒? ここで? まさか、それは無いだろう。


 そのまま更に進み、今度こそはガンフォールさんが居た。


 「こんちわー」


 「おう、来たか」


 「つかぬ事を聞くけど、ここには何人でやってる?」


 「なんじゃ? ここは、今も昔も儂一人じゃ」


 「じゃあ、さっきのは誰だったんだろう」


 「何? 誰か居たのか?」


 「なんか気配があったんで声を掛けたら、逃げてった」


 「何? さては儂の飛行船を盗もうとしてきたか?」


 「まさかぁ~」


 「どういう意味じゃ?」


 「まぁ、それはともかく。ここにちゃんと飛べる飛行船はあるのか?」


 「なにがともかくなのかは判らんが、お主の目は節穴か。目の前にちゃんとあるじゃろう」


 「すいません。節穴です。どれ?」


 「これじゃ! これ!」


 そう言って、小型の帆船と宇宙船みたいなのを合体させて、三で割ったようなモノをバンバンと手で叩いた。


 「でも、これ、浮いてないよね」


 「ぐぬぬ。これでも、去年まではちゃんと浮いておったんじゃ」


 「魔導機関を見せて貰ってもいいか?」


 「ふん。素人が見ても、どうにもなりはせんぞ」


 そう言われつつ、案内して貰った。魔導機関が魔導書の応用なら、専門家はこっちの方だよねぇ。


 で、船? の一番底に当たる場所に案内されて見えたのは、まるで魚雷のような円筒形の筒だった。


 筒の横には、三カ所に名前が入っていて、一番先頭は余剰魔力収集装置、二番目は魔導浮揚装置、三番目に魔力タンクと書かれていた。


 もう、一目瞭然だね。なんで、こんな簡単な事が判らないんだろう?


 もしかしたら?


 「ガンフォール。ここの文字が読めるか?」


 「儂も長く生きて居るが、この文字は読めぬ。魔導機関には良くこの文字が書かれて居るが、どういった意味なのかはさっぱりじゃ」


 やっぱり。なぜ、昔の知識が失われたのかは判らないけど、まず始めに、文字の失伝があったんだ。もしかしたら、学院の書庫にある本も、今のここの連中には読めないのかも知れない。


 俺には爺さんに掛けられた翻訳魔法があるわけだからね。


 「ガンフォール。まず、この先頭には余剰魔力収集装置と書かれている」


 「なに? 読めるのか! そ、それで、余剰魔力収集装置とはなんじゃ?」


 「俺は学院の書庫で、魔導機関の本を読んできた。それによると、余剰魔力とは、この世界の空中に漂う、使われなかった魔力みたいなモノだ。それを、ここで集めて、人からの魔力だけじゃなく、自然の魔力も使って装置を動かしているんだ」


 「なんと、そんな仕組みじゃったとは」


 「二番目は、魔導浮游装置。ここが浮かせるための機能だな」


 「ふむ。そして?」


 「三番目は魔力タンク。ここに余剰魔力を溜め込んで、使いたい時に使えるようにしているんだ」


 「魔力を蓄える場所と言う事か。そんな事が可能なのか?」


 「学院で読んだ本によると、魔力クラゲを乾燥させた粉をつかうそうだ。水に溶いてから煮詰めて、それを入れて使うらしくて、時間が経てば腐ったりするそうだ。定期的に交換するしかない、って書いてあったぞ」


 「………」


 「ガンフォール?」


 「すまんなぁ。儂の方がとんと素人じゃったわけじゃな」


 「まぁ、俺には翻訳の魔法が掛かっているからなぁ。それは気にしなくてもいいと思うぞ。で、どうする?」


 「どうするとは?」


 「修理するのか、諦めるのか? 一応、魔力クラゲは捕まえて、粉にしてきたから、ある程度準備すればすぐに使えるぞ」


 「なに? それを早く言わんか。さっとと始めるぞ! まずはどうする?」


 「現金だなぁ。まぁ、まずは、この魔導機関を船から降ろそう。このままじゃ作業し辛いしな」


 「そうなのじゃが。ここを見てみい。鉄の金具で固定されておるじゃろう?」


 見ると、確かにL字金具とボルトで固定されていた。


 「? ボルトを外せばいいだけじゃないのか?」


 「ボルトとはなんじゃ?」


 でかるちゃぁぁ。


 これがカルチャーショックってやつ? ドワーフだから鍛冶は得意とは思ったけど、もしかして、今のこの世界にはリベットしか無いとか?


 「き、聞いていいか? 鉄材と鉄材をくっつける時って、どんな方法をとってる?」


 「何を言っておる。火の魔法で溶かしてくっつけるに決まっておるじゃろ」


 そうか。ドワーフは火の魔法が得意で、それがあるから、細かい工夫はしてこなかったんだ。力業だけでここまで来たんだなぁ。ちょっと感動。


 俺はまず、ボルトの大きさをメモにとって、そこからスパナを作る事にした。一応、他の場所の固定具も確認した所、ネジもあったので、ねじ回しも作る事にした。


 一応、船の構造材を使うわけにも行かないので、外に出て、地面から鉄材を抽出。それから一番簡単な構造のレンチをアイテムメーカーで作成した。ねじ回しもね。


 「なんじゃそれは」


 「魔導書使いの高等技だよ。原材料があれば、頭に思い浮かべたモノは作り出せるんだ。まぁ、それ故に、細かい細工物とか、複雑な構造のモノはできないけどな」


 「便利なモノじゃなぁ」


 「便利だよ。できた、これを使ってくれ。レンチとスクリュードライバーだ」


 「なんじゃ?」


 「まぁまぁ、さっきの場所に戻ろう」


 そして、ガンフォール自身にボルトを外させた。俺よりもちっちゃいけど、俺よりも強そうだったしな。


 全てのボルトを外し終わり、外に出そうという事になった。うーむ、クレーンがない。さすがに、クレーンを再現して作るってのは難しいしなぁ。

 なんて悩んでいたら、ガンフォールが引きずり出してきた。ホントに力が強いんだなぁ。


 それならと、船の横に魔導機関を置いて整備する台座を急拵えで製造し、そこへと乗せてもらった。


 いや、クレーンも必要だから、その内作らないととは思うんだけどなぁ。


 今は、魔導機関の中身に興味があった。


 と言う事で、ドライバーでガンフォール自身にばらして貰う。俺がやるよりも、ガンフォールが覚える必要があるし、ガンフォール自身が嬉々として作業しているしな。


 で、ばらして中を見ると、まず先頭部分は大して劣化していないようだった。魔石と、その周りの術式、それと、魔力の伝導物質かな? 数本の線が魔力タンクへと繋がっていた。

 そして、浮游装置。これは銀のプレートに紋様が刻み込まれ、そこにも魔力の伝導物質と同じようなモノが盛り込まれていた。

 最期の魔力タンクは、浮游装置へと繋がる部分は特殊な形状ではあったけど、中は腐った汁の入った、たんなる容器だった。


 「これが魔導機関の全容ってわけだ」


 「ふむ。ここまでは、判っておった事じゃがな」


 「あ、そうか、分解じゃなく、無理矢理ぶっ壊した事もあるのか」


 「人聞きの悪い事を言うな。あれは始めから壊れておった。寿命なのに無理矢理動かして、墜落したそうだ」


 「なるほどな。さて、直すと言うよりも、綺麗にしてやる、って感じだけど、作業を進めるか?」


 「おうよ。まずはタンクだな。中のモノは捨てても構わないんだな?」


 「腐ったゼラチンだからなぁ。出来れば、きれいに洗ってから、火で焼いて完全に滅菌しておきたいなぁ」


 「綺麗にしてから火で熱するか。判った」


 「浮游装置と魔力収集装置は、俺が修復魔法で復元してみる。まぁ、多少綺麗になるってぐらいだと思うけど」


 そして、分担して作業を始めた。俺の方は修復魔法を掛けるだけだから簡単に終わったので、カバーをネジ止めした後はタンクの掃除を手伝った。そして、滅菌も済んで、俺が持って来た魔力クラゲの粉をたっぷりと入れ、ピュアウォーターでネルネルっとしまくった。食べなかったからね。


 そこに、ヒノキ油を注ぎ込んで、防腐剤代わりになるかという実験も追加した。魔力タンクの阻害になる場合も考えられたけど、新しい試みだというと、ガンフォールも笑って許可した。


 そして、魔力タンクを魔導機関に接続すると、微妙な振動が装置全体に響いた。


 試しに、接続されていた魔力伝導物質らしい線を握って、俺自身の魔力を通した所、かなりの重さのはずの魔導機関がすっと浮き上がった。


 「せ、成功じゃ」


 「おめでとう。これで、ここにあるスクラップも生き返るかもな」


 「おうおう、まるで新品のようじゃ、あ~、お主、誰じゃったかな?」


 そう言えば名乗ってなかった。


 「俺はヤマト。サカキヤマトだ」


 「そうか、ヤマトか。ありがとうなぁ」


 「まだまだ、だよ。船に組み込んで、船ごと浮かせないと」


 「おう、そうじゃな。飛行船にならねば、意味がないわい」


 そして魔導機関を持ち上げて、船の甲板から船の船底へと移動させる事になったが、ちょっと魔力を通すとほとんど重さが無くなるため、あっという間に運び込みが終わった。

 魔導機関をボルトで固定し直して、配線を船の操縦席へと通す。


 配線自体も俺の修復魔法で復元したので、新品とはいかないが、なかなかの物になっている。


 船自体に穴が開いていたり、部品が欠けていたりするが、大事な部分は大丈夫だというガンフォールの言葉を信じて、船の操縦席にある魔力伝導物質である球を握った。


 そして、かなりミシミシという音と共に、一隻の船が空中に浮かんだ。


 「が、ガンフォール? かなり、色んな音が、色んな所から聞こえているんだけど?」


 「今まで地面に横たわっていた船じゃから、仕方が無いじゃろう。その内落ち着くわい」


 せめて、竜骨ぐらいは修復魔法を掛けておけば良かった。


 メキ!


 と言う音と共に、何かがバラバラと落ちていく音が聞こえた。


 「が、ガンフォール!」


 「ふーむ。こりゃマズイかな」


 俺は飛行を中断して、船を安全に着陸させる事に全力を尽くした。


 ホントだよ。


 着陸した瞬間、船の半分が崩れたのは、俺のせいじゃ無いからね!


 瓦礫に埋もれながら、とりあえずは魔導機関が復活した事は確認した。


 「ガンフォール。とりあえずおめでとう」


 「おうヤマト。ありがとな」


 俺とガンフォールは、がっしりと握手をして、成功を喜んだ。




 魔導機関の修理は終わったから、次は丈夫な船体を探して改良する事になった。これは完全にガンフォールが担当。俺は、似た大きさの魔導機関を二つ借りて、風を送り出すシステムに改造する事にした。プロペラを作るには、バランスや角度等々、素人が出来る範囲をかなり超えているので諦めた。


 更に、魔導機関の専用修理施設を作る事にして、鉄骨をこつこつ造っている。とりあえず、鍵の掛かるドアと屋根は欲しいからなぁ。


 一番始めに直した魔導機関を浮游型クレーンに改造したら、作業が一気に進んだのは朗報だった。そんな使い方をするな。と怒っていたガンフォールを思い切り殴り倒して快諾して貰ったために、その日の内に魔導機関が四機も修理出来た。


 魔導機関一機に、魔力クラゲ一匹という換算だったのも判った。


 使えなくなった魔導機関のほとんどが、この魔力タンクが原因だったのも、ちょっとした間抜けな話しだった。まぁ、腐ったドロドロの汁を見て、それが魔力クラゲを乾燥させた粉から造られたとは想像出来ないだろうから、仕方のない話しなんだろうな。


 それと、魔力伝導物質で造られたコードが、実は銀を繊維状にした物だというのも判った。


 かなりの部分が黒く、硝酸銀に変化していたようだけど、修復魔法で復元する事で還元する事に成功したようだ。だけど、失われてしまった部分は復元しようも無いので、銀のインゴットから繊維状になるように想像して、アイテムメーカーで造る事になった。


 構造や仕組みが判れば、ドワーフのガンフォールにとっては作り直しや、無くなったパーツも簡単に復元出来た。


 もしかしたら、二週間後のレースには、ガンフォールの所だけで十隻ぐらいの飛行船をエントリーできるかも。


 「そうなると、操り手が居ないなぁ」


 なんて言って笑っていた。


 「船体にガンフォール造船とかでっかく書いた船をレンタルしたらどうだ? レース用に操り手だけを雇ってもいいだろうしな」


 「なるほど。別に儂が優勝する必要もないんじゃな」


 「十隻も出して、そこそこの成績だけでも、注文が殺到するだろうな」


 「じゃが、男なら天辺を取らないでどうする!」


 「うむ。それは当然だ!」


 再びガシッと手を握る。


 そこでまた、微妙な気配を感じた。俺はガンフォールに、人差し指を一本だけ立てて口に当て、ちょっとの間静かにしてくれと頼んだ。


 そして、新しく立てた鉄骨の外側を大きく回り込み、人の気配をした場所に後ろからゆっくりと近づいた。


 俺は手を伸ばし、そいつの後ろ首筋をがっしりと握り込む。


 「う、うわー! なんだ? なんだ?」


 首を握り込んだせいで、後ろを見る事も出来ず、更に持ち上げた事で足も宙を舞って踏ん張りがきかない状態。完全に捕獲された状態だね。


 俺は、「それ」を持ってガンフォールの所へと歩いていった。


 「なんじゃ、スミスの所のガキじゃないか」


 俺の持っていたそれを見て、ガンフォールが大きくため息をついた。


 「なんなんだ? これ?」


 「こ、これとか言うな!」


 「儂の村に居た、同じドワーフのスミスの三番目のガキだ。いや、四番目だったかな?」


 「お、俺は三番目だ!」


 「それがな、儂が村を出ると言ったらついていくと煩く言ってのぉ。スミスに閉じ込めておいて貰ってから村を出たんじゃが、とうとう、こんな所まで付いてきてしまったようじゃ」


 「ガンフォールへの弟子入り志願か? それとも、ガンフォールが面白そうな事をしているから、あやかって自分も一旗揚げようと夢見ているだけかな?」


 「おそらく後者じゃろうな」


 「弟子入りなんか、してたまるか!」


 「要は、このガキは、この王都で一旗揚げようとしているわけだ。しかも、誰の弟子にもならないで、自分だけの力だけで」


 「そ、そうだ!」


 「ふむ。立派だ。自分だけの力でのし上がろう、という気概は立派で、男として尊敬出来るぞ」


 「そ、そうか? そうか!」


 「うん、うん、立派だ。なら、こんな所で、ガンフォールのやっている事を真似ようなんて、考えているわけは無いよな?」


 「う、あ、それは」


 「ガンフォールが一旗揚げたら、それを真似て、自分も一旗揚げようなんて、思っていないよな?」


 「あ、ああ、あ」


 「なら、ガンフォールとは別の事をやるつもりなんだよな?」


 「う、ああ」


 「じゃあ、こんな所に居ないで、別の場所で、一生懸命のし上がる仕事をしないとな?」


 「………」


 「ガンフォール? このガキを、外に送り届けてきていいか? こっちはガンフォールの仕事場があるし、城を挟んだ反対側辺りに落としてくればいいかな」


 「う、う、う、うわー!」


 とうとう、泣き出してしまった。まぁ、それを誘導したんだけどね。本来なら、更にたたみ掛けて、自分が何も出来ないガキだという事を、トラウマになるぐらい叩き込むのがワンセットなんだけどなぁ。


 うちの祖母さんは本気でやってきたぞ!


 俺って、甘甘なんだよなぁ。


 「で、ガンフォール、どうする? ガンフォールの村の場所を教えてくれたら、ひとっ飛びして連れていくが?」


 「ふぅ。しょうがないわい。村を出て修行の旅に出るという習わしも、村にはあるからのぉ。おい三番目!」


 「お、俺はウェストだ」


 「お前など、名前を呼ぶ必要も無いわい。ドワーフの男は、皆、認められるまで名前を呼ばれることはない。名前を呼ばれたければ、一人前である事を示せ。それまでは、丁稚としてここに置いてやる。それが嫌なら村へ強制送還だ。どっちを選ぶ?」


 「へ、へん! 空飛ぶ従魔も無いのに強制送還とか言うな!」


 そこで俺は、胸ポケットから一枚のカードを出す。それを、しっかりとウェストに見せてから、横に突き出して呼び出した。


 「角竜!」


 そこに、ここの世界なら、二階建ての家二軒分ほど。俺の世界なら二階建てアパート一棟分ほどの、頭に立派な一本角を持ったドラゴンが現れた。


 「ホーンドラゴン?」


 四つ足状態なのに、更に背中に立派な翼皮膜の翼を持つ、自然の動物の大系から外れた、独自の系譜を持つ超自然の生き物。それがドラゴン。


 「空の散歩としゃれ込むか? そうだな、ここにちょっとしたオヤツもあるから、頼んでみようか」


 ガンフォールも、ウェストも無言だった。


 俺がウェストを放して、地面に落としても、ウェストは半ばうっとりした目でドラゴンを見ている。


 俺は再びカードを翻し、ホーンドラゴンをカードに戻して胸ポケットに入れた。


 「どうする? 帰るか? それとも一番下の丁稚として修行するか?」


 でも、しばらくは、ガンフォールとウェストと共に、返事を聞く事は出来なかった。



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