16 従魔レース
2020/12/30 改稿
レース前日。
今日の夜には前夜祭がある。
元々前夜祭でテロを起こす計画があったわけなんで、その計画首謀者を捕まえてあるけど、念のための警備は厳重に行う事になった。
ほとんどはギルドの腕利きで、人としても信用出来る冒険者を中心に指名依頼と言う事になった。金次第でどっちに行くか判らない、っていう冒険者も多いので、そう言うのは、町中で喧嘩やトラブルを抑えるための警備という形で依頼を出して、受けて貰っている。
一番拙いのは、金次第で動くのが、何の依頼も受けないでフリーの状態になっている場合だそうだ。後は、ダンジョンに潜っている、という情報なのに、外に居る、というのが怖いらしい。ダンジョンの入退場のチェックが先週から厳しくなっているそうだ。
そして、何故か、俺はギルマスと一緒に前夜祭に出席している。しかも、謎の魔導師じゃなく、ヤマトとして。
ギルド推薦の優勝候補として紹介されて、挨拶回りに駆り出された。つまりは、警備の遊撃部隊、って感じで、臨機応変に動ける最大戦力という感じなのだろう。
でも、まぁ、俺の周りにいるのは学院の生徒ばかり。魔導書使いの派閥から逃げてきたんだそうだ。かなり辟易としていた。
その一番の面倒なのが、細面で背の高い、赤いローブを着た男だと教えてくれた。自分の従魔の犬を連れてきているから、すぐに判ったけどな。
俺が王子や他の学院の生徒と話しをしている事に気が付いたらしく、俺の方へと近寄ってきた。
「失礼ですが、どちら様で?」
知らないのに声を掛けてきたのかよ。
「明日のレースに参加する、単なる一般人ですよ」
「従魔をもっているのなら、魔導書使いなのか?」
一般人という所で、すぐに言葉遣いが変わった。典型的な近視眼的な小物だね。
「一応はね。あんたも魔導書を使うのか?」
「ふん。下賤なる者が来ていい所ではないぞ。さっさと立ち去るがいい」
俺のため口にいきなり切れたようだ。本当に小物だね。
「あんたは、そんな事を言えるほど、お偉い魔導書使いだったんだ? さぞかし、凄い術が使えるんだろうなぁ」
そう言いながら歩き出し、昨日の主役であり、本日も重要なゲストであるルーネス王国の王族の方へと歩き出した。その行動に懸念の表情をしている、ってのがアリアリと判る。
「楽しんでおられますか?」
そう言ってユニコーンを撫でる。頑張って我慢しているね。よしよし。
俺の声に気付いた王族が、とたんに相好を崩し俺の所に集まってくる。
「やあ。おかげさまで楽しんでいるよ」
「やまと ちぃっす!」
「あらあら、実は可愛かったのね」
「あの、お願いが……」
国王陛下は当たり前の返答だったけど、第三王女? チーコに肩代わりして貰っているとは言え、ちょっとフランク過ぎでは? 王妃様? どういった基準でかわいいと? 第一王女のお願いって?
とりあえず、聞いておかないとならないのは、第一王女のお願いだろう。
「お願いとは?」
「えっと、あそこにおいでになられる、第四王子殿下の従魔なんですが」
「はい。グリフォンですね」
「えっと、その、この子のように愛でる事は出来ないモノでしょうか?」
「よろしいですよ。実は、誰彼構わず触られると、従魔も気分が悪くなるので、触れられない、という事にしてあります。ですが、特別にと言う事で、お願いしてみましょう。では、お手をどうぞ」
そう言って、第一王女、エリアス王女殿下の手を取って、第四王子のベークライトの所へとゆっくりと歩いて誘導した。
「エルダーワード、ワインズ国王陛下の御子にして、第四王子であられるベークライト殿下。こちらはルーネス、エシュタル国王の御子、第一王女であられるエリアス殿下であらせられます」
「うむ。互いに挨拶は交わしておる故、楽にして良い」
「感謝致します。実はこの度、エリアス殿下がベークライト殿下の従魔であるグリフォンを愛でたいと御所所望となりまして、是非、…………」
「?」「?」
突然止まった俺の様子に、二人が大きなクエスチョンマークを出して覗き込んできた。
「どうした? ヤマト?」「如何なされたのですか?」
「だめだ。俺には敬語なんて言葉は使い切れねぇ」
「なんだ。もう少しではないか、頑張れ」
「ふふふ、ヤマト様ったら」
「あ~、もういいや。ベークライト、エリアス殿下にグリフォンをいじらせてやってくれ」
「ん? いいのか?」
「まぁ、重要なゲストだからな。特別だという事でいいだろう」
「まぁ、そう言う事ならな」
「さて、殿下。許可が出ましたので、撫でるなり、抱きつくなり、囓るなりしてもいいですよ」
「か、囓らないでくれ」
ベークライトがそう言っているうちに、もうロープを越えて中に入ってしまっていた。
柔らかい羽毛の上半身、そして逞しい下半身、パタパタと振られる尻尾を一生懸命愛でている。
そこへルーネスの残りの王族も集まってきた。
「あらあら、エリアスったら。本当に子供っぽいのですから」
「王妃殿下も構いませんよ?」
「あらあら」
とか言いながらロープを越えていった。
で、王様も含めて、一通り愛でていって、一応は終了となった。
「あまりいじり回すと、明日のレースに影響しますからご勘弁下さい」
「おい。それは、もっと早く言うべきじゃ無かったのか?」
「明日のレース? ベークライト王子は明日のレースに出場するのか?」
第一王子が驚いて聞いてきた。同じ王子でもたった一人の王子と四番目の王子では扱いも違うだろうしね。
「ええ、グリフォンがどの程度の早さかは、実際にレースをした実績が無いのではっきりしませんが、出場するからには優勝を狙いますよ」
と、対外的に決めてあったセリフをしっかり言ってくれた。始めからグリフォンはコモンドラゴンよりも早いですよ。なんて言ったらレースが成り立たないからな。
そんな、朗らかな会話を王族と自由気ままに話している俺を、例の魔導書使いの男が睨み付けている。うん。これで良い。王子や学院の貴族が直接狙われるより、俺に対してやってくる方が、内容が派手になるし、対処もしやすいはず。
陰険にコソコソチマチマ、ってのが、一番面倒くさいからなぁ。
すぐに仕掛けてくるかな? ちょっと誘ってみようかな?
「ちょっと失礼」
そう言って、特に何も言わずにその場を離れる。まぁ、そういうわけだ、と、思われるだろう。
そして、ゆっくりと歩いて、ゲスト用の控え室へと入る。誰用とも決まっていない部屋で、一人で休んだり、複数人で打ち合わせしたり、取引したり、逢い引きしたりと利用する部屋だ。まぁ誰でも出入り自由というなら別だけど、色々と拙い場合は入り口に護衛を立てるのが当たり前なんだそうだ。
俺なんかには専用の護衛も居ないし、目的は疲れたから宴会の席から離れて休む事、って感じにしてある。だから、他の誰かが入っても全然OK、ってわけになる。
で、その部屋で休んでいると、案の定、あの魔導書使いが入ってきた。行動的には安直すぎる。何か考えがあるのかな。
とりあえず、一人で勝手に休んでいる、って事になっているから、こちらからは声を掛けない。休んでいる場所でもわざわざ挨拶しまくるってのは、目的でもあれば別だけど、でなければ無粋ってもんだろ。
「まだ居たのか。さっさと立ち去れと言ったはずだ」
あ、もの凄く単純だ。何というか、頭使っていないせいで、どんどん語彙を失ったロートルって所かな。
「なぜ、あんた程度のヤツの命令を聞かなければならないのかな?」
「なに? わたしを誰だと思っているのか!」
「知らねぇなぁ」
「わたしはこの国の陛下にも覚えもめでたき、魔導書使いの顧問にして魔導師団の団長であるぞ。お前ごときが逆らっていい存在ではないのだ!」
「あ~。これは、対処の必要のない、単なる馬鹿だったね」
俺は、目の前のなんとかの団長とかいう男以外の存在に向かって語りかけた。
「何を言っているか判らぬが、恐れて気がおかしくなったか? だが、わたしへの侮辱は許るさん!」
そう言って、団長さんは自分の従魔の犬をけしかけてきた。魔獣かな? って思ったら、単なる犬だった。ドーベルマン種に見えるけど、微妙に違うような感じなんだよねぇ。
で、歯を剥き出しにして唸りながら向かってくる。それを見て、俺は自分の魔力を放出してみた。何となく、それが一番楽かな、って感じたんだよね。特に明確な意図があったわけじゃない。
でも、効果はてきめん。俺の魔力に気付いた犬が、尻尾巻いてご主人様の後ろに戻って行ってしまった。
かなりの実力差を感じたらしい。まぁ、俺の場合は魔力だけのはったりなんだけどな。
「ええい! 何をやっている、この役立たずめ!」
小物感バリバリ。どうしてこんなのが団長になれたんだろう。
「お前にはわたしの実力を見せなければならないようだな」
何言ってるんだろう? この団長の言っている意味が判らない。
その団長は、懐から魔導書を取り出し、自分で頁をペラペラと開いてから魔力を込め始めた。
「王宮内で、しかもゲストルームで魔導書の魔法を使うなんて、重大な犯罪行為ですよ?」
「ふん! お前が魔法を使ったから、仕方なくわたしが成敗しただけだ。たとえ生き残っても、お前の言葉なぞ、誰も信じんからな」
「あ~。そうやって、何人殺したんだぁ?」
「そんなモノ。一々覚えておれるか。所詮、踏み台よ。お前は別だけどな。単なる邪魔者は消え去れ」
そう言いながら魔導書に込めていく魔法の術式が、見えてきた。
あれ? こんな風に見えるモノだっけ? なんか、学院で始めの方に教えていた教科書どおりの術式だなぁ。つまり、魔法力の制御がほとんど出来ていなくて、魔力も駄々漏れ、威力も弱いし、狙いも甘い、という基礎的術式のままの形だ。
もしかして、学院で習った後に、自分なりに改良して無い? 魔導書自体が、学院の授業で作った物そのままとか?
そんな事を考えながら呆れていると、ようやく魔法が完成してきた。撃てるのは、もう少し後かな。
いいの? こんなに遅くて?
魔導書から、術式が型に嵌めたように押し出されていき、それが現実へと現れようとしている。魔法って、こうやって効果を発生させるんだなぁ。っと、呑気に考えてた。
でも、魔法自体は炎の弾を投げつけてくる魔法で、魔法力を弾く盾、という魔法で対処可能だ。ああ、でも、それだと、弾かれた炎の弾が飛び散って、火事を起こすかも。そんな騒ぎは拙いね。
俺は、先ほど犬を威嚇した魔力を使って、その力の一部を弾き飛ばす事を考えてみた。魔力をレーザー光線のように飛ばすか、拳銃の弾のように撃ち出すか。
いや、おはじきのように弾き出すのが、イメージとしては簡単だ。
祖母ちゃんと遊んだ時のイメージが強烈だしね。
祖母ちゃん。ガラス玉のおはじきを弾いて、三メートル離れた所の障子の戸を叩き壊したのは、トラウマです。自重して下さい。小さなガラス玉のおはじき自体も粉砕されていた、と言うのは泣きましたから。
で、俺の魔力を、粉砕しないように手加減しながら弾いて飛ばした。
狙いは魔導書から出て、形が出来ていっている魔法の術式。それは、見事に術式の中央に当たり、術式の魔力共々砕いて霧散させた。
「な、何をした?」
自分の術式が壊された事ぐらいは判るのかな。術を発動させる前に気付いたようだ。
「ええい、怪しげな術を使いおって。まだだ、この呪文を受けてみよ」
そう言って、別の頁を開こうとした。
ゴキ!
「もういいだろ?」
ルーネスのギルドのギルマスであるジーザイアが突然団長の後ろに現れ、その後頭部をゲンコツで殴って気絶させた。
「この後、どんな茶番を見せてくれるのか、興味はあったんだけどねぇ」
「まぁ俺も、時間があれば見物してもいいとは思ったけどな」
こんな小物に構っている時間は無い、と言う事だなぁ。
他にもゾロゾロと現れ、こんな狭い部屋に、どうやって入ってたんだ? という人数が出てきた。そして団長を簀巻きにして、頭にも袋を被せ、犬にも同じようにすると、何処かへ持っていっていしまった。
何処へ?
と言うのは聞かない方がいいんだろうね。つまり、あの団長には、どこか、遠い所で、不幸せになってもらおう。って事だ。
「俺は、もう少しここで休んでいくよ」
そう言って長椅子に座り直すと、ジーザイアは手の平を振って他の連中と一緒に出ていった。
シンと静まりかえる。でも、耳を澄ますと、宴の部屋の喧噪や生演奏の音楽も聞こえてきた。
「首突っ込まない方がいい、って言って置いたよな?」
俺は空中に向かって、何となくという感じで声を出した。
「もう、それほど怖い相手でもなくなっちまったさ」
何処からともなく声が聞こえた。ギルドの初心者冒険者をテロの捨て駒にしようと動いていたライハスだ。俺は心の中で、情報屋ライハスという名を勝手に付けている。
「どうせ、取り巻きがさっさと逃げ出したんだろう? でも、心酔している様なのが、いくらか残ってるんじゃないのか?」
「心酔か、どうかは知らねぇが、使えるのはローディアスだけだったようだ。下半身の世話係は他にも居るんだが、皆、単なる領民で、あっちの体力自慢か物自慢ばかりだってさ」
「そんな中にローディアスくんも居たのかぁ。ローディアスくんって、実は凄いのかな?」
「ローディアスはアルールしか女を知らなかったみてぇだな」
「とたんにローディアスくんが哀れになってきた」
「更に、今じゃ完全に家から絶縁されちまったからなぁ。その家も、一応、家族が全部ばらけて、表面的にだが断絶という扱いだってよ」
「なんか、もう、掛ける言葉が見つからなくなった」
「まったくだ。そんなわけで、アルールはローディアス以外の男で現実逃避中だってよ。まぁ、死ぬ前にギリギリまで楽しんでおこうってわけかもな」
「逃れられない証拠とか出てきたのか?」
「ローディアスの言葉だけじゃ、何の意味も無いし、自筆の書き物が残っているわけでもないから問題は無い。恋文ってのも、今度はあんな事をやりましょう、っていう話しばかりだったそうだしな。
アルール自身は、本来は惚ければ惚けられる状態だ。だが、逃げてった取り巻きに、言質を取られているみたいでな。逃げてった取り巻きを、どのくらい落とせるかで、アルールの運命が決まるってわけだ」
「自分の裁量じゃなく、逃げてった取り巻き次第の運命ってわけだ。なるほど、諦めるわけだ」
「妹ってのにも手が回ってな。罪を問われる事は無さそうだが、既に離縁の話しが進行中だってよ」
「ま、姉を唆した元凶って感じがするんだよなぁ。俺としては、妹の方をどうにかしないと危険かも、って思うんだけどな。とにかく、強く出る力は無くしたと思ってもいいのかなぁ」
「チッ、その見方は出来なかったぜ。確認だけでもしておかねぇとな」
「待てって。首突っ込むなって言ったろ。本気で言っておくぞ。手を引け、ヤバイ匂いがプンプンする」
「まかせな、って。本当に危険な線は越えない分別は持ってるさ」
それきり、声は聞こえなくなった。ヤバイなぁ。俺がその妹を想像する時、なぜか、暗い闇を想像するんだよなぁ。しかも、冷たく、深い。
気のせいだといいんだけどなぁ。
休憩の部屋から出ると、壁に寄りかかって腕を組んでいるジーザイアが居た。
「なかなか優秀そうじゃないか」
「本当に危ない橋を越えなければ、だけどねぇ」
「ああ、その見極めが実戦で出来るかが長生きの秘訣だな」
「普通は、気が付いた時には遅かった、ってのがパターンでしょうに」
何度、祖母ちゃんに捕まって本気で諦めた時に、「なんだつまらん」と言われた時に感じた理不尽さは、未だに腹でくすぶっている。
「それも含めてだ。生きていれば長生き出来るぜ」
ジーザイアなら、死んでも長生きしそうだな。
宴の部屋に戻ったら、状況は落ち着いた雰囲気に変わり、皆、散り散りになって静かに談笑している。
俺も、何処かで座って、と考えて、空いている席を探していたら、側近風の男に席を誘われた。その誘われた先に居たのは、エルダーワード国王、ワインズ陛下。さーて、そうなる事やら。
逃げるわけにもいかないので、側近に促されるまま、たった一人で座っている陛下の前にいく。
「陛下、ご同席、宜しいでしょうか?」
側近に呼ばれた身なんだけど、立場上、自分の方が着席の許可を求める事になるはず。という、うろ覚え、アンド、浅い知識の勝手な予想で声を掛ける。まぁ、失礼になりさえしなければ、なんとでもなるだろう。「わざわざ俺を呼んで何の用だ?」なんて言わなければ問題ないはず。
「まあ、そう改まるな。この席は明日のレースに期待し、労い、励ます物だ。レースに参加する諸兄は、素直に受け取って貰いたいものだな。
ああ、座りたまえ。何か飲むかね?」
「明日に触りますので果実水などを」
側近が少し離れたテーブルに置いてある飲み物セットから、果実水を二つ、盆に乗せて持って来た。その二つを二人の横のサイドテーブルに置いて、下がっていくのを無言で待つ。
側近が離れてからが会話スタートだ。
「今日は、わざわざ来てくれて感謝する。明日のために、ほとんどの参加者は辞退してしまったからね」
「第四王子の出場を知って、どのように勝ちを譲るかを検討しているのかも知れませんね」
「まぁ、普通ならそうなのだろうな」
「普通では無いと?」
「ベークライトから聞いたよ。貴公たちが本気を出せば、いつもの半分以下の時間でレースが終わってしまうそうではないか」
チャラリン。ベークライトくんへのお仕置きリストへポイントが追加された。
「陛下は、レースそのものが、開催される事が無駄だとお考えですか?」
「いや? そうは思わんが?」
「そうですか。それは良かった」
「………、そうか、そうだな。飛竜などで、レースに参加する者たちへの健闘も称えねばな」
良かった。俺の言わなかったセリフを読み取ってくれた。所謂、腹芸が通じたって事だね。この程度は腹芸とは言わないのかも知れないけど。
「飛行船も、今まで、良く、古き物を維持されてきた方々の功績もまた大きいでしょう」
「…………」
「ルーネス王国とは、これから、よりいっそう、親密なる関係も期待されます」
「………」
「この国にとって、陛下にとって、喜ばしい事でありましょう。この国の繁栄と、周辺諸国との安寧なる関係を祝って」
そうして、果実水のカップを掲げてから、一口飲んだ。
「ふむ。ふ、ふふふふふ。なるほどな。ファインバッハやジーザイアの言うだけの事はあるか」
「あの二人は………、話半分と取ってもらえればと」
「ふはははは、あの二人からは隠している物は倍以上と言われたがな」
「………」
思わず頭を抱えちゃったよ。あの二人にもお仕置きポイント追加だな。
「まぁ、そう構えるな。貴公に対して、何かをしようとも、利用しようとも思わん。それはあの二人からも釘を刺されておるからな。あの二人だけじゃなく、ベークライトからも言われておる」
まぁ、あの三人の、俺に対する評価ってどんなモンなんだろう。実は聞くのが怖いってのは内緒だ。
「ああ、ベークライトに関しては礼を言わねばな。上の二人にかまけていて、下の二人には本当に構ってやれなんだ。人任せにしておいて言うのも何なんだが、随分と我が儘にしてしまってな。それが、あのように先を見据えた言葉を吐くとは、本当に驚いた。聞けば貴公の指示だそうじゃないか。貴公のおかげで目が開いたようだと言っておったぞ。これには、貴公に感謝してもしきれんほどだ」
す、すいません! 完全に、俺のために、ベークライトくんに目立って貰おう大計画のせいです! だから、お願い! 頭下げないで!
「俺は、こうすれば格好良く見える、こうすれば格好悪くなる、って言っているだけです。それを聞いて実行しているのは殿下自身です」
「ああ、それだ。実際、こちらの教師も似たような事は言ったはずなんだがな。ベークライトの心には響かなかったようだ」
さ、さーせん! 俺のは、心に響かせたわけじゃなく、心にヒビを入れただけっす!
「まぁ、ベークライトの事も含め、貴公には相応の礼をしないとならないと思っている。だが、貴公は礼をさせてはくれない、という苦情がギルドからだけではなく、ルーネスからも入っている始末だからな」
「く、苦情って……」
「ははは。それでな、レースが滞りなく終わった後になるが、貴公には王家秘蔵の宝物庫にある魔導書を、貴公の望むだけ与えようと思っている」
「え? えっと、かなり嬉しい話しなんですが、王家に関わる魔導書などもあるのでは?」
「ああ、それは、貴公には必要ないものであろう? 必要無い物であるなら、そのまま置いていって構わない」
「なるほど」
つまり、王家に必要のない魔導書を引き取ってね、って事だろうな。中には悪魔の憑いたのも在りそうだから、そういう物の処分もお願いできるかな。って言ってるわけだ。
「判りました。その申し出を有り難く頂戴いたします。わたしに必要のない物は残しますが、この世に必要のない物は、勝手に処分する事をお許し下さい」
「ふむ。与えた物をどのように扱うかは貴公の自由だしな」
それから、当たり障りのない話しをいくつかして、席を立った。陛下の席には、すぐに次の人物が呼ばれ、またひそひそと話していく。国王って大変なんだなぁ。
周りを見ると、学院の生徒も居なくなり、人もかなり減っている。要は、重要人物以外は、帰りたければ帰っていいよ、っていう時間になったって事だろうね。
俺は、一種の警護要員だから、簡単に帰るのは拙いよなぁ。
ギルド系の誰かが居ないかな、と休憩部屋を覗き周り、扉前に冒険者ギルドで見た警備の男を見つけたので、中にギルマスが居るなら、声を掛けて欲しいとお願いした。
あっさりと通され、中には警備報告を受けているギルマス二人と、城の警備の責任者が数人居た。
「ご苦労だったね。有意義な時間は過ごせたかね?」
エルダーワードのギルマス、ファインバッハが、呑気なセリフを吐いてくる。
「国のお偉いさんと会っても、俺には関係のない世界なんですから、意味なんて無いですよ」
「まぁ、そう言う事にしておこう。実際は逆の立場って事を自覚して貰いたかったんだがね」
逆? なんだろ? ちょっと想像つかないな。何が言いたいんだろう?
「良くは判りませんが、何かの符丁ですか?」
「……、いや、気にしなくていい。所で、明日の事もあるし、そろそろ戻るかね?」
「ええ、出来れば。この後の襲撃は予想されていますか?」
「もう、重要人物はバラけてしまったからね。ここを襲う事にメリットはほとんど無いだろう。まぁ、個別に狙っている人物が居る、という状況なら別だが、それなら、今日ここで、というリスクを負うという事は考え難いしね」
確かに。個別に誰かを狙うにしては、警備が厳重過ぎる。まぁ、あえて、エルダーワードの所為にするために実行するという事も考えられるが、それこそ、重要人物が多い方がいいはずだから、これから襲撃を行うメリットはないだろう。だったら、明日のレース中か、祝勝会の方がいいはずだよなぁ。
「だったら、これで失礼して、明日のレースに備えたいと思います」
「うん。ご苦労様。明日は『頑張って』くれたまえ」
予定通りになるように頑張れ、と釘を刺され、城を後にする。
すぐに城を後にする予定だったんだけど、外に出るまでに、五回も身元確認のために警備に止められた。転移で帰ろうと思ったけど、記録上は城内に居るはずなのに中に居ない、って事で騒ぎになるんだってさ。
次の日は朝からてんてこ舞いだった。
まず、飛行船を出して、多くの見物人たちによく見えるようにしなければならないそうだ。
その中で異彩を放ったのが俺たちの飛行船。なんと帆がない。実は引き抜いて、船の甲板に寝かせてあるんだけどね。それがまるで船の衝角のようになっていて格好良い。つまり、船の尖端から突き出た一角獣の角の様になっている。
よく見ると、それが帆だという事は判るんだけど、何故わざわざ寝かしてあるのかが判らない、という意味で異彩を放っていると言うわけだ。実際、帆は魔道機関が故障して川か海に不時着した後に立てて船として使う時に必要なんで通常は使わない非常用だ。
船を調べて、規定に違反していないか調べる係官も居たけど、中に魔導機関があり、それで浮いてみせるだけでチェックは終わった。
良く判らないけど、浮游系のモンスターが居るんだそうだ。それが使われていない事と、空飛ぶ従魔が居る事だけがレースの規定だ。
たぶん、来年からは厳しく変わりそうだけどなぁ。
一隻は王子の船、と言ったら、グリフォンが居なくても規定クリアになった。まぁ、世の中そんなモンだ。王子自身はまだここには来ていないけどな。
俺たちの船にもグリフォンが居る事を見せると、それなりに驚いていたが、元々、王子の船と完全同型なので、それなりの関係が在るって事は察してくれたようだ。
ちなみに、王子の船は真っ白に塗られ、色んな所に、開いた本にグリフォンの姿が彫り込まれたプレートを貼っている。一目で王子の船に見えるように、という俺の密かなリクエストに、丁稚のウェストがしっかりと応えてくれた、って感じだ。
まだ王子はこれを見ていないので、これを見た時の反応が楽しみだ。
俺たちの船は、ガンフォールが濃い赤。俺が青の船体になっていて、共に黄色でガンフォール造船とデカデカと書かれている。
俺は透明素材がある事を知ってから、とある物をアイテムメーカーで作っていた。でも、満足出来る物はなかなか出来なかった。苦労したよ。
それは風防グラス。
二次大戦中の飛行機乗りがつけている印象が強い、風から目を守るメガネだ。実際は一次大戦より前から有り、飛行機が使われ出してから、音速の世界になる前まではパイロットの必需品だった物だ。今ではバイク乗りぐらいしか関係が無いかも。一応、スキーヤーなどのスピード系のスポーツマンも似たようなのを着けているか。
俺はそれを、特に両目がそれぞれ独立したメガネタイプの風防グラスを作りたかった。一枚の四角い透明の板で出来た水中メガネタイプでは無く、昔のパイロットたちが着けていたようなのを。
きっと、飛行船を操るドワーフのガンフォールには似合うと思ったから。
うん。ただそれだけ。
っていうか、最重要事項でしょう?
とにかく、それは完成した。締め付けるためのベルトの金具がイマイチだったんだけど、そこは革製品の金具を作っている所にアイデアを持ち込んで、なんとか形にした。
本来はゴム製品で顔の凹凸に対応する部分も、革製品の工房で形を整えてもらった。
透明な板は魔獣の鱗、その周りは金属製、そして、顔に当たる部分とベルトは革製。
そうして、多少は形は歪だけど、昔のパイロットが着けていたような風防グラスは完成した。
一応、一ダース。十二個。
革製品の工房が、この数じゃないと受けてくれないと言った所為だけどね。出来ればもっと注文しろと言われたけど、俺たちが優勝したら大量注文されるだろう、って言っておいたから、このレースを期待して見ているだろう。
そして、それをガンフォールに渡した。
「なんじゃ? これは?」
「風が強くて、目が開けられない、って事があっただろう? あの操縦席を透明な板で覆ったのも、それの所為だしな。で、これがあれば、一応は目は保護されるわけだ」
「おお、目だけを保護するのか。すると、これはグリフォン用じゃな?」
あ、そういや、そうだった。飛行船に乗るガンフォールの姿しか想像してなかった。
「あ、ああ。グリフォンでも、飛行船でも、空飛ぶ時は着けてた方がいいな。操縦席の覆いから飛び出して、何かをしなくちゃならない時もあるだろうし、脱出の時はグリフォンに乗るわけだしな」
「ふむ、ふむ。なるほどなぁ」
「まぁ、必要ない時は、デコの方に持ち上げておいて、使う時に下ろして締め付ければいいさ」
「おう、そうだな」
良かった。なんとか誤魔化せた。
そして、飛行帽が無い事に気が付いたのは、そのすぐ後だった。さすがにすぐに用意は出来ない。
ちっきしょーっ! 俺は心の中の夕日に向かって叫んでいた。
「しかし、まだ昼前だというのに、なかなかの人出じゃな」
「レースは昼過ぎなのになぁ」
昼前の太陽は眩しかったよ。
じゃんけんで負けた俺が、街の方に降りて露店で売っている串焼きや汁物、エールを買ってアイテムボックスに入れて持ち帰った。
ガンフォールは俺がそう言う事をしても、気にしない。判っていても、気にしないという態度を取るつもりのようだ。
まぁ、俺としては、その内ガンフォールにもアイテムボックスを押しつけるつもりだけどな。
幸い、飲酒運転は咎められない世界だから、ガンフォールがいくらエールを飲んでいても、誰も気にしない。俺はピュアウォーターで出した水だけどな。
そして、買ってきた物がほとんど腹に消えた頃に、係官が大声で魔獣レースに出場する選手たちを呼びに来た。
俺はカードから雷大山羊と岩巨人を出し、俺と王子の船を誰にも触らせないようにと命令した。ガンフォールの船を守るのはウェストの役目だ。
「ウェスト! あの二体は、船を守るよう命令してあるけど、もし、それ以外に重要な事が起きた場合は、お前の命令も聞くように言ってある。俺たちが向こうに行ったら、お前だけが頼りなんだ。頼むぞ」
と、真剣な表情で言ったら、なんか感動した目で頷いていた。うん、これで大丈夫だろう。
「持ち上げすぎじゃないか?」
「持ち上げておいた方が、いい仕事するだろ?」
ガンフォールがこっそり聞いてきた。この師匠は弟子には厳しいようだ。
そして、グリフォンを連れてスタート地点の広場へと到着。たぶん、まだまだ時間が掛かるんだろうな。俺とガンフォールは、それぞれのグリフォンを伏せさせ、その腹に寄りかかってリラックスして時間を待った。
ほとんどの従魔はワイバーンで、二頭ほど大きなワシの魔獣も居た。まぁ、大きいと言っても、ギリギリ人を乗せる事が出来そう、というサイズだったけな。あれなら、俺たちのグリフォンでも問題無く対処出来る。
スタートの合図をするらしい、急拵えのやぐらの方が騒がしくなってきた。それと同じぐらいで王子も俺たちの元へと到着。
王子にも風防グラスを渡すと、その必要性にすぐに気が付いた。
実は、密かに飛ぶ練習をしているようだ。
でも、結局グリフォン用の鞍は間に合わなかった。基本的にアイデアが出なかった、というのもある。羽根が邪魔なんだよねぇ。しかも、前足と後ろ足があるのも邪魔になる。
乗り方としては、両羽根の付け根の真ん中に胸をおくようにして寝ころび、両足は後ろでクロスさせて、グリフォンの下半身の、獅子の部分の腰に乗せるようにする、というぐらいの解決策しか出なかった。
あとは、グリフォン自身が、乗り手を落とさないように気を使ってくれるだろう、っという、丸投げ。
頑張ってくれ、グリフォン。
そんな打ち合わせが終わった所で、楽団のラッパが鳴り響いた。
この広場を見下ろせる位置にある、城のテラスからは、多くの貴族の見物人が覗き込んでいた。いよいよスタートなんだろうな。
各所で、ワイバーンの背中に乗る動きが始まった。
「ガンフォール、王子、聞いてくれ。まず、俺たちの戦略だが、一周目は真ん中辺の順位になるような位置につけたい」
「まぁ、その方がレース的には盛り上がるだろうがな」
「もし、襲撃犯がレースの中にいたら、仕掛けて来易い位置にいて、出来るだけ誘うつもりだ」
「あ、それがあったか」
「一周目で仕掛けてきたら、誘って攻撃するのは俺の役目だ。王子とガンフォールは俺を無視して飛んでくれ」
「い、いいのか?」
「一周目なら、その方が楽だ。その後、二周もあるんだから追いつくのも楽だしな」
「なるほど。そう言われればそうだな」
「仕掛けてくるのが二周目の場合もある。そのために、二周目は三人とも一番後ろ。出来れば最後尾に位置して欲しい。後ろで何かやられるよりも、前に見える所で動いてもらう方がいいからな」
「それなら、一周目から最後尾でいいんじゃないか?」
「一周目だと、ほとんどの連中が王子の動向に気を使うと思うんだ。場合によっては、王子の後ろに付こうとする連中も多いかも知れない」
「なるほどな。王子に恥をかかせないようにと配慮しました、という恩を売ろうとしてくるわけじゃな」
「まぁ、居そうだなぁ」
「そこで、一周目は中央、二周目は最後尾に付く。二周目で最後尾というのは、グリフォンはそんなに持続力が無く、一周目で疲れたんだろう、って思うだろうからな。二周目は平気でおいていってくれると思う」
「中には恩を売る事だけを考える馬鹿も居そうじゃが、まぁ、そう言うのは放っておいても構わんじゃろう」
「そして、二周目から三周目に入る所から、全力を出す。最後尾から全員を一人ずつ追い抜いてやれ。
その時は、王子は最短距離を真っ直ぐ追い抜いてくれ。俺とガンフォールは、ばらけた魔獣を挑発するように、縫うように抜いていく」
「手を出しやすくするわけじゃな」
「次々抜いていくから、何かをするなら最後のチャンス、とか思わせるのも重要だな」
「僕だけが一番安全だというのが、気になるが」
「狙われるのはお前が一番可能性があるんだから、さっさと追い抜いて引き離してくれ。その方が俺たちもやりやすい」
「う、うむ。判った」
「で、だ。これが、俺たちが狙われた場合の対処だ。城のテラスから眺めている王族たちが狙われる、という場合の方が考えられる。その場合の対処は、全て俺がやる。完全にコースを外れるから、レースには失格になるだろう。だから、やるのは俺だけでいい」
「じゃが、ヤマト一人では手が足りんだろう?」
「俺の持つ飛行従魔を全部出すから、手は何とかなる。ルーネスの王族にはユニコーンをつけてあるから誘導ぐらいは何とかなるしな。そして、俺の魔獣たちの背中にでも乗せれば、手は出せなくなるだろう」
「ヤマトはそれでいいのか?」
「俺は元々、警備要員として雇われているのもあるしな。まぁ、そうなっても、運が良ければレースに復帰して、元々狙う三位ぐらいはかっさらうつもりだよ」
そこで、もう打ち合わせは終わり、と、手を振って自分のグリフォンに跨る。仕方なくと言う感じで、王子とガンフォールもグリフォンに跨った。
やぐらの上では、国王陛下が、魔導書使いの音の拡大魔法を使って演説していた。
演説が終わると大きな銅鑼が用意され、そこにも魔導書使いが音の拡大魔法を掛け、いよいよスタート間近となった。
バシャーーンっと、意外に軽い音が大きく鳴らされ、各従魔が一斉に飛び、立たなかった。
「あれ?」
周りのワイバーンが飛び立ってから俺たちも飛び立つ予定だったんだけど、ワイバーンたちは不細工な歩き方で助走を始めた。
ある程度走らないと飛べないのかぁ。
「ど、そうする?」
予想外の事に王子が聞いてきた。
「仕方ない。手を抜いているとは思われたくないから、さっさと飛び立とう」
そして、いきなり予定が狂ったスタートとなり、俺たちはまだ飛び立っていないワイバーンを尻目に、いきなりのスタートダッシュを決めていた。
い、いや、他のワイバーンが飛んでないから、連中がどのくらいの速度で飛ぶか判らなかった。だから、グリフォンの通常の速度で飛んでいたら、一周の三割ほどはぶち抜いてしまっていた。
「どうするんじゃ?」
ガンフォールが大声で聞いてきた。他のワイバーンたちは、遙か後方。小さな点に見える。
「追いつくのを待っていたら、いかにも手抜きだ! だから、周回遅れに持っていく! 全力で行くぞ!」
「判った!」「おう!」
王子とガンフォールの返事を聞き、俺もグリフォンに気持ちを伝える。
そして、グリフォンが全力を出した。
だ、出してしまった。
きっと、来年はグリフォンは殿堂入り。グリフォンでの出場は禁止になりそうだな。
ワイバーンたちが一周を終える直前に、俺たちは追いついてしまった。つまり、二周目が終わりかけている。
「どうするんじゃ?」
またまたガンフォールが聞いてきた。もう、どうしようか? もう、どうでもいい?
「全力は終わり。後は適当に流そう」
「うん、そうだな」「まぁ。これ以上は大人げないか」
王子も、ガンフォールも、大分呆れているようだった。これじゃ、襲撃に備えるとか、そんな話しじゃないもんなぁ。
そして、グリフォンの通常の速度で、先頭は王子、二番目はガンフォール、三番目は俺という一列で飛行を楽しみ、それでもワイバーンのグループの先頭に立って三周目を終了した。
ワイバーンたちはこれから三周目に入るから、あと一周飛ぶ事になる。
それを見送りつつ、国王陛下が待つスタート地点の広場へと降りていった。
一位の王子を見て、城の楽団も安心してファンファーレを流している。そして、王子が広場に着地すると同時に銅鑼が何度も叩かれ、一位が決まった事を知らせていた。
ぶっちぎりの優勝、しかも王子の優勝という事で、テラス席からも拍手が聞こえてきた。
まぁ、王族は皆手袋をはめているんで、そんなにパチパチという音じゃ無いんだけどな。
王子はグリフォンに跨ったまま、陛下の前まで行くと、グリフォンから降り、陛下の前で一礼をした。
「ワインズ国王陛下。我、ベークライトはここに舞い戻りました」
「エルダーワード国王、ワインズの名において、ベークライトを従魔による飛行レースの優勝者と認める」
陛下の宣言により、再び銅鑼が鳴らされた。
それを待っていたかのようにガンフォールのグリフォンが降り立ち、少し間を開けて、俺のグリフォンが広場に着地した。
ベークライトに倣って陛下の前まで行き、ガンフォール共々一礼した。
このレースは、基本的に優勝者しか意味がない。一応、二位、三位は決まるが、優勝以外は名誉称号みたいなモンだ。
でも、まぁ、予定通り。
王子の優勝でなんとか格好はつけた、という所だろう。
四位以下のワイバーンの到着が、まだまだ掛かる、というのはちょっと間抜けだけどね。
「うーん。やりすぎたかなぁ?」
「「「やり過ぎだろう」」」
王子、ガンフォール、そして、国王陛下の声までシンクロした。