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グリモワールの欠片  作者: IDEI
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08 魔力クラゲ捕獲

2020/12/30 改稿

 次の日の学院の授業は、本来なら契約する魔導書の作成になるんだけど、俺からの指導で、風魔法を使わせ続けながら生活魔法で使った紋様の説明と、その組み合わせ方という応用を課した。

 と、言っても、一番始めだから何を言っているかも理解が及ばないだろうと、俺がどんどんと応用例を書き記していく。


 水を出すだけの術式に、いろいろ書き足すだけで、噴水のように水を噴き出させたり、霧にして噴霧したり出来る。火の術式も、点火や持続性の火、風呂などを沸かすだけではなく、コップ一杯分の水を沸かしたり、鉄のプレート自体を熱したりした。

 全て、生活魔法レベルの魔力で出来る事だから、実地の練習も簡単に再現出来る。


 そのために、皆には四十頁はある魔導書を作って貰う事にした。頁は全部埋めないで、練習のための応用術式を書いて、発動出来るかどうかを見るためだけの魔導書だ。この本は、結果的には無駄になってしまう本なんだけど、自分がどんな努力をしたのかの過程が判って、後に続く人へと教えるためにも役立つだろう。


 魔石は俺が提供した。内容は生活魔法でも、掲載する数が多いと、ビー玉サイズの魔石ではコントロールしきれない。急には学院も用意出来なかったので、ビー玉の三倍ぐらいのものを皆に渡した。本の方は皆に個別に用意して貰ったけどな。


 術式の応用ではベークライトくんは、そこそこの応用力を見せた。気持ちが入っているから、理解も高いのかも知れない。


 そして、その日の授業は終了。魔力が回復したと思ったら、何かしらに魔法を使ってフラフラになっておけ、と言って置いた。


 その足で俺はギルドへと向かう。普通に表から入り、エントランスにある掲示板を見て、依頼を決める。


 実は、今までギルドの表の依頼は受けていなかったんだよなぁ。裏はこなしたけど、表向きの依頼はゼロ。このままだったら、ギルド資格停止されちゃう。


 そこで受けたのが、孤児院の家の補修。依頼料は本気で少ないけど、孤児院の実体を知りつつ、ギルドの貢献度も高いという、俺にとってはお得な依頼だ。


 依頼の受け付けをしてくれたのは、いつものフワフワ系お姉さんじゃなく、ちょっと派手なキラキラ系お姉さん。窓口に並んだらそうなっただけなんだけどね。始めは一列に並んで、受付の前で、空いた受付にばらけるシステムだ。何故か冒険者からの不満が多いらしいけど、受付嬢たちからは納得の声が大きいそうだ。


 キラキラ系お姉さんからは、「まぁ、初めての依頼なのね、頑張ってね」という励ましのお言葉を貰ったけど、魔導書を作ったり、赤竜を倒したりしている俺が受ける励ましの言葉じゃないよなぁ。


 ちょっとだけ、罪の意識を感じながら受付から外れると、なぜかフワフワ系お姉さんに腕を掴まれ、何度目かのドナドナになりました。


 で、ギルマスの部屋。


 「えっと。何か不具合がありましたか?」


 「ああ、いや、実は、これから実際に試してみる所なんだ。今、応接室の方に、Aクラスの冒険者であるエブロが待っている。わたしにとっても初めての事なのでね。少し心配だったわけだ。そこで、君が来ていると聞いて、一緒に立ち会って欲しかったわけだ」


 「なるほど。俺も、結果がわかる訳ですから、立ち会えるのは嬉しいです」


 「だが、どうするか。見学者というわけにもいかぬだろうし」


 「あ、ちょっと待ってください」


 俺はアイテムボックスから黒い布を取り出した。ついでに木片も数個。


 「森羅万象なる力を使い、我が意に従いて我が望む物を作り出せ」

 「アイテムメーカー、魔導師のローブ!」


 俺が想像したとおりの、頭を覆うフードと、顔を隠すマスクが一体になった、体全体を隠すローブになった。


 「ほう。これが魔導書使いの実力なんだろうな。我がギルドにいる魔導書使いに、爪の垢でも煎じて飲ませたいぐらいだ」


 同じ言い回しがあるのかな? それとも、爺さんの魔法で、そういう風に翻訳されてるのかな。とにかく、感心されながらも、顔から体全体まで隠せるローブが出来上がったので、早速それを羽織って、ギルマスと一緒に応接室へと向かった。


 「待たせたねエブロくん」


 「これはギルマス。ちょっと寝てましたから、待っているという感じでも無かったですよ」


 「うん。エブロくんはいつも余裕だね。ギルドとしても頼もしい限りだ」


 「で、ギルマス。こんな、地面の下で泥まみれになるしかない、野暮な男に、なんの用があるんです?」


 「いや、なに。君のギルドへの貢献度が高いのでな、ちょっとしたご褒美を上げられないか、と思ってね」


 「ご褒美ですか? ですが、欲しいモノは、粗方、自分で稼いできましたけどねぇ」


 「なに、貰って負担になる物ではないよ。それに、わたしも、これを使うのが初めてなのでね。悪いのだが、試しとして、君に実験台になって欲しいのだよ」


 「実験台ですか? なにやら、危ないセリフですなぁ」


 「実験の名前は、アイテムボックス作成呪文。もし、不安であるのなら、拒否しても構わないが?」


 「アイテムボックス? ギルマス? まじですか? あんな物はおとぎ話と思っていましたが」


 エブロのセリフを聞いたギルマスは、空中に指を動かして、そして、畳一畳分はある赤竜の鱗を取りだした。


 「これは、この間近くに飛来したという赤竜の鱗だ。近くで見てみたいと思わなかったかね?」


 「赤竜の鱗……。今、空中にいきなり出てきた……」


 「ああ、仕舞っても構わないかね?」


 そう言うと、空中に指を動かし、鱗を消した。


 「今、わたしのアイテムボックスには、今の鱗が数枚入っている。それ以外にも色々あるがね。これは、ここにいる彼がわたしに掛けてくれた呪文だ。だが、彼だけに負担が掛からないように、わたしでも使えるようにして貰ったのだよ。そしてまだ、一度も試していないので、君に是非、相手をして貰いたいと思ってね」


 「な、なるほど。うーむ。もし、失敗したとしたら?」


 「その時は、彼が改善してくれる約束になっている。君には、必ずアイテムボックスを取得できるようにするつもりだよ」


 「判った。そこまで言われたのなら、俺も後には引けない。俺とあんたの付き合いもあるしな。さっさとやってみてくれ」


 「ありがとう。君には悪いようにはしないよ。では、早速行くとしよう」


 ギルマスは三頁だけの本を片手に、コホンと一つ咳払いをして居住まいを正した。


 「開け、英知を込めた秘密のカバンを作り出す呪文」


 そのギルマスの声に反応して、頁が開く。


 「グ、グウ……」


 魔力負担がかなりきついようだ。


 「クリエイトアイテムボックス! エブロ!」


 それでも、呪文名を唱えると同時に、本から呪文が飛び出した。それは、俺の目で見ても、しっかりとした形を示し、エブロの中に入っていった。


 どうだろう? 俺には成功したとしか見えなかったけど。


 ドサ


 ギルマスがその場に座り込んでしまった。フワフワ系お姉さんがそれを支えている。


 「どうかね? エブロくん?」


 「いや、その、なんもかわんないが……」


 あれ? 失敗?


 「目の端に、なにか見えないかね?」


 「を? なんかあるみたいだが、目で追うと逃げてくな」


 「それでいい。アイテムボックスオープンと言ってみてくれ。実際は声に出さなくても構わないんだがね」


 「ああ、アイテムボックスオープン。おお! なんだ? 丸いのが、えっと、二十個か? 丸いのが二十個出てきたぞ」


 「それがアイテムボックスだ。君の目の前にあるテーブルを、その一つに収めて見てくれたまえ」


 「おお、こうか?」


 すると、応接室のテーブルが消えた。


 「アイテムボックスを閉じてみてくれ」


 「え、えっと、閉じろ! おお! 消えた!」


 「では、また開いて、テーブルを元の場所に返してくれたまえ」


 「ああ、判った」


 応接室のテーブルが戻った事で、魔法が上手くいった事が確定した。


 「アイテムボックス取得、おめでとう、エブロくん」


 「あ、ああ。ギルマス。凄いな、これは」


 「かなり疲れるが、わたしでもアイテムボックスを与える事が出来た事が嬉しいよ。だがエブロくん、これは重要な意味を持つ。実際に取得して、その特殊性に気付いたかね?」


 「ああ、こいつは、犯罪者が涎が出るほど欲しがるだろうな」


 「その通りだ。ギルドとしては、君のように貢献度の高い冒険者に、アイテムボックスを与えたいのだが、当面は極秘にして貰いたい。ダンジョン内では、便利に使って欲しいがね」


 「おう。持ち帰れなかった素材も、めい一杯持ち帰れそうだな」


 「その時は言ってくれ、別室で対応させてもらおう」


 「わかった。しかし、おとぎ話じゃなかったんだなぁ」


 「ああ、昔は当たり前のようにあったらしいからねぇ。出来れば、昔のように、当たり前にしたいもんだよ」


 「その内、公開するつもりか?」


 「君の他に、何人かに使って貰ってからになるがね。犯罪には使いませんという制約と契約魔法に同意した者だけという形で与えるつもりだ」


 「なら、俺も契約とやらを行うか?」


 「かまわないかね?」


 「おう。せいぜい、犯罪にアイテムボックスを使わない、って事ぐらいだろ?」


 「ああ、その通りだ。犯罪を犯しても、アイテムボックスを使わなければ制約違反にはならない程度の緩いモノだがね」


 「ホントに緩すぎだ。まぁギルマスらしいがな」


 「ではいいかな? 開け、絶対なる不動の礎より生まれし、契約の呪文」

 「コントラクトマジック!」


 『エブロとファインバッハとのアイテムボックス使用に関する契約

 エブロは、アイテムボックスを犯罪に使わない事を約束する

 エブロはこの契約を受け入れるか?』


 「おう。俺、エブロは、アイテムボックスを犯罪に使わない事を誓う」


 『契約は成された。エブロはアイテムボックスを犯罪に使わない事を約束した』


 「ふむ。これで契約はなされた。ありがとうエブロくん」


 「あ? 今のでいいのか? 契約違反とかはどうするんだ?」


 「拘束型契約だそうでね。犯罪に使おうとする事が出来なくなる契約だそうだ。例えば、秘密を守るという契約なら、話そうと思っても声が出なくなるとかな」


 「そいつはいい。これから、犯罪者全員に掛けてやれ」


 「それも、ある意味理想だが、縛りすぎるのも良くないとわたしは思うよ」


 「それも、ギルマスらしいな」


 そして、しばらく世間話をした後、エブロはダンジョン攻略の準備があると言って帰っていった。


 「ヤマトくん。ごらんの通りだ。使用魔力が馬鹿にならないが、それでも成功したよ」


 「おめでとうございます。俺も一安心です。これからの課題は、魔力の蓄積とかですかね」


 「ははは。確かに、それも欲しいなぁ。だが、使っていけば、わたしの魔力も増えるだろう。場合によっては、代役も使えそうだしね」


 「また、便利そうなモノが有りましたら提案させてもらいます。それと、その本と同じ物を二十冊ぐらい作ってみましょう」


 「重ね重ねありがとう。君のギルドへの貢献を公表出来ないのが残念だよ」


 「いえ。俺が好きでやってる事ですから。では、俺は、初のギルドの依頼である、孤児院の修繕の手伝いに行ってきます」


 「おお、それは引き留めて悪かったね」


 丁度いいから、ローブを被ったままギルドの裏口に出て、路地裏までこそこそと移動した。


 それから、町の地図を広げて孤児院の位置を確認し、ローブを脱いで、当たり前のように歩き始めた。


 到着したのは、幽霊屋敷だった。いや、廃屋? えっと、取り壊し予定? 関係者以外が入らないようにする黄色のテープが無いよ?


 まぁ、そんな家だった。


 デカイ家ではあるんだよ。教会とは作りは似ていないけど、とある金持ちの家を中古で買って、孤児院として利用した、という所だろう。


 周りを一周して見てみると、排水が裏に溜まって浅い池になっている。そのため、匂いもきついし、湿気で家の木材の傷みが激しいようだ。これを修理って、匠でも無理なんじゃない?


 確認が終わったんで、改めて玄関に行ってドアを叩いた。


 「ギルドの依頼で来ましたー」


 「はい、はい、ご苦労様です」


 出てきたのはお婆ちゃん。俺んちの祖母さんよりもちっこくて丸い感じだけど、ちょっと疲れ気味かな。孤児院として預かっている子供は十人。それ以外にも、夜には飯だけ食べに来る子供も居ると言う事だった。さすがに、この家での寝泊まりは遠慮したのかなぁ。


 で、修理は屋根の雨漏り。もうすぐ雨の季節らしく、その前に穴を塞いで欲しいとの事。そのための修理資材は、子供たちが何処かからか拾ってきた端切ればかりだった。


 ちょっと眩暈がした。


 こんな場当たり的な修理の依頼をずっとしてきたのだろうか? 少ないとは言え、依頼料を払うのも無駄な出費になるだろうに。


 とにかく、俺はこの依頼を受けた。そして、困っているお婆ちゃんを助けないなんて事はできない。俺んちの祖母ちゃんに地獄説教の無限地獄という躾で、輪廻の魂にまでしっかり刻み込まれているからな。


 と言う事で、徹底的な修理開始!


 まず、裏に溜まった汚水の池を無くす。排水用の側溝はあるんだから、それを広げて、余計なゴミをとりはらった。ゴミが溜まりにくいように、日本でよく見るタイプの側溝の蓋を作り、簡単にはずせるようにしつつも、石造りのために、簡単には外れないという物だ。

 今まで汚水の池だった所は、土を掘り返して小石を取り除き、ちょっとした畑にした。


 これで、湿気対策はいいだろう。


 次に、屋敷の隅から隅までを修復魔法で直しまくった。大体は、腐りかけた木材を乾燥させた、って感じになったけど、それでも柱の強度も戻り、家全体の歪みも無くなった。


 この時点で魔力カラカラだけど、まだまだ頑張る。大きく深呼吸すると若干だけど魔力が戻る気もするし。


 屋根の板材は、子供たちが集めてきた板材の端切れと、元々の屋根材を素材に、アイテムメーカーでしっかりとした板に作り直した。それを、鉄のインゴットから作った釘と金槌で打ち込んでしっかりと固定。


 さすがに、ニスだけは用意出来なかったんで、自腹で買ってきて、屋根を中心に厚めに塗りまくった。余った分で家の風雨にさらされそうな所を塗って、ニスが無くなった所で暗くなったため作業終了。


 まるで新品の家の様になったと喜んでくれたので、作業がつつがなく終了したというサインをくれた。俺から見ても、数年は修理要らずでやっていけそうな仕上がり具合だ。満足な仕事が出来た。


 魔力切れでヘトヘトになりながらギルドへと行き、作業完了の確認をしてもらった。


 そして、ギルドの壁に貼られているポスターを見つけてしまった。


 そりゃもう、はっきりと見つけてしまいました、とも。


 『王国主催、飛行レース』


 何これ?


 簡単な説明しか書いてなかったけど、空を飛べる従魔を使った、この都市の周りを三周する競技らしい。優勝者には、宝物庫の中から希望の一品が与えられるらしい。どんな物があるんだろう? 物によっては出場してもいいかも。


 そこで、ギルドのお姉さんの一人に聞いてみた。


 でも、ポスター程度の事しか聞けなかった。参加する気のない一般人にとっては、城の方で何かやってる、ってだけの話しなのかもね。


 「おう、兄ちゃん。飛行レースに興味あるのか?」


 キター!


 何故か、ギルドの初心者を相手に喧嘩売ったり、いいとこ見せようとする先輩冒険者。


 って思って振り返ったら、ちっこい爺さんだった。俺の胸ぐらいの高さしかない。ちょっと小さすぎない?


 「えっと、誰?」


 「そんな事はいいんじゃ。飛行レースに興味あるのかと聞いておる」


 「うーん。賞品次第かなぁ」


 「なんじゃ。金目当てか」


 「金じゃなくて、珍しい物目当てだけどね」


 「っほ、言いよる。どんな物が目当てなんじゃ?」


 「俺は魔導書使いだからな。魔導書関係のなにかがあるなら、参加しようと思ってるよ」


 「たしか、王家にのみ伝わる魔導書があるとかいう話しがあるが、さすがにそれは賞品にはできんじゃろうな」


 「その場で見るだけ、ってのも出来ないかなぁ」


 「もし、王家に関わる秘密でも書いてあったら、その場で打ち首じゃろうがな」


 「うう。とたんにやる気が下がった~」


 「所でお主、空飛ぶ従魔は居るのか?」


 「居るよ~。でも、他の空飛ぶ従魔を見た事無いから、どのくらいやれるのかは判らないんだけどな」


 「ならお主、飛行船レースに出てみんか?」


 「飛行船レース? 何それ?」


 「文字通り飛行船でするレースじゃ。飛竜などの従魔でのレースではなく、魔導機関を使った空飛ぶ船を使うんじゃ」


 ふと、受付の方を見ると、いつものフワフワ系お姉さんが居た。そこへトコトコと歩いていき、聞いた。


 「魔導機関を使った空飛ぶ船ってなに?」


 「従魔を使ったレースの最期に、余興のようにやるレースなんですよ。昔は飛竜船とか魔導機関を使った船が多くあったらしいんですが、今はそれを整備する人もいなくなって、かろうじて動く空飛ぶ船を見せている、って感じでレースが行われるんです。ガンフォールさんは、魔導機関の船に拘っているドワーフの方なんです。

 ちなみに、空飛ぶ船でレースに参加する場合は、飛竜などの空飛ぶ従魔が居なければ、安全上、参加出来ない決まりなんです」


 「なるほど。それで、空飛ぶ従魔を持っている相手をさがしているんだ」


 「あ、あの、もしかして、ヤマトさんは空飛ぶ従魔をお持ちですか?」


 「二頭ほど。あ、赤いのじゃないですから」


 「あ、安心しました。普通の従魔ですよね? ………、なぜ目をそらすんです?」


 「よーし小僧! 明日、儂の所へ来い。儂の船を見せてやる」


 「明日は授業があるんで、明後日にしてくれ。明後日、明々後日なら開いてるよ」


 「むぅ。仕方ないな。その時はお前の従魔も連れて来いよ」


 そう言って、ギルドを出て行ってしまった。


 「儂の所へ来い、って言ってましたけど、何処なんです?」


 「ああ、地図に載ってますよ。南東の端にガンフォール船場、ってのが」


 「行った方がいいんですかねぇ?」


 「さぁ?」


 フワフワ系お姉さんも、その判断には困ってしまうようだ。とにかく、明日の授業に支障が出ないように、さっさと帰って寝る事にした。宿の夕飯に間に合うかなぁ。それが問題だ。




 次の日。今日も、生活魔法の術式に紋様を継ぎ足して、細かい制御をする魔法を構築させていった。昨日は俺が手本を見せたから、今日は自分たちで構築するようにと突き放した。まぁ、課題として出したのは、比較的簡単な内容だったので、思いつくヤツは簡単に思いついて書き込んで行った。


 その一人にベークライトくんも居た。ちょっと暇そうだったので、近寄って世間話をする事にした。


 「王宮の宝物庫に魔導書とかあるのか?」


 「え? さあ。僕なんかに宝物庫の中身なんて、教えてくれるわけないしなぁ」


 「国王に就任した者にしか継がれない内容ってわけだ?」


 「ああ。でも、重要な物の話しは聞いてるけどな。歴代国王の王笏とか、子供の頭ほどもある魔石とか、ホーンドラゴンを討ち取った騎士の装備一式などという物もあったはずだ」


 「ホーンドラゴン?」


 「知らぬのか? 頭に立派な一本角がある、なかなかに大きなドラゴンだぞ?」


 どうしよう。俺がレースに出ると拙いような気がしてきた。


 「あー、飛行レースには、どんな従魔がでてくるんだ?」


 「ああ、それでそんな事を聞いてきたのか。そうだな、覚えている所だと、ほとんどが飛竜だな。ワイバーンと呼ばれているのを知っているか? それと、珍しい所だと、デミドラゴンだな」


 「半ドラゴン?」


 「そうだ。良く判らぬが、大きさはワイバーンほどで、ほとんどドラゴンの形をしているが、ドラゴンでは無いらしい。一説ではワイバーンとコモンドラゴンのハーフでは無いかと言われている。だからデミドラゴンだということだ」


 「へー、普通のドラゴンは出てこないのか?」


 「昔はコモンドラゴンのドラゴンライダーが常勝していたらしいがな。ドラゴンの扱いが難しくて、なり手が居なくなって久しいと言う事だ」


 やっぱり、俺がでるのはマズイかな。必要なら麒麟に頼もう。そうしよう。


 明日から二日間は学院はお休み。だから、皆には宿題を出して置いた。課題は五つ。その内の四つまでは今までの知識で完成出来る物だけど、最期の一つは、生活魔法の魔導書には収まらない物。それを、絶対に生活魔法のレベルで収めてこい、という課題にした。どうやっても生活魔法のレベルには収まらない、ってのは言っていない。だから、真剣に取り組めば取り組むほど悩むだろう。


 悩めば悩むほど、魔導書使いとしての技量は鍛えられるはず。だから頑張って欲しい。俺が派手な事をしても目立たないぐらいになってくれ。頑張ってくれ。俺のために。


 と、決して声には出せない内容の励ましをかけてから、皆と別れ、学院の書庫へと向かった。目的は魔導機関について。

 けっこう簡単に見つかったんだけど、いいのかなぁ?


 宿に戻り、シークレットルームの書斎でいつものようにお勉強。


 この世界に来るまでは、こんな勉強って、本当に苦手だったのに、なんでこんなに面白く感じるんだろう。異世界文明だからかな? それとも、やっぱり、知力値に上方修正がかかってるのかなぁ。まぁ、面白いからいいんだけどね。


 まぁ、後で知った事だけど、魔力を使って、魔力値が上昇すると、知力値も上昇補正が働くそうだ。魔法を使えば使うほど頭が良くなるなんて凄い。魚を食べなくてもいいんだね。


 で、魔導機関について。


 魔導機関ってのは、要は魔導書を一つの目的のための道具にしたような物だった。簡単に言えば、目的のために一頁だけの魔導書を作るという感じだ。

 一頁だけだから、頁を開く必要も無いし、本の形をしている必要もない。


 コレは応用が利きそうだ。まぁそれは後々の事にして。


 基本的に生活魔法の魔導書と同じように、誰でも使えるようにしてあるが、出力を上げるためにそこそこ上等な魔石を使っているそうだ。その目的は、目的の高さに浮かせると言う事のみ。

 船の竜骨に固定するように仕込んで、甲板上の操縦席から魔力を供給するだけ。あとは、帆を使って風を受けて飛ぶんだそうだ。


 魔導機関としては、一応魔力の蓄積と魔力タンクも併設されている物が一般的と書いてあった。


 空中の、余剰魔力を蓄積するらしい。余剰魔力って何?

 読み進めてみると、世界には魔力が満ちあふれているが、それらを使って動植物が生きているため、本来は余分な魔力は存在しないという事だ。それでも、特に使われる事もない魔力も漂っているため、それらを選択取得して、魔導機関に利用する魔力として貯めておくらしい。


 要はエコな充電池って事だね。


 でも、魔導機関には利用出来るけど、人への利用は出来ないらしい。ちぇっ。


 本来は魔石自体が魔力の塊だけど、魔石の魔力を使うとあっという間に魔石自体が無くなってしまう。その代わりになるのが、本来は人の魔力なんだけど、それだと常時発動はしていられない。そこで、魔力タンクが必要になったわけだ。

 人の魔力だと出力が安定しないので、一定の出力にするためのコンデンサー的な役割や、手を放した時でも浮游魔法を働かせたままに出来るとか、非常時に、通常の人の魔力に追加出来るブースター的な状況も想定されている。


 魔力蓄積の方は術式とビー玉サイズの魔石でいいけど、魔力タンクには魔力クラゲが必要らしい。

 クラゲ? たぶん、海にいるヤツだよなぁ。この世界だと空にも居そうだけど。


 魔力クラゲを乾燥させ、粉にして、それを綺麗な水で溶いてゼリー状になるまで煮詰めてからタンクに入れるということだった。しかも、腐食するので定期的に交換する必要があるとか。


 クラゲって種類によって違うけど、九十パーセントぐらい水分とかいう話しがあったよなぁ。それを乾燥させて粉にする、って、どのくらい必要なんだろう? しかも腐るって? ヒノキ油でも混ぜたら日持ちするかなぁ。


 でも明日以降、どうしても必要になりそうだよな。


 魔力蓄積や魔力タンクは他にも応用が効きそうだから、この機会に是非とも挑戦してみよう。


 外は、もうすぐ夕飯の支度の時間、ぐらいだろうか。今からでどのくらいの事が出来るだろうか? とにかくやってみよう。


 と言う事で、シークレットルームを消して、宿の部屋から町の外のいつもの場所へと転移した。すぐに角竜を呼び出し、背中に乗って海へと向かって貰う。


 魔導機関の解説書に載っていた魔力クラゲの絵を思い出しながら、どうやって捕獲するか考える。そして、アイテムメーカーで大量の布を消費して、大きな網を作った。要は底引き網形式にざっくりと捕獲しようと思ったわけだ。


 できるかな? まぁ、失敗した時はその時だ。


 そして、空から海を見下ろしながら、かなりの時間が経った後、海面にボンヤリとした白い塊が見えた。


 目的のクラゲか?


 麒麟もカードから出して協力して貰う。網の左右を角竜と麒麟に持って貰い、海面ギリギリを低空飛行。網が海の中に入るので、かなりの抵抗があると思われるので、ゆっくり、慎重に、やばそうだったら網を投棄してくれと、念入りに説明して実行させた。


 でも、この二頭、けっこう強いみたいだ。さすがに赤竜には敵わないとしても、これぐらいの作業なら簡単な部類に入るらしい。


 そして、網に入っていたのは、紛う事なき魔力クラゲだった。けっこうデカイ。学校の教室に入れたら、一匹でみっちりになりそうだ。水分だけでもかなりの重さになりそうだけど、麒麟も角竜も余裕で持ち上げている。


 頼もしいなぁ。


 でも、そのまま頼るわけにも行かないので、網の上を蜘蛛男のような四つんばい歩きで移動し、クラゲに触ってアイテムボックスに格納した。

 かなり怖かったけどな。


 魔導書の中に、物を強引に手元に引き寄せる魔法があったのを思い出したのは、角竜の背中に戻ってからだ。


 それから、完全に暗くなる前まで、という期限付きでクラゲ狩りをし、合計四匹捕まえてアイテムボックスに格納した。暗くなる前に、近くの浜辺を探し出し、そこに着地してから二頭をカードに戻し、宿の俺の部屋に転移で戻った。


 何喰わぬ顔で夕食を摂った後は、町の外のいつもの場所に再び転移。アイテムメーカーで石で出来た直径八メートルはありそうな大皿を作った。地面にクラゲを直接置きたく無かっただけなんだけどね。

 で、クラゲの一匹を大皿に乗せて、濡れた物を乾かす生活魔法で乾燥させる。徹底的に乾燥させると、面白いように粉々になるから、粉にするのは簡単だったけど、集めるのが面倒だった。


 手元に引き寄せる呪文や、ゴーレムに作業をさせる、と言う事を思い出したのは、宿に帰ってからだったけどね。おかしいなぁ、知力値が上がっていると思ったんだけどなぁ。


 とにかく、魔力クラゲの粉四匹分が出来上がったので今日の作業は終了。明日、魔導機関の船を見せて貰いに行こう。



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