38 悪魔と精霊
竜人族の送り出しの宴も終わり、俺たちは転移でエルダーワードへと戻ってきた。
竜人族は緋竜のローローを餌付けして里に残らせようと頑張っていたみたいだけど、俺が呼んだらあっさりと戻ってきた。かなり悔しそうだったけど竜の意思を尊重する竜人族なので、俺に対してまた近いうちに里を訪れてくれ、と念押しするに留まった。
マレス達のギルドへの報告は既に念話で伝えていたので、報告内容のメモから正式な書類にする作業に追われている。草稿みたいなモノは作ってあったみたいなので、そう時間は掛からない見込みだそうだ。
そして今回の竜人族の里への旅はギルドの正式な依頼になるため、俺は晴れてEランクへと昇格する事になった。
さらに俺自身は悪魔を使役するという立場になったため、悪魔に対する調査報告書を作る様に言われている。
その聞き取り調査を公開で行う事にしたら、ファインバッハをはじめ、何人かのギルマスやエルフ、そして魔道書使いが多く参加を希望してきた。
悪魔の起こす事件がある世界だしギルマスの参加は納得出来る。エルフも精霊使いとして看過出来ない事柄なのであろう。魔道書使いは悪魔の使役は魔法使いへの登竜門と言われたら、その興味は尽きないという言う感じだろう。
あまりに増えたら混乱するという事で、大半は調査に参加と言うより見学という形になり、予め聞きたい事や謎などを提出して貰う事になった。そしてその調査要望をある程度まとめ、代表してマレスとファインバッハが悪魔に質問すると言う形を取る事に。
そしてギルドの訓練場を借り切り、たくさんの椅子を配置して形が整った。
「では私、ファインバッハが主な進行を担当し、マレスが質問すると言う形式ではじめたいと思う」
「よろしくお願いします」
「と言う事で、質問には正直に応えてくれ。場合によっては俺に判断を委ねるのは構わないが、基本は俺からの命令としてくれ」
『判っただわさ』
「かまへんで」
ファインバッハ、マレスが並んで座り、対面にペンギンとネコが椅子に置かれたぬいぐるみの様に座る。俺はその後ろに座り、その俺たちの周りに四人の書記が控えている。更にその周りに四人組の冒険者パーティが二つ控え、その周りに見物人達が座る配置だ。
「では、はじめに自己紹介からはじめて欲しい」
『まずはウチからだわさ。ウチは知識の悪魔だわさ。元々名前は無かっただわさ。この前名付けて貰ったけど、それは真名になりそうだから言え無いだわさ。呼ぶ時は知識の悪魔とかペンギンで構わないだわさ』
「ワイは商売の悪魔や。ペンギンはんと同じでワイも商売の悪魔かネコと呼んで貰ってもかまへんで」
「ありがとう。ではマレス、質問をはじめてくれ」
「はい。まず私たちは悪魔という存在を知ってはいますが、どういった存在なのかは理解していません。それを踏まえて、悪魔の成り立ちからお聞かせください」
やり取りの結果をまとめると、悪魔は精霊の進化の一つで、世界を満たすマナの流れが澱むと一種の個別の魔力体を形成する事がある。それが木々の間を漂い、木々に触れ、木々の命の影響を受けると木の精霊へと上位化する場合がある。その影響を受ける相手が人間の欲望であった場合、その欲望を求める悪魔に上位化する。影響を受ける数が多いか、強烈な欲望が必要なので悪魔の数も少なく、そして人間の欲望から生まれた関係で人間に対する影響力も大きいが故に、人にとっては『悪魔』という存在になると言う事だった。
「言われてみれば、という感じだな。私たちは精霊魔法の使い手であると言うのに、その真理に到達出来なかったのが悔しい思いだ」
ファインバッハがため息を吐いて言った。
『精霊使いは木々や草花、水や火の自然現象から発生した精霊と心を共感させる事が前提だわさ。悪魔を知ろうとすれば、人の欲望と共感しないとならないだわさ。まるっきり畑違いと言う事だわさ』
以前、ルーネスの女伯爵が悪魔に取り憑かれて色々悪さをしたあげく、その根源になっていた女性が狂った様になって飛び降り自殺をした事件があった。その詳細はぼかして聞いたところ、おそらく人間の嫉妬や妬みが根本にある悪魔である可能性が高そうだとペンギンとネコが同意した。
知識欲や金銭欲などは膨らませるのに時間が掛かるため、その発生源である人間を破綻させてしまうとかなり勿体ない話になるそうだ。なので『あいつの商売は強欲だ』等と言われる人間にはそう言った悪魔が憑いている場合もあるが、それで破綻までさせる悪魔は少ないらしい。でも人間の欲望が膨らみすぎて暴走する事もあるそうで、その時は諦めてその暴走で生まれる欲望を味わってさっさと離れるのが通例だそうだ。
ちなみに、こういった聞き取り調査的な場は知識の悪魔にとっては『美味しい』状況らしく、学生の集まる場所や研究施設などにも知識の悪魔は良く彷徨っているそうだ。
『ウチ程の悪魔になるにはそれなりの時間が必要だわさ』
とか言ってた。自慢だな。
「俺からもいいか? 爺さんとその愉快な仲間達が戦うとか言ってる悪魔軍団ってのはどんな悪魔なんだ?」
『あ、あれは、ウチらとは別の存在だわさ!』
「ニイさん、アレはヤバいでっせ」
聞いてみると、爺さん達が相手をしているのは『悪魔』と言うよりは『悪魔族』という感じになるらしい。
精霊が上位化して生まれる悪魔とは違って、初めから悪魔として生まれてくる存在らしい。詳しい事は魔法使いにもハッキリしない部分もあるが、その存在は世界そのものを滅する事を望んでいるようにも見えるという事だった。
精霊悪魔にとっても悪魔と呼べる存在らしく、真の魔法使いでも無ければ出会った瞬間にむごたらしく滅せられる事になる。滅せられるのなら幸せな方で、存在そのものが不愉快で汚らしく、中々死なない物体に変化させられる事もある。
文字通り死んでも死にきれない存在にされるわけだ。
『こちら側』に取ってはそう言うヤバい存在なのだが、『向こう側』では一応の規律もあるらしく、『力』を軸にした封建制とか奴隷制みたいな社会構造を取っているようにも見れると言う情報もあったそうだ。
「なんか、世界のエントロピーみたいな存在に聞こえるな」
『そう言う意見もあるだわさ。世界そのものが定めた滅びの法則、とか言っている魔法使いも居るだわさ』
「とりあえず、俺たちには当面関係の無い話って事でいいのか?」
『そうとも限らないだわさ。軍団レベルでは無いけど、単体でこっちに来てる悪魔族もいるだわさ』
「それってヤバく無いか?」
『単体で悪さして、魔法使い達に袋だたきにされるのは恐ろしいらしいだわさ。だから基本は精霊悪魔の振りして糊口を凌いでいるらしいだわさ。悪魔族にとっては魔法使いは天敵だわさ。まぁそれは精霊悪魔にとっても同じだわさ』
「ワイら精霊悪魔っちゅうんは、取り憑いた相手には生き続けて欲しいワケですわ。ですが、悪魔族というのはこちらの存在を消し去りたいっちゅう感じですな。まぁ、ワイらも無茶して殺してしまうって輩もおるんやけどな」
「だとすると、さっき話したルーネスの女に取り憑いた悪魔ってのは、精霊悪魔じゃなく悪魔族の可能性もあるのか?」
『見てないから判らないだわさ。可能性としては半々って所だわさ』
「一般の人たちが悪魔に憑かれているかどうかを知る方法とかはあるのか?」
『ウチが知る範囲では判るのは魔法使いだけだわさ。ここの魔道書使いでは無理だわさ。ああ、精霊使いなら精霊悪魔なら判別出来る者もいると思うだわさ』
「あ、すみません。私は一応精霊魔法を使っているつもりなのですが」
『気まぐれな精霊に頼んでお願いを聞いて貰ってるだけだわさ。街の人混みの中に入って、お願いします! 右に動いてください! って大声で叫べば、いくらかは動いてくれるのと変わらないだわさ』
「え? え? え? え、えーと、精霊使いになるにはどうしたら…」
あまりの言われ様にマレスが涙目になっている。
『一番簡単なのは精霊と契約する事だわさ。心を繋ぐ内容も含めておく必要もあるだわさ』
「な、な、な…」
質問したマレスもそうだが、横にいるファインバッハも驚愕している。ああ、そう言えば、ギルマス用の魔道書に契約魔法を入れておいたな。あれが有れば精霊と契約出来るチャンスがあるって事かな? 聞いてみよう。
「契約って、嘘を吐かないとか、約束は守るとかって類いの契約魔法で良いのか? それとも従魔契約の方がいいのか?」
『精霊を認識出来て、精霊と交渉出来ればそれでいいだわさ。認識して契約を語りかけるだけでも相手が了承してくれれば契約成立だわさ』
うわ~。ファインバッハとマレスがそわそわしてる。可能なら今すぐギルマス用として渡した魔道書の所に行きたいんだろうなぁ。もう、気もそぞろで、細かい事を考えられないかも知れない。なので代わりに聞いておこう。
「契約は水の精霊とか、土の精霊とかと結べるのか?」
『水の精霊全体じゃ無くて、水の精霊の中の個別体の一つとの契約だわさ。契約だけならいくつもの精霊個体と結べるだわさ。でも心が繋がるから数が多くなると辛いだわさ』
「なるほど。契約した精霊ってのは成長するのか?」
『それは精霊次第だわさ。使い方も関係するだわさ。無理矢理便利使いする契約は精霊の方でも警戒するだわさ。嫌ったりした時に契約を反故に出来無い契約内容なら契約出来ないと思うだわさ』
「イヤなら逃げても良いから、お友達になりましょう、ってのが精霊との契約の基本って事だな。それで、精霊悪魔とも契約出来るのか?」
『人間の欲望から生まれた精霊悪魔と人間が契約すると碌な事にならないだわさ。それに、嘘を吐く欲望から上位化した精霊悪魔もいるだわさ』
「精霊悪魔との契約なんて身を滅ぼすだけってワケだな」
『精霊に無理強い出来るのは魔法使いだけだわさ』
「魔法使いは万能だな」
『万能と言うより弱点をしっかり隠してるだわさ』
「ああ、危ない橋を渡るための命綱をしっかり用意しているってワケだな。まぁ当然か。それを高度なレベルで出来るのが魔法使いってワケだ」
『だわさ』
「魔法使い以外で悪魔を発見したり、取り憑いているのを祓ったりとかは出来るか?」
『断定は出来無いけどおそらく無理だわさ。一時的とは言え自分の欲を断ち切る精神力が無いと同化してるし自分の欲と区別がつかないだわさ』
「普通の人間でも、心変わりというか考え方が変わるのは良くある事だからなぁ。だとしたら他人から心境の変化を見極めるなんて無理か」
『だわ。それに元が人間の欲だわさ。欲は人間が生きる本能だわさ。寝不足で眠い時に一生不眠を貫く覚悟を決めるとか出来るだわさ?』
「商売で儲けたいっちゅうのも、食いもんを確保しておきたいっちゅう生きる本能の延長やからなぁ。財産全てを捨てる覚悟でも無いとワイら商売の悪魔からは解放できまへんで」
「つまり、人は生きていく限り心の中の悪魔と上手く折り合いを付けていくしかないと言うわけか」
『だわさ。もっとも、ほとんどの精霊悪魔なんて弱い影響しか無いだわさ。よほど居心地が良くない限り、長居する事も無いだわさ』
「あー、普段はそんな事をしない様なヤツが、その時だけ何故かやっちまった、っていう『魔が差した』ってヤツか?」
『だわだわ。でもたまに成長した強い悪魔もいるだわさ』
「そういうのが大きい事件を起こすってワケだな。でもって、基本的には対処は出来無い、っと。そう言えば、精霊使いの一部なら悪魔に対処出来るとか言ってたな?」
『精霊悪魔でなくとも人の心に影響を与える事の出来る精霊はいるだわさ。眠りに関する力を使えるとか、記憶に関する力、心そのものへ影響させる力を持つ精霊もいるだわさ』
ペンギンの話を聞いていたマレスが焦ったようだ。
「ちょ、ちょっと待ってください。その精霊の力ってヒュプノ系の事ですか? あれって神の一柱であったはず」
『神? ああ、こっちではそう言う言い伝えになってるだわさ。実際は数少ない上位精霊の一つだわさ』
「言い伝え、ですか。例えば精霊王などのような?」
『神というなら精霊王がふさわしいだわさ。神じゃ無いけど。ヒュプノ系を扱える精霊はそれよりも自我を確かに持った方だわさ。格としては精霊王よりもかなり下になる感じだわさ』
「どのような精霊が悪魔に有効な手段を持っているのでしょうか?」
『決まって無いだわさ』
「はい?」
『例えば水の精霊なら、癒やし系統の力を使えるだわさ。その癒やしの時に助かったという心や、気持ちいいとかの心に触れると、そう言った系統の力を扱える様になってくるだわさ。癒やしだけじゃ無く、攻撃でも幻覚でも良いだわさ』
「あの。今までそう言った傾向は見られなかったのですが」
『専属の契約をして使い続けないとならないだわさ。今まで使ってきたのは、その場にいるはじめて力を借りる精霊ばかりだっただわさ?』
「あ、あ、なるほど、確かに。どこの精霊でも同じように力を貸してくれたから…」
『はじめて一回だけ使った力、と言うだけじゃ、成長しないだわさ』
「はい。まずは契約ですね」
見た目はいつも通りのマレスだけど、内面はかなり燃えているようだ。きっとこの公開調査が終わったら飛び出していくんだろうな。俺も巻き込まれそうだ。うん。逃げよう。そうしよう。そう決めた。
『心の状態を判断出来る精霊に成長させられたら、精霊悪魔に憑かれているのが判る様になるだわさ。弱いのだと見破られただけで抜けていくのもいるだわさ。少し成長した精霊悪魔なら、本人に憑かれているから自粛しろと言って、聞き分けられるなら出て行くだわさ。でもそれ以上だと警戒して近づかないようにするしか無いだわさ』
「精霊悪魔に憑かれていると言っても信じない様に悪魔に誘導されたりするわけか」
『それもあるし、悪魔に憑かれているのを心地よいとか、都合が良いと思う者もいるだわさ』
「どんな影響がある?」
『それぞれだわさ。同じ嫉妬の悪魔でも、成長の仕方で使える力が別々だわさ』
「誰かに怪我をさせるとか、敵になる人物の人格にまで影響を与えるとかも出来そうだな」
『憑かれている者にとっては都合が良いだわさ。だから浸って悪魔を成長させて行くだわさ』
「そこまで強くなった悪魔への対応が問題だな。ぶっちゃけ、どうすれば良い?」
この質問が今回の公開調査の一番の目的だ。
『憑かれた者を助けたければ魔法使いの助力が必要だわさ。ヤマトみたいな魔法使いになりかけってヤツじゃ無く、しっかりとした魔法使いに、だわさ』
「魔法使いはどうやって対処するんだ?」
『ゲーノス様だったら、救いたい者の本当の心に干渉して、一時的に別の心を植え付けて悪魔を追い出すだわさ。別の悪魔を強引に取り憑かせて居心地を悪くさせると言う方法も使ってただわさ』
「心への干渉かぁ。それってかなり難しいよな?」
『下手な事をしたら記憶混乱が続いたり二重人格になったりするだわさ。そうなったら別の人格を与えるとか、記憶を消すとかしか無くなるだわさ』
「記憶を消すのが一番楽な対応って感じもするなぁ」
『何言ってるだわさ。記憶とそれを積み重ねる時の状況で形成される人格が人の命だわさ。記憶を消すのは、その者を殺すのと変わり無いだわさ』
「え? 一応生き続けているのに?」
『心臓が動いて血が巡っているだけの肉の塊があれば、生きていると言う事になるだわさ? それまで生きて、感じて、考えて形成された心が無くなったのなら、別人が入れ替わっても同じだわさ』
ペンギンはここの連中にも判りやすい様に例えているんだろう。もし俺だけだったら、人格形成プログラムで成長させた人工知能を全て消して、またゼロからプログラムを走らせるのは殺すのと変わらないと言う事だろう。別のパソコンを持ってきてゼロからプログラムを走らせても同じ事だしな。
「人って言うのは記憶の積み重ね、って事なんだな」
記憶喪失でも、言葉を話せるのなら、思い出せないだけで記憶は無くなっていないって事だしな。
『記憶の積み重ねで出来上がった人格が心であり、魂というヤツだわさ』
「悪魔はその魂を喰らうワケか」
『何言ってるだわさ。魂を喰うとか言う単純な話じゃ無いだわさ。悪魔を形成する切っ掛けになった感情と同じ感情に取り憑いて、悪魔自身を維持させる力にしているだわさ』
「ああ、自分と相性の良い感情に寄生しているワケか。宿り木みたいなモンか」
『宿り木は…、微妙に合っているかは疑問だわさ。まぁ、他に例えようが無いから仕方ないだわさ。大きくなった宿り木を引き剥がすと、宿主が倒れてしまう様なモンと考えるのはあってるだわさ』
「あ、合点がいった」
『だわ?』
「あ、すまない。いや、お前が悪魔じゃ無く人のためになる様な発言をしているなと妙に感じていたんだ。でもお前って知識の悪魔なんだよな。で、知識ってのは記憶の積み重ねと分類だと思ったら、お前が憤っている理由が判った」
『だわさ!』
フンッ、と鼻を鳴らしたペンギンが何故か照れている様に感じた。
「まぁ、まとめると、自分を律する気持ちをしっかり持っていれば、悪魔は自分の心の動きとそう変わらないワケだな。悪魔を大きく成長させてしまった場合は、取り憑かれた人ごと殺すより他に手が無いと思っていた方が良い、と。
何と言うか、今までとそう対処が変わらない気がするな」
「確かにな。だが私たちがそれを知っていて対処すると言う事に意義はあるのだろう。私たちからの質問はこんな所だな。誰か聞いてみたい質問はあるかね?」
俺の言葉を引き継いだファインバッハが、会場を見回して見学者からの質問を募る。それに幾人かが手を挙げた。その質問をまとめると。
エルフじゃ無い人でも精霊と契約出来るか?
悪魔はペンギンやネコの形を取っているのか?
魔法使いになる方法は?
という感じになった。
『世界を漂う魔法の元になる力であるマナを感じられれば精霊を認識出来る様になるだわさ。認識出来れば契約のチャンスはあるだわさ。生活魔法でもいいから使い続けて魔力と魔法に対する感覚を上げていけば、そのうち魔力感知が出来る様になるだわさ。魔力感知を細かく出来る様になれば、マナを感じる事が出来る様になるだわさ』
エルフの様な生まれ持った資質と肩を並べるのは大変だけど、決して到達出来ない場所では無いと言う事だな。
『ウチも初めはペンギンじゃ無かっただわさ! 悪魔は精霊と同じで形は無いだわさ! 二十数年前、ある所でイワトビペンギンが流行った地方があっただわさ! それを見たゲーノス様が気まぐれで設定してこうなってしまっただわさ! ばかやろー!』
「ワイも同じ様なモンや。まったくかなわんで」
「あー、俺から補足として言っておくと、さっきもこいつらが言っていた様に、悪魔も精霊も成長する。それは自ら大きくなっていく事もあるし、他の同種の存在と合体して大きくなると言う事もあるそうだ。だが、大きくなったからと言ってこいつらの様に流暢に会話をする事が出来るとは限らないらしい。中には出来る様になる精霊や悪魔もいるらしいが、こいつらは魔法使いがまとめて形作り、自我をハッキリさせる様にしてあるそうだ」
『だわだわ。ウチらが話が通じるからって、他の精霊や悪魔も会話出るとは限らないだわさ』
「せやでー。獣の本能しか無い様な悪魔も精霊もおるんや、安易には考えない事やでー」
中々良い引き締めをしてくれたな。
最後は魔法使いになる方法かぁ。
『手っ取り早いのは魔法使いに弟子入りする方法だわさ。でも本当の魔法使いはほとんど別次元に別の世界を作って、そこで研究したりしてるだわさ』
「基本的にまず会う事自体が難しいって事だな」
『気が向いた時に、モノになりそうな資質を持った者にチャンスを与えたりしているみたいだわさ』
「あー、アレかぁ」
思い当たる事はあるな。
「ヤマトはその魔法使いによる試験を受けたワケか?」
ファインバッハが聞いてくる。
「試験というか問いかけだな。魔法使いが資質がある者にだけ伝わる問いかけをばらまいて、それに応える事が出来る者を探していた、って感じだった。それも半ば諦めていたぐらいの少ない可能性だったみたいだな」
「魔法使いの弟子になる、と言う方法はかなり無理な感じだな。他に方法はあるのかね?」
『魔道書使いならドンドン魔法を使うだわさ。そして術式の流れを感じて、覚えて、仕組みを知るだわさ。魔道書を使わないでも魔法を起動出来る様になれば、魔法使いになるための一歩を踏み出した事になるだわさ』
「道は長いが、決して無いわけでは無い、と言う事だね」
そして悪魔に対する公開調査は幕を下ろした。
見学者達は知り合いと会話をしながら三々五々散っていく。ファインバッハは護衛役や書記を務めていた者達にそれぞれ指示を出し、それから力強く俺を拘束した。
に、逃げ遅れた。
「あの~、何の用でしょう? 俺、これからガンフォールの所にでも行こうかと思ってた所なんですが」
ファインバッハはニコニコしながら俺を掴んで放さない。そこにニコニコしたマレスが加わった。更に三人のエルフがニコニコしながら俺を取り囲む。
「さぁ。少し遠出をしようか。良き風が吹き、清らかな水をたたえた湖がある森などに心当たりはあるかね?」
「み、湖じゃ無く川なら、ケヤキを取りに行った時の場所があるけど…」
かなり遠かったから転移用のマーカーを打ち込んである。
「ふむ。本来なら私たちが知っている森があるのだが、マーカーが無いのでな。とりあえずそこへ行ってみよう」
まずペンギンとネコをシークレットルームに入れてから五人を連れてケヤキの森へと転移した。場所は飛行艇を降ろした川の直ぐ近く。遠くを見れば、森の木々から突出した巨大ケヤキが所々に見える。
「なるほど。コレは素晴らしい」
ファインバッハ達が森を見回して喜んでいる。
「基本はケヤキの森なんだろうけど、ケヤキが巨大すぎて、ケヤキとケヤキの間に普通の木々が生えて森になったって感じだよな」
「地面の下を流れる地脈と呼ばれるマナの流れが集中した場所なのだろう。この地でなら木や風、水の精霊も力を付けているだろう」
そしてまずはファインバッハが試して見る事に。契約魔法が記されたギルマス用の魔道書は置いてきてしまったから、ここでは俺が発動させて橋渡しをする事になっている。近いうちに精霊契約用に特化した契約魔法の術式プレートでも作らないとならないな。
「む! 木の精霊を見つけた。かなり成長しているようだ」
ファインバッハが言う。
「木の精霊? コダマとか言うヤツか? それともドリュアスだっけ?」
「コダマとか言うのは聞いた事は無いが、木の精霊である事は間違いないな」
今いる場所の周りには、風、水、木、土の精霊が多くいるそうだ。その中で一番地からの強い木の精霊をファインバッハが見つけたという状況らしい。
「契約するか?」
「うむ。頼む」
「契約内容はどうする?」
「まずはもっとも緩い形式から始めて見たいな」
「判った。じゃあ、従魔契約では無く契約魔法で行こう。ファインバッハはその契約したい木の精霊に契約してくれと語りかけてくれ。他の精霊が割り込むとか無い様にしっかり頼むな」
「やってみよう」
そしてファインバッハがしっかりと空中を見つめ、両手を掲げて祈る様に語り出す。
「我はファインバッハ。力ある木の精霊よ、我と契約を結びたもう」
「開け、絶対なる不動の礎より生まれし、契約の呪文。コントラクトマジック!」
ファインバッハの言葉に続いて俺が契約魔法を発動させた。
『ニュンペーとファインバッハとの契約
ニュンペーはファインバッハの専属精霊としてファインバッハに付き従う。
ニュンペーはファインバッハの求めに応じて力を行使する。
ニュンペーはファインバッハの不利益となる様な行動を取らない。
ニュンペーはファインバッハと心の繋がりを持って応える。
ニュンペーおよびファインバッハはいつでもこの契約を破棄出来る。
この契約には罰則は含まれない。
ニュンペーはこの契約を受け入れるか?』
俺の懸念を含めたらこんな契約内容になってしまった。ファインバッハには悪いが、内容については要再考だな。
『契約は成せり』
「え?」
思わず聞き返しちゃった。
ファインバッハを見ると、その肩に木の枝の塊がなんとなくコビトの形をしたモノが乗っている様に見える。よく見ると半透明で、実際の物体が有るわけでは無いのが判る。
「ファインバッハ? どんな感じだ?」
「あ、ああ。ん、なるほど、そうか。ああ、よろしく頼む」
なんか独り言を言っているが、たぶん心での会話をしているのだろう。暫く待つか。
「ああ、すまない、待たせてしまったね」
ようやくファインバッハがこちら側に帰ってきた。
「契約はどんな感じだ? 契約内容はもっと詰めないとならないと思うんだが」
「ああ、契約については精霊も最適解は判らない感じだな。とりあえずいつでも解除出来るという事と、罰則が無いと言う事で試しに契約してみたという所らしい」
「従魔契約にしてみるというのはどうする? いつでも契約を解除出来る、という所が弱いんだが、心は繋がりやすいらしいが」
「ルーネスの王女とオウムとの契約の事だな。たしかにアレでは精霊にとっては重すぎるかも知れぬな」
マレスや他のエルフとも協議した結果、従魔契約は保留にしておこうとなった。そしてマレスが『風』。他の三人のエルフはそれぞれ『水』『土』『木』の精霊と契約出来た。
「ファインバッハ。二つ目の精霊との契約を行ってみるか?」
「あ、ああ、いや、すまない。今は控えよう。今回契約した精霊との付き合いでかなりいっぱいな感じだ」
「無理するのはお互いにとって悪い影響しか無いよなぁ。今回契約した皆には定期的に報告を上げて貰おう。その上で精霊との契約に特化した契約魔法の術式プレートか、魔道書を作ろうと思う」
「ああ、まずは最適とは言えないまでも、お互いに快く付き合える関係を持てる契約内容は必要だね。君たちも、例え喧嘩別れをしたとしても、それを恥じる事無くしっかりと報告して欲しい。それはきっと後世のためになるし、二度目、三度目の契約に生かされる事だろう。まぁ、今回契約した精霊と仲良くしていくのも大事だがね」
ファインバッハがまとめた事で、エルダーワードに帰る事にした。




