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グリモワールの欠片  作者: IDEI
35/51

35 竜人族の里へ到着

申し訳ありません

筆が遅い上に更新も怠っていました

まだまだ 続きます お目汚しをご勘弁ください

 『精霊魔法の解説』頁との戦いの後からは穏やかに予定が消化されていった。


 あの後、その場に二日留まり、俺の体調と竜人族の行軍の段取りを組み直し、万全の状態での再出発となった。

 そのおかげで俺も精霊魔法の解説を読み込んで、ほんの少しだけ精霊について理解を深めたつもりだ。まぁ、ほとんどはマレスに解説して貰って、それをリッカとディスカッションするという事で判ったような気持ちになっただけ。というのが正確なんだけどな。


 正直、結果の心を想像して、導入の心から変えていく。ってのは、意味も判らないし、そんなパラメータがあるわけじゃない。

 なにをどうすればいいの?

 ってのが俺の本音だ。


 マレスは一人だけ、感動して震えるぐらいの衝撃を受けた、とか、そうそう、そうなんですよ、と、始終喜んでいたけどな。


 ちなみにリッカも、「どういうこと?」と言うのが口癖になってたなぁ。


 まぁ、アルバの事で、マレス達が妙な気遣いをしているのが、少しは薄れたようなので結果オーライ。


 何故アルバが? と言う疑問もあるが、俺自身が暗殺者集団に狙われていたのでその関わりじゃ無いかと思ってる。まぁその事はマレス達には言っていないが。俺自身はファインバッハの所に転移して事の次第を伝えては置いた。マレス達には『話していない』と言うのも忘れずに。


 再出発後、精霊魔法の解説を読んだマレスがレベルアップ? なんと、森の中を進む速度がかなり速くなった。

 森とは言っても、密度の高い森ではなく、木と木の間が5メートル近く空いていて、下草の量も少なく、竜人族の騎竜でも楽に通り抜けられる森なんだけど、軽くなら早走り出来るようになっていた。

 特に何かが変わったわけでも無いけど、人には感知出来ないレベルで、森が協力的になったような印象を受ける。


 これは、マレス自身も認めているしな。


 そのおかげで行軍も順調に進み、二週は掛かるかもと言われていた行程が一週で済んだ。


 元々俺のアナザーワールドを併用の行軍で、それが無ければ月単位が必要だったので皆苦笑いを浮かべていたけどな。


 そして遂に、俺たちは竜人族の勢力圏の一番端にある集落に辿り着いた。


 そこは、直径三メートルは超える大木を利用したツリーハウスばかりで出来た村だった。家が造られている高さは五メートル程だろうか? 家によって微妙に高さは異なるけど、家と家は縄梯子風の橋で繋がれ、家からもツタを利用した縄が地上まで伸びていた。


 これは、弱い種族が、身の安全を守るために木の上で暮らしている、という習慣から出来た風習なんだろうか? あの、戦闘民族そのもの、という竜人族が?


 「リーガ。なんで、家が木の上に建ってるんだ? 木の上に避難しなきゃならないほど、強い魔獣でも出るのか?」


 「はい。元々は、地面の部分は戦うための鍛錬に必要だったために、寝るぐらいしか意味のない家は木の枝の上などに簡易的に造られていたと言う習わしだそうです。

 更に、翼の鍛錬のために高い所を利用する、という考えも加わって、登る時にツタを握りながら羽ばたき、降りる時に翼を広げて滑空する、という鍛え方をしています」


 「なるほど。それだけ、竜人族にとって翼は大事な誇りなんだなぁ」


 「その通りです。さらに、時折侵入してくる魔獣対策でもあります」


 「魔獣対策? それなら、村の周りに柵でも張り巡らせて、入れないようにしたら良いんじゃないのか?」


 「とんでもない。そんな事をしたら、魔獣と戦えなくなってしまうではありませんか?」


 「へ?」


 「流石に、家を地上に造ったりしますと、魔獣に荒らされる恐れもありますが、槍や剣が届く範囲に大事な物がなければ、思い切り振れます。また、その戦いを皆が見て、その戦士の評価も加わるという事で、集落に魔獣が侵入してくる事は歓迎されています」


 「な、なるほど…」


 本当に戦闘民族だった。マレスたちも俺と同じように呆れた、という感じでほうけながら村を見回している。


 そんな話しをしているうちに、この村の各家々から竜人族の面々が翼を広げて滑空して降りてきた。そして、俺たち、と言うより、リーガ達の前に集結し、代表と思しき一人の竜人が前に出てきた。


 「ここは、バーの国、クーラの一族にして、枝分かれしエランの村です。そなたはバーの国、クーラの一族代表であるリーガ殿とお見受けする」


 「うむ。我はクーラの一族を代表して選ばれたリーガ・アーである。エランの村長であるボット・エランであるな。出迎えを感謝する。

 我ら、大命を果たしてのクーラへの帰還の途である。エランを通る許可と、エランにて翼を休める枝を借りたい」


 リーガが代表して交渉してくれる。正直これは楽だよね。

 まぁ、俺たち人間族、竜人族にとっては群人族と呼ばれる、群れなければ大した力のない弱小なる人族が四人というのは、交渉すらする価値のない存在に見えるそうなんで、全部リーガにお任せしている。


 それと、リーガ達が何をしに遠征に出発したのかは、クーラの一族なら全員知っている、ということなので、比較的小さな赤竜の鱗を、親睦のために渡す事にもなっている。

 まぁ、それは、落ち着いた後に俺から村長に、と言う事になっているけどな。


 そして、集会場になっている一番大きな家に入る事になった時、リーガ達は強化魔法のアクセサリーを使ってごく自然に羽ばたいて登った。

 これは、俺のアナザーワールド内で休憩中の時などに、自然に出来るようにと繰り返し訓練を行っていた賜物というわけだ。しかも、俺たち四人を片手で持ち上げた状態のまま、苦もなく飛び立ち、優雅にテラスに降り立ったので、一気に周りの竜人族から称賛を浴びた。


 中には泣いている竜人も居るし、太鼓のような物を持ち出してしきりに叩いている者までいる。


 この後、リーガたちの希望で飛行ショーや空中模擬戦が行われ、『全力でなら羽ばたけば浮く事は出来る』というレベルを脱した『空を制した』姿を披露した。


 当然とも言える事だけど、夜の宴会はかなりの規模だった。こんな一つの集落の何処にこんだけの量の獲物が? とも思えるほど、いろんな魔獣の肉が焼かれ、俺たちは早々にリタイアすることになったけどな。まぁ、回収出来たトゲクジラの肉をだして、食えるだけ食ってくれと差し出したら、久しぶりの海の幸だと喜ばれた。けど、トゲクジラも一応は哺乳類に属するとかの突っ込みは控えさせて貰った。


 そんな集落をあと二つほど経由し、ようやくリーガ達の本拠地とも言えるクーラ=バーに到着した。


 既に、前の三つの集落からの噂で、リーガ達の偉業は知れ渡っている。そのため、クーラ=バーに入る前の段階で、歓迎の喝采を浴びている。


 「英雄のご帰還だな」


 まぁ、竜人族の事は竜人族にまかせておこう。


 そして始まる大宴会。


 赤竜の牙を貰った族長がホクホク顔? で俺たちを向かい入れてくれた。ローローも出したしな。


 族長との懇談では、今後人族のテリトリーに入る場合には事前に使者を出し、行動目的や目的地を伝える事を規則とするように頼んで快諾して貰った。


 ここでの俺としての予定は無いけど、マレスはギルド代表として出来る限り友好的な関係を築く事を仰せ付かっている。そのため、竜人族の儀式や風習的な行動などを逐一メモに書き記していた。

 そのメモのほとんどが、俺のシークレットルームにあった紙だというのは既に運命なんだろうな。


 ここでの俺の予定は無い、としたが、俺がホームベースとしているエルダーワードの王都には仕事が詰まっている。

 俺が間接的に鍛えている兵士達に、実際に魔獣と戦う訓練をしよう、という計画があったが、俺のアナザーワールドが竜人族の移動型収容施設と化していたために、訓練用の魔獣を入れておけなかった、という都合があった。


 今回、リーガ達の里に到着したために、そのお役目も一段落。


 本格的に魔獣を集める事が出来そうだと考えている。まぁ、アイテムボックスに入れるという方法もあるけど、基本的に気絶させないと入らないし、気絶したままの魔獣を出しても訓練にならない、という俺の考えもあって、この方法は保留にしておいた。


 あとでリーガ達に、この辺で遭遇する手強い魔獣とか、聞いておかないとな。


 俺は心のメモ帳にそう記した。なぜか、第一王子と兵士達が泣いて首を振っている幻視を見たような気がしたが、まぁ、気のせいだろう。


 それともう一つ。ばらけた魔導書の紙片を探すという仕事があった。


 これは、すでに日課となっていて、移動した先では必ず行っていた。それもまぁ、ほとんどは見つからない、という結果が毎日続いていたんだけどな。

 でも、今回は反応があった。かなり遠いけど、竜人族の集落の更に先にあるダンジョンらしい。

 リーガの話しでは、子供の遊び場、というレベルの弱い魔獣しか居ないそうだけど、爺さんの魔導書が関わっているとすると、それも変わっている可能性が高い。


 そして人選。


 基本的には、ばらけた魔導書を探すのは俺一人で行きたい所だけど、前回のギリギリ過ぎる戦いの事もあって、マレス達やリーガ達がそれを許してくれなかった。


 結局、俺、マレスたち三人にリーガと、リーガの部下で竜人族の一人であるラグでの六人パーティーが結成された。

 通常のダンジョン探索には心強いパーティーだけど、俺が前回使った、麒麟の背に乗り、自動盾と自動槍を展開してのラッセル車行進は使えないだろうな。


 準備から一日経過。俺たちは問題のダンジョン前に到着した。


 ダンジョンに潜る前の必然として、俺とマレスとリッカでダンジョン入り口から少し離れた場所に転移のマーカーを撃ち込んでおく。


 一応、リーガの部下が、ダンジョン入り口で三名ほど待機してくれる事になっている。その三名と別れ、俺たち六人はダンジョンの入り口をくぐった。


 そして、あんぐりと口を開けて、しばらく呆けていた。


 通常のダンジョンの中は、だいたい縦横が六メートルぐらいの真四角の通路で、場所によってはそれよりも大きくなったり小さくなったりもしている。

 リーガに聞く所に因ると、このダンジョンも元々はそうだったらしい。


 だけど、今、俺たちは、縦横が五十メートルを越える空間にいる。しかも、そこには古代ローマを彷彿とさせる石造りの街並みが広がっていた。光源が何処にあるのか判らないけれど、まるで夕方少し前と言うぐらいには明るい。


 このまま進むと、更に明るくなるのか、暗くなるのか、それともこのままなのかの判断が付かないが、魔法の灯りを頼りに進むつもりだったので問題は無いだろう。


 リーガは、外で待機している三名を一度呼んで、中の様子を見てもらってから、再び外で待機する様に指示した。可能なら、定期的にこのダンジョン入り口と外とを行き来して、変化を確認する様にもと。


 いきなり度肝を抜かれたが、進む事は変わらない。この現象が魔道書のページに因るモノの可能性もあるしな。


 俺たちは慎重に石造りの街並みの中に入っていった。


 街並みの道路は、幅が六メートル程度有り、かつては馬車が往来していたと思われる轍が深く溝を作っている。

 各家の扉は無く、のれんの様な仕切りが扉ごとに掛かっているだけだった。窓もカーテンがかかり、風は通すが視線は通さない、という感じだった。


 そんな中をしばらく進むと、道の先に人影を発見した。


 人影。と言っても人間じゃない。石像だった。それも、ミロのビーナスやミケランジェロとかじゃなく、人型の岩の塊。それが数十体、町の中に配置する様に置かれていた。


 「かつて、ここには、このように人が暮らしていた。というサンプルって事でしょうか?」


 マレスがそんな感想を言う。確かに、町のジオラマの中に人形を置いて、それらしく見せているような感じだ。


 「ねー、ねー。これ、少しだけど、魔力があるよー」


 いきなり石像に登って、頭の上からリッカがそう報告してきた。度胸あるなぁ。


 「魔力がある、とは、ゴーレムなのでしょうか? ゴーレム自体を見た事がないので、はっきりとは申し上げられませんが」


 リーガがそう言う。今度、俺のゴーレムを見せてやろうか? 対戦の練習相手としてなら、目減りしないので便利かも知れないしな。


 「い、いえ。違います! リッカ! 下りてください! これは、かつて人間だったモノです」


 「なっ!」「ええ?」「なんとっ!」


 マレスの言葉に俺とエルマは驚きすぎて、口を開けたままだったので、何も言えなかった。


 「間違い有りません。完全に亡くなっては居ませんが…。いえ、この状態なら、生きていると言っても良いかも知れません」


 「じゃあ、石化された人間ってこと? その石化を解いたら……」


 見た目は岩を人型に荒削りしたような状態。これは、経年劣化と風による浸食で表面が削れていったのだろうと推測された。つまり、石化を解いたら、身体の表面が削れて無くなった状態で復活って事か。

 まぁ、俺のリカバリーなら再生出来るだろうけど。


 ただし、石化されていた人間の精神が、まともなままだったとしたら、だなぁ。心が壊れていたら、それを治す方法は持ってない。


 「マレス、リッカ、石化を解く魔法とかは持ってるか?」


 俺は持ってない。期待を込めて二人に聞いてみるが、二人とも首を横に振った。直ぐにリーガ達に顔を向けるが、竜人族の二人も首を横振っただけだった。


 そこで、ある疑問が俺の頭をよぎった。


 「風化で岩の表面がボロボロになるほどの時間が経過していた、って事だよなぁ。それって、何年ぐらいの事なんだ? ここのダンジョンが変化したのはいつ頃だろう?」


 マレスやリーガ達もその違和感に気が付いた様だ。


 「つまりは、ここは、元のダンジョンとは別の場所かも知れない、という可能性が有ると言う事ですね」


 「転移した様な感じは受けなかったから、もしかしたら入れ替わった可能性もあるな。でも、そう考えた方が、ここの広さとかも納得出来そうだ」


 可能性は増えたけど、その証拠が見つからないと、深く考えるのも危険だよな。真相はまだ闇の中、って事だ。そんな探偵っぽい事を考えていたら、俺たちの前方から妙なプレッシャーを感じた。

 リーガ達も感じている様だ。


 「ヤマト殿!」


 「応。みんな、強化するよ!」


 俺はみんなの返事も待たずに、魔導書を開いて、ターゲットをこの場にいる全員に合わせる。

 「ストレングス リインフォース!」


 その強化が終わると同時に、目の前に黒い渦がいくつも現れる。


 大きさは、ここの道幅と同じぐらい。それが、二十から三十ぐらいはある。


 「やばいな。地上に居たままだと不利になる感じだ」


 直ぐにカードを取り出す。選ぶのはグリフォン三体と麒麟だ。


 マレスたちにグリフォン、俺が麒麟に跨った時に、黒い渦から何かが飛び出してきた。


 それは、黒く、細長く、尖端に丸い口を持っていた。口は顎というモノが無く、円形で、中心に向かって幾つもの歯が突き出ていた。


 俺たちが飛び上がり、緊急避難したその足下を、その黒いヤツが通り過ぎていった。


 太さだけで三~四メートルはある。その口も同じぐらいに広がり、体格が俺たちよりも三周りは大きいリーガ達でさえ一飲みに出来そうだ。


 「ワームか!」


 リーガの部下のラグが叫ぶ。

 ワームとはミミズ系統の、細長い生き物全般の事だったはず。でも、目の前でのたくっているモノとは、少し違う気がする。


 「ワーム? でもぉ、お腹のシワシワが無いよぉ」


 リッカが俺の疑問に答えを出してくれた。それを踏まえてよく観察してみると、頭の両側面に丸い穴が並んでいた。


 「あれは、たぶん、ヤツメウナギの系統の魔獣だと思う」


 「ヤツメウナギですか? ウナギ?」


 「いや。ウナギに似ているからウナギという名前が付いてるけど、全く別の系統らしい。あの丸い口で相手に張り付いて、血や体液を吸うってヤツだ」


 「蛭みたいな感じですか?」


 「そうなんだけど、あそこまでデカイと、そういうのも関係無いかもなぁ」


 俺の世界だと、大きさは一メートルそこそこ。蒲焼きにして喰ってる所もあるらしいな。


 そのヤツメウナギもどきは、長さが三十メートルぐらいある。それが数十匹、俺たちの真下で蠢いていた。しかも、俺たちを狙って、時々飛びかかってくる。


 「見たところ、魔法系統のワザは使えなさそうだ。でも何時までも粘着されそうなんで、チャッチャと片付してしまおう」


 俺の方針に皆が頷き、それぞれが戦闘を開始した。


 俺も溶岩弾や竜巻の嵐、それと、『敵』に対して自動で攻撃する魔法の槍などで殲滅。リーガ達も嬉々としてその剣を振り回していた。


 数十匹は居たはずなんだけど、十分も経たずに殲滅が完了。


 「魔法的な生物って感じもしなかったし、魔石は期待出来ないかな?」


 「なんとなく、ですが、そんな感じですね」


 マレスとそんな会話をしながら地面に下りる。一匹を解体してみようか、という相談をしていた時、巨大ヤツメウナギの亡骸がほんのりと光ってから、その場から消えていった。


 いや、その場に、七~八十センチ程度の、『普通』のヤツメウナギの亡骸が残っていた。


 「これは、魔法か何かで、巨大化させられていた、という事でしょうか?」


 「たぶん。それが魔法か、それとも魔法的な道具なのかは、まだ判らないけどなぁ」


 「ああ、ヤマトは、これが人為的か、自動的かが問題だと思うのですね?」


 「ここに現れた時の事を考えると、人為的、って線が濃厚になるんだけどな」


 人為的だとすると、向こうが計画的に襲ってくるわけだ。常に相手が先手を取れるというゲームは乗らないのが一番なんだけどなぁ。


 ヤツメウナギが小さくなって、スッキリとした周囲には、その爪痕がはっきりと残っていた。


 砕け散った石造りの町の残骸。道路もめくり上げられ、細かい残骸が所々で山になっている。


 「あっ!」


 思い出した。確かここには…。


 「どうしました? ヤマト?」


 「いや、ここに、石化されていた人の石像があったなぁ…、って思い出しただけだ」


 「「「あっ」」」


 薄情だけど、戦いの場に置いては、自分の命が第一だよなぁ。救えるかも判らない石像に構っている暇は無かったし。


 「誰かの意図的な罠、って可能性があるから、あの石像とかも、拘ってたら拙そうだけどな」


 あの石像が、何かの目的で作られたモノだとしたら、なかなか陰険なヤツが裏に居るって事だよなぁ。罠じゃなく、本当に石化した人間の成れの果てだったら、尚更嫌なヤツだろう。


 兎に角、目的の魔導書の一部を見つけるため、先に進む事にした。


 そして、何事もなく端の壁際まで到着。そこには、大型トラック程度なら余裕で通り抜けられそうな横穴が三つ開いていた。

 つまり、三カ所に分岐ってわけだ。


 「これは、分断策でしょうか?」


 リーガの言う事ももっともだけど、 そんなあからさまな誘導には乗ってやるつもりもない。


 「分かれずに、皆で真ん中を進もう。行き止まりだったら引き返せばいい。分断されたら、合流するのだけでも面倒になるからな」


 「細かな分断策に注意しないとなりませんな」


 そんなわけで、皆でまとまって移動する事にした。先頭はリッカとマレス。二人とも、俺よりもダンジョンに慣れていて、罠とかにも詳しい。

 俺が知らなすぎるのかも知れないが。


 そして、結構長い一本道を通り、次の大部屋という感じの場所に出た。


 「これは…」


 マレスが呆れた声を出す。呆れているのか、驚愕しているのかは判らない。

 なにしろ、部屋は前回と同じ、上下左右共に五十メートル程の空間で、天井からは鍾乳石が垂れ下がっているからだ。


 それも、びっしりと。


 地上にも、天井の鍾乳石と対になるように、地面から生えたトゲ、という感じで意志が出来ている。


 ヘタをしたら、天井から落ちてきた鍾乳石にぐっさり、なんて事にもなりかねない。ぐっさり、とかならなくても、あの距離ならただの石ころでさえ殺傷能力がありそうだ。


 なら、どうする?


 「こうしよう」


 俺は大部屋と通路の口の部分に立ち、赤竜の魔導書を取り出した。


 「竜の咆吼! 剛式!

 ドラゴンブレス!」


 「い。いきなり~?」


 誰かの抗議の声は無視。俺はドラゴンブレスを天井に当て、そのまま、天井の鍾乳石を一掃した。さらに地面の上の鍾乳石も薙ぎ払う。


 「…はぁ。ちょっと…、きつかった」


 流石に、強さはそれほどでも無かったが、一発で決めるために放出時間を長くしたのが堪えた。

 でも、そのおかげで、天井も地面もスッキリした。


 「なんと言うか。身も蓋も無いですね」


 マレスが呆れた声で言った。今度ははっきり判る。しっかりと呆れているな。


 「余計な気を使わなくて良いし、手間無いだろう?」


 「それはそうなんですが…」


 「どうせ、罠なんだし、向こうの思惑通りに危ない橋を渡るなんて無しで行こう」


 そう言って進むと、大部屋の中央辺りに瓦礫の山が出来ていた。よく見ると、石で作られたゴツイ腕とか、足とかが転がっている。


 「ここの敵は、ゴーレムだったようですな」


 リーガもまた、身も蓋もないとか思っていそうな口ぶりだった。ちょっとは戦いになった方が嬉しいのかもな。


 そして次の大部屋への通路。ここも三つの洞窟が有ったが、迷うことなく、皆で真ん中を進む。しばらくの後に出口に近づいた所で、通路の後ろが閉じていった。


 「これは、逃がさない、って意思表示かな?」


 「たぶん、そうなんだと思いますが、これも、ヤマトには意味ありませんよね?」


 「まぁ、アナザーワールドなら、元の部屋の位置まで安全に戻れるだろうし、単に逃げるのも簡単だしなぁ」


 「ですよねぇ」


 シークレットルームは、出口が固定されるので逃げるのには不向きだけど、アナザーワールドは中から好きな位置に出口を作れる。アナザーワールド自体の位置は入る時に固定されるが、広さが大きな町一つ分はある空間だから、上下左右の何処かが外の空洞に繋がっていれば移動出来る理屈だ。

 脱出ルートを探す時に手間取るかも、ってぐらいしかデメリットがない。 


 最悪、転移で戻ればいいんだしな。


 そして『逃がさない』という意志を示した大部屋に到着。今度は通路になっていた洞窟そのものが消えた。


 さらに、前方には大部屋を埋め尽くすほどの多数の機械人形が居た。


 身体の表面は金属。歯車や導線が所々に覗いている。


 「あれは、金属製のゴーレムという事でしょうか?」


 マレスも見た事がない、と驚いている。

 俺としては、ゴーレムがあるんだから、これぐらいなら有りかな? って感じなんだけどなぁ。いわゆる、戦闘用の無人ロボット。つまりドローンだな。


 見た目は細身の人間体型。大きさも人間並み。

 ゴーレムの魔法を使いつつ、大雑把な所で機械的な機構を取り入れている、って感じだ。利点を考えると、ゴーレムよりも機敏で頑丈にって目的が見えそうだな。


 問題は、どのくらい強いか、だな。


 「じゃあ、ちょっと、試しに…」


 そう言って、俺は一歩前に。


 「極寒なる氷の大地を凍てつかせる氷の大槍!

 アイスクルランス!」


 氷の槍を戦闘の機械人形にぶつけた。


 その氷の槍が衝突する瞬間、機械人形が不自然に発光したかと思ったら、氷の槍が弾き返されて、俺の方に飛んできた。


 「どわわぁぁぁ!」


 なんとか避けて、無事だった。氷の槍は俺の後ろの壁に激突。その土の壁を凍らせていた。


 「今、魔法を反射しましたね」


 「魔法が効かぬという事は、剣で粉砕するしか無いと言う事ですな」


 「魔法で石とかぶつけても反射するのかなぁ?」


 反射された氷の槍を避けた格好でいる俺を無視して、どんどん話しが進んでいく。


 無視するなー。っと言う事で。


 「もう一度試させて貰おう!」


 胸を張って、大いばりで宣言。


 「第五の事象に亀裂と混乱を生み出せ!

 マジック ジャミング!」


 まずは魔法を妨害。ふふふ。まだまだ、終わらんよ。


 ……………………あれ?


 威力は落ちるが、広範囲で作用させたよ? 確かに、ほとんど、全ての機械人形に魔法を掛けたって事だよ?


 なんで?


 なんで、全部の機械人形が倒れ伏して、ピクリとも動かなくなってんの?


 機械人形が、この、上下左右が五十メートルずつある大部屋に、ひしめくように現れたんだよ?


 「なんで。魔法の妨害だけで全滅してんだよ!」


 俺の抗議は、決して、我が儘なセリフじゃ無いと思うんだ。


 「魔法を反射させる仕組みを持っていたと思うのですが、本当にどうしてでしょう」


 「あれ? もしかして、魔法を反射するんじゃなくて、氷とか火とかを反射する魔法だったのかなぁ?」


 「魔法で反射する、という仕組みの場合、魔法を反射する、と言うのは不可能なんでしょうか?」


 「たぶん、それなんだと思うよぉ」


 俺としては、こちらに被害の少ない魔法で出方を選択しようとしていたんだが、その段階で終わるとは思わなかった。ああ、俺の活躍の場面が…。


 「まぁ、終わっちまったモノはしょうがない。次ぎに行こう」


 そして、倒れたままの人形をそのままにして、次の部屋に移動。今度も似たような部屋だったけど、敵は居なかった。ついでに、次の部屋への洞窟通路も無かった。


 有るのは、真ん中に描かれた、直径五メートル程の円。


 「あれには、特に魔法的な力は感じないなぁ」


 「でも、あからさまに罠ですよね?」


 「何かの的みたいなモノかな?」


 「しょうがないから、入るけどな」


 かなりの確率で、入らないと進展しないだろうからなぁ。本当にしょうがなく、俺たちは円の中へと入った。

 すると、円を中心に魔法陣が現れ、俺たちは別の場所へと転移させられたようだ。


 真っ暗で何も見えないけどな。


 上下左右もなく、無重力状態で浮かんでいるような感じだ。

 そこで、魔法の光を4つ程出し、上下左右の遠い位置に配置した。


 魔法の光に照らされて、全員が居るのを確認できた。


 翼を持つリーガ達は兎も角、俺たちは浮かんでいて収まりがつかない。そこで、再び麒麟とグリフォンの出番だ。今回はホーンドラゴンも出して、そこにリーガ達を掴まらせる事にした。いざというときの足場にして貰おう、ってぐらいの気持ちだけどな。


 一応落ち着いた所で、四つの魔法の光を強く光るようにして、更に遠い位置に移動させる。これで、周りの様子が少しでも判らないかと期待したんだが、周りは真っ暗なままで、俺たちだけが光に照らされて浮かんでいるだけだと判っただけだ。


 まぁ、光を遠くに位置させたのは、照明は近いと逆に周りが見えなくなる、という現象を避けるためだから、それだけでも意味はあるんだけどな。


 「さて、俺たちをここに呼び寄せたヤツは、この後、何を考えて居るんだろうな」


 俺の疑問の声は、皆の意見を集約したモノと思うけど、誰も、それに応えてくれないので、空しく位空間に消えていった。


 その時、闇の中から、出所不明の音が響いた。


 『ブツン。ブ~ン……。ごほん。う゛ん。あー、あー、あー。これ、入ってるの?』


 なんか、嫌な予感がする。いいのかぁ? 一応、ファンタジーの世界なんだぞ?


 『ほーっほっほっほー。良く、ここまで来たわさ。偉大なるゲーノス様の弟子を名乗る者よ』


 ゲーノスって誰だ? この展開から言って、爺さんの事みたいだけどな。


 しかし、高笑いから入るかぁ。とりあえず、女みたいだし、何となく高飛車っぽい感じも受ける。きっと、金髪縦ロールでお嬢様風の格好して、見下せる位置に立ってくるんだろうなぁ。


 「あの、ヤマト? この声の方は、ヤマトの関係者でしょうか?」


 「マレス? 一応、他意は無いというのは判るんだけど、場合によっては侮辱発言だぞ? それは」


 「あぁ、関係者というのは、親密な関係も含めますしね。申し訳ありません」


 「本当に、一応、言っておくけど、俺としては初対面だと思う。あのインパクトで忘れるってのは無いよなぁ。まぁ、忘れたい、ってのならありそうだが」


 「ですよねぇ」


 『そこ! 何を根拠にディッスってるだわさ! 』


 「一部分的な記憶喪失って可能性も有るだろうが、そう言った記憶の抜けやズレは感じた事が無いしなぁ」


 「なら、初対面であるのは間違いなさそうですね。ですが、この声の方の関係者との繋がりはどうでしょう?」


 「うっ、それを言われるとなぁ…」


 『だわあああああ! 無視するなだわぁぁぁぁ! 私の話を聞くだわさ!』


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