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グリモワールの欠片  作者: IDEI
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40 時間魔法

 俺はエルダーワードを遠く離れ、ほとんど崖と言ってもいいぐらいの山肌にシークレットルームの扉を作って、その中でゆっくりと作業している。


 ここなら誰も来ないし、魔獣さえも簡単には近づかない。つまり用事で外に出るときにも無警戒で出ても問題がないぐらい静かな場所というわけだ。


 ヤギとかカモシカ系統なら崖も登るだろうから、扉を開けたらこんにちは、とかの可能性ぐらいはあるかも知れないが。


 そんな中でやってる事は、基礎魔法その二のお勉強だ。


 簡易利用出来る通信機器ができないか本を調べた結果、サイズは大きいけど携帯電話のように使えるモノが製作可能だと判った。

 現在、それを作るために必要な道具を勉強しながら作っている最中だ。


 必要なのは溶鉱炉。これは魔法金属と周辺術式を常時展開させることでカマド並みに小さくすることが出来る。現在はその魔法金属を精錬するための簡易溶鉱炉を作ってる最中だ。

 簡易溶鉱炉は高熱を周囲に撒き散らすんで、実働させるときはアナザーワールドの方に移動ということになる。なかなか面倒くさい。実際は粘土を焼いて耐熱レンガにまで焼きを繰り返すとかあるらしいが、その辺は時間もないことから魔法を使った簡易な方式を取ることにした。


 簡易溶鉱炉でも単純に鉄を溶かすだけというわけでもなく、炭を溶かし込んだり水銀の蒸気を溶かし込んだりしないとならない。うん、俺の常識では不可能だな。まぁそれをやるための『魔法』なワケだし。


 ちなみに水銀は飲んで毒、吸って毒の危険物質だ。人体に吸収されずに人体内に堆積する性質が有り、血液中に入って脳に影響が強く出る事で俺の居た世界では有名だ。有名なんだけど、最近は水銀の毒性を理解して、水銀を使わない方式に変えて行っているので逆に有名じゃ無くなっているらしい。良いんだか悪いんだか。


 魔導書に術式を描くには魔獣の血に魔石粉を混ぜたものを使うが、それと同じ物を藁で作ったロープに染み込ませ、そのロープで地面に魔法陣を描いて魔法金属の精錬を行う。


 簡易溶鉱炉の火力に魔法陣一つ。その周辺に魔力込め用や補助用に4つの魔法陣。材料を用意して、5つの魔法陣に魔力を込める。


 うん。魔力込めはきつい。やばい。挫けそう。でも頑張るしか無い。


 そして五分? 三十分? 一時間? 朦朧とした時間が過ぎて、全ての魔法陣が役割を終えて燃え尽きた。


 座り込んで、しばらく呆けて回復を待つ。そして出来上がった物を確認。真っ黒なのに反射する光は虹色に輝く不思議な金属の塊が出来ていた。それをアイテムボックスにしまってシークレットルームに戻る。


 まぁその後はやる気も無くなったので風呂入って寝た。


 次の日。気力も復活したので作業再開。


 まずは昨日作った金属塊をアイテムメーカーで釜の形に加工する。これって錬金釜? とか思ったけど、実際は単なる溶鉱炉だった。形は昔ながらのご飯を炊くための釜だけどね。ただ、かなりの高温でも耐えられる魔法金属の釜で、加工しようと思ったらアイテムメーカーで形状を変えるしか方法がない程だ。


 溶鉱炉は大きめに作ったんで、俺自身がスッポリ入れる大きさがある。いわゆる五右衛門風呂。鉄をドロドロに溶かすほどの高温になるから、人一人ぐらいだったらアイルビーバック出来てしまう。きっと行きっぱなしで鉄を鋼にする炭素材にもならないだろうな。


 今度はこの釜形の溶鉱炉をアナザーワールドに持って行き、昨日も使った高温を発生させる魔方陣に設置。白金を投入して溶け出したところで魔方陣を弄って火力を下げる。

 地面に魔法陣を描かなくても良いレベルの魔法を魔道書から発動して、魔力で溶けた白金を包み込み、そこに魔獣の血液と魔石を大量投入。一気に蒸発して膨れる蒸気などを強引に白金に押し込み、ゆっくりと冷やして行く。


 本来なら冷やしながら引き延ばすらしいけど、アイテムメーカーがあるので完全に冷やしてから加工出来る。


 この白金で魔法陣を描けば、ある程度熱に強くて何度も利用できるモノが出来るので、溶鉱炉の火力や断熱用の魔法を常設するのに使える。

 逆にこの白金で作った魔法陣が破損すると、溶鉱炉の近くで作業していた術者が一瞬で蒸発してしまうという笑えない事態になってしまうという大事なパーツになる。


 まぁ、基本的な設計だと、独立した三重の結界を組むようになっているので余程手抜きをしない限りは問題にはならない、という事だ。


 さらに、この白金で作った魔法陣を乗せるプレートを金と水銀と鉛を合板の様に組み合わせて作り、なんとか溶鉱炉の機能は整った。


 うん。これだけやって、単に金属を溶かす道具が一つ出来ただけ。


 これだって、俺の世界の常識からすれば、あり得ないほどの摩訶不可思議物体なんだけどねぇ。


 出来上がった溶鉱炉の実働テストとして、さっき作った魔獣の血と魔石を混ぜた白金を作ってみる。この白金はこれから何度も使うことになるからいくら作っておいても余るということは無いはずだ。


 そして実働テストは成功。これからはほんの少しだけ金属加工が楽になった。……はず。


 出来上がった溶鉱炉の釜をシークレットルーム内に作った広い作業場に移す。これからの作業はほとんどこの場所ですることになる。


 これから、いよいよ通信用魔道具の作成だ。


 必要な材料を見たら結構ある。しかもほとんどが樹木。


 え? 何のために溶鉱炉を作ったの? って思ったけど、溶鉱炉で細かい温度管理をしながら樹脂を取り出すようだ。樹脂からニスになるような成分を取り出し、加熱や加圧とか魔法を何種類も使って琥珀みたいなモノを作ったり、ゴムを作ったりすると書かれていた。そのために松の系統の樹木やゴムの木などが必要ということで、飛行艇に乗ってあちこち飛び回ることになった。


 一週間ほど、いろんな場所にある森を見て回ったのは苦い思い出だ。


 明らかに平均気温が二十度は違う熱帯地方まで遠出して、極彩色の魔獣と戦うことになったりしたのは、良い思い出……、なワケはない。面白半分で外に出してみた緋竜のローローは、極彩色の大蜘蛛を見て逃げていた。あの時は、ローローが先に逃げたのか、俺が先に逃げたのかは微妙だったけど。


 アレは蜘蛛。うん、そうに違いない。足はなんか十本以上あった様な気がするし、頭の所には血走った人間の目玉が大きく一つだけギョロってたけど、多分蜘蛛だろう。そういえば、馬や牛みたいな口やライオンや豹みたいな口、犬みたいな口や人間みたいな口がいくつもあって、歯をむき出しにしてた様だけど、きっと気のせいだよな。


 まぁそのうち全世界を飛び回るんだから、その時にも経験するはずの事だったワケだけどねぇ。


 そして漸く必要な五十種類の材料が揃った。これで作るパーツは十二種類。世の中、そんなもんだ。


 まずは本に載っている通信用魔道具をそのまま作ってみる。数は四つ。通信機なんだから一つじゃ意味ないしねぇ。


 で、完成したのは三つ。途中で材料が足りなくなった。もう一度取りに行くなんて、今の俺には不可能だったよ。面倒くさくて。余ったパーツは修理用ということにした。無理矢理自分を納得させたよ。な、何があるか判らないんだから、転ばぬ先の杖なんだよ!


 自分をごまかす事の重要性が身に染みた。


 出来上がった通信機のテストのため、材料集めから手伝ってもらってた二匹の悪魔にも引き続き手伝ってもらう。


 で、猫には崖に作ったシークレットルームの出口の外で待機してもらい、ペンギンはシークレットルームの中で待機。俺は材料集めで行った熱帯地方のジャングルに転移で出かけてそこから通信することにした。


 結果は、熱帯からの約二千キロ前後? の距離ならばタイムラグ無しで通信できることが判った。しかし、最も俺に近いはずのシークレットルームの中とは通信が出来なかった。さらにアナザーワールドも試してみたが、やっぱり通信は出来なかった。


 同一の世界の中限定、という感じだな。


 とりあえず、俺に対して以外なら問題なく使えることは判った。俺自身が使う時はシークレットルームやアナザーワールドでは使えないが、普通に外に出ていれば使えるのだからそれで我慢しよう。

 将来的には飛龍船が完成すればそこを拠点に出来るから、その点の問題も無くなるはずだ。まぁ、その頃に通信が必要になっているかは判らないけど。


 とにかく完成して使えることは判った。次に必要なのは使い勝手を良くする事。


 形は初期の携帯電話みたいな、角材みたいな箱形にするしか無い。片耳だけのヘッドフォンと口元に来るマイクみたいなインカムが理想だったけど、中に入れる仕組み的に角材より小さい形状は無理だった。

 次にチャンネルだけど、受信部分の魔法陣の大きさを変えることで周波数を変えられることも判ったんで、その部分だけを三チャンネル作って組み込み、選択できるようにした。

 動力源は魔石。魔力が足りなくなったら使用者の魔力を使う方式だけど、魔石自体をすぐに交換できる仕組みも組み込んである。


 運用としては、普段は第一チャンネルで待機しておいて、通信が来たら第二か第三に申し合わせて変更。その通信が終わったらまた第一に戻す、という感じ。


 同じ通信機を持っていれば盗聴し放題だけど、現状はこれで精一杯。まぁ、ライハスにだけ渡すつもりだからこんなモンかな。理想としては電話番号の割り当てが出来れば良いんだけど、全体の構成さえ想像が出来ないんで考えること自体を放棄中。


 もう一度材料を採りに彼方此方を彷徨い、六台の通信用魔道具が完成した。ライハスと話してから三週間経ってしまった。


 ちなみに、材料を採りに彷徨いながらもばらけた魔道書を探してみたけど、一つたりとも見つからなかった。どうやら、人の住む場所の近くに在るという傾向が強いらしい。

 ばらけた魔道書を探す上で、人との関わりは避けては通れない道って事か。まぁ、人里から離れた場所に在る場合もあったから、探さないという選択肢は存在しないワケだけど。麒麟とかアースクエイクとかサモンとか。


 完成した六台の通信用の魔道具の内四台をライハスに渡す。二台の内一台は俺が使って、残り一台は保管しておく。同じ物が必要になった時、オリジナルとして参考にするためだ。ライハスに渡す四台の内訳はライハスに任せる。


 そしてギルドに行って通信用の魔道具を渡したんだけど、この三週間でザナリスが依頼した『蜘蛛』が完全に潰れ、ラグアークの『針工』は内紛で頭領が死亡してバラバラになったそうだ。残っているのは薬師たちが依頼した『名も無き傭兵団』だけだけど、なんの活動の兆候も見られないと言うことで、俺を見失って途方に暮れているんだろう、と言うのがギルド側の見解だった。


 この世界、一ヶ月ぐらいの音信不通は当たり前な感覚だと思ったんだけど、その場合でも大抵は隣町かその周辺にいるのが限界だったようだ。俺の様に数分で三つも四つも国を飛び越えるなんて普通は考えられなかったそうだ。


 だけど転移が出来る魔道書使いも増え、飛行船も増えてきている現状では、今までの考え方では都合が合わなくなってきている。


 つまり、簡単に行方が掴めなくなる。


 列車、船、飛行機のように行き先や所要時間が決まっている移動手段なら問題ないが、転移はほとんど同じ手間で大きく移動できるから、『追跡』するとかの難易度は格段に上がった形だ。

 そういった仕事をする連中の所にも転移が出来る魔道書使いが居れば良いワケだんだけど、そういう点ではまだまだ少数派なのでどうしようも無いのだろう。


 「無理に使う必要は無いけど、使い勝手だけは確認しておいてくれ。ただ、俺の場合は時々通信がつながらない事もあるから、時間を空けて何度か試してくれ」


 「仕事に合わせて、使う奴を選べるってのは良いな。情報はギルド経由で常に連絡が入る体制は出来てるが、こいつは別の使い方が出来る感じがするな」


 「材料集めに七日から十日ぐらいは彷徨ったからなぁ。出来れば数を増やしたいが、当面はその四台でやり繰りしてくれ」


 「判った。で、お前はどうするんだ?」


 「もう暫く籠もってみる。当面は役に立ちそうも無いけど、面白そうな物が作れそうなんでな」


 「なんか、物語に出てくる魔法使いみたいに、デカい瓶で怪しげな物を煮込んでるイメージがあるんだがなぁ」


 「うっ。実は似た様な感じになっているのは秘密だ」


 「秘密なのか?」


 「秘密だ」


 ライハスと打ち合わせも終わったんで、秘密の隠れ家に転移で戻る。


 ライハスへの宣言通り、魔道具を作るワケだけど、これから作るのはこのシークレットルーム内に届く通信の魔道具。今回ライハスに渡したのと、ファインバッハたちに教えた念話ではシークレットルームやアナザーワールドへは連絡が届かない。

 まずは通信が来たことだけでも伝わる何かを作りたい。そうすれば、俺は引き籠もって作業が続けられるはずだ。


 ただまぁ、それが出来るんなら、直接中と連絡が取れる通信機が作れるんじゃ無いかという話もある。


 そして基礎魔法その二を熟読すること二日。


 俺の求めている機能を持った道具は掲載されていなかった。


 「何故無いんだ? 理由は何だ? 爺さんが呆けたのか? 明日のご飯は食べたかのぉ? とか言ってるのか?」


 『言ってたら面白そうだわさ。でもゲーノス様はさすがに呆けないと思うだわさ』

 「そうですなぁ。ほかの理由を考えた方が建設的だと思いますわ」


 ペンギンと猫に窘められてしまった。まぁ、俺も冗談で言ったんだけどな。


 「あの爺さんが年取ったからって、普通に呆けるとは思えないよな。年を取る、とかも魔法でどうにかしてるだろうし」


 『だわさ。だから考えられるのは、教える必要が無いか、すでに教えてあるかだわさ』

 「教えるつもりが無い、と言うのもありそうですなぁ」


 「つまり、俺自身が考えろ、か、見つけろ、って事かぁ」


 『だわさ』

 「ロブロスはんならそんな所でしょうなぁ」


 一度本を閉じ、深呼吸をして気持ちをリフレッシュさせてみる。


 「爺さんの手紙は、爺さんからこの世界の俺にしっかり文字を伝えてる。俺の事も見てるんじゃ無いかと思うぐらいだ。つまり文字という括りだけど世界を超えて通じてるはず。忙しそうだから、わざわざこの世界に来てから連絡してるなんて事は無いだろうしなぁ」


 『ああ、ゲーノス様がヤマトに情報伝達用のマーカーを打ち込んだとかならありそうだわさ』

 「なるほど。それで、時間進行が違う世界間でも時間進行を同期して通じさせてるんですなぁ」


 「え? 時間進行? あ、あっ、あ! それだ!」


 シークレットルームやアナザーワールドだと微妙過ぎるから体感できなかったけど、実は時間進行が違う異世界なはずだ。シークレットルームは中からは扉を作った場所から動かせないという制約がある。外からなら扉を消して、別の場所に扉を設置する事が出来るけど、中からは出来ない。それは俺自身の心というか、魂というか、そう言った俺の存在自体に部屋を関連付けしてあるためだ。そのため、俺自身がシークレットルームの中に入ってしまったら、俺と外の世界とのつながりが途切れてしまう。


 簡単に言えば、シークレットルームの扉は船の碇みたいな物だ。


 もしもその碇が無くなったら、俺はこの世界へは戻ってこれなくなるだろう。強引に戻ってきても、同じ時間には戻れないだろうな。一日経って戻ってみたら数千年経っていた、とかもあり得る。


 つまり扉を動かせないと言う事で時間も同期するように調整していたはずだ。しかし、推測だけど、時間経過は俺自身の体感時間に関わっていたかも知れない。だとすると、時間のズレは必ずあったはずで、通信の同調が取れないのも仕方ない話だ。


 「と、言うのが俺の推測だけど、どう思う?」


 『あり得るだわさ』

 「他の魔法使いの使うシークレットルームとかは知りまへんけど、ニイさんの使うシークレットはその傾向があると感じますわ」


 「感じるのか? 今までは感じなかったのか?」


 「無茶言わんでぇな。そうかも、とか思うて感じてみん事にはなかなか判りまへんですわ」


 「ああ、まぁ、そういうモンだよなぁ。まぁ、とにかく、原因は判った。次は対処だな」


 『ゲーノス様と同じ方法を取るだわさ?』


 「まず基本は前人の成果を踏襲する所だろう? 他にも方法があるのか?」


 『時間関係は難しいだわさ。時間は怖いだわさ』

 「下手に弄くってヘマしたら死んでも死に切れまへんで」


 「た、例えば?」


 「自分の体の一部だけが時間加速したとか考えてみぃや」

 『全身でも、完全停止して誰も助けに来なかったら、だわさ?』


 「簡単に言えば、自分の存在自体が破綻するって事か」


 「正解でっせ」

 『条件によるだわ、世界そのものも破綻させるだわさ』


 「通信での同調ぐらいで手を引いた方が良さそうだな」


 『好奇心は猫をも殺す、だわさ』

 「わ、ワイでっか?!」


 少し和んだ。


 そして同調に関する項目を調べると簡単に出てきた。って、物質が持つ固有の波長を変質させて強引に同化させる項目の中に隠れてたよ! 隠しすぎだろ!


 これによると、時間も波長の一種で、波長を引き延ばせば時間経過が遅くなり、逆もまた可能だという話だ。通常は時間だけの波長を弄るのは難しいから、光と組み合わせて一緒に波長の調整を行うそうだ。


 これらを使うと既存の物質を原子のレベルで崩壊させる事が出来たり、新しい元素の創作なんかも可能になると書いてあった。


 うん。全く必要ないな。


 下手に使うと宇宙そのものを崩壊させる可能性まで出てくる。やっぱ時間関係は怖いわ。


 必要なのは二点間の時間の同調。


 いくつか方法があったけど、後付けで魔道具に組み込みやすいのは、透明な魔石を使って魔石に魔道具自体の時間を管理させる方法だった。


 ただしこれも制約がある。


 六つの魔道具に組み込むために、六つの時間同調の魔石を作って組み込むのは良い。だが、追加が必要になった場合に新しい魔石に同じ時間同調を持たせる事がほぼ困難であるらしい。

 魔石創造が可能な魔法使いなら出来るらしいけど、魔石についての知識についてかなりの熟練度が必要になる。

 魔法使いの真似事から脱却できない俺じゃ、今のところ無理だというワケだ。


 まぁ、はじめから追加分以上の量を一緒に作っておけば良いだけだけど。


 そのためには予備分を保管しておく倉庫とか引き出しとか必要になるか。時間同調の魔石以外にも予備の部品とか残っているから、そろそろそう言った物の保管場所も必要だよな。


 と言う事で、アナザーワールドで巨大ケヤキの枝と採掘した鉄鉱石を使って薬棚を作った。


 江戸時代の薬屋に置いてあった箪笥状の棚で、引き出しが沢山ついている奴だ。


 アイテムメーカーで作ったんで寸法がギッチギチになった。引き手を鉄で作ったので引き出せるんだが、もう少し余裕を持たせて作らないと実用品にはならないだろうな。かと言って、余裕がありすぎると湿気が入って薬棚としては使えない代物になるから困った物だ。


 寸法とかは数回作れば良い物が出来るだろうけど、収めた物を保管しておくには時間停止が必要だろうか?

 さっきまでの話で、時間を弄るのは結構怖いんだけどなぁ。


 『あんたが使ってるアイテムボックスも同じだわさ。完全に収納した時だけ時間干渉すれば良いだわさ』


 「ああ、そっか。引き出しの場合は、引き出しが完全に閉まって、引き出しから手が離れた状態になってから時間停止が起動すれば良いのか」


 「引き出しとか棚自体に人工精霊つこうて、中に何を収めたのを覚えてもらうとか、時間干渉の管理も任せたら良かですな」


 「面倒だけど必要そうだよなぁ。まぁ今回は、棚も完璧じゃ無いし、必要そうな事の割り出しが出来たから良いか。時間干渉とか、すぐには出来無いしねぇ」


 作業のメモ書き用のノートを取り出し、棚についての意識の取り方や付ける機能などを書き込んでいく。ついでに時間同調用の魔石についても大凡を書き込んで備忘録にする。


 「とりあえず時間同調の魔石を作ってテストだな」


 まずは必要な材料は? と調べたら、透明な魔石と魔石の様な力を持たせた水晶石に夜に月の光を浴びて輝く菊の様な花、そして常温でも変質しない水の結晶だそうだ。


 思わず「だーっ!」と叫んで魔道書を放り投げたくなった。


 いや、まぁ、判ってた。判ってたんだよ。魔道具なんてそう言った不思議アイテムの結晶みたいな物なんだって。でも作れるかも、と期待した分、無理ゲーな素材集めを提示されると初っぱなから挫ける。


 「常温でも変質しない水の結晶ってなんなんだよ…」


 『ああ、溶けない氷だわさ』

 「ああ、あれですか。あれ、見た目は綺麗なんですわ。でも触るとヤバかったんと違いますの?」

 『少しだけ不完全に作ると、触れた物を凍らせる性質が出来るだわさ』

 「ほお。ほなワイが見たんは、不完全に作った罠だったわけですなぁ」

 『あれを罠にするだわさ? 能力の無駄遣いだわさ』

 「罠にかかったモノの形をした氷の像になりますんで、見応えはありましたわ。商売にはなりしませんでしたけどなぁ」


 「そんなモンを通信の魔道具に使っても大丈夫なのか?」


 『しっかり作れば周りに何も影響しないだわさ』

 「あれは擬似的に宝石と同じようにしとるらしいですな」

 『水で作る宝石だわさ』


 「ダイヤモンドみたいなモノか?」


 『ダイヤは高温、高圧、そして時間があれば自然に出来る場合があるだわさ。溶けない氷は魔法で水の根幹を変えて強引に強固に安定させるモノだわさ。自然には出来ないだわさ』


 「水の根幹…。水の原子構造を変えて結晶化させるという感じか」


 『ほとんどそれで合ってるだわさ。でも厳密に言うと違うだわさ』


 「そういう所に魔法の真髄ってのが有るってワケだよなぁ」


 『だわさ』

 「ですな」


 さて、材料採取のスケジュールでも考えてみようか。前は樹脂系の材料を集めるために暖かい地域の森を中心に探索を行った。それでも揃えるのに二十日ぐらいかかった。製作には約二日だったから、ほとんどが材料集めだったと言っていいだろう。


 今度は夜に咲く菊の様な花とか言う不思議アイテムだ。コレ系のアイテムを探すための魔道具でも作らないと見つからないのかも知れない。すると、そのための魔道具を作るための材料集めが……。


 「だーっ!」


 『どうしただわさ』

 「遂に壊れはりましたか?」


 「魔道具の材料を探す魔道具の材料……」


 『ああ、魔道具作成のあるあるだわさ』

 「無限ループに陥りましたかぁ」


 「比較的見つかりやすい樹脂系で三週間だぞ。ああ、こっちには七日で一週間って意識はほとんど無かったか。いや、でも、二十日だよ、二十日! はつか! にじゅうにち! 夏休みの半分だよ! ああ、ガンフォールにも二十日も会ってない……」


 『? どうしただわさ?』


 「わ、わ、わ、忘れてたー! 十日ほどで一旦船の様子を見に行くとか約束してたんだー!」


 『約束を忘れるとか、嘘つきの称号を与えるだわさ』

 「十日の約束を二十日もブッチですかぁ。ニイさんは酷い人でんなぁ」


 「冗談でもそんな事言わないでくれー! 特に俺の祖母ちゃんに聞かれたら、どんな事になるのか」


 『それは良い事を聞いただわさ』

 「ニイさんの弱点ですかぁ?」


 「もしもお前らが祖母ちゃんに告げ口したら…」


 『だわさ?』


 「お前らが性根が腐った悪魔だと祖母ちゃんに言ってやる」


 『ど、どうなるだわさ?』


 「どうなるかは判らん。判らんが、俺共々…、俺共々………」


 『わ、判っただわさ! 言わない! 言わないだわさ! だから無言で震えながら涙を流すのはやめるだわさ!』


 「……あ、あれ? 俺、泣いてたか?」


 『あんた。今、意識飛んでただわさ?』

 「なにもんですか? ニイさんの祖母さんって」


 「昔、祖母ちゃんに連れられて動物園に行った事があるんだが、見る動物が尽く横一線に整列して微動だにしなかった」


 『……』

 「……」


 「モノを知らない子供の頃だから、しばらくは動物園ってのはそういう所なんだって思ってた」


 『判っただわさ。一つお願いがあるだわさ』

 「ワイもや」


 「お願い?」


 『その人とは、絶対に会わせないで欲しいだわさ』

 「ワイもや」


 「気持ちは判るが、善処だけは約束しよう」


 『そ、それ以上の約束は出来ないだわさ?』

 「ほんま、恐ろしいですなぁ」


 納得してもらったので着替えて身だしなみを整え、一旦シークレットルームの外に出てからガンフォールの船場へと転移する。


 ガンフォールの船場では百人近い作業員がそれぞれの仕事をしていた。この世界にとっては大工場というレベルだなぁ。

 多くの作業員の中から比較的指導的立場の者を選んで声を掛ける。

 その作業員によると、ガンフォールは休暇を取って飛行船で出かけたらしい。何処に出かけたかは言ってなかったそうだ。


 たぶん、ファーガンの造船場だろうな。


 なのでファーガンの造船場に再転移。


 そこには、立派な太い竜骨と、蛇の骨を思わせる肋骨が組み付けられた船体が横たわっていた。そして作業員と打ち合わせをする船大工のコンゴウを見つけた。横にガンフォールも居る。


 「コンゴウ! ガンフォール!」


 声を掛けて近寄る。まずは謝罪だな。


 謝り倒して聞いたところ、ガンフォールはギルドで俺の動向を聞いたそうだ。そして運良く情報部のライハスと話せて、俺が動きにくくなっている事を知ったらしい。それでガンフォールだけで船の様子見や簡単な許可を出すために単独で来たそうだ。


 簡単な許可というのは本来なら必要無いんだけど、設計寸法と微妙にズレた時にズレたままで製作を続けるか、きっちり設計に合わせて作り直すかを注文主に確認する事だそうだ。

 航行や強度に関するズレは何も言わなくても修正されるのが当然だけど、デザイン的なズレは拘る注文主がいるらしい。俺はその辺は好きにやって良いと初めから言っておいたんだが、取れる許可なら取っておきたいのが職人だそうだ。俺やガンフォールは言わないけれど、変なところからこの造船所は注文主に無断で設計が変わる、とかいう誹謗が出る場合もあるらしいから。


 「ガンフォール。飛行船に使う浮遊装置を組み込めないかな?」


 「竜の力で飛ぶんじゃなかったのか?」


 「そのつもりだけど、浮かぶだけなら自前でもなんとか出来るんだから、やっておいた方が良いかな? って考えてみた」


 ここのところの物作りで、浮遊装置の出力増強が出来そうな感じになっていた。それに二重、三重の安全装置のあり方も見てきたので、竜の力だけで空を飛ぶと言う事にも不安を感じてた。なので今更だけど、追加の仕組みを組み込めないかとガンフォールに相談というワケだ。


 「ふむ。儂も大型船に関しては二重の仕組みを提案しておるが、注文主が出し渋ってなかなか上手く行っておらんがな」


 「まぁ、ガンフォールの大型船なら、通常の浮遊装置が全部止まっても、ゆっくり降下出来る程度の補助を詰め込んでおけば最悪は防げそうだけどねぇ」


 「おお、そうか。完全に代わりを務めるモノを載せようと思っておったが、その程度で良いのなら話は変わるな」


 「所有者がしっかりメンテナンスに出してくれるかも問題だしねぇ」


 ガンフォールが復活させるまでは飛行船は骨董品であり、持っている事がステータスだったけど、これからは注文すれば作ってもらえる高価な汎用品になっている。そのため壊れるまで修理に出さない、と言うようなことも起こりえる話だ。


 「なんとかならんか? 儂の飛行船で人死にが出るのは我慢ならん」


 「国に頼んで、何年かおきにメンテナンスをしておかないと飛行禁止にするとか、は、まだ難しいだろうなぁ。一応、浮遊装置に何年何月に検査をしたと言う記述と、次の検査の目安の年月日を彫りつけたプレートを貼り付けておくのが限界かな?」


 「ふむ。金属プレートで少しは偽造がしにくくしておくしか無いか」


 「メンテナンス費用の半分で偽造できるのなら、やる奴は出てくるかもねぇ。プレートとは別に、検査した費用や検査項目を書いた領収書を渡すとかで精一杯かな?」


 「すぐに出来るのはそんなモンだろうな。帰ったら弟子たちに徹底させるか」


 この世界。基本的に製品を渡したら後は所有者の責任だ。製造者責任法なんて無いから、後から造りが悪かったんだ、というクレームは受け付けない。だけど、あそこの造船所で買った船は酷い、とか言う噂が出るのは我慢ならないそうだ。新聞も無いから噂だけが全てという世界だからなぁ。


 「ガンフォールの弟子たちに広めれば、全国的な基準になりそうだな。頑張ってくれ」


 「ふむ。で、どうするんじゃ? お前の船にはどの程度のモノを載せるつもりだ?」


 「仮に、竜の力が使えなくなったら、という想定だから、普通に航行できる程度のモノは欲しいな」


 「竜の力といえど、絶対では無いと言う事か」


 「どちらかというと、俺の扱い方が原因で使えなくなるかも、って可能性の方が大きいかな」


 木造帆船と竜の体を実際に融合させてみない事にはどうなるか想像出来ない。


 どうなるんだろ? 結果も過程も取っ掛かりすら判らない。まぁ爺さんの魔道書に書いてあるんだから、俺にでも出来るんだろう。多分。パーハップ。メイビー。


 「まぁ、ええわい。それで、いくつぐらいをどこら辺に組み込んじゃ?」


 「簡単に考えて、縦に三つ、左右に一つずつって感じかな。最悪の場合、それが傾けて動かす事が出来る配置だと思う」


 「ふむ。荷物を運ぶ船だと傾けるのは命がけだが、ヤマト個人の移動用だとするならそれも有りじゃな」


 ガンフォールはそう言うとコンゴウと作業員たちと打ち合わせを始めた。地面に魚の骨みたいな線を書いて丸を付け足している。

 ああ、あの魚の骨は船の竜骨と肋骨だったか。

 そして、竜骨に直接組み込むか、横木を通して組み込むかで悩んでる。横木を通した方がメンテナンス的には便利なんだけど、その分、船底の倉庫スペースを狭めてしまうそうだ。俺の船の場合はアイテムボックスを俺が持っているから必要性は低いんじゃ無いかと思ったけど、俺のアイテムボックスが使えないと言う非常事態を想定すると備蓄が無いのは怖いと言っている。


 長距離を移動する船だから、修理用木材、食料、飲料水は必須というのは判る。通信が出来たとしても救助が早くて一年後、とかもあり得る話だ。普通は諦めるだけだし。GPSも無いから、例え飛行船があっても大海原から一隻の船を探し出すなんて不可能と言えてしまう。


 つまり船の備蓄は命綱の一本だ。


 「結局は所有者であり使用者であるヤマトの決定という事だな。で、どうするんじゃ?」


 「完全に魔法自体が使えなくなった場合を想定すると、帆に受ける風の力だけで近くの島までは移動したい、って事だよなぁ。その場合に問題になるのは水と食料か。海の上なら火を焚く燃料の油を積んでおけばいいから、日持ちのする果物類をどうやって保管しておくかが問題だな」


 魔法が使えるのなら生活用水は確保できる。食料もアイテムボックスに入れておけば問題ない。移動する船の上から別の地点への転移は出来そうだけど、逆は難しいかも知れないという推測もあるから、転移する場合は陸地限定になると想定しておいた方が良いだろう。


 問題は何らかの原因で魔法が使えなくなった場合だ。


 高高度で飛行中に魔法が使えなくなったら? うん、それは諦めるしか無い。

 船と言ってはいるが、基本は移動する拠点であり家だ。そこで万が一を考えて常にパラシュートを背負って生活し続けるなんて出来ない。


 考えるのは海に着水するか、陸地に不時着した際、生き残った後の行動だ。


 「ガンフォール。船底に作る倉庫とか小部屋を細かく密閉出来る様に作るのは難しいか?」


 「? どういう事じゃ? いまいち言っている事が判らんのじゃが」


 コンゴウや船大工の作業員も集め、船の外装が壊された時に、小部屋それぞれが密閉された部屋になり浮き袋になるという構造を説明した。

 これは大戦中の戦艦大和が不沈艦と言われた謂われだ。まぁ、実際は難沈艦という程度で、右側だけを集中攻撃されたせいでバランスが保てずに沈んでしまたワケだが。だけど、それ以降の大型船の構造に良く取り入れられているという話は聞く。潜水艦とかには大和以前から取り入れられていた構造だし。


 「つまり、船底が大破しても浮かんでる事だけは出来る、というワケか。輸送用の倉庫も密閉しておけば沈まないし、積み荷を無事に輸送できそうな案だが、かなり重くなりそうだな」


 「ヤマトの船なんじゃから、基本的な重さはどうでも良いとは思うんじゃがなぁ」


 「問題は竜骨にかかる負担だな。他の船よりもぶっとい竜骨に仕上がっちゃいるが、それでも限度ってモノはある」


 コンゴウたちとガンフォールが頭を付き合わせて議論している。中でも船の設計を担当していた男が頭を抱えていた。


 うん。判るよ。そういう事は初めから言ってくれ、って言いたいんだよねぇ。でも、俺も思いついたのがついさっき何だよ。それに言ったからって、実現できませんって言ってくれれば諦めるからね?


 「はっはは。船の中に箱形の船を作る様なモンだろ」


 あ、コンゴウが妙なテンションになってる。設計の男はコンゴウを見て青い顔をしている。ご、ご愁傷様。


 そして、生活できるスペースは船の甲板上の後方に限定させ、船の本体部分には浮遊装置の部屋と各部屋が独立した密閉空間の倉庫が小分けにされた形になる事が決定した。

 簡単に開け閉めできる密閉扉は出来ないので、各倉庫部屋には甲板上に作られた扉から降りて出入りする事になる。魔法が使える状況が限定だけど、小型の浮遊装置を使って昇降機を取り付けて物の出し入れを行う事にもなった。


 小型浮遊装置を使った昇降機は船だけじゃ無く、工事現場や城での生活用などに応用が利きそうだとガンフォールがホクホク顔だ。でも、一番初めに俺と飛行船を作った時に、浮遊装置を使って機材の移動とかに使ってたよね? 今更?

 コンゴウも船の建造から荷物の搬入、搬出に使えそうだとかなりキラキラした目で語ってる。この世界、櫓を組んで天秤の様にバランスを取った横棒を乗せた簡易クレーンはあるけど、いつも現場で作り直しているそうだ。簡易クレーンを設置するだけでも怪我人が出る場合もあるらしく、場所を選ばない浮遊式昇降機は作業の効率を格段に上げてくれる期待があるみたいだ。


 と言う事で、船は設計の見直し。俺は魔力クラゲの捕獲を命令された。


 俺の船の基本としての浮遊装置の分もあるし、あればあるだけ欲しいと言われているので時間の許す限り沢山獲ってこいと言われてしまった。


 俺は今からクラゲ獲り職人。俺は今からクラゲ獲り職人。とブツブツ言いながら飛行船で沖合に出る。


 沖合に出たら、空を飛べる従魔を出して魔力クラゲの探索をしてもらい、従魔が見つけた所に行っては引き上げてアイテムボックスに収納という作業を繰り返した。


 引き寄せの魔法は便利。


 ただ、まぁ、魔力クラゲよりも巨大大マグロを引き寄せて収納した数が多いのは内緒にしておこう。群れでいるんだもん、仕方ないよな?


 戻った後は大マグロを船大工の連中に丸焼きにしてもらう時間で、ガンフォールの指導で浮遊装置の器を溶鉱炉で作る。


 作っておいて良かった溶鉱炉。単純な溶鉱炉じゃ無いから魔道溶鉱炉とでも呼ぶか? それともやっぱり錬金炉か錬金釜かな?


 作業効率を考えて、船の浮遊装置じゃなく、浮遊昇降機を先に作る。横移動はほとんど考えずに、縦の動きのみを考えると、縦型の浮遊装置という感じになる。なのでシルエット的にはキノコにも見えるキノコ型を試作してみた。

 基本は吊り下げ型。バランス的にコレしか無いと思う。

 キノコの真下に人間がギリギリ四人乗れる足場を造り、そこに上下に動かすレバーを設置。レバーから魔力を吸い出して操作に使うので、レバーには通信機の作成時に作った魔道白金を使い、術式のプレートも同じ魔道白金で形成した。

 そして魔力のタンクになるクラゲの粉には魔石の粉をたっぷり混ぜて、時間を掛けて馴染ませてある。


 そして実験。


 うん。


 垂直に発射されるロケット型ミサイルに乗った事はあるか? 俺は今、似た様な気持ちでいっぱいだ。助けて。


 キノコの下に吊された足場に乗って、レバーを上昇にセットした途端に飛んでいた。一瞬、本当に何が起こったのか判らなかった。その勢いで手が離れたから上昇は止まり、俺自身は放り出されずに済んだ。けど、高さは? 低い雲なら突き抜けたぐらいか…。良く上昇の勢いで潰されなかったなぁ。


 麒麟を出してまたがり、キノコ型昇降機は一度アイテムボックスに収納してから地上に戻った。


 「すごい勢いだったなぁ」


 ガンフォールが呑気に笑ってるよぉ。


 「上に持ち上げる力が強いのは歓迎だけど、上昇する速さはゆっくりじゃ無いと使えないよなぁ」


 「どうするんじゃ?」


 「術式自体を見直してみる。上昇速度を力に変えられれば良いんだけどなぁ」


 一度分解して術式プレートを見ているところでペンギンに助言を求めると、あっさりと術式の問題点と解決策を教えてくれた。


 『ここの紋様で単純に位置情報を加算してるだわさ。時間術式を追加して単位時間ごとの加算を制限すれば良いだわさ』


 「ああ~、この術式って爺さんのじゃないから、単純、手抜きの構成ってのは判ってたけど、こんなに乱暴な手抜きだったのかぁ」


 『魔道書使いでも無い一般人だけが使うならコレでも構わないと思ったんだわさ』


 なるほどと納得しつつ、時間を制御するのでは無く、時間を計測する術式を追加して、カウントごとにどのくらい上昇するかの数値は後から設定出来る様にする。


 そして再実験。


 何度か繰り返した結果、三段階の速度を選択できる様にした昇降機用浮遊装置が出来上がった。


 後は量産とサンプル化。俺以外でも作れる様になってもらわないとなぁ。



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