43 トレントの魔法使い
精霊契約を伝授するためにマレスたちはハイエルフの里へと向かった。そこでは予期せぬ事に契約反対派がマレスたちを閉じ込め、精霊契約を広める事を禁止させようとした。一時的に監禁されてしまったが、出所不明の魔力がマレスたちを異界にある洞窟へと転送。はぐれたリッカだけがエルダーワードのギルドへと救援を要請に転移で脱出してきた。
そこに偶々居合わせた俺と共に救出に向かい、俺と同行している精霊悪魔によって、その洞窟が悪魔族のモノである事が判った。
捕らえられていた悪魔族を倒しコンバートブックで本にして調べたところ、その洞窟はカウント級の悪魔族が力ある者を捕らえて力を吸い出すための施設と言う事が判明。
まだマレスたちが何処にいるかも判らない状況で、俺たちは探索を続け、悪魔族の屋敷と思われるモノを見つけて潜入する事にした。
「かなり凝った造りの宮殿だな」
『人間の作る宮殿を参考にしてるだわさ』
「パクリですな」
「なんか豪華だよねぇ」
リッカも含め、皆お上りさん状態だ。それぐらい宮殿の中は広く、天井も高く、整った造形が豪華さを醸し出している。
「悪魔族の屋敷って事だから、おどろおどろしい情景を想像してたけど、綺麗にまとまってるな」
『良く見るだわさ。バロック調とロココ調が無節操に混ざってるだわさ。しかもあの造形! ハルキゲニアだわさ!』
「え? うわっ! 本当だ。ロココ調の葉っぱに見せて、アノマロカリスまである。真っ白な石で作られてるから一瞬判らなかった」
「うわぁ。よく見るとえげつないですなぁ」
「え? コレって虫?」
リッカたちの世界では知られていないのか、もしかしたら存在しないのかも知れない。でも魔獣という怪物がいる世界だから、ちょっと異様な感じがする、と言う程度みたいだ。
「進化爆発で生まれては消えていったキモ生物をかたどったロココ調もどきの額縁かぁ。中の絵が綺麗な夕焼けの海というのは洒落ているのか、趣味が悪いだけなのか」
もしかしたら夕焼けじゃ無く朝焼けなのかも? まぁどっちでもいいか。
屋敷の中の通路は三十メートルほどで一ブロックとして区切られ、一ブロック内に左右一つずつの両開きの扉がある。ブロックの区切りは装飾された柱で少し狭くなっており、見ただけで奥に三ブロックが続いているのが判った。
「さて、屋敷の中も魔法が使えないのかな?」
『あ、使えるだわさ』
「いけますなぁ」
「大丈夫みたいだよぉ」
魔法が使える、って事はこの屋敷に悪魔族が居る可能性が高いって事だな。
「俺の周辺探知はブロックごとにある扉の奥に『活動している何か』の反応を示しているが、人間なのか、悪魔なのかの判別は出来ないみたいだ」
『悪魔探知はどうだわさ?』
「悪魔族に探知されないか?」
『ゲーノス様が魔道書に書き込んだ術式なら問題無いだわさ。だわカウント級までならだわさ』
「ここは敵地ですから、警戒は必要ですな」
「ん、判った。まぁ、やってみるしか無いよな」
俺はばらけた魔道書を取り出し、「悪魔の息づかいを知る言辞」と唱えた。すると魔道書が頁を捲っていく。
「サーチデビル」
魔法を起動させると、今までの周辺探知が強化された印象を受けた。
「一ブロック先の右の部屋にお前たちぐらいの悪魔の反応があるな。他には探知が届かないか、居ないのか…」
『ウチが言うのもなんだわさ。それはカウントの使いっぱだわさ』
「下僕でも、戦うとなったら大騒ぎになりますでぇ」
「だよなぁ。とりあえず悪魔が居ない所を確かめて行くか」
まずは、と、一番近くの扉に張り付いて中の様子をうかがう。でも物音一つ聞こえない。意を決して扉に手を掛けようとして扉のドアノブが無い事に気がついた。
よく見ると扉の中に組み込まれたかんぬき式だ。金色の金具で装飾されているけど、仕組みは単純な横棒を押し出すだけのモノだった。
そのかんぬきの取っ手に指を引っかけて、慎重に横に引っ張る。鍵は掛かっていないようだ。鍵穴も無いし。
開いた扉の中に滑る様に入る。いつまでも廊下にいるわけにもいかないしね。
部屋の中は異空間だった。
真っ暗なんだけどそこにある物や人物は浮き上がる様に見えている。丁度ブラックライトで照らされている感じだ。
そして目の前には木が一本生えていた。
いや、丸太か。根も枝も切られて、根の名残でかろうじて立っている状態だ。高さは二メートル強ぐらい。太さはギリギリ俺が抱えられるぐらいか。この大きさなら薪にしかならないかな。まぁ一番不思議なのは、その丸太に周辺探知が反応している事なんだが。
「丸太に見えるんだが…」
『ウチにもそう見えるだわさ』
「ネエさん、よく見てぇな。あれは呪われたトレントや」
『だわ! ホントだわさ!』
「トレントって、人面樹ってヤツか?」
『だわさ! だわ、一応樹人族という括りに入るだわさ』
「会話が出来るっちゅことですな」
「ならここの事が少しは聞き出せるかな?」
『どうだかだわ』
「洞窟の悪魔族よりは危険が少ないと言う事で、ここに収められてたはずですわ」
「ああ、確かに。だけど、まぁ、放っておくのも忍びないな」
『なら呪いを解くだわさ』
「やってみる」
ばらけた魔道書を持って「悪魔の呪い言を調伏せし言」と唱える。するとブレイクカースの頁が開かれ魔力が奪われていくと同時に、丸太に掛かっている悪魔の呪いがはっきり感じられた。そして丸太に向かって魔法を発動させる。
「ブレイクカース!」
このブレイクカースは、呪いを壊すための呪文だ。俺の魔法が丸太に掛かっている呪いにぶつかっていき、呪いのみに反応して対消滅していく。それ故に、俺の熟練度が低ければ薄い攻撃にしかならないし、力量が足りなければ消し去る量も少ない。これは呪いを掛けた悪魔との力比べに似ている。
「どうだ?」
『大凡で二割ぐらい削れただわさ』
「三割、いってませんかぁ?」
「二、三割かぁ。コレが悪魔と俺の力量の違いってワケだ」
『悪魔族の片手間が、だわさ』
「ガッチリ呪っている感じでも無いですからなぁ」
「く、挫けそうになるから勘弁してくれ。さて、あと最低でも三回は掛けないとならないか」
結局、全部で五回のブレイクカースを掛ける事になったが、丸太に掛かっている呪いは綺麗に取り除けた。
「なんか普通に術を出すとかよりも疲れた」
『呪いを直接壊してるんだから当たり前だわさ』
「悪魔族の悪意に、ニイさんがしっかり抵抗している証拠ですわ」
「術を出す力と悪意に対抗する力がいるってワケだな。こういうのが呪いの面倒くさいところか」
『誰なのじゃ…』
『特に悪魔の呪いは力押ししかないだわさ』
「しかもしつこいですわぁ」
「いや、ちょっと待て。今、誰がしゃべった?」
誰? とかいう声を聞いた気がしたが。なんか弱々しい年寄りの声っぽかった。けど人間が使う言葉からの翻訳じゃ無く、ペンギンの使ってる念話を声として翻訳している感じだった。
『誰かいるだわさ?』
「いましたか?」
「あたしも聞いたよぉ。おじいちゃんの声だった」
「あ、改めて聞く。誰か居るのか?」
『ワシなのじゃ』
「ワシ?」
あ、丸太だ。鳥じゃ無かった。丸太が、おそらく念話に近い感じで声を出している様だ。
その丸太をじっと見ていると、丸太の幹の部分に顔が浮き出てきた。木の瘤が偶然人の顔に見える様な曖昧さがあるけど。
「トレント。樹人族、だっけか? 話は出来そうか?」
『ああ、だんだんと意識がはっきりしてきたのじゃ』
『なんで悪魔に捕まってただわさ』
「どこの世界のお人ですか?」
『まぁ、待つのじゃ。ワシもここが何処かは…。ああ、あの悪魔に捕まって力を奪われ続けていたのじゃ』
「とりあえず、俺はヤマト。そこにいる人間の女がリッカだ。あと精霊悪魔のペンギンと猫」
『ふむぅ、ワシはファイプラなのじゃ。まったく不甲斐ないのじゃが、これでも魔法使いの末席を汚しておるのじゃ』
「魔法使い。初めて爺さん以外の魔法使いを見たな。と言う事はファイプラってのは数ある偽名の一つって事か」
『のじゃ? お、お、おお、そう言う考えもあったのじゃ』
「『「え?」』」
思わず呆けた声しか出なかった。魔法使いなのに偽名使って無かったって?
『答えるだわさ。他の魔法使いに弟子入りしてなかっただわ?』
『知り合った魔法使い殿にも関心されたのじゃが、弟子入りはしておらぬのじゃ。ワシには思索の時間だけは多くあったのじゃ』
「なんとも珍しい事例ですなぁ」
『弟子入りしてないだわ、だわ、かなり危険だわさ』
「ああ、時間とか悪魔とかに関する知識が無いと、何処で大失敗するか判らないな」
『一応は知り合った魔法使い殿に聞いてはおったが、あまり思索はしなかったのじゃ。じゃから悪魔に捕まってしまったのじゃ』
どうやら他のモノとの付き合い自体が無かった様だ。かろうじて自分の名前というアイデンティティは確立したけど、真名を知られない様に偽名を使う事の重要性は感じなかったらしい。
「どんな感じで捕まったんだ?」
『ワシは素早くは動けぬのじゃ。世界の繋がりを開いて余所と関わる事は出来るのじゃ。じゃがワシの力の及ばぬ相手がワシのそばまで来ると、ワシにはどうしようも無いのじゃ』
「まぁ木だからなぁ」
『だわさ』
「ですなぁ」
「とりあえず、その丸太の格好はどうにかした方がいいのかな? その状態で成長出来るか?」
『お? おお、なんという姿なのじゃ。コレではすぐに枯れてしまうのじゃ。本来なら修復できるのじゃが、いかんせん、力が出ぬのじゃ』
「なら俺が修復しよう」
『ちょっ、ちょっと待つだわさ。ここで全体を修復したら動けなくなるだわ?』
「あ、そうか。じゃ、俺のアナザーワールドに入ってもらうか」
と言う事でアナザーワールドへの入り口を開いたんだけど、どうやって丸太を動かそう?
「一度俺のアイテムボックスに入ってもらおうと思うけど大丈夫か?」
『理に根ざした亜次元か。今の力の無いワシなら大丈夫なのじゃ』
そして移動。一分も掛からずにアナザーワールドへとファイプラを移動させられた。
ここは俺のアナザーワールドの中の、巨大ケヤキを置いてある地域。俺のケヤキは製材所に出したが、ガンフォールのケヤキの丸太は置かれたままになっている。この場所を選んだのは、ケヤキの根に付いている土の欠片が目的だ。俺自身に筋力強化魔法を掛けて飛び回り、土のみをアイテムボックスに収納して一カ所に取り出した。俺の背丈を超えるほどの山になってたけどね。
その山の上にファイプラをアイテムボックス経由で移動させ、ファイプラにリカバリーを掛けて体を修復させた。
ファイプラは五メートルほどの大木だった。
広葉樹らしいけど、樹木の種類については詳しくないので判らない。
「どんな感じだ?」
『おお、ようやっと落ち着けた感じなのじゃ。じゃが、出来れば雨が欲しいのじゃ』
「ああ、水か」
必要なのはピュアな水やホーリーな水じゃ無いだろう。俺はクリエイトウォーターを根のある場所に放水した。
『礼を言うのじゃ。これで暫くすれば潤ってくるのじゃ』
樹木だからこういった事に関しては時間が掛かるようだ。
マレスたちを探すためには時間が惜しい。けど、しっかりと打ち合わせを行っておかないと、また後で二度手間、三度手間と言う事にもなりかねないし、大事な事が抜けたままになる可能性もある。
なのでファイプラと少し話をする事にした。リッカも渋々だけど了承してくれた。
「えっと、個人的に聞きたい事は時間のある時に回すとして、今は俺たちの知り合いが捕らわれている可能性があるから、それを知る手がかりになりそうな事は何でも良いから知りたい、って状況なんだよな」
『なるほどなのじゃ。じゃが、ワシも今まで意識があったワケでは無いのじゃ』
「それも判ってる。だけど、魔法使いなら俺の使う周辺探知や悪魔探知よりは有効な手段を持っているんじゃないか、と期待しているワケなんだが」
『うぬ。のじゃー、このあなざーわーるどという亜空間ではワシの力も半減かもしれぬのじゃ』
「あー、そう言えば、土の上にリカバリーしたんで、俺のアナザーワールドに根を張ってしまったって事か?」
『力を取り戻すためなのじゃ。ワシは理をいくつか覚えて持っているのじゃ。小さな状態の時のワシの理も持っておるのじゃ』
「えっと、つまり?」
『力を取り戻せば移動する事も可能だと言ってるだわさ』
「力を取り戻す時間が必要って事かぁ。小さくなってもらって、植木鉢に入ってもらうとか出来れば良さそうなんだけどなぁ」
「それですわ! ニイさん。浮く道具も作ってましたな。植木鉢に浮く魔道具くくりつけて移動させたらどうですか?」
さすが商売の精霊悪魔。有る物を利用して利益にする方法とかにめざとい意見を出せる様だ。
その猫のアイデアを地面に簡単に描いてみる。
『浮遊装置は上から吊り下げた方が良いだわさ』
「するとこうか。ファイプラ、力の回復力を維持したままで、どのくらいまで小さくなれる?」
『てっぺんがお主のてっぺんぐらいなのじゃ』
俺の身長と同じぐらいか。なら縦横高さが一メートル半ぐらいの植木鉢でいいかな? 近くに散乱している巨大ケヤキの枝を原材料にしてアイテムメーカーで箱を作る。かなりの重量物が入るから頑丈さを重視で。
出来上がった箱を植木鉢として利用できるか見聞してもらっている内に一度アナザーワールドから出てシークレットルームに入り直し、保管してあった材料で浮遊装置の魔道具を造り、ワイヤーと金具も取り付けた。
形としてはキノコ型の浮遊装置の下に四方向に伸びるワイヤーが取り付けられている形だ。このワイヤーを植木鉢の四隅にフック型の金具で引っかける予定だ。
シークレットルームからアナザーワールドに戻ると、俺の背丈より少しだけ高いだけの立木が俺の作った植木鉢に土ごと入って待ち構えていた。
「えっと、ペンギンか猫が魔法で移動させたのかな?」
『この魔法使い自身が自分で移動させただわさ。魔法使いなら誰でも使える念動だわさ』
「…それ。俺。出来ない」
『なんでカタコトだわさ』
ペンギンと猫が手も使わずにモノを動かしていたのは知っていたけど、精霊悪魔としての能力だと思ってた。いや、まぁ、魔法って方が自然な発想な筈なんだけどねぇ。
詳しく聞くと、第六事象に簡単な図形を描くと発現する超能力みたいなモノで、認識と感覚と影響の三つが主体らしい。俺がよく使っているアイテムメーカーがまさしくコレで、認識で使う材料を意識して、感覚はそれの手応え。そして影響という部分で形体を変化させている。コレをもっと単純化させ、認識した物体を動かすという影響を与えてやれば念動になる。
認識は逆三角形と丸で作ったビックリマークという感じだ。感覚は二重丸。影響は動かすだけなら丸にはみ出すぐらいの十字型の線を入れるだけ。それを大きめの丸を描いて、その線上に三角形の位置になる様に配置するだけ。
魔法使いなら反射的に使えるのが当たり前らしい。
実際に俺もやってみたら、落ちているケヤキの枝が簡単に弾き飛んだ。
俺の背丈ぐらいの枝が百メートルぐらい。野球ならホームラン確実な距離を飛んでいった。どうやら力の使い方がなってないらしい。
ペンギン、猫、立木の三人がヤレヤレしてる。
後でこっそり練習しよう。
リッカは予備の魔道書に印を書き込んで、発動させようとしている。うん、枝が浮いているだけだけど、俺よりは使えている感じだ。第六事象を意識できる様になったら俺よりも魔法使いに向いているのかも知れない。
ちなみに、影響の図形を変えると、熱したり冷やしたり振動させたりとかも出来るそうだ。
便利そうだけど、持とうと思っただけで特大ホームランじゃ使い物にならないので、諦めて、ペンギンや猫に手伝ってもらいながらファイプラの収まった植木鉢に浮遊装置を取り付けた。
浮遊装置の制御はファイプラに完全に任せた。すると一度は勢いよく飛び上がったけど、ゆっくり確実に動かす事が出来る様になった。
飲み込み早いなぁ。
浮遊装置は浮かぶだけなので、前後左右はファイプラ自身の念動力に依る形式にした。面倒くさかったし。
植木鉢の底に車輪でも付ければ簡単だったんじゃないのか? とか、そもそも念動があれば浮遊装置が必要無いんじゃないのか? とかも有ったけど、魔法が使えなくなる場所があるこの洞窟だと、とりあえずコレが精一杯かもと納得する事にした。
時間があれば動力付き車輪は付けても良いだろうけど。
そしてアナザーワールドから出て、ファイプラに探査をしてもらう事にした。
『ふむぅ。魔法野に魔力を流す事を乱されている場所はやっかいなのじゃ。じゃが探知出来なくは無いのじゃ。のじゃ、それよりも、拘束用の異空間が探知を乱しておるのじゃ』
「拘束用の異空間って、ファイプラが居た暗いけど見える空間か?」
『のじゃ。アレは対象に指定されたモノのみを動けなくする結界なのじゃ。悪魔族が良く使うワザらしいなのじゃ』
一度捕らえられてしまうと、悪魔族が込めた魔力以上の力で弾き飛ばさない事には脱出不可能な結界らしい。回避するには似た様な結界術で押し競まんじゅう形式に対抗するしかないそうだ。
「そう言った結界にマレスたちが捕らわれている可能性もあるワケか。で、居そうか? 判らなければ虱潰しって事にもなりそうなんだが…」
『他のモノたちは無視と言う事で良いのじゃ?』
「そういうワケでも無いが、優先度は低いな。俺も聖人君子というわけじゃ無いし、出来ない事にまで手を広げるつもりも無いしな」
『合理的なのじゃ。のじゃが、なおさら、探したい者の特徴が知りたいのじゃ』
「特徴かぁ…。マレスはエルフでエルマは人間の戦士、って言うのは特徴にならないか?」
『それだけじゃ生命体という違いしか判別できないのじゃ』
「他に何かあったか?」
マレスたちとパーティを組んでいたリッカや、マレスとも面識のある二匹の精霊悪魔にも聞いてみる。
『ウチの知っているエルフなら妖精種の血が混じってる筈だわさ。だわ、この世界のエルフに関しては判らないだわさ』
「ワイもこの世界は初めてですなぁ」
「マーちゃんは精霊魔法を使えるけどどうなのかなぁ? 精霊と契約してたけどぉ」
「あ、それだ。マレスは風の精霊と簡単な魔法の契約をしてたな。どうかな? それは手がかりになるか?」
『風の精霊なのじゃなぁ? 精霊ならワシも馴染みがあるのじゃ』
トレント自身が木の精霊みたいなものだからなぁ。と言う事で探査してもらったら、一つ大きな反応が見つかったらしい。
『おそらく、この隣の隣ぐらいの位置に風の精霊がいるのじゃ』
「俺の探知だとそこに悪魔は居ないみたいだけど、ファイプラはどう思う?」
『ワシにも悪魔の反応は無いのじゃ。悪魔はその場所の反対側の少し先に小さい反応があるのじゃ』
「俺と同じ探査結果だな。じゃ、悪魔に気取られない様にしながらその風の精霊の反応があった所に行ってみるか」
そして余計な音を立てない様に慎重に移動。
しかし、人間の俺とリッカ、イワトビペンギン、ケットシー、そして植木鉢に入った立木、という組み合わせはなんと言って良いか判らない。コレで各自が楽器を鳴らせばブレーメン? いやチンドン屋か。
同じようなかんぬきを引いて扉を開けると、そこはファイプラが居た空間と同じように真っ暗なのに、そこに拘束されている存在がはっきりと見える。
「えっと、風の精霊?」
俺の手のひらを広げたぐらいの身長の女の子? いや性別は無さそうだけど、線の細い針金細工みたいな人形っぽい存在が空中に浮かんでいた。
『だわ! 風の精霊だわさ』
「やっぱり力を吸い取られてますなぁ」
『この者がお主らの探していた者なのじゃ?』
『違うだわさ。あのエルフと契約した精霊でも無いだわさ』
「完全に別目標でしたなぁ」
「ああ、とにかく助けよう」
別人…、いや別精霊でも、助けた方が良いだろう。捕らえられている全ての者を助けるつもりは無いけど、目の前に居て手の届く所にいるんだから。
まずは悪魔族によって掛けられた呪いを「ブレイクカース」で解く。そして手を伸ばして空中に漂う精霊を掴んで手元に引き寄せる。
「ファイプラから見て、この精霊はどんな状態だ?」
『だいぶ力を抜かれたのじゃ。のじゃ、器にはまだ影響は来ていないのじゃ。外に出せば力を取り戻すのじゃ』
そこで精霊の意識がはっきりしたようだ。俺の手の中から飛び出して、俺たちから距離を取って警戒している。
『のじゃ。風の精霊。心を落ち着けるのじゃ』
ファイプラの思念の声が聞こえたのか、落ち着きの無かった風の精霊の動きがゆっくりになる。一カ所に止まらないのは風の精霊の特徴かな?
「風の精霊。ここは悪魔族の館だが、お前が捕まった経緯ははっきり覚えているか?」
そう聞いたのだが、風の精霊は全く聞いていないかの様だ。
『アンタの声は届いて無いだわさ』
「まぁ個別の意思がはっきりあるかどうかも判りませんですな」
『精霊種の感情は伝わるのじゃ』
「あ~、すると言う事は聞いてくれない、って感じかな?」
『力を吸い取られる前ならアンタの声でも聞けてただわさ』
「今は姿が見える程度には力があるぐらいですな」
『ワシの声も大雑把なモノしか届かぬのじゃ』
「マーちゃん! マーちゃんの精霊は判らないのぉ?」
リッカがそろそろ焦ってきている。
『この風の精霊では、今は無理そうなのじゃ。これ、風の精霊よ。ワシに掴まっておるのじゃ』
俺の声には反応しなかったが、ファイプラの言葉にはしっかり応えられる様だ。まぁ元々ファイプラの声は念話みたいなモノだから、そのせいかも知れないな。
「ファイプラ。この館にいる他の精霊とかは探知できないか?」
『やってみるのじゃ』
再びファイプラが探知魔法を使う。
『人間らしき反応に微かに精霊らしき反応があるのじゃ』
「それっぽい感じだな。ま、とにかくそこへ行ってみよう」
俺の中では完全に虱潰し探索になっている。優先度をファイプラの探査を元にするだけのつもりだ。
『弱い悪魔族のいる隣なのじゃ。どうするのじゃ?』
「確認はするしかない。場所はここから対面の少し先のあの部屋で合ってるか?」
『そこなのじゃ』
「じゃ、念のため、ここにアナザーワールドの出入り口を開いたままにするから、入って避難していてくれ。安全確認が出来たらそっちで出入り口を開き直すから」
「あ、アタシは一緒に行くよぉ」
リッカは俺と一緒にこの屋敷の探索を続けると主張。本来なら一緒に避難していて欲しいんだけど、説得の時間がもったいないんで同行を許可する。リッカもそれなりにダンジョンに潜っている冒険者だしな。




