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グリモワールの欠片  作者: IDEI
13/51

13 囮捜査

2020/12/30 改稿

 ベークライトには、明日、昼を目途にガンフォール船場にグリフォンと共に来てくれと伝え、学院を出た。


 目的地はギルド。表の依頼を探すためだ。Fクラス冒険者なので、ギルド資格停止なんて恥はかきたくない。


 そして、Fクラス用の掲示板を眺めると、またダンジョン挑戦の仲間募集の紙片があった。当然、ギルドの承認印も無い。これは、わざと放置している?

 ちらりと見ると、いつものフワフワ系お姉さんが目で語っていた。仕方なく近づいて行き、顔を近づけると、小声で「囮になって」、と言われた。ああ、なるほどなぁ。

 「いつ?」と聞くと、「今からでもOK」と言われた。どうやら、学院の終了時間も見込まれていたらしい。しかた無いか。と、言う事で演技スタート。


 「でも、俺としてはもっと色々できるんだ。こんな子供の使いじゃ、毎日の生活もおぼつかない。もっといい依頼料の仕事を回してくれてもいいだろう?」


 そんなに大きな声というわけでもなく。お姉さんにだけ伝えている程度の音量だけど、それを探している連中には充分な大きさだろう。


 「ギルドとしては、失敗して命を失う危険があるので、その人の力量に合わせた依頼しか紹介しない決まりなんです」


 「それだ。なんで個人の力量を見ないで、わざわざ貢献度を上げるなんて面倒くさい事してるんだ。俺はDクラス冒険者と戦ったって勝てる力を持ってるぞ」


 「勝てる、勝てないの話しでは無いんです。きちんと依頼を完遂出来る信用と手順をしっかりと持っているかが重要なんです」


 「俺に信用が無いって言うのか?」


 「信用は実績を積み上げて出来るモノです。実績の無い者の言葉では信用出来ません!」


 「とにかく、Dクラスの依頼をやらせろ。それを完遂出来れば、実力があると判るだろう」


 「それで完遂出来なかった場合、ギルドの信用が落ちる事になります。それはギルド登録している冒険者全ての信用が落ちる事と同じです。このギルド構成員、約七千人一人一人に、その損害賠償をする覚悟はありますか?」


 なんか、色々言い慣れてるなぁ。既にパターンになるぐらい繰り返してきた言葉なのかな。


 「チッ!」


 俺は舌打ちして、再び掲示板の方へと行き、一通り眺めてから肩を落としてギルドを出ていった。特にあてもなく、右にするか、左にするかも決めていない、という風に。


 そしてしばらく行くと、右手に軽食屋が見えた。俺はそれをしばらく眺めてから、また歩き始める。


 この程度の演技で大丈夫か? 俺、演技力はマジで無い方なんだけどな。いつも、本音で生きているサカキヤマト、ってのが俺のサブタイトルなんだけどな。


 でも、この釣りに引っかかってくれた雑魚が居た。


 「よう、兄ちゃん、景気はどうだい?」


 なんか、いかにもな小物ぶりに、爆笑したくなったのを必死に耐えた。


 「なんだテメエは。暇じゃねぇんだよ。あっち行ってろ」


 俺は、これから町の外に出て、魔獣狩りに行くつもり、という設定。ギルドで依頼を受けなくても、魔獣を狩るのは禁止されていないし、狩れればけっこうな金になる。町の警備隊からも推奨されているし、魔獣狩りに出ると言えば、頑張れよぉ、って励ましてもくれる。

 日銭を稼いでいるだけの冒険者なら、当然の行動だ。でも、生存率は半年で二割ぐらいだそうだ。


 「まぁ兄ちゃん。いい稼ぎになる話しがあるんだって」


 当然のようにからみついてきた雑魚が、更に話しを進めようとしてくる。俺は、いったんは止まってその小物を眺めたが、諦めた振りをして再び歩き出した。


 「おいおい、いい話なんだって」


 「どうせ、ダンジョンで囮に使って、使い捨て、ってヤツだろ。他当たってくれ」


 「使い捨てなんてもったいない事するつもりはないぜ。その内ダンジョンでも活躍して貰うつもりだけどな。その前に、しっかりとした腕があるか、確かめたり、訓練したりもするつもりだ」


 「なんだそれは。どっかの騎士団ごっこか?」


 「まぁ、理想はそれだな。だが、訓練や試験でも金が出るんだ。一日銀貨一枚。どうだ?悪い話しでもないだろう?」


 「いや。やめとくよ。奴隷契約でもされるのがオチだろ?」


 「わかってねえなぁ。俺たちは新たな騎士団として正式に登用される事を目指しているのが大半なんだぜ。下手な事して品位を落とす事なんてするわけねぇってぇの!」


 「契約もなく、一日銀貨一枚、その内正式騎士団? 条件が良すぎないか?」


 「まぁ、そのためには人手が足りないってのが実情でな。あんちゃんみたいにフリーに動けるのを探してたってわけだ」


 「とりあえず。話しだけでも聞いてみるか」


 「そう来なくっちゃ」


 あまりにも乗るのが簡単すぎたかな? と、反省しつつも、小物男に従って付いていく。後ろに付いているから、あまり目立たないように魔導書を開き、周辺の探査を行った。すると、結構な数の反応があり、俺を中心に、屋根の上だとか、路地を一本向こうにずれた場所から、しっかりと併走しているのが判った。


 どこの忍者だよ。しかも、こんなに沢山。それに、こんなに居ると、どれがギルド側で、どれがテロリスト側か判らねぇ。たぶん、現在居るのはギルド側だと思うけど、確証がないなぁ。


 それから、魔導書からウェストポーチまで、必要な物は全部アイテムボックスに入れた。外に出しているのは、普通の剣一本とナイフ一本、そして、小銭だけを入れた革袋だけ。

 金貨の入った財布を持っているわけにもいかないからね。


 「お前、剣はどのくらい出来るんだ?」「今まで魔獣を狩った事はあるのか?」「お前の家族は何処で暮らして居るんだ?」


 などなどの、小物男からの質問に適当に答えながら、なんとかアイテムボックスへの格納は終わった。でも、スマホをアイテムボックスには入れたくなかった。時間が止まるんだよなぁ。通信サーバーから時刻の修正とか出来ないから、頼る物が何も無いという状況なんだよ。


 そんな事で、ちょっと凹んでいる間に、例の家に到着。一応、初めて見た対応をするけどね。


 「ん? お前の家か?」


 「まぁ、似たようなモンだ。さっさと入れよ」


 この家に入る所を見られたくはない、って事かぁ。


 言われるままに中に入る。と、同時にみぞおちを思い切り殴られた。すぐに意識が飛ぶ。


 気が付くと、後ろ手に縛られて、足首も縛られていた。猿ぐつわは無いようだけど、それは声を出しても外には漏れない、っていう事なんだろうね。

 剣、ナイフ、そして財布が無くなっている。服はそのままだったけど、あちこち引っ張られた跡がある。何かを隠し持っていないか確かめられたようだ。


 「ちっ! どう言う事だ!」


 お約束として思い切り叫ぶ。


 「うるせぇなぁ。どんなに騒いだって、誰も聞いちゃくれねぇよ」


 さっきの小物男が見張りのようだ。見回すと、石造りの地下室という感じだ。本来はワインセラーとかだったのかも。表に出せない趣味の部屋、という場合もあるか。


 「何処だここは! なんでこんな事になってる!」


 「はい、はい。坊ちゃんは良い子ちゃんですねぇ。だから黙ってろって!」


 そう言われてアゴを蹴られた。心の中の復習手帳に、しっかりと書き込んでおこう。


 そうして、互いに黙ったまま、一時間ぐらいが過ぎた。小物男は居眠りしている。余程慣れた作業って事か?


 そして、どうやら小物男の上司らしき男がやって来た。


 服装は普通なんだけど、貴族が着る服という感じがする。でも、まぁ、大物には見えない。と言う事でこいつは中物と呼ぼう。


 中物は居眠りしている小物男をけっ飛ばし、無理矢理叩き起こした。


 「あ、これはローディアス様」


 「馬鹿モン。名を呼ぶヤツがあるか」


 いきなり名前が発覚。なに? このコント? このコントに付き合う気はないので、気絶している振りをしておいた。それに安心しているようだ。

 起きている人間と寝ている人間の気配の違いにも気付かない、って事は、そう修羅場を経験しているわけでもないのかな。


 いや。この小物男はなんかチグハグだ。実力を隠しているって感じがする。


 「今日はこいつ一人か?」


 「はい。最近はギルドも感づいて居るようで、この後は別の手で探さないとならないでしょう」


 「そうか、もう時間がない。レース前日の前夜祭までに、何人を出せる?」


 「それですと、三人かと。こいつは例のアレでやっても、間に合うかどうか」


 「もう、一週も無いから無理か。なら、こいつには例の三人の世話でもさせておけ。俺の服を持って来たから、ちゃんと着せておけよ」


 「はい」


 「お前は開始と同時に東の門を出ろ。しばらく歩いた所に馬車と金を置いておく」


 ねー、もう良いよね? これ以上登場人物が増えそうも無いから、ここで終わらしちゃってもいいよねぇ?


 と、言う事で、アナザーワールドを開きました。


 落下する小物男と中物ローディアスと俺。


 後ろ手に縛られているけど、はっきりした意識で明確に指示すればアイテムボックスって操作出来るんだよ。だから、アイテムボックスからカードを取り出す。


 「鷲獅子!」


 グリフォンは呼び出された瞬間だというのに、落ちていく俺をくちばしでしっかりと掴み、俺をゆっくり降ろしてくれた。


 ついでに縛っている縄も、簡単に食いちぎってくれた。あー、すっきりした。


 足下には、約三階建ての家の屋上から落とされたと同じ状態だったため、下半身の骨の大半が骨折した小物男と、右半身をほとんど複雑骨折して、頭も陥没している中物ローディアスが転がっていた。


 これは、このままでもいいけど、死んじゃったら情報を取れないなぁ。


 で、仕方なく治療してやることにした。


 複雑骨折だから、そのまま強引に治療すると、面白い形のオブジェになると思ったんだけど、それだと、後々、本人確認が面倒になるだろうと、本当に仕方なく、ヒールの上位呪文を使った。


 「多いなる慈悲の力とこの世の有り様を説く理より 瑕疵を補いて傷を癒す力」

 「リカバリー!」


 これはヒールよりも大きな魔力を取られる。一回だけで、しかもそんなに力を入れていないのに、膝が挫けそうになった。


 やっぱり、本格的な戦いの最中には使えないな。生徒たちにも、使わせたら、生徒たち自身が危ないかも知れない。術としては教える事は教えるけど、相当な力量が無ければ使うなと言っておかないとな。


 でも、リカバリーのおかげで小物男と中物ローディアスは元の形に戻ったようだ。こんなヤツらのために、こんなに疲れるなんて、この後の尋問で色々と取り返さないとならないね。


 ここには結構植物があるので、「アイビーバインド」がかなり簡単に発動した。


 植物のツタで簀巻き状態の二人はまだ意識を取り戻さない。ツタへと命令して、二人を強引に立たせる。そして、顔だけをツタの中から出させた。

 「クリエイトウォーター」で顔に水をぶっかける事で、ようやく二人が目を覚ました。


 「うお、なんだ?」「うぺ、なんなんだ、いったい」


 「お目覚めですか?」


 「あ、てめえは!」


 「はーい、お静かに。これから俺は、お前たちに尋問をする事にする。だけど、お前たちは正直に話すなんて事は無いだろう。お前たちを王宮の牢屋にでも入れたら、お前たちの仲間がお前たちを殺すだろうから、王宮の牢屋に入って貰う前に、色々話して貰おうってわけなんだ。で、正直に話して貰おう、と思ったら、どうする事が一番かなぁ、って考えたわけだ」


 「ふん! 貴様のような下賤な輩に語る事などないわ!」


 そう言って、中物ローディアスは自分の舌を噛み切った。


 舌を噛み切ると、その傷の痛みで舌が喉の方へと巻き込むという話しを聞いた。巻き込まれた舌で喉が圧迫され、呼吸が出来なくなって、やがては死に至るそうだ。

 だから、舌を噛み切ってもあっさりとは死なないで、窒息で苦しんで、苦しみまくってから死ぬ事になる。場合によっては舌を噛み切っても舌が巻き込まないで、舌を噛み切った痛みを抱えながら、短くなった舌のまま生きていく事にもなるそうだ。


 中物ローディアスくんは、見事に舌が巻き込み、窒息状態に入ったようだ。端から見ても、喉が膨らんでいるように見える。足下には、ローディアスくんの舌先が落ちていた。


 「これから、窒息によって死んでいくんですねぇ」


 そう言って足下からローディアスくんの舌先を拾った。そして、ローディアスくんの頬をローディアスくんの舌でぺろりと撫でてあげた。


 「知ってますか? 運動しても息が乱れにくい、体力のある人って、なかなか窒息死しないんですよねぇ」


 ローディアスくんの顔が赤黒くなってきた。でも、まだ意識があるようだ。可哀想に。


 「ほらほら、見てみな。これがローディアスくんの舌だよ~」


 と言って、小物の方の唇をローディアスくんの舌先でレロレロしてやる。


 で、いよいよローディアスくんの意識が遠のき始めたようだ。そこで、ローディアスくんの舌先をローディアスくんの口の中に放り込み、「リカバリー」をかけた。


 「げほっ、げほっ、げほっ」


 普通に咳き込んで意識を取り戻したようだ。


 「はーい、ちゃんと喋れるかな?」


 「な、何をした?」


 「嫌だなぁ。死にかけていたから、治してあげたんじゃないか。ちゃんと感謝してくれなきゃねぇ」


 「な、なにを……」


 「ああ、また舌を噛み切る? そうしたら、また、ギリギリの所で治してあげるからね」


 ローディアスくんの俺を見る目が恐怖に染まった。


 一度死にかけ、そのまま死ぬのなら別だけど、生き残ってしまった場合は、同じ状況からは命がけで逃げ出そうという本能的な命令が強制的に発せられる。

 それは種の保存の本能。つまりは死にたくないという生物としての本能。

 同じ状況になったら、理性や自意識なんか関係なく、その状況から逃げ出せという恐怖という名の信号が発せられる。それがトラウマ。トラウマを作ってしまったら、死の恐怖に対して、過剰反応をするようにもなってしまう。それが、どんなに勇気のある人物でも、本能から来るものなのであらがえない。


 ローディアスくんも、一度死の淵を覗いてしまったがために、トラウマを持ってしまったようだ。


 「ローディアスくん。もう一度死んでみる?」


 そう言って、ローディアスくんの持っていたナイフを抜いて、その首を真横に切り裂いた。


 そして、再び呼吸困難になるローディアスくん。


 喉から血の泡を吹き出しながら、ハヒハヒ言っているローディアスくんを無視して、小物男の方に向き合う。


 「さて、小物男くん」


 「こ、小物男だと?」


 「まず、ローディアスくんと同じ状況になって貰おうと思うんだ」


 「ま、待ってくれ、話す、何でも話すから、や、止めてくれ!」


 「本当かなぁ?」


 「お、俺の名は、ライハス、ってんだ。この国で裏の仕事をしてた。だけど、そこのローディアスに雇われて、ルーネスでの仕事の世話もしてくれる約束で今回の仕事を手伝ったんだ」


 「あー、今話している事は、あまり参考にはしないんだけど? やっぱり、一通りやってからの言葉じゃないと、信じられないしねぇ」


 「ほ、ほんとうなんだって!」


 「あ、ちょっと待って、もうすぐローディアスくんが死んじゃいそうだ」


 そして今度は「ヒール」で治療した。やっぱり、ヒールの方が楽だから、単なる切り傷で収めるようにしよう。


 「ローディアスくん、元気かなぁ?」


 「ひっ、ひふ、ひふ、ひっ、ひふ」


 なんか、過呼吸とか起こしているみたいだ。過呼吸は息が激しくならない程度に体を動かしてやると、比較的簡単に収まるんだけどなぁ。まぁツタで雁字搦めにされてるし、どうにもならないんだろうね。


 再び小物男に向き直る。


 「えっと、まずは、色々話して貰おうかな。後で、ローディアスくんとの話と食い違っていたら、ローディアスくんよりも悲しい事になって貰おうと思うんだ。あ、安心して、しっかり王宮の牢屋に送り届けるために、傷一つ残さず、生きたまま届けるからね」


 純粋な子供、って感じで話し掛けるのって、かなり面白い。恐怖の目が絶望の目になりやすいんだよな。


 そして、小物男ライハスの言う事には、ローディアスの後ろにはアルールという女伯爵が居て、既に複数の大臣と貴族を抱え込み、色々な準備をしているそうだ。

 まず、エルダーワードとの戦争を起こし、後方から邪魔な貴族たちを闇討ち、そして国王をエルダーワードの間者に殺させて、ルーネスの実権を掌握するという単純なシナリオだった。


 「王権なんて、そんなに欲しい物なのかねぇ」


 つい、そんな本音がこぼれた。


 「アルールには妹の子供という甥っ子が居るからな。その甥っ子を国王陛下にしてやりたいんだろう」


 小物男ライハスは、かなりの情報通なようだ。


 「でも、お前の立場だと、その情報は入ってこない立ち位置じゃないのか?」


 「お、俺にだって情報網はある。そのローディアスは前夜祭の作戦が始まったら、俺を始末するつもりだったしな」


 「あれは、あからさまだったなぁ」


 「ああ、元々、ここでの使い捨て扱いだろうから、って裏の情報を取ってたのよ。情報だけが俺の切り札だからな」


 「なるほど。だけど、その情報には、決定的に足りない物があるな」


 「っほ、なんだ?」


 「証拠だ」


 「ふん。確かにな。まぁ、ローディアスの荷物の中には、アルールからの指示書と恋文が入っているはずだが、その程度じゃどうしようもないか」


 「アルールとローディアスとの関係は?」


 「未亡人と、その下半身の世話係」


 「なるほど。お前凄いな。他国の事なのに良くそれほど調べられたモンだ」


 「ちょっとしたコネがあるんでな」


 ここで、捕まっている時に感じた疑問をぶつけてみることにした。


 「もしかして、俺を選んで捕まえたのはわざとか?」


 「囮ってのは判ったから、お前を俺の囮代わりにして逃げるつもりだったんだよ!」


 「なるほど。納得。でもこんなに早くひっくり返されるとは思わなかった、ってワケだ?」


 「あぁ。いったい何が起こったんだ?」


 「ちょっとだけ小賢しい魔道書使いってだけだよ。なぁ、たまに俺のために情報を寄こさないか?」


 「……、つまり、今回の証拠になる物を探してこい、と?」


 「いや、今回の件には、いい加減、首を突っ込みすぎだろう。ほとぼりが冷めるまで大人しくしてろよ」


 「あんたも、俺の情報が欲しくなる人種なのかい?」


 「そんな物騒な話しじゃないよ。これから、エルダーワードとルーネスに限らず、国と国の交流が活発になる。その時に、物、人、金の情報は、色々と役に立つわけだ。それ以外にも魔獣の情報や、それ以外の不可思議情報も欲しいしな。ギルドだけじゃ集まらない情報ってのが欲しいんだ」


 「交流が活発になる、ってのは飛行船のことか? ドワーフが復活させたとかいう話しだな。だが、あんな空飛ぶ雲みたいなものじゃ、活発なんて言ってられねぇだろう?」


 「そうでもないよ。まぁそれは来週にでも見て貰えれば判るしな。それに、俺は魔導書使いなんだ」


 「ああ? そりゃ、実感しているが」


 「実は、俺、転移が使えるんだ。今度、ルーネスの王族をエルダーワードに転移で連れてくる役目も負ってる」


 「なんだって……」


 「転移を使える魔導書使いの後継も育ってきてる。世界は変わるよ」


 「…………、チッ!」


 そして、俺はライハスをツタから解放させた。


 「しばらくは情報網の再構築に全力を傾けた方がいいだろうな。商品、商売系の情報網を確立させておけば儲かるぞ」


 「ふん。それは、お前の言う飛行船が役に立つかどうかだな」


 「実は、第四王子のベークライトも巻き込んでいてな。俺の方の予定だと、一位ベークライト、二位ガンフォール、三位俺、って順番で決めるつもりなんだ。魔獣の方も同じ順位でな」


 「どんなイカサマ使うつもりだよ」


 「全部実力で。ベークライトがグリフォンを従魔にした、って話しを聞いてないか?」


 「ああ、耳にはしているが、ガセじゃ無かったのか?」


 「ホントだよ。まさか、あのベークライトがグリフォンを従魔に出来るとは、俺も思わなかったけどな。いやー、奇跡って起こる物なんだなぁ、って感動したよ」


 「グリフォン、って早いのか?」


 「俺の所で競争させたら、コモンドラゴンよりも早かったぞ」


 「じゃあ、ワイバーンなんぞ、目じゃねえじゃねぇか」


 「俺もガンフォールもグリフォンでのエントリーだからな。順位は確定ってわけだ」


 「出来レースだな」


 「ルーネスの襲撃が無かったら、ほぼ確定だろうな。元々、ルーネスの襲撃に対応するための布陣だからな」


 「そういうわけか」


 「あと、俺たちで独占しておけば、祝勝会での襲撃も上手く捌けるって予定だ」


 「色々と上手を取られていたってわけだ。ルーネスに付いた、って事が失敗だったわけだな」


 「ほとぼりが冷めるまでは大人しくしててくれ。せいぜい、賭札でもやっててくれ」


 そして、少し遠い所に出口を開け、そこから出て貰った。そこなら、外の包囲網から外れているからだ。


 中物ローディアスを見ると、泡を吹いて失神していた。こいつからライハス以上の情報を引き出すのが面倒になってきた。

 あとはギルドと王城に任せようかな。


 と言う事で、ツタでしばったまま、世界を開いて、元の地下室に落とした。今度は十センチ程度だけどね。


 そして、屋敷の他の部屋を調べていく。地下室がいくつもあるという、色々突っ込みどころ満載の家で、三つの地下室に三人の初心者冒険者が居た。しかも、近くには、何かの死体。


 とりあえず、内面に引き籠もった状態の初心者冒険者を引きずり出し、屋敷のエントランスに運び込んだ。そしてルーネスの首謀者の一人の中物ローディアスも運び込み、他には誰も居ないのを確認した。

 二階の部屋に中物ローディアスの個人的な部屋があったようで、しっかりと手紙の入ったカバンも見つけた。


 これで、俺が個人的に見たかったモノは見つけたし、地下室の死体は見たくなかったので無視した。後は専門家に任せよう。


 屋敷の扉を開いて、扉は開いたままにして手を振り、そのまま中に戻る。


 終わったよー。の合図でかなりの剛の者が集まった。皆、隠密向きじゃないのに、表向きは忍者みたいだった。探知の魔法だと丸わかりだったけど。


 で、首謀者は簀巻きにして、精神的に壊してあると言っておいた。小物は逃がしてしまったけど、外で控えていた連中なら捉えてあったでしょう? と、あえて聞く事で責任を回避した。


 そして、ローディアスの荷物は俺がギルドまで運ぶと言っておいた。既にアイテムボックスに格納済み。


 諸々の話しもあるんで、捉えられていた初心者冒険者と共に、死体以外はギルドに運ぶ事になった。


 で、俺はギルマスの部屋で、ローディアスの荷物を広げて、ライハスからの情報を話した。結局、前夜祭での襲撃は阻止出来た形になったし、ルーネスではアルール女伯爵を重点的に監視し、繋がりのある貴族をあぶり出す作業に入ったそうだ。


 ファインバッハはジーザイアと念話で連絡を取って念話は便利だと、嬉しそうに言っていた。実際、今までだったら、早馬で三~四日はかかる情報交換だしなぁ。


 俺は囮要員として協力したFクラス冒険者として、ギルド貢献度と金貨一枚の報酬を貰った。これは完全に表向きの話しで、これで、一ヶ月の制限が今日にリセットされた。ちょっとだけ得したのかな?


 細かい事は全部お任せとなったが、資料の搬送や打ち合わせもあるので、明後日にルーネスへの転移を頼まれた。明日は王子との飛行練習があるのは、どうやら知られているらしい。



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